EX33 貴族王は割と丁寧に対応してくれます みんな私のことが好きなのさ!
「うぅ……ボクはあまり詳しいことは、知らないのですよぉ……」
アスラたちは古城に戻ってすぐ、ブリットを尋問した。
アーニアで豪遊した時は、普通に親睦を深めただけだった。
いつものように、謁見の間に全員で集合して、円陣で座っている。
ブリットもその円陣に交じっていた。
「話をまとめよう」マルクスが言う。「セブンアイズが現在の任務に就いたのは約100年前で、人類が外洋船を得たのがキッカケで間違いないか?」
マルクスの言葉に、ブリットが頷く。
ブリットは怯えたようにラウノの腕にしがみついている。
その様子を見て、サルメは少しイライラしている。レコも面白くない。ティナも微妙そうな表情だ。
「人類を外に出さないための監視役がセブンアイズ。だがもっと前から存在はしていたんだろう? ナシオの部下として」アスラが言う。「しかしそうなると、ナシオの年齢が分からない。100歳超えているのかね?」
「それはないでしょう」とマルクス。
「割と若いはずですわ」とティナ。
「……これによると……」イーナが本を見ながら言う。「今年……27歳……」
イーナの見ている本は、『貴族王ナシオ』というタイトル。
「だがブリット、君はセブンアイズの中でもかなり古いというか、初期のメンバーだろう?」
アスラの質問にブリットが頷く。
「でもブリットを【再構築】したのはナシオ?」とレコ。
ブリットが再び頷く。
「有り得ませんわ」ティナが言う。「ナシオの父親か祖父と勘違いしていますのよ、きっと」
「……うぅ、絶対、絶対、ボクを【再構築】したのは……ナシオ様ですぅ。そりゃ……見た目は今とは、少し違いますけどぉ……」
「ナシオの父親、ロルダン・ファリアス・ロロは20年前に死亡してるな」
ユルキも本を見ながら言った。
読んでいるのは『ファリアス家の全て』というタイトルの本。
「全然分からないわね」アイリスが言う。「どういうことなの?」
「仮説を立てよう。ラウノ」とアスラ。
「そうだねぇ」ラウノが考えながら喋る。「やはり可能性が高いのはブリットの思い違いかなぁ」
ラウノが言うと、ブリットが泣きそうな表情になった。
ラウノはブリットの頭を撫でて、泣かないように落ち着かせる。
その様子を見て、レコが少しムスッとしている。
「それ以外だと? レコ」とアスラ。
「ブリットが嘘を吐いてる」
「……ぼ、ボクが嘘を吐く……メリット……ないですよぉ……」
それはそうだ。完全に敵の真っ只中。嘘を吐いているとバレた時点で死ぬ。
「てゆーか、ラウノにくっつきすぎじゃない?」とレコ。
「そうですね」サルメがレコに合わせる。「アーニアの時から思っていましたが、もう少し離れてもいいのでは?」
「そうですわ」ティナも言う。「恋人同士というわけでもありませんでしょう?」
「……こ、恋人だなんて……うふふ……」ブリットが嬉しそうに言う。「……ボク、恋愛初めて……ですぅ……うふふ」
「はいはい、そこまで」アスラが両手を叩く。「本題から逸れないように。次の仮説をメロディ」
「えー? 私?」
英雄メロディ・ノックスがニコニコと自分を指さした。
一応、すでにメロディの紹介は済んでいる。
「外部の意見を聞きたい。どう思う?」
「分からないけど、直接聞けば?」
メロディはニコニコしたまま言った。
「そうだね。そうしよう。私が手紙を書くよ」
「えぇ!?」とアイリス。
「……団長、本気?」とイーナ。
「読んでくれるといいっすね」とユルキ。
「私のような美少女に手紙をもらって、喜ばない男はいない」アスラが言う。「現にアーニア王もサンジェスト王も喜んで返事をくれる」
「それとはまた、別だと思いますが……」マルクスが言う。「しかし、可能性は低くてもゼロではない。やる価値はあるでしょう」
