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月花の少女アスラ ~極悪非道の戦争好き傭兵、異世界転生して最強の傭兵団を作る~  作者: 葉月双
十二章

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8話 みんな1度、帰還しよう 次の行動を決めるためにもね


「魔物だって痛みは感じるだろう?」


 言いながら、アスラは小太刀を少し動かした。

 ナナリアが呻く。


「ここから逆転する方法はない」アスラが言う。「だから面倒を避けよう。ノエミの居場所を吐けば、楽に殺してあげるよ? それとも痛いのが好きかい?」


 ナナリアは周囲に視線を向け、そして絶望する。

 もう助からない。助からないのだ。誰も助けてはくれない。どうやっても、逃げ出せない。

 ジャンヌがいて、ティナがいて、アイリスがいてマルクスがいる。

 でもナナリアの仲間はいない。

 焼け落ちた屋敷の残骸だけ。


「どうして、こうなったのかしらねぇ」ナナリアが身体の力を抜いた。「今日は天気が良くて、お花に水をあげていただけなのに」


「何度も言わせないでおくれよ、ノエミは?」


 グリッ、とアスラが小太刀を少し捻る。

 ナナリアが痛みで泣きそうな表情に。


「ノエミは強いわよ? セブンアイズの2位だもの」

「興味ない。知りたいのは居場所だよナナリア」

「……言えば私は死ぬんでしょ?」


「言わなくても死ぬよナナリア」アスラが言う。「だけど、死に方に差が出る。苦しめようと思えば、いくらでも苦しめることが可能なんだよ。知ってるよね?」


 アスラの声に、遊びがない。

 数秒の空白。ナナリアは言うべきか否か迷っている。

 ならば、決断する材料を与えてやればいい。


「だけど、そうだね、10秒で吐けば命だけは助けてあげてもいい」

「大森林よ」


「命は惜しいかね?」アスラが笑う。「でも不十分だよナナリア。範囲が広すぎる。もっと限定してくれなきゃ」


「中央フルセンと東フルセンの境あたりから、真っ直ぐ南下」ナナリアが言う。「私はそこに行ったことがないけれど、巨石群があるはず。すごく古いもので、そこを起点として、人類の南下を防いでいるはずよ」


「巨石群?」


「石がいっぱいあるのよ、たぶん。形がしっかり残っているのか、その辺りは分からないわ」ナナリアが言う。「ブリットが知ってるわ。元々はあのバカの持ち場だもの」


「なるほど。これは個人的な興味だけど、なぜ南下してはいけないんだい?」

「知らないわよ、お兄様に聞いてよ」


「もう一つ、これも個人的な興味なんだけど」アスラが言う。「君、前に預言の話をしただろう? 私が壊したっていう預言。あれ、続きはどうなるんだい? アイリスがジャンヌを倒したあと」


