表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月花の少女アスラ ~極悪非道の戦争好き傭兵、異世界転生して最強の傭兵団を作る~  作者: 葉月双
最終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

302/310

7話 かつて最強だった神子は未来を視る でも全ては可能性に過ぎない


 深夜、アスラとスカーレットがイチャイチャしている頃に遡る。

 ナシオは西フルセンの旧貴族王邸の跡地に立っていた。

 ナシオの銀髪と憂いを含む表情が月明かりに照らされて、幻想的な雰囲気を醸し出す。

 ナシオの見た目年齢は30代半ばで、顔は整っている。


「ずっと昔のことのようだねぇ」


 ここで暮らしていた時の話。

 貴族たちの頂点、貴族王として君臨していた頃。

 長いことフルセンマークを支配してきた。あるいは、守護していたとも言える。


「僕の時代は終わった。これからはスカーレットの時代か、それとも……」


 傭兵団《月花》の時代か。


「おう、ナシオさん、集合したぜ」


 そう言ったのは西フルセン攻略軍司令官のベンノ・ヴォーリッツ。

 オレンジ色の髪を逆立てた40代の男性。今は馬上で鎧を装備している。

 歴戦の戦士というか、元傭兵である。それも、フルセンマーク最大の傭兵団《焔》の団長だった。

 まぁ、《焔》はすでに滅びてしまったが。

 ちなみに、ベンノの総合評価は80点だとゾーヤが言っていた。


「ああ、ご苦労様」


 ナシオは微笑みを浮かべて言った。

 ベンノの背後には、西フルセン攻略軍の連中が綺麗に並んでいる。


「さて、それじゃあ兵士の輸送を頼みますよっと」


 ベンノが小さく肩を竦めた。


「うん。じゃあ、この扉に入ってね」


 ナシオが別空間への扉を自分の隣に出現させる。

 これはナシオのスキル。


「そして真っ直ぐ進むと部屋がある。その部屋には別の扉が複数あるけど、すでに1つ開けてある。だからそこから出て。そうすれば、そこは愛しの姉さんの側だから」


 このスキルは一度、別空間に入ったあと関係の深い人物の近くに移動できる。

 今の場合、ナシオは月花の国境付近からベンノを目印に移動してきた。ベンノはすでに、ナシオにとって関係の深い人物なのだ。


「それはそうと、そっちの状況は?」とベンノ。


「よろしくない」ナシオが言う。「ほぼ全滅だよ」


「ああ? 神聖十字連を主体とした精鋭部隊だろ?」


「それがほぼ全滅したってわけ」ナシオがヘラっと笑う。「不意打ちみたいなもんだったけどね。ちなみに今は姉さんが見張ってるから、たぶん大丈夫」


「やれやれだな」ベンノが肩を竦め、小さく首を振った。「てか、ゾーヤ様はそんなに強いのか?」


「そりゃあねぇ」ナシオが苦笑い。「あの帝国で神子……今は聖女って言うらしいけど、それやってたわけで」


「エトニアル大帝国の聖女か」ベンノも苦笑い。「直接対峙はしてねぇが、資料は見た。オンディーナだっけか? ありゃ怪物の類いだ。誰もダメージを与えられない。こっちなら普通に大英雄。ああ、ついでにあんたの孫だかなんだかも、別の意味で化け物だがな」


