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月花の少女アスラ ~極悪非道の戦争好き傭兵、異世界転生して最強の傭兵団を作る~  作者: 葉月双
最終章

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5話 VSアル あなたはもうアクセルじゃない


 エルナはメロディの死を確認したのち、すぐにアイリスの元へと向かった。

 そして加勢しようとしたのだが、すぐにはできなかった。

 だって、魔王剣を握ったアイリスと魔装に身を包んだアルの戦闘は――。


「人の戦いじゃないわねぇ……」


 激しく攻撃しあう2人は、もはやどちらもケダモノのように見えた。


「まぁ、だからと言って、見ているだけってわけにも……いかないわねぇ」


 エルナは魔王弓を構える。



 あー、これ無理だわ。

 アイリスはアルと戦いながらそう思った。

 魔王剣・十六夜の能力を十分に使って、それでもやや押されている。

 アルの攻撃を躱しきれず、何度か十六夜の防御スキル『絶界』に頼った。

 そして今も、絶界を展開してアルの蹴りを防いだ。


「そいつを割りてぇからヨォ! そのまま展開してろや!」


 アルが一歩下がって、拳を振り上げる。

 渾身の一撃を放つつもりなのだ、とアイリスは理解。

 ならば、それを躱せば攻撃の隙が生まれるか。

 躱せたら、だけどね! とアイリスは心の中で苦笑い。

 しかしアルの攻撃より早く、魔王弓の攻撃がアルの背中に直撃。


「うおっ」とアルが仰け反る。


 エルナ様、ナイス!

 アイリスは即座に絶界を解除して、アルに斬りかかる。


「あっぶネェ!」


 アルはアイリスの斬撃を躱そうとするが、躱し斬れない。

 アイリスの斬撃は、アルの胴を――正確には魔装を少しだけ裂いた。

 全力の十六夜なら魔装も斬れる。


(固いです。刃こぼれしちゃう刃こぼれ)


 十六夜がアイリスの頭の中に話しかけてくる。


(あんた、少々壊れても時間経過で治るでしょ!)


 アイリスがそう反論したと同時に、アルのハイキックが飛んで来る。

 それをしゃがんで躱すアイリス。

 ひぃぃ、当たったら死ぬぅぅ!

 アイリスは躱すと同時に下がって距離を取る。

 魔装状態のアルは、攻撃力も半端なく上昇している。


(あのスキルは長持ちしませんよ)十六夜が言う。(適当に逃げ回って、スキルが切れたら攻撃しましょう。その方が効率的です)


(分かってるけど!)


 その逃げ回るのが大変なのだ。

 アルは容赦なく攻撃を続け、アイリスは絶界に頼ったり回避したりと忙しい。

 たまにエルナが魔王弓による攻撃を当ててくれるので、その時だけ反撃している。


(魔王弓の攻撃が無傷って、半端ないわね)とアイリス。

(しかもその攻撃、魔力を細く絞っているので、貫通力が上がっているのですがね)と十六夜。


「ちくしょう、上手く逃げ回るじゃネェか」


 言って、アルが魔装を解除した。

 魔力が切れたというよりは、切れる前に温存した、という感じだった。

 チャンスとばかりにアイリスが攻撃に転じる。

 しかしアルはアイリスの攻撃を回避。速度はアイリスの方が速いはずなのに、アルは割と余裕を持って回避していた。

 見切られてるの? あたしの斬撃が?


「テメェの斬撃に慣れてきたぞアイリス」


 んー、慣れられちゃった!

 そんなに攻撃してないはずなのにっ!

 アイリスはギリッと歯噛み。


「スカーレットと剣筋が違うからヨォ、ちぃっとだけ苦労したぜ」


 まぁスカーレットとは違うだろうな、とアイリスは思った。

 アイリスの剣は《月花》の戦闘思想が混じっているのだから。

 と、発砲音があってアルの左腕に弾丸が命中。


「おお!?」とアルが少しバランスを崩す。


 アイリスは左側から十六夜を横に一閃。


「ちぃぃ!」


 アルは十六夜との接触部分にだけ魔装を施し、十六夜の攻撃を弾いた。


(一部に集中しているからか、全身の時より固いです。全力でも斬るのはちょっと難しいですね)


 十六夜が言った。

 更に発砲音があって、アルの右足に弾丸が命中。


「いってぇなクソ」


 アルは一瞬だけ体勢を崩したが、すぐに立て直す。

 人間だったら2発も銃弾を受けたら、もっと痛がったりするものだけど、さすが魔物ね、とアイリスは思った。

 ついでに、発砲した人物をチラチラっと確認。


(ロイクとチェリーね。ってことは少なくとも、もう1人は隠れてるわね)


 アルを相手にこの2人だけで出撃したということはない。絶対にない。

 アイリスがロイクに視線を向けた時、ロイクが「連携しろ」とハンドサインを送った。

 あたしの鉄砲もある? とジェスチャするアイリス。頷くロイク。

 ロイクは別にアイリスのために火縄銃を持ってきたのではない。予備をどこかに置いている、という意味。

 と、魔王弓の赤い光線がアルの背後から放たれた。

 アルは右手に魔装をして、バックブローの要領でそれを弾いた。


「うひゃぁぁ!」


 弾いた先にいたチェリーが悲鳴を上げながら光線を回避。


「《月花》の連中も来てんのか」アルが言う。「楽しくなりそうだなぁおい!」


 多勢に無勢だというのに、アルは笑っていた。


「全然、楽しくなーい!」


 そう言って、アイリスは走り去った。


「え? おいテメェ!」


 追いかけようとするアルを、ロイクが撃って牽制。



 くっそ、連中の……鉄砲だっけか?

