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6話 君を【再構築】したいよアスラ 「むしろ君が私の仲間になれ」


「それで君たちは、揃いも揃って賭けて遊んでいたと?」


 アスラが苦笑いした。


「だって団長、俺らは愉快な傭兵団っすよ?」


 ユルキが肩を竦めながらヘラヘラと言った。


「アイリスの想いを汲むのか、興味ありましたしね」


 マルクスが淡々と言った。

 ちなみに、アイリスは倒れたまま。

 ティナとメルヴィとブリットが、アイリスに刺さった剣の破片を抜いている。破片を抜くごとにアイリスが呻く。

 その呻き声を聞いて、マルクスが【絆創膏】でアイリスの傷口を塞ぐ。更にその上からアスラが【花麻酔】を貼って、痛みを緩和。

 アスラは自分の脇腹にも【花麻酔】を使用している。


「オレは勝ったよ!」レコが言う。「オレ、賭けにはいつも勝ってる気がする!」


「長くは続かねぇよ」ユルキが肩を竦めた。「どっかで負けるもんさ。賭けも戦争も戦闘も」


「はっはっは!」アスラが笑う。「私なんて普段から敗北しまくりだしね!」


 困ったことに敗北が好きなのだ。屈辱的であればあるほど、それだけ気持ちいい。

 もちろん、アスラは勝利も大好き。


「よく頑張ったねアイリス」


 ラウノがしゃがみ込んで、アイリスに笑いかけた。その様子を見て、アスラは察した。


「君がそそのかしたね? ラウノ」


「人聞きが悪いよ」ラウノが立ち上がって言う。「僕は相談に乗っただけ。1回ぶつかってみれば? ってアドバイスしたけどね。いやぁ、激しくぶつかったね。青春だねぇ」


「……その青春で、アイリス死にかけたけど……?」


 イーナが引きつった表情で言った。


「結果は良かったでしょ?」ラウノはニコニコと言った。「若者の葛藤見るのすごく楽しいな」


「君がもう葛藤しないからだろう?」アスラが言う。「何気に性格悪くてビックリだよ」


「ははっ、僕にだって楽しみが必要だよ」ラウノは楽しそうに言った。「善悪や正邪に悩む若者は好物だって分かって良かった。ここじゃ、アイリスぐらいしかそういう真っ当な悩みを持たないけどさ」


「あたしは、ラウノのアドバイスとってもありがたかったわよ……いたた」


 アイリスがゆっくりと身体を起こしながら言った。


「ま、見事にルミアの代役を務めたな」ユルキが笑顔で言う。「これで、死体の山とはサヨナラできるぜ」


「……あたしは、むしろ……死体の山を作りたい派なのに……」


「その死体の山から、いい死体だけを選別してくれると、僕は助かるな」


 酷く穏やかにそう言ったのは、銀髪の青年だった。

 青年は綺麗な服を着ていて、上品な雰囲気が漂っている。

 こんな上品な奴、近くにいて気付かないはずがないのに。

 アスラたちは即座に戦闘態勢へ。


「はじめましてアスラ」青年は淡々と言う。「僕は貴族王のナシオ・ファリアス・ロロ。よろしくどうぞ」


「そうだと思ったよ」とアスラ。


 貴族王関連の本には、ナシオの似顔絵が載っている。その似顔絵とだいたい同じだ。


「何の用だ?」とマルクス。


「別に? 挨拶に寄っただけかな」ナシオはみんなの顔を見回す。「深い意味はない。近くまで来たから、寄っただけ」


「つか、お前もナナリアも、消えれるのか?」ユルキが言う。「いきなり出て来たよな?」


「魔法とスキルだよ。ナナリアのは固有属性・王の支援魔法【消失】で、僕のは固有スキル『空間の隔離』」


「全然違う効果みたいだね」とアスラ。


「そうだよ。ナナリアは世界から消失するだけで、僕は違う空間に移動する。ほら」


 ナシオの姿が消える。

 ティナが警戒した様子で周囲を見回す。

 まぁ、今は全員が警戒しているのだけれど。

 ブリットはラウノの足に抱き付いて怯えている。裏切り者だから殺されるかもしれない、と思っているのだ。


「どう?」


 ナシオがアスラの背後に姿を現した。


「この世界とは少し位相のズレた空間に入ったのかな? だから消えたように見える」


 アスラは淡々としている。


「うーん? アスラの言ってることはよく分からないけど、僕は違う部屋を作って、その中を移動してアスラの背後に出て来たんだよ」

「ナナリアは消えたまま私らを殺せるかね?」


 アスラは探りを入れた。

 ナシオにそれが不可能なのはすでに分かっている。

 別の空間に入るのだから、こちらの空間に干渉はできない。


「いや、ナナリアが消えている間は何もできないよ。だって消えているからね。存在が消えている。見えないだけじゃなくて、世界から消失しているんだよ」

「なるほど。そうは言っても、出た瞬間に攻撃されたら割と痛いかな」


 それはナシオの『空間の隔離』でも同じこと。


「そうかもね。でも、そんな風に使ったことないや」ナシオが言う。「偵察とか、逃げる時とかに使うからね、主に」


「そうかい。せっかくだから、お茶でも飲んでいくかね?」

「いいね」とナシオ。


「ティナ、お茶を頼む」アスラが言う。「一番高いお茶を」


「はいですわ」


 ティナがその場を立ち去る。食堂に向かったのだ。


「君はとっても弱そうだけど、実際はどうなんだろう?」


 アスラが首を傾げながら言った。

「戦うのは好きじゃないけど、弱くはないかな」ナシオが少し考えながら言った。「少なくとも、君たち全員をこの場で殺せる」


「ふぅん」


 アスラが振り返って、舐めるようにナシオを見る。頭の天辺からつま先まで。

 そのあと、アスラは両手でペタペタとナシオの腹筋と大胸筋に触る。

 それが終わると、今度は唐突に蹴りを放った。

 ナシオはその蹴りをサッと躱す。


「いいね。立ち姿が綺麗で筋力もあって、スピードも反応もいい。万能タイプかな。アイリスに似ているね。神域属性の魔法を使うという話だし、どうだろう? 私らの仲間にならないか?」