「よし諸君、賭けようじゃないか」アスラが笑う。「返事が来る方に1000ドーラ。他に私に乗る奴は?」
「はーい」とメロディが手を挙げた。
「君、金持ってないだろう?」
「パパにツケておいて」
「いいだろう。他には? 私に乗る奴は?」
「僕が乗ろう。一方に集中すると面白くないからね」とラウノ。
「よし。もう締め切りだよ」アスラが言う。「こっちは3人だから、かなり儲かる」
「さすがに、返事は来ないわよ」とアイリス。
「……取り分は……少ないけど……確実に勝つ」とイーナ。
◇
西フルセン、貴族王の屋敷にて。
「ふふ」
ナシオはアスラからの手紙をリビングで読んでいた。
「まさか僕に手紙を書いてくれるなんて、可愛いじゃないかアスラ」
ナシオは微笑み、早速手紙の返事を書き始める。
◇
親愛なるアスラ・リョナ様
涼しい風が吹き抜ける季節、ますますご活躍のことと存じます。
さて、ご質問に回答いたします。
まず、女性同士で子供を産む方法を、私ナシオは存じません。そのような術があるという噂も聞いたことがございません。
お役に立てず残念に思います。
妹ナナリアについてですが、私ナシオはあまり過保護な方ではなく、どちらかというと放任主義です。
よって、愚妹がそちらと揉めているのは存じ上げておりますが、私が直接介入することはないかと思います。現時点では、という注釈は必要でしょうけれど。
次に、私ナシオの年齢についてですが、今年で27歳となりました。
肉体的な年齢、という意味であり、魂や精神の年齢ですと、正確には数えておりません。
私ナシオは特殊な魔法を使います。ブリットが裏切ったとのことですので、すでにご存じのことと思いますが、私ナシオは神域属性・創造を扱います。
創造の支援魔法【器】を用いて、私ナシオは永遠にファリアス・ロロであり続けております。厳密には、時限魔法と付与魔法も使用しますが、細かい説明は割愛いたします。
聡明なアスラ・リョナならば、この説明だけで全てを、あるいは多くを理解できるかと思います。
最後の質問への回答は、私ナシオには不可能ですが、いくつかの魔法を組み合わせれば、あるいは可能かもしれません。
しかし、自分をもう1人創りたいというのは、変わった願望ですね。
それでは。直接お会いできる日を楽しみにしています。
貴族王ナシオ・ファリアス・ロロ
◇
「なんで普通に返事来たし!!」アイリスが大きな声で言った。「貴族王、どうして普通に返事したし!! しかも丁寧に質問に全部答えてるし!!」
謁見の間で、団員たちはいつものように円陣を組んで座っている。
「だから言ったじゃないか。私に手紙をもらって、喜ばない者などいないと」
アスラは勝ち誇ったような表情で言った。
「その手紙だけで考えると」ユルキが言う。「全然、悪い奴じゃなさそうっすね」
「人類を閉じ込めているのに?」とアスラ。
「自分たちは、閉じ込められているという感覚がよく分かりませんから」
マルクスが肩を竦める。
団員たちがマルクスに呼応するように頷いた。
「ふむ。ではその件は置いておこう。ひとまず、謎は全て解けたね」
「全然、解けてないんだけど!?」とアイリス。
「少し考えれば分かるだろうに……」アスラが言う。「考える癖を付けたまえ。難しくないよ」
「……ボクが、嘘吐きじゃないって……分かったのですぅ?」
ブリットはラウノにしがみついたまま、おっかなビックリ言った。
ちなみに、ブリットはメルヴィと同じ部屋で寝起きしている。
メルヴィはブリットにも優しかったので、2人は割と話をするようになっていた。
「そうですね。嘘ではなかったですね」とサルメ。
「てゆーか、ナシオずるいよね」レコが言う。「肉体を変えながらずっと生きてるってことだもんね」
