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月花の少女アスラ ~極悪非道の戦争好き傭兵、異世界転生して最強の傭兵団を作る~  作者: 葉月双
十一章

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10話 行きはよいよい帰りは怖い? どっちも最悪です(敵兵視点)


「君には魔法すら勿体ない」


 アスラはタルヴォの横に移動し、ラグナロクを斬り上げた。

 聖剣を構えていたタルヴォの腕が、聖剣とともに地面に落ちる。

 タルヴォが悲鳴を上げ、血飛沫が周囲に広がる。

 アスラはその血を避けた。


「なぜだぁぁぁぁぁぁ!!」


 タルヴォは膝を突き、涙を流しながら叫んだ。


「たぶん失敗作だろう、君は」


 アスラはラグナロクを水平に振って、タルヴォの首を落とした。

 しかしタルヴォはまだ生きていて、悲鳴を上げる。


「なかなか死なないあたりは、さすが魔物ってとこだね。実力は最上位ではないけれど、生命力は最上位並だね」

「許さん!! 許さんぞアスラ・リョナ!!」

「わぁお。首が落ちても喋るって、いや、立派な魔物だね。うん」

「これで終わったと思うなよ!! これで勝ったと思うなよ!!」

「あ、聖剣は私が戦利品として貰っていくね?」


 アスラはラグナロクを背中に仕舞ってから、地面に転がっている聖剣を拾う。


「おのれぇぇぇ!! 話を聞けぇぇぇ!! 我々の真の目的は!!」

「貴族の威厳を取り戻すとか、どうせそういうのだろう?」


 アスラが言うと、タルヴォはビックリしたように目を丸くした。


「無理だよ? なぜなら、私たちが貴族制度を撤廃させるから。今後、貴族を名乗る者は全て殺す。私たちが殺しに征く」アスラが楽しそうに言う。「今日、ここに集まった連中も、明日には降伏するさ。ユルキが梯子を全部燃やしたら、君らはもう攻め手がないのだから」


「ふざけるな!! 降伏などするものか!! 我々貴族が、平民などに屈するものかぁ!!」

「愚か者め」


 アスラは聖剣でタルヴォの顔を真っ二つに裂いた。

 それでやっと、タルヴォは息を引き取った。


「各国が出している兵は貴族じゃないだろうに」


 アスラは手の中で聖剣をクルクルと回す。

 種類的には、東フルセンで多く使われている長剣に分類される。


「うーん。レコはグレートソードがお気に入りだし、ユルキはトマホーク、イーナは弓、サルメはまだ得意武器がないし、マルクスかラウノにプレゼントしてあげよう。どっちにしようかな」


