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月花の少女アスラ ~極悪非道の戦争好き傭兵、異世界転生して最強の傭兵団を作る~  作者: 葉月双
二〇章

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16話 未来のために 遠い未来を救うために


 オンディーナは船に乗っていた。

 大きな客船で、大帝国エトニアルから別の大陸へと移動する唯一の手段。

 オンディーナは甲板で空と海をぼんやりと眺めている。


「……はぁ、まさか帝国が滅びるなんて……」


 自分の直感は外れたのだろうか?

 あるいは、滅亡こそが帝国のためだったのだろうか?

 大帝キリルの支配からの脱却こそが、未来のためだったのだろうか?

 はぁ、とオンディーナが長い溜息を吐いた。

 ちなみに、オンディーナは薄汚れたローブを着て、フードで顔を隠している。

 念のためだ。エトニアルの聖女だとバレると色々、面倒だと思うから。

 当然、聖帽は被っていないし、聖衣も羽織っていない。


「こんなはずでは……」


 大聖女に就任し、強大な権力を得るはずだったのに。

 傭兵団《月花》がキリルを殺してしまった上、いつの間にか帝国を掌握していたティナが全ての属国を解放した。

 更に、無理やり帝国に組み込まれた小国や領地も全部、解放した。今やエトニアルの領土は普通の国のそれと変わらない。

 ティナと《月花》はある程度の戦後処理を行ったら、普通に「じゃあ帰るね」とフルセンマークに帰還してしまった。


「いずれ完全に……滅ぶのでしょうねぇ……」

「そうだろうね」


 その返答に驚き、オンディーナが振り返ると、そこに傭兵王アスラ・リョナが立っていた。


「まぁでも、一応、各国を解放した時に条約を結ばせたよ。5年間はエトニアルを攻撃しないって条約」アスラが言う。「もちろん私も《月花》も関係ない。あくまでティナが考えた措置だからね。それが守られるかどうかも怪しいところさ」


「そんなことより……一体、いつから……」


 オンディーナはアスラを警戒した。

 偶然のはずがない。


「ん? 今さっきだよ。ドラゴンに乗って来たのだけど、私は君を驚かせたかったから、遙か上空から飛び降りて」アスラが空を見上げた。「花びらを何度か経由して、音がしないように丁寧に着地したってわけ」


「ええ、そうですか。驚きましたよ、あなたの希望通りに……」


 オンディーナはいつでも攻撃魔法が放てるよう準備。


「そりゃ良かった」とアスラがニヤニヤ笑う。


「わたくしがここにいると、よく分かりましたね……」

「ああ……、私はただ、自分の魔力を辿ってきただけだよ」


 アスラが右手をクイッと動かすと、オンディーナの背中から1枚の花びらが出て来た。

 その花びらはオンディーナの目の前でフワフワと浮いている。


「これは……?」


「私の魔法だけど、無害だよ」アスラが言う。「君が逃げるのが見えたから、仕込んでおいた。追跡魔法、とでも言おうかねぇ」


 なるほど、とオンディーナは納得した。

 無害だからこそ、防御魔法も発動しなかった。


「わたくし1人、見逃してもいいでしょう? なぜ今になって、追ってくるのです?」

「いや、忙しかったから放置してただけで、君を見逃すつもりは最初からない」


 アスラが気軽にオンディーナに歩み寄った。

 オンディーナは下がらなかった。防御魔法があるので、ひとまずは大丈夫のはず。問題は、魔力が尽きるまで攻撃された時だ。


「なぜかと言うと、君はうちの国家運営副大臣を拉致したから。これを放置しては、国家として舐められちゃうだろう?」


 アスラが極悪な表情で言ったので、オンディーナはビクッとなった。


「ああ、忘れるところだった」アスラの表情が普通に戻る。「ティナから伝言。『最後にもう一度聞きますわ。尻派の一員になるなら、命だけは助けてあげますわ。もちろん、大臣を拉致した刑罰は受けてもらいますけれど』だそうだよ。ティナは本当に優しいね。楽しみにしていた集会を潰されたのに、君に生きる道を示してくれている。私が君なら感動で泣いてしまうところさ」