「ティナは可愛いからねぇ」ナシオが言う。「あの可愛さだけで世界を支配できるかも」


「ああ、そうかよ」ベンノが肩を竦める。「それで? ゾーヤ様も結界魔法を使うのか?」


「姉さんの魔法属性は神託だよ」


「俺っちは宗教に詳しくない、が、それは戦闘向きじゃなさそうな気がするぞ……」


「おいおい、姉さんは最上位の魔物だよ? 普通に戦っただけでも大英雄より強い。まぁ、魔法が戦闘向きじゃないのは事実だけど」

「失念してたぜ。そういや、あんたら姉弟は魔物だったか」


「とはいえ、スカーレットの戦力を100点だとすると、姉さんはよくて20点、スカーレットが実力を隠しているなら10点って自分で言ってた」


「微妙なところだな」


 ベンノが笑った。

 スカーレットの2割なら、一般的にはかなり強いとも言える。

 20点という自己採点が正しいなら、だが。


「僕らは暗躍する方が得意なんだよ。騙し、支配し、扇動し、操る。特にティナはその辺りが天才的」


「そうだな」とベンノが納得して頷く。


 それから振り返って、兵士たちを見た。


「よぉし、じゃあ俺っちが先に入るからよぉ、お前らあとに続けー」


 なんとなく気怠そうにベンノが言って、馬から下りる。

 それから馬を引いて、ベンノが扉に入った。

 兵士たちがそれに続く。


「これは時間がかかりそうだね」


 ナシオは空を見上げた。星がとっても綺麗だ。



 時間は現在に戻る。


「私は君のマカロンが食べたい」

「なんか言い方がいやらしいんだけど」


 アスラとスカーレットはイチャイチャ第二回戦へと突入していた。



 その頃のベンノは、《月花》帝城を攻略するために軍を動かしていた。

 帝城の前の小さな集落が視界に入った頃、空から巨大な砲弾が降ってきて、兵士たちを殺傷した。

 轟音と衝撃と、散らばる肉片。

 それは城壁の上に並べられた大砲による砲撃だった。

 降り注ぐ砲弾に、ベンノは何もできなかった。彼の軍はただ一方的に虐殺された。


「んだよこれ……」ベンノは引きつった表情で呟く。「こんなん、戦争じゃねぇだろ……」


 戦って死ぬならまだ分かる。理解できる。でもこれは、ただ死んでいるだけだ。何の意味もない。

 ベンノは《月花》が使用する銃については知っていたし、警戒もしていた。

 だから銃弾を防げる厚みの大盾を用意したし、それを装備した部隊も編制した。

 でも無意味だった。今、無意味だったと知った。

 ベンノたちを襲っている砲弾は、盾や鎧で防げるものではない。


「撤退だちくしょう! 撤退しろ! 無駄死にだクソ!」


 大声で叫ぶ。

 西フルセンを統一し、中央フルセンはあとこの《月花》のみ。

 東フルセンだって《月花》がいなければとっくに支配下だ。



「あれ? もう帰っちゃうの?」


 城壁の上で砲撃を見ていたレコが呟いた。

 レコは自称アスラのお婿さん。茶色の髪に茶色の瞳。不細工ではないがイケメンという感じでもない。よくいる村の少年といった顔立ち。

 アスラと出会った頃は、アスラより少しだけ背が低かったのだが、13歳になった今はアスラより少し背が高い。


「判断が早いですわねぇ」


 レコの隣に立っていたグレーテルが言った。

 グレーテルは20代前半の女性で、かつてはどこかの国のお姫様だった。まぁ、その国は売国奴たちのせいで亡国となったわけだが。


「打って出る?」とレコ。


「それもありですわね」


 グレーテルの髪はクリーム色で、髪型はマッシュミディアム。マッシュルームみたいな丸っこい髪型。アスラの仲間になった頃から同じ髪型を貫いている。

 顔は割といい。アスラやアイリスには劣るが、一般的には美人に分類される。


「マルクスに聞いてくる」


 そう言って、レコは城壁を飛び降りた。

 同時に地面が盛り上がり、土の階段が姿を現す。レコの魔法である。

 ピョンピョンと跳ねるように階段を下って、レコは城の中へ。土の階段はボロボロと崩れて消える。



「無理だ」


 ベンノは大本営の天幕を潜ってすぐにそう言った。


「見てた」トリスタンが肩を竦める。「あんなん普通の兵は士気が保たないだろうぜ」


 トリスタンは17歳の少年で、髪の色は黒。長さは普通。長すぎず短すぎず。

 肉体は引き締まっていて筋肉質だが、背丈は普通。顔立ちも悪くはないが、取り分けてカッコよくもない。


「俺っちも保たねぇよバカ」


「困りましたね」とゾーヤ。


「あんたが出たらどうだ? ゾーヤ様」


 ベンノはゾーヤをジッと見詰めた。


「いいんじゃね?」トリスタンが言う。「【神性】全開なら戦うまでもねぇし。つか、なんであんたはいつも戦わないんだ?」


 ゾーヤはエトニアル大帝国との戦争でも、演説したり主要人物をまとめたりしていたが、自ら戦うことはしなかった。


「わたくしもナシオも、所詮は過去の遺物ですから」ゾーヤが言う。「なるべくなら、今を生きる人間たちで解決して欲しいと思っています。それにわたくし、戦闘が得意というわけでもないですし」


