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月花の少女アスラ ~極悪非道の戦争好き傭兵、異世界転生して最強の傭兵団を作る~  作者: 葉月双
二〇章

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13話 それはフルセンマークの脅威 だけど、昔の話さ


 ティナが召喚した【守護者】ジャンヌは、一直線にオンディーナに向かい、クレイモアで斬撃。

 しかしその攻撃は自動防御魔法によって防がれる。


「なるほど、やはり硬いですね」


 言ってから、ジャンヌはオンディーナから離れ、ティナの隣に立つ。


「わたくしの防御魔法は完璧です」オンディーナが言う。「もちろん、攻撃魔法も」


 オンディーナが右手をティナに向けると、宙に大きめの魔法陣が浮かぶ。

 次の瞬間には、魔法陣から巨大な金色のハンマーが出現し、ティナを叩き潰すために振り下ろされた。


「【聖なる鉄槌】」


 その金色のハンマーは凜とした清涼感をまとっていて、その上なんだか見とれてしまいそうな荘厳さもあった。

 だから、ティナはぼんやりとハンマーを見ていた。


「ティナ!」


 ジャンヌがティナを抱きかかえ飛ぶ。

 さっきまでティナがいた場所がハンマーに潰されるが、地面は無傷だった。他に被害を出さず、狙った相手だけを潰す魔法なのだ。


「ボウッとしないでください!」ジャンヌが怒って言う。「死んだらどうするんですか! あとで久々にお仕置きです!」


「はっ!」ティナが我に返る。「て、手加減してくださいませ!」


 今のは確かに危なかった、とティナ自身もよく分かっている。とはいえ、ティナがハンマーに見とれたのは魔法の効果である。


「ダメです!」


「でもぼくは」ウルル、とティナがジャンヌを見る。「姉様がきっと助けてくれると信じていましたわ」


 そのティナの姿があまりにも可愛くて。


「……少し加減しましょう」


 ジャンヌはデヘヘと表情を崩す。


「よく躱しましたね」オンディーナが言う。「【聖なる鉄槌】を躱したのは大帝様と天聖たちぐらいですよ」


 聖女の魔法は強力なので、時々だが模擬戦のようなことを頼まれることがあった。


「追撃がないということは」ジャンヌが言う。「ハンマー攻撃は連続で撃てませんね?」


「……更に」いつの間にかティナの横にいたイーナが言う。「他の攻撃手段も、持ってない……と思う」


「イーナ」とティナが少し驚いた。


「加勢する……」


 言ってから、イーナはジャンヌに【加速】を乗せた。


「ほう。これはいいですね」


 ジャンヌがピョンピョンと跳び、自らの動きが今までと違うことを確認。

 次の瞬間にはオンディーナの目の前にいた。

 オンディーナはギョッとしたが、ジャンヌの攻撃は自動防御魔法が防いだ。


「速くても対応できるんですね」とジャンヌ。

「……いけると思ったのになぁ……」とイーナ。


 ジャンヌは更に3回、攻撃を仕掛けた。しかしどれも自動防御魔法が防いでしまう。


「倍がけ……いってみようか」


 イーナは更にジャンヌを【加速】した。魔法の二重使用である。

 ジャンヌの攻撃速度は、普通の人間が目で追うのも難しいレベルにまで引き上げられた。

 スカーレットを超えてフルセンマーク最速という境地なのだが、それでも自動防御魔法は対応した。


「くっ……」


 さすがのジャンヌも歯噛み。

 しかし諦めず、攻撃を仕掛ける。

 合わせてイーナが【烈風刃】を使って同時攻撃を行った。

 しかしそれも2つの魔法陣が浮かんで両方の攻撃を防御。

 どうやら、想像以上に強力な魔法らしい、とジャンヌもイーナも察した。

 周囲の連中に付与した防御魔法とは一線を画している。

 ティナも雷を落としたが、やはり防がれる。


「……MP切れを……待つしかないかも……」


 イーナが溜息混じりに言った。

 所詮、魔法は魔法なのだ。いずれMPが尽きる。

 最速の攻撃も連続攻撃も同時攻撃も通用しないなら、そういう消極的だが確実な対応を取るのがいい。

 と、酷く禍々しい魔法陣がキリルの背後に浮かび、誰もがそっちに注目した。


「……なんか出た……」


 キリルが呼び出したであろう3体の怪物を見て、イーナが冷や汗を流す。


