表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月花の少女アスラ ~極悪非道の戦争好き傭兵、異世界転生して最強の傭兵団を作る~  作者: 葉月双
最終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

298/310

3話 ジャンヌとスカーレット どっちが強いかって? 決まっているだろう?


 アスラたちは宿の大部屋でカードゲームに興じていた。


「ああああ! また俺が負けるんかよぉぉぉ!」


 ロイクがひっくり返ってそのまま床をゴロゴロと転がった。

 ロイクは元山賊で、今は《月花》の魔法兵だ。

 山賊だった頃に、ウッカリ間違えて大英雄を襲撃してしまい、返り討ちにあって投獄されたという黒歴史の持ち主だ。


 フルネームはロイク・メゾン。髪の色は空色で、髪型はミディアムウルフレイヤー。アスラたちと出会った頃から、ずっと同じ髪型をキープしている。

 なぜならカッコいいから。少なくとも、ロイクはカッコいいと思っている。


「弱いでござるなぁ」


 ロイクの対面に座っていたチェリーが、哀れみの表情で言った。

 この部屋にいるのはアスラ、ロイク、チェリー、サルメの4人。

 みんな四角いテーブルに座っている。まぁ、ロイクは床を転がっているけれど。


「なぜだ! 俺は魔法兵だぞ!? 団長やサルメはまだしも、なぜチェリーに負けるんだ!?」


 ロイクの顔立ちは、パッと見たらイケメンのように見える。しかしよく見ると、そうでもない。いわゆる雰囲気イケメンである。

 ちなみに19歳だ。


「チェリーはマホロ候補だからねぇ」アスラが言う。「元から相手の出方を窺うのが得意なんだよ。僅かな表情の変化、視線、筋肉の動きとかをよく見ている。それこそ、魔法兵に匹敵するレベルで」


「ふふふん、でござる」


 チェリーが小さい胸を張ってドヤ顔を披露。


「魔法さえ使えるようになったら、すぐに魔法兵認定試験ができるよ」


 アスラは溜息混じりに言った。

 チェリーはどんな技術でもサクサクと吸収するのだが、魔法だけはダメだった。苦手も苦手で、未だに属性変化もできていない。


「ところで、外の人は入ってこないのでしょうか?」とサルメ。

「入ってくるさ」とアスラ。


「ああ、なんだか感慨深いです」サルメが言う。「私は昔、人の気配なんて感じられなかったのに」


「チェリーは物心ついた頃には、人の気配を察知できたでござる」

「化け物の里で育った子と一緒にしないでください。私は2年前まで、ただの娼婦でしたからね?」


 サルメはやれやれと肩を竦めた。

 そのすぐあと、外の人物がドアをノックした。


「入りたまえ。鍵はしていない」


 アスラが言うと、外の人物がドアを開けて入室。


「やぁアスラ、余が来たぞ」


 訪問者――庶民っぽい服を着たアーニア王が笑顔で右手を上げた。

 ロイクは普通に椅子に座り直した。客人の前で床に転がっているのもアレなので。


「これが……夜這いというやつでござるな?」


 チェリーがキラキラした瞳でアーニア王を見て、アスラを見た。


「いや違うだろう」とアスラ。


「この椅子にどうぞ」


 サルメが席を立って、自分が座っていた椅子を右手で示す。

 それを見て、アーニア王は少し驚いたような表情を見せる。


「ほう。礼儀正しくなったなサルメ」とアーニア王。


「私は元から礼儀正しいですよ」


 言いながら、サルメはベッドの1つに腰掛けた。

 この部屋は大部屋なので、ベッドも4人分ある。

 アーニア王はサルメが座っていた椅子に腰を下ろす。アスラの対面だ。

 アーニア王は24歳の青年で、髪の色は茶色。両耳にピアスを装備している。

 顔立ちはイケメンに分類されるが、目を引くほどではない。


「それで?」とアスラ。


 チェリーがテーブルの上のカードを片付け始める。


「この戦争はどうだ?」

「楽しんでいるよ」


「それは何よりであるな」アーニア王が微笑む。「ところで、そろそろ補給を叩くのに飽きた頃ではないか?」


「いやいや、とっても楽しいよ」


 アスラも微笑みを浮かべて言った。

 実際、アスラは補給路潰しを楽しんでやっていた。


「もっと面白いことをやってみたくないか?」

「いいね、面白いことは大好きだよ」

「戦局を変えたい」


「それはいい考えだね」アスラが言う。「今のところ、こちらが押されている。なぜなら――」


「アルとメロディ」とアーニア王。


「そう、その通り、あの親子が強すぎる上、遊撃隊として動いている。反イーティス連合にとっては最悪も最悪。私らが補給を潰しているから、戦線の維持はできているけど、死者数はこちらの方が多い」


