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月花の少女アスラ ~極悪非道の戦争好き傭兵、異世界転生して最強の傭兵団を作る~  作者: 葉月双
二〇章

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14話 VS大帝 さすがに簡単には死なないね


 いくらなんでも、魔王退治は時期尚早なのでは、とマルクスは思った。

 ワニ魔王に対して、マルクスとグレーテルが前衛として戦っていた。

 と言っても、2人ともほとんどが防御である。ワニの爪や尻尾による攻撃を、持っている武器でガードし、稀に噛み付きを躱す。

 マルクスはクレイヴ・ソリッシュ、グレーテルは虚無のロマが使っていた良い感じのハルバードを使っている。

 サルメとレコが遠くから矢を放ったが、ワニの皮膚は矢を弾いてしまう。

 チェリーがケリを入れるが、チェリーの足の方がダメージを負った。


「チェリー! 武器を使え!」とマルクス。


 チェリーはその辺の兵士の死体から剣を拾った。

 ラウノはマルクスとグレーテルに絶妙なタイミングで【加速】をかけて支援。

 イーナは【烈風刃】を使ったが、ワニの皮膚には通らない。


「……ん、これ、硬すぎる……」


 イーナが引きつった表情で言った。

 ロイクがワニに双剣で斬りかかるが、双剣が折れてしまう。


「マジかよ! これ、副長の武器とグレーテルの武器じゃねぇと無理だぞ!」


 ロイクが言った時、ちょうどチェリーが拾った剣でワニを攻撃し、剣が折れたところだった。

 そしてワニの尻尾攻撃でチェリーが弾き飛ばされた。チェリーはガードしたので、死ぬほどのダメージは負っていない。


「【闇突き】!」


 サルメが闇色の槍による攻撃魔法を使用。その槍はワニの真下、つまり腹部の方から出現し、ワニの腹部に刺さりはしなかったが、少しダメージを与えた感触があった。


「お腹です!」サルメが叫ぶ。「お腹が弱点ですよこいつ!」


「あと、たぶん目も」


 言いながら、レコがワニの目に砂を投げ入れた。

 ワニは砂が目に入って、痛かったのかアホみたいに暴れ回った。しかしそれは誰かを狙った攻撃ではないので、離れれば巻き込まれることもない。


「俺の出番か?」


 シモンが影魔法を用いて、ワニの真下から巨大な影の拳で殴りつけた。

 ワニが少し浮く。


「……ラウノ!」とイーナ。

「了解!」とラウノ。


 イーナとラウノの2人は揃って【浮船】を使ってワニを更に浮かせる。

 イーナはそのままグレーテルを【加速】させた。

 グレーテルはジャンプしてハルバードでワニの腹を斬り裂く。


「いい武器ですわね」とグレーテル。


 そこらのハルバードでは、ワニの腹は割けなかったはずだ。

 ワニが叫び声を上げた。

 マルクスが「トドメだ」とワニの腹部に【氷槍】を連続で撃ち込む。

 ワニは揺らめき、口の中に赤い魔力を溜め、団員たちに向けて口を開いた。


「「どりゃぁ!!」」


 ロイクとチェリーがワニの真上から降ってきて、ワニの口の上に着地。ワニの口が閉じ、ワニは【紅の破壊】を使えないままユラッと消えてしまう。


「撃たせるかよ」とロイク。

「……自分の有能さが……怖い」とイーナ。


 事実、ユルキが死んでからのイーナは凄まじい速度で成長を続けている。《月花》の初期メンバーとして、いつまでも『ユルキの後を追う妹』ではいられなかったから。

 ちなみに、イーナはロイクとチェリーに【浮舟】を使っていたのだ。

 だから2人が天高くから落ちてくることができた、というわけ。

 しかもイーナの【浮船】は落下時に【加速】に変化したので、2人はかなりの速度でワニの口を蹴ったような形になったのだった。


「時期尚早かと思ったが」マルクスが言う。「自分たち、ちょっと強すぎないか?」


「単独じゃ絶対、勝てなかったけどな」とロイク。

「1人でも欠けていたら無理だったよ」とラウノ。

「英雄ってこれ倒すのに半分も死ぬんだよね?」とレコ。

「ダメダメじゃないですか……」とサルメ。


 ワニ魔王はフルセンマークの魔王より弱いのだが、誰もそのことを知らなかった。


「……英雄は連携、しないから……」


 イーナがやれやれと首を振った。


「つまりマルクス副長がたくさんいたとして」シモンが言う。「順番に1人で戦うような感じか。そりゃ死ぬな。逆に半分しか死んでないのが凄いと思うが?」


「確かに」とサルメが頷いた。


 そんな戦い方をしたら、さっきのワニが相手でも《月花》は全滅している。もちろんアスラは除く。


「このハルバードの性能の良さも忘れてはいけませんわ」グレーテルが言う。「伝説級の武器ですわよ、普通に」


「じゃあ名前付けたら?」とレコ。

「考えてみましょう」とグレーテル。


「いいなぁ、俺も伝説の双剣が欲しいぜ」


 お気に入りの武器が折れてしまったロイクが羨ましそうに言った。



「さて大帝」アスラがニヤニヤと言う。「私の部下たちは魔王を倒してしまったよ? どうするんだい? 次の手を見せておくれよ」


「めっちゃ嬉しそうね」とアイリス。


 アスラにとって、《月花》が強くなるのはいいことだ。歴史に残る傭兵団を目指しているのだから。

 ああ、でも、とアスラは思う。

 歴史に残るんじゃなくて、歴史になろうかな、と。

 クロノスの能力を使い続ければ、生きた歴史になれる。


「そう死に急ぐな傭兵王」


 キリルがゆっくりと立ち上がる。


「貴様が魔王と呼ぶ先ほどの呪いたちは、所詮は余の一部に過ぎぬ」


 キリルの周囲に、悍ましいほど暗いMPが立ち上る。

 憎しみ、悲しみ、絶望、憤怒に孤独。ありとあらゆる負のエネルギーがそこにあった。


(実家のような安心感!)


