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月花の少女アスラ ~極悪非道の戦争好き傭兵、異世界転生して最強の傭兵団を作る~  作者: 葉月双
最終章

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9話 次は戦場で踊ろう 神様は抜きで頼むよ


 マルクスたちが打って出る少し前。


「シンデレラの時間は終わってしまったようだ」


 アスラは窓の外を見て言った。

 空中にはゴジラッシュとアイリスの姿がある。


「シンデレラの時間って?」とスカーレット。


「期限の決まった幸せな時間、って意味さ」


 アスラは窓枠に腰掛ける。


「そう。確かに終わったようね」


 城のすぐ近くで滞空するゴジラッシュを見て、スカーレットが溜息混じりに言った。


「次は戦場で会おう。東においで。私が待ってるから」

「あんたの城じゃなくていいの?」


「東で仕事を請けてるから。あ……そういえば攻城戦をしてるんだっけ?」アスラが言う。「でも、たぶん君たち全滅してるんじゃないかな」


「そうなの?」

「うん。どういう編制か知らないけど、君たちが勝つことはないよ。うち、大砲……鉄砲の大きいのあるし」

「あんたが言うならそうなんでしょ」


 やれやれ、とスカーレットは小さく両手を広げた。


「悔しくはなさそうだね」

「残念には思うわよ。トリスタンやベンノ、エステル、ナシオにゾーヤ。みんなそっちにいるしね」

「錚々たる顔ぶれだね。ゾーヤのことはよく知らないけど、他はみんな大砲と鉄砲で死ぬと思うよ。あ、ナシオは死なないかも」


 実はベンノが高速で撤退し、大砲はあまり活躍していないとアスラは知らない。

 攻城戦ではなく、お遊び的な戦闘が行われていることも、アスラは知らない。


「どうであれ、結局あたしはあたしだけで完結するもの」


 己以外の全ての仲間が死に絶えたとしても。

 スカーレット1人が残っていれば事足りる。

 残念には思う。本当に。心から。なんだかんだ、メロディやアルとも仲良くやっていた。

 トリスタンは弟子だったし、エステルのことも嫌いじゃなかった。

 だから残念だと思う。でも、それだけだ。


「そうか、君は1人で最強で、1人で軍団で、だからどこまでいっても孤独なんだね」


「そうよ。あたしは孤独。だからあんたに愛されて嬉しかった」スカーレットが言う。「本当はもう、統一なんてどうだっていいのよ。ただあんたと殺し合いたい。極限まで戦いたい。言っておくけど、あたしに鉄砲は通用しないわよ。だからつまんない狙撃で終わらせようとしないでね」