「ティナ、逃げましょう。姉様は何よりティナの命が大事です」


 ジャンヌはサッとティナを抱き上げ、一目散に撤退した。

 実はその時、オンディーナも逃走していた。すでにMPがだいぶ減っていたので、このままズルズルと戦闘が長引けば殺されるかも、とオンディーナは思っていたのだ。

 まさに渡りに船とはこのことである。


「日頃の行いがいいからですね!」


 オンディーナはひとまず、この場から逃げ延びることには成功したのだった。



 キリルが召喚した3体の魔王の見た目は、大きなワニ、大きな亀、そして翼の生えた人間のような何かだった。

 ワニは厳密にはワニではないが、ワニに近い形状で、色は黒。鋭い牙も爪も黒色。目だけがギョロギョロと赤い。

 大きさは4メートルぐらいかな、とアスラは思った。


 亀は噛みつき亀のような見た目をしていて、非常に凶悪そうだった。色は甲羅が緑で、身体が黄土色。

 やはり鋭い爪と牙を持っていて、目は赤い。

 最後の人間のような魔王は、二足歩行のツルッとした黒い何か。コウモリのような翼が生えていて、髪の毛はない。顔の部分には大きな縦長の赤い目があるだけ。


「さぁ傭兵王、死ぬ準備はよいか?」キリルが言う。「愛する者にサヨナラは告げたか?」


「ぜひ告げたいけれど、それは今日ではないさ」


 アスラが笑って、小太刀に手をかける。

 アイリスは十六夜を構える。

 そうすると、《月花》の団員がアスラの周囲に集結。イーナ、マルクス、ラウノ、レコ、サルメ、ロイク、グレーテル、シモン、チェリー。

 戦闘員という意味ではフルメンバーだ。


「なんだか最終回みたいだね」


 アスラが言った瞬間、魔装状態のアルが人型の魔王をぶち殴った。

 人型の魔王は客席に突っ込んだ。


「ひゃっはー! こいつはいいぜ! 今の俺様が魔王に勝てるか! 試すっきゃネェよなぁ!」


 アルはアスラを見てそう言って、すぐに人型の魔王を追って客席へ。

 魔王3体が出現した時に、多くの者は逃げることを選んだ。今もまだ退却している途中であるが、客席はもうガラガラの状態だ。

 ワニと亀が口に赤い魔力を溜めた。


「避けて!」


 アイリスが叫んだ刹那、2体の魔王が同時に赤い光線を発射。

 それはゴジラッシュのスキルに似ているが、スキルではない。これは魔法なのだ。アイリスはかつて、【紅の破壊】と名付けた。

 その二筋の光線は地面を削りながら前進し、アスラたちが回避してもそのまま消えることなく直進し、客席に命中。

 客席を消滅させてしまう。

 そこに人が残っていたら、まず間違いなく全滅している。


「あれ? これ無理じゃない?」とレコが呟いた。

「そう思います」とサルメが同意。


 ワニが凄まじい速度で移動し、チェリーの前へ。

 そして大口を開けてチェリーを食べようとする。


「ぎゃぁぁぁぁ!」チェリーが闘気を使用して飛び退く。「チェリーにこいつはまだ無理でござるぅぅぅ!」


 それでも回避できたじゃないか、とアスラは思った。

 亀の方はその場で身を縮めた。二発目の【紅の破壊】を撃てるようになるまで防御する姿勢だ。

 ワニが尻尾を振り回し、団員たちが必死に回避行動を取る。


「よい踊りだ」


 キリルはアイリスが斬った玉座に腰掛ける。背もたれの上の方がないが、まぁ問題ない。


「レコとサルメは離れて支援!」アスラが叫ぶ。「マルクス! 私とアイリスで亀をやるから、そっちは君らでどうにかしたまえ!」


「了解であります!」



「おらぁぁぁ!!」


 アルは客席から立ち上がった人型魔王にアッパーカットを食らわせる。

 かなり手応えがあった。

 人型魔王が宙に浮く。


「テメェが1番、弱いって落ちかぁ!?」


 アルは飛び上がり、人型魔王を追い抜く。そして落下しながら前転し、踵落としを人型魔王に当てる。

 人型魔王はまた客席に突っ込む。

 アルは着地し、人型魔王が起き上がるのを待った。

 人型魔王は起き上がらず、右掌をアルに向けた。

 そして。

 溜めも何もなく、いきなり掌が光った。


「!?」


 刹那、本当に刹那だった。

 赤い魔力の光線【紅の破壊】がアルを飲み込んだ。

 アルはその場に踏ん張り、耐える。


「なんつー、威力……」


 前に魔王弓の攻撃を防いだことがあるのだが、それ以上の破壊力。しかも見て躱すのは不可能な速度。