「私らも同じだよ」アスラが肩を竦めた。「覚えていないだけで、肉体を変えながらずっと生きている。違うのは、記憶のあるなしだけさ」
「つっても、前のナシオが死んだのが20年前なら、すでに7歳のナシオがいたってことっすよね?」ユルキが言う。「【器】には【器】の魂があって、だけどナシオがそれを塗り替えるって感じなんっすかねぇ?」
「本の記述が間違っている可能性もあるぞ」マルクスが言う。「もしくは、【器】の方は抜け殻だったのかもしれないしな」
「そうだね。【器】が哲学的ゾンビだった可能性はある」アスラが言う。「でもそれは重要じゃない」
「何それ?」アイリスが言う。「ゾンビは分かるわよ? でも哲学的ゾンビって?」
「クオリアがない……いや、厳密には違うのかもしれないけど、君たちにも分かるように言うと、魂がないってこと。丸っきり人間に見えるけど、実は何も感じていない。感じるための魂がない、とかそんな感じかな」
「なんだか団長みたい」とレコが楽しそうに言った。
アスラは少しだけ、考えた。
「いや、私は違う。私には魂がある。たぶんね」
絶対とは言い切れないが、アスラは魂があると思っている。
そうでないと、前世を覚えているという現象の説明が付かない。
「つーか、俺あの本、全部読んだんっすけど」ユルキが言う。「貴族王家の純血って、近親相姦なんっすね。俺とか妹分のイーナでも無理だっつーのに、よくやるぜ」
「……それ、あたしに魅力がない……って意味?」
「ない」とレコ。
「……レコ明日の訓練で、死ぬほど……しごいてやるから……」
イーナがレコを睨むと、レコは楽しそうに笑った。
「王族貴族の近親婚なんて珍しくもないだろう?」アスラが言う。「まぁナシオの場合、ナナリアと結婚するのだろうけど、ナナリアって娘でもあるんだよね? 貴族王が全部ナシオなら」
アスラたちの推測では、ナシオの肉体は毎回違っているが、魂は同じはず。
そもそも、【器】についても全て推測なので、実際にどういう肉体なのかアスラたちは知らない。
同じ肉体の見た目を微妙に変化させて使い回している可能性だってある。
近親婚で生まれた子供が【器】の元になる可能性だって捨てきれない。現時点では何だって有り得るのだ。
「うわぁ……」メロディが顔を歪めた。「さすがにパパはない」
「同じく無理です」とサルメ。
「もしかして、ぼくのママもナシオの娘ですの?」とティナ。
「そうだろうね」アスラが言う。「肉体的なことは置いておいて、精神的、もしくは魂的には、ナシオが全員の父だろう。ずっと貴族王なわけだからね」
「じゃあ、ぼくはナシオの孫に当たりますのね!?」
「たぶんね」とアスラ。
「不思議な感じですわ。親戚だというのは、知っていましたけれど……」
ティナは純血ではない。母親が人間と結婚したからだ。
「……それはそうと」イーナが言う。「今後の……方針は……?」
「そうだね。特に変更は無いよ。私はアーニアで特殊部隊を訓練する。今回は誰を連れて行くかまだ思案中」アスラが言う。「魔殲に関しては、現在アーニアとサンジェストの諜報機関に調べてもらっている。根城が分かり次第、襲撃する」
「セブンアイズはどうします?」マルクスが言う。「今ならブリットがいるので、居場所が分かるのでは?」
「そうだね。そっちも襲撃しよう。楽しくなってきたね!」
アスラが嬉しそうに言った。
「襲撃マニアか何かなの!?」とアイリス。
「襲撃はするのも、されるのも、とっても楽しいだろう?」
アスラは素で言った。
「仲間も増えたし、今ならナナリアもやれるんじゃねーっすか?」とユルキ。
「ああ、今なら勝てるね。ナナリアも襲撃しよう」
「本当に襲撃マニアねアスラは!!」とアイリス。
「早速だけどブリット、雪女の居場所を吐け」アスラが言う。「アーニアは明日でいいし、今日、今から3位の実力を確認しに行こうじゃないか諸君!」