 まぁ、死者数なんて私たちが全力戦闘を行えば、すぐにひっくり返せるけれど、とアスラは思った。


「親子なのか?」とアーニア王。


「そうだよ。アルは若く見えるけど実際にはずっと年上さ」


 そして本名は元東フルセンの大英雄、アクセル・エーンルート。

 その事実を、英雄たちも含めて知っている者もそれなりにいる。しかし広く一般的に知られているわけではない。


「アレらは魔物なのだろう?」


 アーニア王の質問に、アスラがクスクスと笑った。


「そうだよ、アルはその通り。最上位の魔物だよ。今の戦力は魔王に匹敵するだろうね」

「それほどなのか!?」


 アーニア王は驚愕に目を見開いた。


「ちなみにメロディは人間だぞ」とロイク。

「姉上でござる!」とチェリー。


「何!?」


 アーニア王は再び驚愕し、顔ごとチェリーに視線を向けた。


「心配しなくても、チェリーがぶっ殺すでござるよ!」


 グッとガッツポーズするチェリー。


「仲が悪いのか?」


 アーニア王が聞くと、チェリーは首を横に振った。


「めっちゃ仲良しでござるよ! それに尊敬もしてるでござる!」


「あと、姉妹と言っても」サルメが補足。「血は繋がっていません。同じ里の出身という意味です」


「少し整理したい……」アーニア王が右手で頭を抱えた。「アルは最上位の魔物で、メロディは人間だがアルの娘で、この子はメロディと同じ里の出身?」


「こんがらがってるね」アスラが楽しそうに言う。「君は信用できるし、全部教えてあげるよ」


 アスラはアルの正体、メロディの正体、両方を丁寧に説明した。

 アーニア王は右手で自分の口を押さえた。


「アレがアクセル殿だと……。あの偉大な……いや、乱暴な人物ではあったが……それでも大英雄が……魔物になった上、東フルセンを侵略していると?」


 アスラたちがコクンと頷いた。


「なんということだ……。東フルセンを守り続けた大英雄が……飲み込み切れんな……」


「心の整理はあとでゆっくりやればいい」アスラが言う。「それで? 君はアルとメロディを殺して欲しいのかな?」


「そう……そうだアスラ。君なら殺せるだろう?」


「メロディは殺せる。人間だからね。アルもまぁ殺せるだろう。でもやってみないと分からない部分もある。魔物だから、不確定要素が多い。時間をかければ、いつかは必ず殺せるけどね」


「それで構わない。報酬はどうすればいい?」アーニア王が言う。「《月花》への支援を増やすか?」


 現時点でも、アーニア帝国はアスラたちに多くの便宜を図っている。そういう約束で、アスラたちに仕事をしてもらったからだ。


「そうだね。アルとメロディの殺害なんて、個人のポケットマネーで支払える額じゃない」


 アスラが両手を広げて小さく首を振った。


「向こう百年は」サルメが言う。「支援して頂かないと割に合いませんよ」


「だよなぁ」


 ロイクが背もたれに身体を預け、椅子を傾けた。


「できるかね?」


 アスラがアーニア王を見詰めると、アーニア王は強く頷いた。


「余の次の王にも、《月花》を支援させればいい。あるいはその次の王にも」


「簡単に言うんですね」とサルメ。

「難しくはない」とアーニア王。


「ところで、アーニアは帝国なんだから皇帝を名乗ったらどうだい?」とアスラ。


「唐突だな……」アーニア王が苦笑い。「王が慣れているし、王でいい。なんなら国名もアーニア王国に戻したいと思っている」


「ふぅん。まぁどっちでもいいけどね」とアスラ。


「ではアルたちの件はよろしく頼む」


 アーニア王が席を立った。


「ひとまず三日以内にメロディは殺す。アルの方は長引くかもしれないけど、全力を尽くそう」



 アスラたちがアル殺害の依頼を受けた翌日。


「あなたたちがそこに陣取っていると、ティナが安心して眠れません」


 ティナを護るための魔法【守護者】ジャンヌは、傭兵国家《月花》の国境ギリギリに陣を敷いているイーティス軍の前に、たった1人で立った。

 ジャンヌは20代半ばの見た目で、髪の色は雪のような白。整った顔で、どこか憂鬱そうな表情。


 喪服のような黒い服を着ていて、何もかもが生前の姿と変わらない。

 いや、姿だけでなく、人格も記憶も生前のジャンヌを引き継いでいる。故に、限りなく本物に近い偽物――それが【守護者】ジャンヌ。

 このジャンヌは人ではなく、魔法生命体である。


「ですので皆さん、死んでください」


 ジャンヌが淡々とそう言うと、ジャンヌの周囲に3体の天使が舞い降りた。クレイモアを携えた死の天使が。

 天使たちが殺戮を開始し、ジャンヌもクレイモアを握ってイーティス軍を駆逐していく。



 今日はイーティス軍にとって悪夢となった。

 スカーレットの命令で編制された『月花討伐隊』は、神聖十字連を主体とした精鋭たちで構成されている。

 だが彼らは《月花》の帝城を一度も攻撃していない。なぜなら、国境を踏み越えた瞬間に竜王種による熱線攻撃が行われるから。


 仕方ないので、月花討伐隊は一度、国境の外に陣を敷いた。竜王種をどうするか、討伐隊の司令官であるエステルと補佐役のナシオ、トリスタン、そしてゾーヤの4人はテントで会議を開いていた。