 やれやれ、という風にアスラが言った。


「わたくしは、そんな謎の集団に加入する気はありません」


 オンディーナの能力なら、新天地でもきっとやっていける。

 絶対的な防御魔法に、対象だけを潰す攻撃魔法、それからギフトである直感。

 ああ、でも、とオンディーナは泣きそうになった。

 その直感が未来を否定している。

 自分に未来がないと告げている。


「そう不安そうな顔をするな」アスラが言う。「私は君を殺すが、何も酷い殺し方をするわけじゃない」


 アスラがまたオンディーナに歩み寄る。

 逃げ場がない、とオンディーナは今更になって気付いた。ここは海の上。どこにも逃げられない。

 防御魔法が優秀でも、いつかは魔力が尽きてしまう。


「君の防御魔法は素晴らしい」アスラが言う。「私も防御魔法を使うからね。よく分かるよ。君のそれはどれだけ速度を上げても、同時に攻撃しても、防いでしまえる」


 アスラはオンディーナに近寄り、ゆっくり手を伸ばし、オンディーナの頬に触れる。

 最初に右手を添え、次に左手を添えた。


「まぁ、でも防ぐのは攻撃だけだろう?」


 言ったあと、アスラはオンディーナの首を折った。

 優しく、一切の害意なく、殺意もなく、ただ折った。花を摘まんで、香りと美しさを愛でるかのように、ただ自然に。

 死んでしまったオンディーナは、自分が何をされたのか、なぜ死んだのか理解できないままだった。


「やっぱりそうか。攻撃でなければ防御する必要がない。私は優しかっただろう?」


 アスラにとって、他人の首を折ることなど攻撃のうちに入らない。

 なんなら、君がもう怯えなくていいように、安心させてあげるね、と思いながら殺すこともできる。

 純粋に、ただ純粋に、何の害意も敵意もなく相手を殺せてしまえる。



 ゾーヤは諸々の処理に一度区切りを付け、神王城でスカーレットに会うことにした。どうしても伝えなければならないことが、あったから。

 ゾーヤはナシオと2人で神王城の謁見の間に入った。

 そこは相変わらず数多の剣が突き刺さった異様な場所だった。

 ゾーヤは心の中で「0点」と呟いた。


「おかえり」と玉座に座ったスカーレット。


 スカーレットの左右にはメロディとトリスタンが立っている。


「早速だけど、死んでくれない?」


 スカーレットが言うと、メロディがジャンプしてゾーヤの前に立った。


「それはマイナス点ですよ」とゾーヤ。


「あたしさぁ、ゾーヤ信仰を破壊したからさぁ」スカーレットが肩を竦めつつ言う。「なんというか、体裁が悪いのよね、あんたがいると」


「そんなくだらない理由で、わたくしを殺すと?」

「ま、殺したあと、あたしがキッチリと『あたしこそが神である』って宣言してあげるから安心して」


「何を安心しろと……」ゾーヤが苦笑い。「そもそも、わたくしは神ではありませんし」


「それも分かってるけど、でも死んでくれると助かるのよね」


「スカーレット」ナシオが言う。「姉さんを殺すと言うなら、僕も敵だよ」


「いいわよ。でもあたし、あんたが異空間に逃げるより早く、あんたを殺せるわ」


 スカーレットは淡々と言った。それが事実だから。


「もう始めていい?」とメロディ。


「待って下さい! どうしても伝えることがあります!」ゾーヤが必死な様子で言う。「そのために今日は来たのです! せめて話だけでも!」


 スカーレットは少し考えるような仕草を見せてから、「いいわよ。聞きましょう」と言った。

 メロディは「えー」と少し不満そうだったが、スカーレットの決定に従った。


「わたくしとナシオは使えます。殺すのは勿体ないかと」

「何? 命乞い?」

「そうです。戦後処理もまだ終わったわけでは、ありませんし……」


「その点は心配しなくていいわ」スカーレットがニヤッと笑う。「どうせまた1年もしないうちに戦後になるから」


 それはつまり、1年以内にスカーレットが統一戦争を始めるということ。


「正式にあなたの配下になる、と言ってもダメですか?」