 撃つところを見ていないと躱せない上、そこそこ痛いぜ、とアルは思った。

 全身魔装ならノーダメージなのだろうが、魔力残量的に全身魔装はもう長く保たない。

 まぁ、頭だけ気を付けるか、とアルは方針を決める。


 さすがのアルでも、頭に銃弾を受けたらしばらく動けなくなる可能性があった。

 魔物の肉体は耐久力が高く、少々穴が空いたぐらいでは死んだりしない。それに、その程度なら数日寝ていれば治る。


 しかしながら、脳を破壊されると自己修復にどれほどの時間がかかるのか分からない。その間にバラバラにされたら、さすがのアルでも死んでしまう。

 アルは小刻みにステップを踏み、頭の位置を固定しないようにした。

 さぁて、まずは見えてる奴からやるか。

 そう思って周囲を見回すと、すでにロイクもチェリーも消えていた。


「マジかヨォ、全員逃げたのか?」


 それとも、得意のファイア&ムーブメントだろうか。

 アルは警戒を解かず、集中して連中の攻撃を待った。当然、ステップしながらチョイチョチと立ち位置を変えている。

 と、近くのテントの影から魔王弓による攻撃があった。

 アルは右足に魔装を施し、魔王弓の光線を蹴っ飛ばす。


「エルナ、テメェがいるってことは、メロディは死んだのか?」


 アルはステップと小刻みな移動を続けながら言った。


「そう。そうね。あの子は死んだわー」


 テントの横に立っているエルナが言った。


「そうかよ。死んじまったか。惜しいもんだ。あいつも魔物になりゃ、いい線いけたと思うんだがなぁ」


 アルはメロディの死を悲しんではいなかった。

 メロディは娘だが、今のアルに親子の情はない。強い奴かどうか、の方が大事なのだ。


「人の心は完全にないってわけねー」


 エルナは少し寂しそうに言った。


「少しは残ってるぞ。たぶんな」


 ニヤッと笑ってから、アルはエルナとの距離を詰めようと予備動作に入った。

 その瞬間、銃声が3つ。

 弾丸の一発がアルの腹部に命中し、一瞬だけ姿勢が崩れ、その隙にエルナが姿を消す。

 アルはグルッと周囲を見回すと、火縄銃を構えたアイリスがいた。


「テメェも撃ったんかよ!」


 アルが言うと、アイリスは肩を竦めて、テントの裏へと姿を消す。

 よく考えたら、アイリスも実質《月花》の準メンバーみたいなものだ。撃てないはずがない。


「ちっ、障害物が邪魔だぜ……」


 1つずつ壊していこうかアルは少し悩んだ。

 また銃声がして、アルの背中上部から腹部へと弾丸が抜ける。斜め上から撃たれたのだ、と察して振り返りながら視線を上へ。

 物見櫓の上のチェリーが火縄銃を振った。


「やべぇな。ダメージを受けすぎてるぜ」


 いくらアルが最上位の魔物で、耐久力と生命力に優れていても、ダメージが加算すれば動きは鈍る。

 血が流れ過ぎれば意識を失うこともある。


「仕方ねぇ、速攻で1人潰す!」


 アルはジャンプして右手に魔装。


「こっちくるなでござるぅぅ!」


 物見櫓のチェリーが飛び降り、アルは右手で物見櫓を殴って破壊。

 本当はチェリーを殴るはずだったのだが、思いのほかチェリーの反応が早かった。

 アルは魔装を消して即座にチェリーを追う。

 絶対にチェリーを視界から消さない。絶対にチェリーを仕留める。

 チェリーは着地と同時にダッシュ。

 アルも着地と同時に走り、チェリーを追う。


「助けて団長!!」


 チェリーは叫び、同時にスライディングして身を低くした。

 なんだ? 滑った? と思った瞬間、アルの首を銃弾が貫く。

 銃声は聞こえなかったし、今までの銃弾より貫通力が高い。

 さすがのアルも倒れ込んでしまう。


(クソ! 首を撃ち抜かれたのはマズい!)