 人型の魔王は攻撃特化タイプということだ。

 アルは耐えきったが、目の前に人型の魔王がいて、赤く輝く拳でアルを殴りつけた。

 アルはガードしたが、そのまま弾き飛ばされて闘技場の地面にめり込んだ。


「くそ……」


 即座に立つが、ガードした右腕が言うことを聞かない。折れてはいないと思うが、ダメージが大きい。

 人型の魔王は追ってこなかった。今もまだ客席にいる。


「まぁ、テメェらのクソ強い攻撃は連続で撃てネェ。そいつはフルセンマークの魔王と変わらネェか」


 とはいえ、普通の攻撃も半端な威力じゃない。英雄ですらマトモに喰らったら死ぬこともある。

 アルは一気に飛んで人型の魔王の前へ。

 次弾が飛んで来る前にぶっ倒す!

 アルは攻撃を再開し、今度は人型の魔王が消滅するまで、ひたすら全力で技を叩き込み続けた。

 人型の魔王が消滅した時、アルもその場に倒れ込んだ。


「ダメだ、俺様はしばらく立てネェ」

「フルセンマークの魔王とは違うね……」


 少し離れた場所で見学していたギルベルトが、アルに寄ってきた。


「ああ、死体が残らネェ」


 それは依り代がないからなのだが、アルはそのことを知らない。


「それに少し弱いみたいだ……」


 それもやはり、依り代がないからである。


「つーか、逃げなかったのかテメェ」


 アルが言うと、ギルベルトが肩を竦める。


「……あんたも、アスラも、化け物だよ」


 ギルベルトはここでアルを殺した方がいいのでは? と半ば本気で思っていた。

 なぜなら、アルがフルセンマークの魔王と同等以上の脅威だと確認できたから。


「アスラも倒したんか?」

「あんたと違って……余裕っぽい」


 ギルベルトは苦笑い。



 アイリスは十六夜で亀を攻撃したが、アイリスの腕が痺れただけだった。

 見たまんま、防御特化の魔王である。


「甲羅の中に引っ込んじゃって! それでも魔王なの!」


 アイリスが叫ぶが、亀の魔王は甲羅の中で沈黙を保っている。


「どれ」


 パチン、とアスラが指を鳴らすと、亀の甲羅で爆発が起きた。

 しかしダメージはほとんどない。


「なるほど、なるほど」


 ニヤッとアスラが笑う。

 ああ、これ亀死ぬわ、とアイリスは思った。


「いやぁ硬い、実に硬いなぁ! でも君! 身体の中はどうかな!?」


 アスラは大量の花びらを亀の体内に生成。

 亀は苦しくなって首を出し、大量の花びらを吐いた。


「耐えておくれよ?」


 アスラが指を弾くと、亀の体内で無数の爆発が起こる。

 その爆発の衝撃で、亀の身体が何度も跳ねた。


「十六夜、全力出していいわよ」


 アイリスはそう言って、亀の首目がけて魔力の衝撃波を放つ。

 十六夜の衝撃波は亀の首を正面から真っ二つに裂いて、甲羅に命中して爆発。

 今もまだ亀の体内では爆発が続いていて、亀が跳ねている。


「ねぇアスラ、もう死んでると思うけど……」とアイリス。


「念には念をってね」


 アスラが肩を竦めると、亀の魔王がユラッと揺らめいてそのまま消失した。


「ほう。あの亀は愚鈍であるが」キリルが楽しそうに言う。「絶大な防御力を誇っていた。まさか体内からとは、恐れ入った」


「うーん、今の私の敵じゃないね」とアスラ。


「依り代の問題かもだけど」アイリスが言う。「フルセンマークの魔王より弱いわ」


「そうか」アスラは言いながらキリルを見た。「どうであれ、大帝は未だに余裕の表情だし、まだ何かあるんだろう?」


「それより、あちらの仲間たちは良いのか? 貴様らと違って、苦労しているようだが?」


 キリルはマルクスたちとワニの戦闘を見ていた。


「大丈夫だよ。連中なら、なんとか勝てるだろう。見た感じ、あのワニは平均的なタイプみたいだしね」


 たぶん、とアスラは思う。

 アルと戦った人型の魔王が相手だったら、すでに団員を数名失っていた。

 そして亀が相手なら、ダメージを与えられずに再び【紅の破壊】を使われる。


「練度を上げるのにちょうどいい相手だよ」


 アスラが笑って言った。

 アイリスは苦笑い。

 アスラもそうだけど、《月花》ってどこまで強くなるのよ、と。

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