 サラッと当然のように勧誘したアスラに、他のメンバーはビックリした。

 その驚きを察したアスラが言う。


「別にいいだろう? 実力はあるし、ナシオ自体は私と敵対していない。手紙の返事もくれたしね」


「アスラ、何気にチョロいわね……」とアイリスが苦笑い。

「またオレの敵が増えるの?」とレコ。


「ナシオさんの見た目、女性みたいで綺麗ですね」サルメがちょっと喰い気味に言う。「泣かせてみたいです」


「あたしは……もっとガッツリ魔物っぽい方が好き……」とイーナ。


「まさか仲間に誘われるとは思ってなかったよ」ナシオも少し驚いた風に言う。「むしろ僕が誘いたいぐらいだよ。永遠の命に興味は?」


「永遠の命!?」サルメが激しく食い付く。「それって永遠に生きられるってことですよね!?」


「バカ、冷静になれ」アスラが言う。「【再構築】するってことだろう?」


 アスラの言葉にナシオが頷く。

 サルメはガックリと肩を落とした。


「魔物になるけど、今より強くなれるし、殺されるまで死なないよ?」ナシオが言う。「僕はアスラを【再構築】してみたい。きっと最高のセブンアイズになると思うんだよね」


「……あたし、興味あるかも……」イーナが言う。「むしろ、人間辞めたい……。積極的に……。そして、ゴジラッシュと……結婚する……」


 後半はかなり小声でボソッと言ったのだが、アスラには聞こえていた。


「あー、君はごめん」ナシオが言う。「ちょっと微妙かなー」


「……普通にショックなんだけど……」イーナの表情が引きつる。「……団長、こいつ、殺そう……。貴族の親玉だし……」


「イーナの超高速、掌返し!!」


 レコが右手をクルクルと引っ繰り返しながら言った。


「……セブンアイズは、選ばれし者だけが、なれるのですぅ」ブリットが自慢気に言う。「雑魚や、特徴のない奴は、なれませんですぅ……」


「そうだねブリット」ナシオがブリットに微笑みかける。「戻ってくる気はないかい? 僕は君の人形劇が気に入っているのだけど」


「戻るな」アスラが言う。「戻れば君は殺される。確実だよ。ナシオが許しても、ナナリアが許さない。分かるだろうブリット?」


 ブリットはサッとラウノの背中に隠れた。

 戻る気はない、という意思表示だ。


「まぁ、戻らないならそれでもいいけど」ナシオが言う。「とりあえずアスラ、どうかな? 【再構築】していいかな?」


「つまり私を1回殺すってことだろう?」

「そうだね。死体にしか【再構築】はできないんだよ」

「ふむ。神域属性を得ても、制限は数多いというわけか」


 それでも、素晴らしい魔法だ。ある意味、死者を生き返らせる魔法なのだ。魔物にしてしまうというだけで。


「どうかなアスラ? 君ならセブンアイズの1位も夢じゃないと思うし、僕と一緒にフルセンマークを管理しよう?」

「いや断る。私は死ぬまで傭兵だよ。管理なんてクソダルい仕事、私には向いてない」

「そっかぁ。じゃあ、死んだら勝手に【再構築】するね」


 ナシオがいい笑顔で言った。


「いや、だから、嫌だと言っているだろう? 話が通じないのか君は?」


「通じてるよ。でも、アスラはどうせいつかは死ぬよ?」ナシオが言う。「僕なら苦しまないよう、瞬殺してあげられるし、死体は綺麗に保存して、僕の調子のいい日に【再構築】するよ?」


「そりゃ、私だっていつか死ぬさ」アスラがヘラヘラと言う。「ところで、返事を早くおくれよ」


「返事?」とナシオが首を傾げた。


「誘っただろう? 私の仲間になるかい?」

「いやごめん。魅力的だけど、僕には僕の役目があるから」


「そうかい。残念だけど仕方ないね」アスラが肩を竦めた。「お茶を飲んだら帰っておくれ」


 アスラの言葉が終わった時、ティナがお盆を持って謁見の間に入ってきた。

 ティーカップは2つ。ナシオの分とアスラの分だ。

 アスラとナシオはそれぞれ、ティーカップを取った。

 そして立ったままお茶を飲んだ。


「ねぇ貴族王様」アイリスが言う。「貴族たちの進軍って止められないんですか?」


「うん。だって僕が許可したし。そもそもタルヴォはすごく怒っていたしね。止めるのは可哀想だよ」


「お前が許可したのかよ!」とユルキ。

「……やっぱこいつ敵」とイーナ。


「まぁまぁ」アスラが言う。「いいじゃないか。どうせ貴族なんて数日後には世界から消えてしまうのだから」


「そうなれば当然」サルメが言う。「貴族王という称号にも意味はなくなります」


「ナナリアの【消失】みたいにね」とレコ。


「ふぅん」ナシオは興味なさそうに言った。「どっちでもいいよ。僕はアスラの死体を引き取って【再構築】できれば、どうでもいいよ。どうせ、中央集権化で僕の権力も薄れるだろうしね。お茶をご馳走様。可愛く育ったねティナ」


 ナシオはティナに笑顔を向けて、それから『空間の隔離』を使用して姿を消した。


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