「……知ってどうするの? もうその未来はないのに」

「興味だと言っただろう?」

「ふん。まぁいいわ」


 ナナリアは預言の続きをアスラに話した。

 話している間に、アイリスとマルクスがアスラたちの近くに移動。


「そうか。うちのおバカなアイリスちゃんからは想像もできないような、過酷な道を歩んだんだね」

「誰がバカよ!?」


「いいから剣を抜いてくれない?」とナナリア。


「そうだね。これから刀を抜くけど、妙な動きはしないようにね? もし妙な動きを見せたら、ウッカリ殺してしまうからね?」

「分かったから早く抜いて。酷く不愉快なのよ、身体の中を刃が貫通してるのって」


 ナナリアが言って、アスラが小太刀を引き抜く。

 ナナリアは血を吐いて、地面に膝を突いた。


「よし、1度拠点に戻ろう」アスラが踵を返す。「色々変更したいこともあるしね」


 と、アスラの背後でナナリアの首が落ちた。


「甘いのでは?」ナナリアの首を落としたジャンヌが言う。「アスラの背中を攻撃しようとしていましたよ?」


 ナナリアは弱った振りをしていただけで、背中を見せたアスラに対して即座に攻撃を仕掛けようとした。

 ジャンヌはある意味、アスラを守ったと言える。もちろん、ジャンヌにその気はない。ティナにとって脅威となるナナリアを殺したに過ぎない。

 アスラが許しても、ジャンヌはナナリアを許さない。


「……また、あんたなのジャンヌ……」ナナリアの首が、怨嗟の表情で言う。「あんたは、《魔王》になるはずだったくせに……それさえ果たせなかったくせに……あんた……」


 言葉の途中で、ナナリアの頭が爆発。

 アスラが仕込んでいた【地雷】だ。


「知っていたよ」アスラが言う。「ナナリアが私を攻撃することも、そんなナナリアを君が攻撃することも、全部知っていたよ、私は」


「自分も分かっていた」とマルクス。

「あたしも」とアイリス。

「……実はぼくもですわ、姉様」とティナ。

「え?」とジャンヌ。


「だって君が消えていない時点で、ナナリアの殺意も消えてないってことだからね?」アスラがニヤニヤと言う。「分かったらもう消えたまえ。恥ずかしさが拭えるよ?」


「ぐぬ……」


 ジャンヌは悔しそうに、だけどアスラの言葉通りに消えた。

 まぁ、自分の意思で消えたわけではない。ティナに殺意を向けた対象が死んだので、【守護者】が解除されたのだ。


「よし、それじゃあ拠点に戻ろう。憲兵が集まって来たようだけど、交戦する必要はない」


 アスラたちはさっさとゴジラッシュに乗り込み、空へと舞い上がる。

 憲兵たちが焦土と化した屋敷を見て唖然としていた。

 そしてゴジラッシュを指さすが、誰も何もできやしない。

 ただゴジラッシュが飛び去るのを見送るだけだ。


       ◇


 自宅に戻ったナシオは仰天した。

 そもそも自宅が存在していない。かつて自宅だった瓦礫がそこにあるだけ。

 ミノタウロスの死体が転がっていて、近くにナナリアの死体もあった。


「……どんな戦力なら、ミノとナナリアを同時に殺せるのかな?」


 もちろん、ナシオにならそれが可能だ。金髪の彼女にも可能だが、それをする意味がない。


「傭兵団《月花》ではないかと推測しています」


 ナシオの近くに立っている憲兵が言った。

 憲兵たちが瓦礫を片付けたり、現場検証を行っている。


「こっちの化け物は?」


 ナシオがミノの死体を指さした。

 知らない振りだ。


「分かりません。状況もまったく理解できません」憲兵が首を振った。「何がどうなっているのか。貴族王様のお屋敷が、こんなことになるなんて……」


「僕は称号を返上する」ナシオが言う。「今日からただのナシオ。まぁ、屋敷がなくなったのはちょうどいいさ。お嫁さんを殺されたのは若干、不都合だけどね」


 ナナリアが死んでしまった。

 何の感情も湧きやしないけれど。これで神の血族はナシオと、眠っている姉を除けばティナだけだ。


 まぁもう純血とかどうでもいいかなぁ。


 ナシオはアスラの顔を思い浮かべた。本格的にアスラをお嫁さんにする算段をしよう、と考えたのだ。


「僕は引っ越すよ。さようなら憲兵諸君」ナシオが穏やかに言う。「もう会うこともないだろう。歴史書には、僕はもう2度と出ないだろう。貴族は滅びたんだよ。悲しいねぇ、哀れだねぇ、だけどそれが運命だから」