「エステル様! ジャンヌです! ジャンヌが襲ってきました!」


 神聖十字連の隊員が、エステルたちのテントに飛び込んできた。


「バカ言うな、ジャンヌは死……ああ、そうか、魔法か」


 エステルがギリッと歯噛み。

 ティナがジャンヌそっくりの攻撃魔法を使うことは、エステルたちも知っている。

 厳密には攻撃魔法ではないのだが、エステルたちはそう思っている。


「この4人なら、本物のジャンヌでも勝てるだろ?」


 そう言って、トリスタンがテントを出る。

 エステルたちも続いた。

 そこはすでに地獄だった。

 むせ返るような血の臭いの中、天使たちが月花討伐隊の死体を山のように積み重ねている。


 何のためにそんなことをしているのか、エステルには理解できなかった。

 エステルだけではない、トリスタンも、ナシオも、ゾーヤも意味が分からなかった。

 と、その山の頂点にジャンヌが姿を現し、エステルたちを見下ろす。


「おや? 記憶の中の姿と少し違いますが」ジャンヌが言う。「貴族王ですか?」


「元、貴族王だよ、僕は」とナシオ。


「そうですか。お久しぶりです。かつて、生前は【呪印】と【神性】をどうも。今のあたくしはどちらも失っていますけれど」


「おいテメェ、ジャンヌ! 何してくれてんだよ!」トリスタンが怒って言う。「ぶっ殺してやる!」


 ジャンヌが首を傾げる。


「あたくしは魔法ですよ? 殺されても、何度でも呼び出されますけれど?」

「……マジ?」


 トリスタンがナシオを見た。

 ナシオが頷く。

 なんて凶悪な魔法なんだ、とエステルたちは思った。


「そもそも、あたくしに勝ちたいなら、スカーレットとやらを連れて来た方がいいのでは? みなさんとっても、弱そうに……あら? 貴族王は?」


 ジャンヌが目を見開く。

 エステルが周囲を確認すると、ナシオはすでに消えていた。

 逃げ……いや、最愛のゾーヤ様を置いて逃げるはずがない、とエステルは思った。


「呼ばれてるらしいから、来たわよ」


 ナシオとともにスカーレットが出現。

 ジャンヌが驚いて目を丸くした。

 エステルたちは、それがナシオのスキルだと知っているので、特に驚きはない。

 ナシオに物理的な距離はあまり意味がない。ナシオは異空間の部屋に好きに出入りできるのだが、その部屋はナシオと繋がりの深い人の側に出口を作れる。


「初めまして、スカーレ……」

「うっさい死ね」


 スカーレットは魔王剣でジャンヌを攻撃。

 ジャンヌはクレイモアでそれを受け止めようとしたが、クレイモアごと真っ二つにされてしまう。


「あら? あたくしより強い人間がいるなんて……」

「あんたは前の世界で殺してるのよ」


 それも、かなり前に。今よりずっと弱い時のスカーレットが。

 ジャンヌが姿を保てなくなって、消滅。


「あ、こっちのあんたは強いんだっけ? まぁ違いがよく分からないけど」

「満点です!」


 ずっと黙っていたゾーヤが、急に声を張り上げた。

 みんなビックリしてゾーヤに視線を移す。


「さすがスカーレット様! 化け物度は満点! 至高の怪物!」

「その褒め方、褒められてる気がしないから止めて」


 スカーレットが苦笑い。


「てゆーか、全滅に近いじゃないの……」


 スカーレットが周囲を見渡して言った。


「これなら最初から少数精鋭の方が良かったわね」スカーレットが小さく首を振る。「まぁ頑張って。あたしはこれからお風呂に入る予定だったから、帰るわね」


「え!? 帰るんっすか!?」


 トリスタンは驚いて言った。


「月花の討伐はあんたたちの仕事。ここにアスラいないし、あたしには退屈だわ。てゆーか、次にジャンヌ如きで呼んだら殺すわよ?」


 アスラたちが東フルセンで活動していることは、報告を受けて知っている。


「せめて援軍……」とトリスタン。


「ベンノたちを当てるわ。西はもう陥落したから」スカーレットが言う。「あとトリスタン、あんたたち4人ならあの程度は倒せるわ。足りないのは自信よ」


「ほ、本当っすか……?」


「まぁ」スカーレットが目を逸らす。「ギリギリ……たぶん、勝てると思うわ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