 アルはチェリーを追って真っ直ぐ走っていたので、ステップをしていた時より遙かに当てやすかったはずだ。

 とはいえ、どこから誰に撃たれたのかも分からない。

 アルはすぐに立とうとしたが、更に三発の銃弾を身体に撃ち込まれる。撃ったのはアイリスとロイクとチェリーだ。

 アルはそれでも立ったのだが、むしろ立たない方が良かったのかもしれない。

 再び、貫通力が高くて音のしない弾丸がアルの左耳を貫いた。


(鉄砲持ってる奴が4人いるってことかヨォ! エルナじゃネェよなぁ!)


 アルは全身魔装を使用。

 これ以上のダメージはまずい。魔力はあまり多くないが、撤退するだけなら、なんとかなるはずだ。

 それに、四人目はアルの頭を狙っているのだと理解した。故に、全身魔装を使うしかない。


 魔装は銃弾なんかに負けないのだから。

 アルは全力で森に向けて走った。平原を走ったら目立つし、追っ手を撒くなら森に入るしかないと思ったから。

 森までは特に問題なく走れたのだが、森に入った瞬間、アルの足下が爆発した。

 アルは前方に投げ出されるが、上手く着地。魔装のおかげで足は無事だ。


(逃げ切って遠距離対策だチクショウめ!)


 そもそも最強を目指しているアルは、直接戦闘を得意としている。

 その上、以前は遠距離攻撃を主とする相手もエルナしかいなかったのだ。

 対策もクソもなく、動きを読んで近寄って、そして殴ればいい。程度にしか考えてなかった。

 アルは再び走りだそうとして、動きを止める。

 アルの周囲に、無数の花びらが浮いていたから。


「ごきげんよう」


 木の上に座ったアスラが言った。


「機嫌がいいように見えんのかヨォ?」


「見えないね」アスラがクスッと笑う。「だから機嫌の良くなることを言ってあげるよ」


「言ってみろ」


 アルはこの窮地をどう脱するか考えていた。

 全身魔装はもう1分も保たない。

 強引に走るべきか?

 あるいはアスラを殺してから走るべきか?


「さっき君を2回狙撃したんだ。ここから」アスラが両手で持っていた火縄銃を少し持ち上げる。「風の魔法を使ってね、飛距離を伸ばしたんだよ。ちなみにこれ、弓矢でもできるんだよ。ほら、覚えてないかな? なんとかって英雄が、弓矢で殺されたろ?」


「クソが、やっぱテメェかよ!」


 アルは魔物になっていたから、激高まではしなかった。

 人だった頃に聞いていたら、なりふり構わずアスラを攻撃したに違いない。


「意外と冷静だね」アスラが肩を竦める。「まぁいいや。どうするか決めたかい? 魔装はもう保たないだろう?」


 アスラの言葉が終わると同時に、魔装が終わる。アルの魔力が切れたのだ。


「俺様を逃がせ」とアル。


「率直だね!」


 アスラは少し驚いたように言った。


「テメェは同類だろ? 戦うのが好きだ。俺様は今後、鉄砲の対策をする。そしたら、もっと楽しく戦えるぞ?」

「んー、でも依頼されてるからねぇ。どうしようかなぁ?」


 アスラがニヤニヤと笑う。


「戦ってみたくネェのか? 鉄砲対策をした俺様とヨォ」


「仮に、だけど」アスラが急に真面目に言う。「私がその話に乗ったとする。君を逃がし、鉄砲対策をした君と楽しく遊ぶとする。でも1つだけ問題があるんだよ」


「問題?」とアルが首を傾げる。


「君への殺意が超高い奴がいて、そいつは君を逃がさないってさ」


 アスラが言い終わったと同時に、魔王弓の光線がアルの胸を貫いた。

 アルの胸には、銃弾とは比べものにならないレベルの大きな穴が空いた。


「あは、ドーナッツになったね!」


 アスラが楽しそうに言って、周囲の花びらを消す。

 アルは振り返りながら倒れ込む。

 アルの視界には、歩み寄ってくるエルナの姿が見えた。



「頼むぜエルナ……俺様と、テメェの仲だろぉ……? 見逃せヨォ」


 地面に仰向けに倒れたままのアルが言った。

 放っておいても死にそうだが、エルナはきっちりトドメを刺すことにした。


「無理だわー。だってあなた、東フルセンを攻撃したじゃない」


 他にもムカつくことは山ほどあるけれど、それだけは許せない。

 アルは東の大英雄だったのだ。この地を護ってきたのだ。長いこと、ずっと。

 それを、それを簡単に投げ捨てたのだ。

 故郷も、友人も、そしてかつての恋人も、全てがここにあるというのに!

 それなのに、今もアルは「よく分からない、それがどうした?」という表情をしていた。


「あなたはアクセルじゃないわー。ただの魔物。死になさい」

「……俺様は……最強に……」

「あの世でどうぞ」


 エルナは魔王弓でアクセルの顔面を撃ち抜いた。


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― 新着の感想 ―
相変わらずのアスラさんすこ。 それはそれとして期間が空きすぎてちょこちょこ団員の名前とキャラクターが一致しないのが、読み返すべきか否か。
どんどんネームドが死んでいく…終焉を感じる
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