仕事で人を殺すのか?
なんか気づいたらシリアス回になっちゃってました。
「…………あの、何の用ですか?」
「そろそろ返事をしてもらえないかと思いまして」
俺を路地裏に連れ込んだのはウォレット・アヴェンジーだった。
「今日もいいおっぱいしてるなぁ」
「お、おっぱいはどうでもいいでしょ!」
「いやいや、ウォレットからおっぱいを取ったらもう何も残らないから」
「残ります!他にもいろいろと残ります!」
「例えば?」
「この美しさ……とか?」
「美しさ………ふっ」
気づいたら首が飛んでいた。
視線があり得ない方向を向いている。
あ、ウォレットのスカートの中が見える。
ピンクか……意外と可愛らしい趣味してるな。
「ぃって!ちょっ!蹴るな!人の首を蹴らないで!」
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いぃぃぃ!」
「泣くほどっ!?」
「変態!変体!気持ち悪い!なんで首と身体が離れて喋れるんですか!?」
「なんでって、人は声帯を震わせることで言葉を話すんだ。つまり声帯と震わせる空気さえあれば胴体がなくても言葉くらいった!ちょっと、言葉の途中で蹴るのやめて!舌噛んじゃうから!」
俺はウォレットの攻撃を受けながらもなんとか胴と首を繋げ、ようやく元に戻ることができた。
やっぱり脚が付いてるっていいな。
「全く、情けも容赦もあったもんじゃないな」
「当たり前です!あんな気持ち悪いもの本当だったら触るのだって嫌だと言うのに……」
「それは俺の首を落としたそっちに非があるのではなかろうか?」
「いいえ、会って早々セクハラかましてくるそちらに非があります」
「そんなこと言うなよ。俺とウォレットの仲だろ?」
「私たちって敵同士じゃなかったんですか?」
「まあ嫌いっていうことは変わらないけど、最近ウォレットが少し可哀想に思えて来てね。友達とかいなさそうだし」
少なくとも、友達がたくさんいるイメージではない。
俺もあんまり人のこと言えないけど。
少なくとも約二名からは命を狙われる程度には嫌われているわけで。
「し、失礼な!私にだって友達はいます!」
「へぇ」
エア友達のト◯ちゃんとか?
やめて、痛々しい。
「なんだかとても失礼なことを考えてる顔ですね。殺しますよ?」
「ひどい…」
思うだけでも罪なのか?
しかも即死刑。
「私にだって友達はいます………この世にただ一人、大切ね友達が……」
そう言ってウォレットは珍しく遠い目をした。
それはまるで遠い故郷を思い出す少女の姿で、俺はなんだか______似合わねぇっと思った。
「ちょ、なんで今鼻で笑ったんですか?」
「いや、ウォレットにシリアスは似合わないなと」
「………ホントに殺しますよ?」
思ったより本気の殺気に、俺は少し黙ろうと思った。
「ちなみに、ウォレットの再雇用の話はちゃんと通った。通った…んだけど、その前に聞きたいことがある」
「いきなり真面目になるのはやめてくれます?追いつくのが大変ですので」
「実際のところ、なんでルールさんを殺したんだ?」
「スルーですか。そうですか。分かりました、それが条件なら答えましょう」
こほんとウォレットが雰囲気を切り替えると、急に肌がピリピリとしてきた。
ようやくいつものウォレットに戻ったようだ。
「ただ、正直あなた方が納得する理由はありませんよ?」
「構わん」
とにかくそこの確執をなんとかしないと俺もやりづらい。
納得なんてしなくていい。ただ、動機が知りたいだけだ。
なんの理由もなく死んで逝ったと思いたくないから。
「そうですか。私がルールさんを殺した理由は簡単んです。ツユリさんがあの変態勇者の恋愛相談を受けた理由と同じです」
変態勇者って…。
見ず知らずの人間からまで言われるって悲しい男だ。
それよりも、同じってことは……。
「仕事だって言いたのか?」
「その通りです。とある筋から依頼されました」
「ウォレットは一体何者なんだ?」
「と、言いつつも実は察しが付いているんじゃないですか?」
「まあ大凡は」
「恐らくそれで合ってます。私は殺し屋。要は裏の何でも屋、ツユリさんの同業者と言ったところですね。っとさすがにこれ以上は言えませんけど」
殺し屋かぁ〜。
「仕事で人を殺すのか?」
「えぇ、でないと食べていけませんから。よく食事のための殺しは許されると言いいますけど、これもある意味そうだと思いませんか?」
「…さぁ?俺にはよく分からん。でも、生きるためになりふり構わないその気持ちはよく分かる」
実際、この世界に来てすぐにルールさんに取り入った。
それはこの世界で生きていくためにルールさんを利用した。
だから気持ちは分からなくはないでも。
「だからってなんで選りに選って殺し屋?」
「それしかなかったので」
……………。
「分かった。納得はしないし許しもしないが理解はしてやる」
「それで十分です。元々許してもらおうとは思ってなかったですし」
そういうところは割り切ってらっしゃると。
「じゃあもう一つ」
「なんですか?」
「何が目的だ?」
「目的……ですか。そうですね正直なことを言うと仕事が入って来ません。お金がなくなりそうなんです」
割と切実だった!?
しかも相当死活問題!
なるほど、ウォレットも人間か。
「………とりあえずはそれで納得してやる」
「そうですね。こればかりは信じるも信じないも勝手ですから」
全くその通りだ。
まあ信用も信頼もしてないけど。
「じゃあ明日、変装して事務所に来てくれ。ローロちゃんに見つかったら面倒だし」
いきなり斬りかかる可能性もあるわけで。
「分かりました。明日伺います」
そう言い残してウォレットは去っていく。
そして、今回はあんまりウォレットを弄れな買ったことに気がついたのだった。