 ナシオは言葉の通り、2度と歴史の表舞台に姿を現すことはなかった。


       ◇


 歴史上最高の弓使いであるエルナに、ラウノは古城の外で弓を教わっていた。

 周辺では城壁の修理業者と死体の処理業者が作業をしている。死体の方はもうほとんど処理が済んでいて、あと2日もあれば綺麗になるはずだ。

 城壁の方は崩れた場所の修復だけでなく、全体的なメンテナンスも行う予定である。よって、まだ数日はかかる計算だ。


「ラウノ君ってー、本当に男前よねー」


 エルナはラウノの背中にピッタリ張り付いて吐息のように囁いた。


「エルナも、若々しくて美人だよ」


 ラウノが弓を構えると、エルナが少し離れた。


「ムッキー!!」ラウノの足下で金髪の人形が怒る。「クソババア!! ラウノ様にベタベタするな!! 狙ってるの見え見え……ぎゃぁ!」


 ブリットが『人形劇』で作り上げた喋る人形を、エルナが踏み潰した。


「あらー? ブリットちゃんよねー? ババアってわたし、意味を知らないのだけど教えてくれるかしらー?」


 ちなみにブリット本体は古城で通常業務中。今の時間なら夕食の準備だ。


「……わ、分かりませんですぅ……」


 エルナの雰囲気があまりにも怖かったので、金髪人形は素のブリットのしゃべり方になった。

 エルナとブリットの2人はずっとこんな調子である。

 やれやれ、と思いながらラウノは矢を放つ。

 ラウノの矢は離れた木人の頭に突き刺さった。距離的には100メートルほど先か。


「上手よー!」エルナが両手を叩く。「次は連射してみましょうかー?」


「了解」とラウノが次の矢を矢筒から抜く。

「むしろラウノ君、わたしの弟子になるー? ちょうど弟子の枠が1人分空いちゃってるのよねー」


 英雄選抜試験で、エルナは弟子を1人失っている。


「ムッキー!! 弟子にしてラウノ様に何をするつもりだ!? あんなことか!? こんなことか!? この俺様ですら、まだちゅーもしてないんだぞ!!」


 ラウノは雑音を無視して矢を連射。両方ともさっきと同じ木人の頭に突き刺さる。


「本当に上手ねー、才能あるわよー?」


 エルナが嬉しそうにラウノを褒めた。

 ラウノは失敗したなぁ、と思った。

 弓矢のことじゃない。エルナと友好的な関係を築こうと思って、ブリットにしたように接したことだ。


「ねぇラウノ、もう私を忘れてもいいのよ?」と幻の彼女が言った。

「冗談を」とラウノは心の中で呟いた。


 それに、とラウノは思う。

 同年代の女性の方が好きなのだ。エルナは歳が上過ぎる。


「あ、アスラから連絡だぞ」金髪人形が言う。「ナナリアとミノさんをぶっ殺したってさ」


「さすがアスラだね」


「ちょっと!?」エルナが驚いた風に言う。「貴族王の妹を殺しちゃったの!?」


 そうか、エルナはナナリアの正体をまだ知らないのだ、とラウノは思った。

 ブリットの口の軽さには注意しないとなぁ、とも思った。


「ブリット、アスラに聞いてみて」ラウノが言う。「エルナに全部説明してもいいかどうか」


「アスラ戻るらしい」金髪人形が言う。「だからその時に説明するってさ。てかユルキにも連絡してやらないとな。日が暮れるまでに迎えに行けそう、ってな」


「帰還したがってたよね? そっちはどうなの?」とラウノ。


 ユルキから面倒なことになって、脱出地点付近に隠れていると連絡があった。

 なるべく早く迎えを寄越して欲しいとも。


「サルメの顔が腫れてるってさ」金髪人形が言う。「ユルキとイーナがビンタしたみたいだな」


「そっか。詳しくは聞いてないけど、面倒なのはサルメの命令違反がキッカケだったね」


 ラウノが肩を竦めた。サルメは本当に言うことを聞かない。というか、いいところを見せようと気張りすぎる。


「それで? 何を説明してくれるのかしらー?」エルナが言う。「今何をしているか、についてかしらー?」


「そうだよ。エルナには席を外してもらったし、それっきり何の説明もしてないからね」


「そう。楽しみにしておくわねー」エルナが言う。「次は機動しながらやってみましょうかー」


「了解だけど、僕は弟子にはならないよ?」


 ラウノが言うと、エルナは少し残念そうに笑った。

 英雄なんて僕には向いてないよ。

 妻を殺され復讐に走り、スプリーキラーとなった僕には、こっち側がお似合いだ。

 

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