 十六夜がアスラとアイリスの頭に直接言った。


(ああ、確かに君の実家だろうよ)とアスラ。


「余は1600年の憎悪であり、執着である」キリルが言う。「肉体を変えながら生き長らえた最初の皇帝であり、永遠の支配者である」


 人の姿をしているが、人ではない。すでにキリルは人ではない。

 魔王を超えた何かであり、呪いそのもの。

 キリルは右手の人差し指をアイリスに向けた。

 刹那。


 キリルの指が光って、【紅の破壊】が発動。赤い光線がアイリスを飲み込む。

 アイリスは反応できずに、十六夜が『絶界』を使用。

 しかし『絶界』にヒビが入る。『絶界』が負けそうなの初めて見た、とアイリスは思った。

 アイリスは【オーバーコート】を使って、さらに十六夜でガード体勢を取った。それでも死ぬかもしれないけれど。

 と、【紅の破壊】が終了した。あと1秒もあれば、『絶界』は砕けていたのだが。



 キリルは先に、下級妃であり天聖になる予定だったアイリスを殺すことにした。

 だから【紅の破壊】を使ったのだが、白い骨の剣が防御魔法のようなものを使って、【紅の破壊】を防いだ。

 まぁ、2秒あれば破壊できる、とキリルは思ったのだが。

 2秒が経過するよりも早く、アスラがキリルの隣に移動した。

 キリルはアスラに対応するため、【紅の破壊】を終了させる。


 アスラが神速で抜刀。普通の人間なら、目で追うことは不可能。なんなら、天聖レベルでも見えない速度。

 だがキリルは躱した。後方に大きく飛んで、闘技場の地面に着地。

 キリルもかなりの速度で移動したのだが、アスラが付いて来た。


「傭兵王……」


 キリルの言葉が終わる前に、アスラの二の太刀がキリルを襲う。

 避けられない、と感じたキリルは左腕に魔力を集中し、アスラの斬撃をガード。

 絶大な魔力でコーティングしたキリルの左腕に、小太刀の刃が少し入った。

 アスラは小太刀に魔力を流している。それも、キリルに匹敵するほど強大な魔力を。


「化け物か貴様!」


 キリルは前蹴りを放つ。

 アスラは攻撃に全力だったので、その蹴りを躱せなかった。まともに当たって、後方に飛ばされる。自分で飛んだわけじゃない。

 アスラと入れ替わるように、左側からアイリスが斬撃を放った。

 キリルはそれを躱した。


 同時に、イーナがアイリスを【加速】。アイリスは速度の上がった斬撃を放つ。だがそれでもアスラより遅い。

 キリルは躱したのだが、躱した地面から黒い槍が生えてきたので、それも躱す。

 その槍は大した魔力でもないし、強力な魔法というわけでもないので、別に躱さなくても大きなダメージは受けない。が、咄嗟に躱してしまった。

 更に空から無数の氷の槍が降り注ぐ。


「認めよう! 貴様らは強い!」


 キリルが『覇王降臨』を使用し、魔力の衝撃波が起こる。その衝撃波が氷の槍を全て打ち砕いた。


「余が1600年で相対した誰よりも貴様らが強い! 特に傭兵王! 貴様、余の配下にならんか!?」


 あまりのアスラの怪物っぷりに、キリルは本気でアスラが欲しくなった。

 人間の身でありながら、あそこまで練り上げられるものなのか? と。


「バカ言うな」


 アスラはなぜか空を歩いていた。


「私はラスボスだと言っただろう?」ヘラヘラとアスラが言う。「君は今日、終わるんだよ。この帝国とともに」


 アスラが右手を挙げると、上空に大きな魔法陣が浮かぶ。

 それを見て、アスラの仲間たちが離れる。


「星は好きかい?」


 アスラが上げた手の指をパチンと鳴らす。そうすると、魔法陣から小さな月がいくつも降ってきた。


「正確には小型の月なんだけどね」とアスラ。


「限度を知らんのか貴様は……」


 1つ1つの大きさは、片手でも持てる程度だが、数があまりにも多い。