「フルセンマークの創造主が、あたしの手下に?」


 さすがのスカーレットも、その申し出には驚いた。まったくこれっぽっちも想定していなかったから。

 ゾーヤが強く頷く。


「なんで? あたしが思うに、そもそもあんた、命乞いをするタイプじゃないでしょ? 何があんたを、そこまで必死にさせるわけ?」


「遠い未来の話ですが、わたくしは見てしまった」ゾーヤが深刻な表情で言う。「世界大戦と呼ばれる悍ましい戦争を」


「世界大戦?」とスカーレット。


「はい。世界中の国々が戦争に参加する、本当に恐ろしい戦争です。わたくしは全てを見たわけでは、ありませんが、それでも2000万人が死にました」

「なんですって?」


 規模が大きすぎて、スカーレットには想像もできなかった。


「1度目の大戦だけで、です」

「それって何回起こるわけ?」


 スカーレットがフルセンマークを統一する目的は、戦争をなくすためでもある。愚かな人間たちを管理し、二度と戦争をさせないようにと。

 全ての戦争を終わらせるための戦争を、スカーレットはしているのだ。


「分かりません。少なくとも4回です」


 ゾーヤが悲痛な面持ちで言った。


「あんたの予言、ってわけね」

「はい。そうです。神託です。この世界の真の創造主であるユグドラシル様の夢の欠片。未来の可能性の一つ」


「可能性ってことは」スカーレットが言う。「変えられるのね?」


 ゾーヤが強く頷く。


「わたくしは思うのです、あなたが世界を征服すれば、それはきっと起こらないと。あなたは結束主義者で、人間を管理し、愚かな戦争に終止符を打つのが目的でしょう?」

「そうね」


「ですから、わたくしはあなたに世界の命運を託したいのです」ゾーヤが強い口調で言う。「この世界に住まう人々が、そんな悲惨な戦争に駆り出されなくていいように」


「世界を征服ってあんたは言ったけど、この世界の広さがあたしにはまだ分からない」

「わたくしにも、正確な広さは分かりません。が、世界大戦を分析する限り、エトニアル大帝国並の国が複数ありましたね。それ以上の国も」


 ゾーヤの言葉に、スカーレットが長い息を吐く。


「クロノスを取り戻さなきゃいけないわね」スカーレットが言う。「世界を大戦から救うなら」


「それと、アスラ・リョナは滅ぼして下さい」

「言われなくても、そうするつもりだけど?」

「最初の大戦のキッカケは、アスラです」

「つまり、あたしはアスラに殺されたのね、その未来では」


 アスラが生きているなら、スカーレットが死んだということ。両方生きている、なんてことは有り得ない。


「はい。ですが、その未来はたぶん、あなたがわたくしとナシオを排除した世界でしょう」

「でしょうね」


 ゾーヤが未来を見ていなければ、今のこの状況すら存在していない。

 よって、本来ならゾーヤとナシオは間違いなく死んでいる。


「ええっと、お姉様、つまりその……」とメロディ。


「ゾーヤは生かしておくわ。フルセンマークの外のことまで、知ったことか、って思いもあるけど、人類は全てあたしに管理されるべき、って思いもあるのよ」


 スカーレットはそもそも、フルセンマークの統一だけを目的にしていた。

 その理由の大部分は、この世界はフルセンマークだけだと思っていたから。でもそうではないと、今は知っている。


「つーかアスラのやつ」トリスタンが言う。「世界大戦のキッカケになったって、何したんだ?」

 


これで20章は終わりです。

次はEXを更新する予定ですが、

早ければ8月、遅ければ9月になるかと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気読みしてしまうほどに面白いです。 [一言] 更新待ってます!執筆頑張ってください!!
[一言] 色んな国の求心力ある人殺して火種まいてって感じか?
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