「人間たち、ねぇ」トリスタンが苦笑い。「忘れがちだけど、あんたら魔物だもんな……」


「とはいえ、世界大戦は防がなくてはいけません」ゾーヤが言う。「我々の敗北は許されない。ですので、打って出ましょう」


「おお」と嬉しそうなのはエステル。


 エステルは神聖十字連の隊長で、英雄が解散するまでは中央の大英雄だった。

 中央出身なので、そもそもゾーヤを敬愛している。

 エステルは30歳の女性で、赤毛のポニーテイル。瞳の色も赤。純白のフルプレートに身を包んでいる。


「姉さん、ケガはしないでね」


 ナシオが心配そうに言った。


「ナシオも行くんですよ」とゾーヤ。


「え? 僕も?」


 ナシオが驚いて言うと、ゾーヤが強く頷いた。


「しょうがないなぁ」


 ナシオが溜息交じりに言うと、ゾーヤの瞳が金色に輝いた。


「どうやら向こうも打って出るようです。行きましょう、ここで戦ったら兵たちに被害が出ます」


「なんで分かるんだ?」トリスタンが言う。「向こうが来るって。それにその目は……」


「近い未来を視ています」


 神域属性・神託の【近未来視】の発動状態。


「神がかってるな……いや、神様だったか」とベンノ。


「む……わたくしとナシオだけでは敗北しますね。トリスタン、エステルも一緒に来てください」


「喜んで」とエステル。


「未来は揺らいでいます。ですが、いくつかの未来でわたくしたちが勝ちます。対戦相手の組み合わせと、あとはティナさえ出なければ可能性があります」


 ゾーヤたちが勝つのは、非常に低い可能性だ。


「ティナが出たら?」とナシオ。


「やれるだけ、やってみましょう、と言ったところでしょうか。あの子、どうやってあれほどの強さを……?」


 ゾーヤが困惑した風に言った。


「僕らが負ける可能性が高いなら、撤退する、という手もあるんじゃ?」とナシオ。


「バカ言うな」トリスタンが苦笑い。「スカーレット様が攻めろって言ったんだ。お前、歯向かうつもりか?」


「……うーん、それはよろしくないね」


「体面さえ保てればいいだろう」エステルが言う。「戦いましたが、無理でした、逃げました、ならばスカーレット様も許してくれるさ」


「ギリギリ勝てる可能性もありますので」ゾーヤが言う。「接敵の少し前にもう一度未来を視て、どう攻撃するか、誰から倒すか、共有しましょう」


「つーか、あんたの【神性】は? 隙を作れるんじゃねぇの?」とトリスタン。


 ゾーヤが首を横に振る。


「連中にはほとんど意味がないです」ゾーヤが言う。「上位の【神性畏怖】ならまだしも、彼らはすでに【神性】を破ることができます」


「その上位の【神性畏怖】とやらは」エステルが言う。「ゾーヤ様には使えないので?」


「無理です。それは本物の神様……ユグドラシル様のものですから……」



「しかし、あんなにすぐに退かれては、陸軍の訓練ができんな」


 イーティス軍の野営地を目指して歩きながら、マルクスが言った。

 マルクスは20代後半の男で、筋骨隆々。赤毛を短く切り揃え、精悍な顔立ち。傭兵団《月花》の副長で、エステルの恋人でもある。


「仕方ありませんよ、大砲って凶悪ですし」


 サルメが肩を竦めた。

 サルメはラウノと入れ替わりでこっちに戻っていた。