 スカーレットは勝利よりも平和な未来よりもアスラを大切に思った。

 だからずっと城で待っていた。スカーレットが出ていれば、とっくに《月花》の城は陥落していたし、東フルセンも落ちていた。

 トリスタンは死なずに済んだし、兵たちの無駄死にもなかった。

 でも、そんなのどうだっていいのだ。


「もちろんだとも」


 そう言って、アスラは窓から飛び、花びらの階段を進んでゴジラッシュの背中へ。

 スカーレットが手を振り、アスラも手を振った。

 ゴジラッシュが見えなくなるまで、スカーレットは空を見ていた。


「あたしは変わったわね……」


 人類の未来など、本当にもうどうでもいい。統一も結束も、かつて大切にしていた信念も、なにもかもがどうでもいい。

 ただ全力で戦いたいだけ。

 世界大戦を防ぐために世界を統一する。そのようにスカーレットたちは動いていた。そのために多くが死んだ。


「ま、アルとメロディは放っておいても死んだでしょうけど」


 そういうタイプの2人だった。


「シロは森に帰してあげるとして……」スカーレットは身辺整理を考える。「あとは……あとは何もないわね」


 アスラと出会わなければ、かつての信念の通り生きたのだろう。

 天聖神王として国を安定させ、世界を統一したのだろう。

 愚かな人類を導いてあげたのだろう。

 でも、それらは全て霞んでしまった。

 アスラという深い深い暗闇の前では、輝くこともできずに。


「万が一、ベンノたちが生き残ってたら……まぁ自分でどうにかするでしょ。ガキじゃあるまいし」


 考慮しないことにした。

 生き残ったのなら、それぞれの人生を歩めばいい。

 そこでふと、スカーレットは気付く。自分が生き残った時のことを考えていない、と。


「そっか。そっかそっか。あたし、アスラを殺したらきっとその場で後追いするわね」


 生きる理由は、アスラと全力で戦いたいから。それだけ。

 そして、できるならアスラと一緒に死にたいと思った。

 それほどまでに、深く彼女を愛してしまった。

 久しぶりに会って、そうであると気付いてしまった。



 スカーレットは全軍を動員して、翌日には東フルセンへと出発した。

 鼻歌を歌いながら、とっても幸せそうに。



 ゾーヤは絶望した。

 もはやまともな手段ではティナから逃げ出せない。


「真の化け物はここにいたのですね……」


 かつて、大帝国で最強の神子なんて呼ばれていた頃が懐かしい。


「それが最期の言葉でいいですの?」


 ティナが淡々と言った。

 ゾーヤにとっての誤算は、ティナの驚くべき成長速度にあった。

 戦えば戦うだけ、ティナが強くなってしまって、未来を視ても何をしても勝てなくなった。


 ゾーヤの視る近未来は、あくまでその時点からのもの。多くの未来を視ることができるし、起こりえる確率の高い順に視ることができる。

 今、この時点で視た未来はゾーヤの死であった。視ることのできる全ての未来において、ティナに殺される。


 ティナには伸び代しかない。

 これから先、もしもティナが戦う技術を求めたら、逆に世界大戦は起こらないのでは? とゾーヤは思った。

 なぜならティナの一強だから。


「聞いてください、わたくしは将来起こる世界大戦を防ぎたくて……」


 傷だらけのゾーヤが、必死にそう語りかけた。


「最期の言葉は簡潔な方がいいですわよ?」


 ティナが微笑んだ。

 すでに【雷神剣・神滅式】は終わっていて、【我神成り】も発動していない。


「これだけは、やりたくなかったのですが……」


 ゾーヤは未来視を止めた。もう何の意味もない。


「まだ奥の手がありますの? 楽しみですわ」


 ティナはピョンピョンと可愛らしくその場で跳ねて身体を伸ばした。

 すぅ、っとゾーヤは息を深く吸い込む。

 そして。


「ユグドラシル様ぁぁぁぁぁ!! 助けてくださいぃぃぃぃぃ! 一回だけ助けてくれるって約束でしたよねぇぇぇぇぇ!」


 天に向かって大声で叫んだ。

 それにはティナもビックリで。

 マルクスとエステルが斬り合いを止めてゾーヤの方を見る。

 サルメ、レコ、グレーテルも「え?」って感じでゾーヤを見た。


 その次の瞬間。あるいは同じ瞬間。

 ゾーヤの横に10歳ぐらいの少女が立っていた。

 薄い緑色の髪をした、可愛らしい少女。

 どこから、どうやって出現したのか、誰にも分からなかった。


 だが、この世の者ではない――誰もがそう理解した。

 それに触れてはいけない、触れたら自分が消滅する。

 それを見てはいけない、見たら自分が消滅する。

 声すら出してはいけない。出したら自分が消滅する。


 攻撃など絶対にしてはいけない。この世が滅ぶ。

 そういうレベルの超常現象であると、なぜかみんなそう感じた。事実かどうかは重要ではなく、そのように感じてしまって微動だにできない。


「妾は本来、夢の中でアドバイスするぐらいの干渉しかせんのじゃが」


 鈴が鳴るような少女の声。

 少女はクルリと周囲を見回す。


「安心せい。妾は知的生命体の自由意志を尊重しておるし、お主らを殺したりせんから」


 コロコロと笑う少女。

 この少女を相手に勝てるとか勝てないとか、そういう低次元の話はまったく無意味だ。これは超常の存在であり、小説に登場したら全てを無意味にするクソみたいな存在で。

 最後は神様が全部いいようにしてくれました、というタイプの存在。


 少女は指を1本自分の頭の上に持ち上げた。

 そうすると、空から降ってきたアスラの斬撃をその指だけで防いでしまう。

 その瞬間、怯えて息すら止めていた面々が大きく呼吸する。


「妾の【神聖畏怖】を解除したか。ところでリーサは元気かの?」と少女。


「元気だよ」


 言いながら、アスラがタッと距離を取る。

 空ではゴジラッシュが怯えるように小さく鳴いた。


「その見た目、それから、今は消えたけど超常の者であるという感覚」アスラが言う。「君は創造主ユグドラシル……いや、娘と同じようにユグユグと呼んだ方がいいかな?」


 少女がコクンと頷く。それから楽しそうに言う。


「妾を妾と認識した上で、刃を向けた生命体はお主が最初で最後じゃろうな」


「まったくなんだって神様がここにいる?」アスラが言う。「リーサから君のことは聞いてる。娘が夢の中でお世話になったね」


「構わんよ。妾の夢相談は趣味みたいなものじゃし」


 やれやれ、と少女ユグユグが首を振った。


「それはそれとして、君が仲間を脅しているように見えてさ」アスラが笑う。「思わず攻撃しちゃった。許してくれるかな?」


 さっきの、空からの一撃のこと。


「うむ。何も問題ない。異物の排除でもないのに干渉している妾の方が問題じゃ」

「異物の排除?」

「妾の仕事じゃ。この世界に対して、世界の外側から干渉があった場合、妾は対処する。あ、お主の前世の記憶とかは特に問題ないぞ。その程度で世界は揺るがん」


「君はあれかね? その他にも何かするのかね? たとえば、大きな戦争を食い止めたり、人類の滅亡を防いだり、何かそういう、人間に都合の良い神様的な行動をするのかな?」