 まぁ、レコは身体の大きさ的に、まだグレートソードは扱えないけれど。

 アスラは城の方へと歩き始める。

 未だに凄まじい数の矢が飛んでいる。まぁ、それに当たる団員たちではない。

 南城壁の西よりにかかった梯子から、次々に兵士が登っている。

 しかし次々に死んでいる。あそこはマルクスが守っている場所。そう簡単に陥落したりしない。

 敵の数が多くても、基本的には1対1なのだ。梯子を登った兵とマルクスの1対1。であるならば、マルクスが負ける要素はほぼない。

 いつか体力が尽きて負けるけれど、それまでに梯子は全部燃えるはずだ。

 ユルキがヘマをして途中で死んだりしなければ。


「あーあ、結構歩いちゃったな」


 新しい魔法が楽しかったのだ。

 本来、魔法兵は1人で敵軍の中を歩いたりはしない。あくまで、アスラ式イージス戦闘システムの実験だ。

 今回の実験で分かったのは、【血染めの桜】を用いたアスラはいい囮になる。

 敵の注意をアスラに向けている間に、魔法兵らしい工作や襲撃を他のメンバーが行うのだ。


「さて、MP効率が悪いから、城に戻ったら私のMPは尽きるかな」アスラは本当に楽しそうに言った。「でも、ないと帰れないし、仕方ないよね。【血染めの桜】」


 数多の花びらがアスラの周囲に展開。

 全周囲だ。立体的にアスラを防衛している。

 まず第一段階として、生成した花びらに変化を加えて【地雷】にする。防空モード。

 第二段階は、【地雷】となった花びらに【誘導弾】を付与して、追撃モードへ。

 ただし、この【誘導弾】の精度がまだ悪い。敵味方の区別もなく、動く者の方へと誘導され、そして爆発する。

 つまり、味方が近くにいる時は使えないのだ。

 付与魔法については、まだ覚えたばかりなので、今後成熟させる必要がある。


「やはり魔法だよね。魔法を上手く使えば、こんな素晴らしいシステムを組める」


 アスラは嬉しすぎてスキップしながら進んでいた。

 アスラの花びらに触れて、弓兵が数名、爆死。

 それでアスラに気付いた弓兵たちが、城壁の上を狙うのを止めて、アスラを狙う。


「あ、しまったなぁ。花びらの間隔的に、全部の矢は防げない」


 花びらの合間を縫って飛んで来た矢を、アスラはスキップのついでに躱した。

 相手がエルナだと、普通に負ける気がする。


「くそう、矢のこと全然考えてなかった。私としたことが……」


 近接系の敵なら、ほぼ無敵のシステムではあるけれど。

 やはりまだ、できたてホヤホヤの魔法には穴もある。


「とはいえ、素晴らしいシステムであることに変わりはない。魔法の3つ同時展開ができれば解決するしね」


 現時点で、アスラは魔法を2つ同時に展開可能。それを将来的に3つに増やしたいのだ。

 要するに、【乱舞】を二重に発動して花びらの数を増やすという意味。

 今の時点で【乱舞】を二重使用すると、変化や付与が使えなくなってしまうのだ。

 よって、現状ではこの布陣が最大。


「もしくは防衛範囲を狭めればいいのか」


 割と広めに花びらを展開しているので、もっとアスラに近い場所にのみ滞空させればいい。

 早速花びらたちを移動させ、隙間を狭める。


「魔法の自由度も高い!! ははっ! さすが私!!」


 アスラはスキップの勢いで、クルッと横に回転。楽しくて仕方ない。


       ◇


 アスラ・リョナは戦場で踊る。

 その姿を見た敵兵たちが、恐怖におののいた。

 アスラがまるで、戦争を楽しんでいるように見えた。殺すことを楽しんでいるように見えた。

 そもそも、戦場をスキップしながら移動しているというだけで異常。更に笑顔でクルクル回る少女など、誰が見ても頭がどうかしている。

 その上、近寄ったら確実に爆発して死ぬという最悪の花びら付き。

 桃色の花びらも踊るアスラも、ここが戦場でなければ、きっと美しいのだろうけど。

 現状では狂気そのもの。

 だから兵たちは離れて矢を射るのだけれど、矢のいくつかは花びらに触れて爆発してしまう。運良くアスラに辿り着いても、アスラは矢を躱す。

 兵士たちが感じた絶望感は凄まじいものがあった。


「まるで……まるで《魔王》だ……」


 兵士の誰かが呟いて、地面に膝を突いた。

 心が折れたのだ。

 次々に兵たちの心が折れていくのだが、アスラはどこ吹く風。

 相も変わらず楽しそうに踊っていた。

 そしてそのすぐ近くで、茶色の髪の人形がひとりでに歩いていた。

 まるで《魔王》の付き人のように。


       ◇


 ユルキが最後の梯子を燃やし尽くすと、城門の下にアスラがいた。


「おーい、いい頃合いだから戦場の銅鑼を鳴らしたまえ!」アスラが下から叫ぶ。「ここらでアイリスと約束した交渉に入る!」


 アスラの周囲には花びらが浮いていて、敵兵たちはアスラから離れている。

 レコ人形だけがアスラの近くにいるのだが、アスラはレコ人形を気にしていない。

 忘れてんじゃねーかな、人形のこと、とユルキは思った。

 なぜなら、一度も人形を通した連絡がなかったから。


「てゆーか、団長! また死体の山じゃねーっすか!!」ユルキが驚いて言う。「1人でどんだけ殺したんっすか!? 新魔法かなりやばくね!?」


「素晴らしいだろう!? 君たちも早く固有属性を得たまえ!!」


 アスラの言葉が終わったと同時に、マルクスが戦場の銅鑼を響かせた。

 この銅鑼が鳴ったら、戦闘を中断する。それはフルセンマーク全体で共通のルール。


「団長がそのまま交渉に行くんっすか!?」

「そのつもりだよ! 見学したい者は降りておいで!」


 アスラが言うと、サルメとレコが城壁から飛び降りた。


「……【浮船】」


 イーナが2人に支援魔法を使って、地面に激突しないようにした。


「……てか、あたしのこと……頼りすぎだし……。階段から行って欲しいんだけど……」


 イーナは酷く呆れた風に言った。


「イーナ、僕もいいかな?」とラウノ。

「はぁ……どうぞ……」とイーナ。


 ラウノが飛び降りて、イーナが【浮船】を使用。


「マルクス!!」とアスラ。

「はい!」とマルクスが城壁から下を覗く。


「クレイヴ・ソリッシュいるかね!?」

「タルヴォを殺したんですか!?」

「殺したよ!! あいつ人間辞めてたけど、弱かった!! 聖剣はいるのか!? いらないのか!?」

「当然、貰うであります!」

「よろしい! イーナ!」


 アスラが聖剣を投げると同時に、イーナが聖剣に【加速】と【浮船】を使う。

 聖剣は城壁を越えて空に舞い上がり、やがて落下を開始。

 ユルキがそのまま見ていると、聖剣は見事にマルクスの隣に突き刺さった。

 アスラは計算して投げたのだ。


「半端ねーな」とユルキ。

「確かに受け取りました! ありがとうございます団長!」とマルクス。


「……ふふん。みんな、あたしを……頼る」イーナが嬉しそうに言う。「……あたしが、いないと……ふふ」


「いいなぁ! 羨ましいなぁ!」サルメが言う。「私もいつかいい武器が欲しいです!」


「ではこれをやろう」


 アスラはラグナロクを鞘ごと外し、サルメに渡した。


「え? いい、いいんで、すか?」


 サルメは酷く驚いている。

 当然だ。ラグナロクは伝説級の武器で、本来サルメ程度の実力で扱っていいものではない。

 ユルキたちも城壁の上で驚いていた。


「君には得意武器がないけれど、見た感じ、クレイモアが一番マシだった」アスラが言う。「その剣に見合う実力を身につけたまえ」


「は、はい団長さん! 私、頑張ります!!」


 サルメはラグナロクを抱き締めて、嬉しそうに言った。


「くっそー!!」レコが地面に四つん這いになって、地面をガンガンと殴った。「オレが主人公だと思っていたのに!! サルメだったか!! くっそー!!」


「いや、君にはグレートソードがあるだろう? 将来使うのだろう? そっちも楽しみにしているよ?」

「やっぱりオレが主人公だった」


 レコは立ち上がって、ケロッと言った。


「どっちが主人公でもいいけど」ラウノが言う。「悩みや葛藤があれば、僕に相談してね? なんでも聞くよ? ね?」


「君、変な方向に焚き付けるのだけは止めたまえよ?」


 アスラが苦笑いしながら言った。


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