「じゃあ一回、陸軍に攻めさせてからにする?」


 サルメの隣を、軽い足取りで進むレコが言った。


「いや、もういいだろう」マルクスが言う。「そもそも、ジャンヌが勝手に敵を倒してしまって、訓練計画が破綻してしまったからな」


「ティナにお仕置きされるジャンヌは素敵でしたわ」


 グレーテルが頬を染めながら言った。

 グレーテルは美少女と美女が大好き。そしてその絡みを見るのはもっと好き。自分も混じれたら最高。


「まぁ、ジャンヌとしてもティナのための行動ですし」サルメが言う。「比較的、甘かったですよね、お仕置き」


「おや? 向こうも少数で来たか」とマルクス。


 その視線の先には、ゾーヤ、ナシオ、エステル、トリスタンの4人の姿があった。


「ナシオがいる」レコが言う。「潜入してるイーナには悪いけど、オレが倒しちゃおうかな」


「トリスタンって、団長さんの果実じゃなかったですっけ?」サルメが首を傾げる。「勝手に殺していいものか……」


「問題ないだろう」マルクスが言う。「ここで死ぬならその程度の果実だ。団長も怒るまい。あ、自分は当然エステルと戦うぞ」


「もしかしてそれぞれ一騎打ちですの?」


 グレーテルがゲロ吐きそうな表情で言った。


「自分はそれでもいいと思っているが?」マルクスが言う。「団長もいないし、別に仕事でもない。羽を伸ばす感じでいいだろう」


 と、城からキンドラが飛んで来て、ティナがピョンと飛び降りた。

 キンドラはそのまま城へと戻る。

 ちなみに、ゴジラッシュはアイリスと一緒にアスラを迎えに行っている。


「たまにはぼくも運動しますわ。神域属性を試してみたいですし」


 ティナは国家運営副大臣という立場で、普段は戦闘に参加することはない。


「ぐぬ……何の訓練もせずに神域属性とか……」


 サルメが悔しそうに拳を握る。


「ぼくはまぁ、人間じゃありませんし」


 ティナの見た目は14歳前後の少女。アスラたちと出会った頃から変わっていない。

 ちなみに、実際の年齢は19歳。魔物と人間のダブルで、ナシオの血筋でもある。


「ティナが訓練したら世界最強でしょ、絶対」


 レコが肩を竦めた。


「ぼくは訓練とかしたくありませんわ」


 ティナの顔立ちは少々生意気そうな感じだが、十分に美少女と呼べるレベル。

 髪の色は赤で、長さは肩ぐらい。瞳の色は金。魔物としてのスキルは唾液に回復効果がある、という微妙なもの。


「見れば見るほど可愛いですわねぇ。服装もエッチですし」


 グレーテルは、「ほう」と息を吐きながらティナをマジマジと見た。

 ティナの服装はお腹の見え居てる服に、短いスカート。ちなみにジャンヌの趣味である。


「一応言っておくが」マルクスが言う。「遊びで死ぬのは馬鹿らしい。無理だと思ったらさっさと撤退するぞ」


 そう、これは遊びなのだ。

 仕事ではない。仕事は東フルセンで行っている。

 その東フルセンでも、今のところ、イーティス軍を全滅させて欲しいという依頼は受けていない。

 これはただ、攻められたから防衛しているだけ。


「「了解」」


 レコ、サルメ、グレーテルの返事は綺麗に重なった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