「するわけなかろう。知的生命体には滅びの自由がある。妾はそれを尊重するぞ」

「あは♪ 人間が妄想している人間に都合のいい創造主様じゃなくて本当に良かった」


 アスラが言うと、ユグユグは面白そうに笑った。


「妾が人間に都合の良い創造主だったら、お主はどうした?」

「殺すに決まってるじゃないか!」


 アスラは元気に言った。

 その発言に、みんな絶句する。いや、元々誰も声を出していないけれど。


「こわっ! 妾、超怖い!」


 ブルブル、っとユグユグが身を震わせる。

 それからフッと真顔に戻る。


「さて、冗談は置いておいて、あまり長く留まるつもりはない。急ぎ用件を言うぞ。この娘を一度だけ見逃してやってくれ。以上じゃ」


 ユグユグはゾーヤを指さした。


「いいとも。またリーサの夢に出てやってくれないかな? 君に会いたがっていた」


「うむ。そうしよう」ユグユグが言う。「お主とはもう会うこともな……いといいなぁ。さらばだ」


 ユグユグがパッと消える。


「……それでは失礼します」


 言って、ゾーヤが踵を返す。

 そんなゾーヤを、アスラたちは見送った。

 ユグユグとの約束を違えるつもりはない。一度だけ見逃す。二度はない。


「マルゥ、私はこっちに残りたいのだが、いいだろうか?」


 ゾーヤが去ったあと、エステルがそう言った。

 マルクスは「好きにすればいい」と笑った。



「オレ、神様初めて見た!」


 帝城の食堂で、レコが嬉しそうに言った。


「私だってそうですよ。ゾーヤみたいな偽物とは存在感が違いましたね!」


 うんうんとサルメが頷く。


「ゾーヤ様もフルセンマークの創造主には違いないのだ」エステルが説教っぽく言う。「バカにしたような発言は控えろ。それとも鞭で打たれたいか?」


「君、なんで仲間面してご飯を食べているのだろう……」


 アスラが呆れた風に言った。


「すみません団長、自分が許可しました。ここに残りたいようで」


 マルクスが苦笑い。


「まぁいいけどさ」アスラが肩を竦める。「長居するつもりなら、何か仕事をしたまえ」


「軍で剣の稽古でもしてやろうか?」とエステル。


「それでいいよ。よろしく」


 言いながら、アスラは膝の上に座っているリーサの頭を撫でた。


「ユグユグ……元気でしたか?」

「ああ。また君の夢に出てくれるそうだよ」

「良かった……」


 リーサが笑顔を浮かべる。


「メルも神様、見たかったなぁ」


 アスラの隣に座っているメルヴィが言った。


「ボクも見たかったですぅ」


 メルの隣のブリットが言った。


「ブリットは絶対にビビると思いますけど」とサルメ。

「だよね。おしっこ漏らすかも」とレコ。


「そ、そんなこと……ないですぅ」


 むすぅ、とブリットが頬を膨らませる。


「話は変わるけど、トリスタンがアッサリ討ち取られるとは」アスラが言う。「ちょっと残念だね」


「魔法への対処が微妙でしたからねぇ」サルメが言う。「やはり現状、魔法兵に対抗できるのはスカーレットを除けば魔法兵だけでしょう」


 確かに、とみんなが頷く。


「それでティナは」マルクスが言う。「運動不足は解消できたか?」


「ちょっと不完全燃焼ですわ。残った敵軍を薙ぎ払おうかと思ったら、連中さっさと撤退してましたし」


 ベンノの判断は非常に速かった。

 ゾーヤたちの敗北を知って、即座に撤退した。まぁ、ベンノは元々撤退するつもりで準備を進めていたのだが。


「どうであれ、これでスカーレットの軍も大打撃ね」とアイリス。


「そうだね。新たな依頼をラウノが受けたようだし、それが終わると更に痛打になるだろうけど……」


「けど?」とアイリス。


「意味はないかな」


 アスラがカラっと笑う。


「なんでよ?」

「だってスカーレットは最初から、自分の仲間や軍隊をどうでもいいと思ってたみたいだし、彼女は最初から1人でやるつもりだよ」

「……どうでもいいって……どれだけ死んだと思ってんのよ……そんな人の心がないみたいな……」


 アイリスは少し複雑な表情で言った。


「心がないというか、壊れたのだろうね。いつかどこかで」アスラが楽しそうに言う。「君は壊してくれるなよ?」


「……分かんない」


 アイリスの言葉に、アイリスをよく知る面々は驚いた。


「先のことは分からない、って意味よ」


 アイリスは微妙な空気を感じ取って、慌ててそう言って手を振った。


「そうか。まぁいいさ」アスラが言う。「私は明日、東フルセンに向かう。スカーレットと戦場で踊る約束があるからね」


 終わりが近い。


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