 キリルは降り注ぐ月を躱しながら、アスラに向けて【紅の破壊】を使用。

 それはアスラに命中し、アスラを消滅させたのだが、手応えがまったくなかった。そう、まるで影を攻撃したかのように。


「私はこっちだよ」


 背後からアスラの声が聞こえ、キリルは振り返りながら全身を魔力でコーティング。

 アスラの斬撃が腹部に命中し、少し斬れたが致命傷には至らない。


「うーん、硬いねぇ」


 アスラがフワッとした動作で下がる。それは無駄な動きの一切を排除していて、見た目以上に素早い後退だった。


「分身でもできるのか貴様は」


 言いながら、キリルが体術の構えを取る。


「今のは部下の魔法だよ。影で私を作った。最近、新たに覚えたんだって。生成を主体とした複合魔法。彼は魔法の才能がある」


 アスラはとっても嬉しそうに言った。


「まぁ、本当はエッチな目的で作ったんじゃないかって疑ってるけどね」


 客席に潜んでいるシモンは、「ぼいんぼいんに、なってから言え……」と心から思った。

 と、キリルが先に動いた。

 魔力を十分に乗せたキリルの右拳は、赤く輝いている。

 イーナがアスラの全身に【加速】を乗せ、ラウノがアスラの右腕に【加速】を乗せる。

 アスラの抜刀はキリルの右腕を切断。


 キリルが酷く驚いた表情を浮かべた。なぜなら、キリルにはアスラの抜刀が少しも見えなかったから。

 ほんの微かな予備動作すら察知できなかった。

 アスラは手首を返し、二の太刀でキリルを斜めに斬る。

 キリルは身体の前面から血を噴き出し、その場に倒れた。

 アスラの周囲に、団員たちが集結し、全員で残心。


「くく……ははははははは!」


 キリルは倒れたままで笑った。

 そして。

 何事もなかったかのように立ち上がった。

 すでにアスラが斬った傷は消えている。

 キリルが右腕を振ると、アスラが斬り落とした右腕が生えてきた。


「わぁお、不死身かね君」とアスラ。


「余は呪いである。余を真に滅したければ、余に蓄えられた1600年分の負のエネルギーを全て消費させることだ」


「ではそうしよう」アスラが言う。「似たような経験、あるからね。まぁ、あいつは命が沢山あるだけの雑魚だったけど」


「だが傭兵王、遊びは終わりである」キリルがニヤッと笑う。「貴様と下級妃は大丈夫だろうが、他の者はどうかな?」


 キリルがアスラとアイリスを除いたメンバーを呪った。


「余の傀儡となって、貴様と戦う呪いをかけた」とキリル。


「うぐっ……」とマルクスが膝を突き、他のみんなも頭を抱えて苦しみ始める。


「呪われた仲間と戦ってみるのも、一興であろう?」


 キリルが極悪な笑みを浮かべた。


「確かに!」アスラが嬉しそうに言う。「私が育てた仲間たちを私の手で皆殺しにするなんて、酷く心が躍るよ!」


「はははは! 傭兵王! 強がりを……」


 キリルは言葉を途中で切った。

 アスラが本気だと、理解できたから。

 表情、仕草、それら全てが、アスラの言葉が事実だと裏付けている。

 余がやったことは無意味だ、とキリルは思った。

 普通なら、普通の人間が相手なら『呪いに操られた仲間と戦う』という苦難は受け入れがたい。


 精神的な打撃は計り知れないし、手を抜いて仲間に殺される可能性だってある。

 だがアスラにはそれがない。

 その上、アイリスの方も覚悟を決めているようだった。少なくとも、キリルにはそう見えた。

 この2人は仲間の屍を超えて余を殺しに来る、とキリルは理解した。


「だから諸君!」アスラが大きな声で言う。「私に殺されたくなければ! 呪いに打ち勝て!」


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