誰なんだぁぁぁぁあああああ!!!!
「だからね?それがストーカーだというのがまだ分からんのかね」
俺は今、事務所でクソ勇者にお説教をしていた。
どうやらこのバカには自分の行為の意味がよくわかっていらっしゃらないらしい。
「第一被害者の方からお前にストーカーされてるって言ってきてるんだぞ。言い逃れはできまい。実はね最悪の場合俺はお前をお巡りさんに突き出すつもりでもあるんだ」
「なっ!お、お前は親友を警察に売るつもりか!?」
「誰が親友だ。そもそも友達になった覚えすら俺にはない!」
「何を言う!俺たちはあの日硬い友情を結んだじゃないか!」
「あの日がどの日か知らないけど、俺たちが結んだのはただの業務契約だ。特別な何かはない!」
「そ、そんな………っ!よし、ならば今日はこれから飲みに行こう!酒の席を共にして友好を深めようではないか!」
「俺はノーと言える日本人なんだよ」
「ニホンジン?なんだそれは?」
「違う。日本人だ。ニホンジンじゃない。変なところにアクセントをつけるなバカ」
「なんというか、仮にも勇者である俺にそこまで言えるなんてある意味すごいよな店主」
「俺はお前のことを勇者だと思わないようにしてるからな」
「なんで?」
「俺の中のカッコいい勇者像が音を立てて崩れていくから」
実際ここ数日で俺は勇者というものに心底失望している。
そう言えば小説に出てくるような勇者もよくよく考えると変態が多い気がする。
もしかして勇者はみんな変態なのだろうか?
確か修学旅行で女子風呂を覗いた男はクラスの男子達から勇者と呼ばれる。
うん、そう考えると勇者ってみんな変態なのだろう。
「というわけで、俺にとって勇者=変態という方程式が完成した」
「なにがどうなってそうなるんだ!………というか店主は難しい言葉を使うな?」
「難しい?なにが?」
今の俺のセリフに難しい要素なんて入ってたか?
むしろ中学生でも理解できると思うんだけど。
「いやぁ、日常会話で方程式なんて言葉を使う人初めて見たよ。方程式なんてよっぽど学がないと知らない言葉だろうし」
なんですか?それは「俺は学がある男ですから」アピールですか?
軽く殺意を覚えながらも、ふと違和感を覚える。
方程式はよっぽど学がないと知らない?
そんなバカな。
俺の世界なんて中学生でも知ってるぜ?
「…………ちなみにさ。二次関数って知ってる?」
「虹?虹がなんだって?」
「あ、いや。なんでもないんだ。忘れてくれ」
まさか…………いやまさかな…。
「実はお前って中学生レベルの脳みそしか持ってないとか?」
「……チュウガクセイというのが何かは知らないが、そこはかとなくバカにされていることだけは伝わってきた」
おー、言葉は通じなくとも意思は伝わるのか。
ある意味魔法だな。
「さてと、なんの話だったか?」
「俺と店主との友情についてだったな」
「あー思い出した。あれだ。お前がストーカーだって話だ」
あっぶなぁ〜。
危うくあの男に親友認定されるところだった。
それだけは………それだけは絶対に避けなくては。
犯罪者が友達とか絶対に嫌だし。
「あ、そういえば言い忘れてた。エルマくんな、なんか好きな人がいるらしいぞ?昨日ウチに相談してった」
「……………えっ?なんだって?」
「聞こえないふりしても何度だって言ってやるぞ?」
こんなところで鈍感系主人公スキルを使わなくてもいいんだよ。
「嘘だぁぁあああ!信じない!俺は絶対に信じないぞぉぉぉおおおおおお!」
「おぉ、すごい勢いでヘッドバイキングしてるな………あれって結構頭が痛くなるんだけど、すごいなこいつ」
泣き叫びながら頭を振るその姿は、ヘビーメタルなミュージシャンが見れば褒めてた耐えそうな勢いだ。
「うぉぉぉぉおおおお!」
「おぉぉぉぉいいいい!やめろ!壁に頭を打ち付けるな!壁に穴が空いたらどうするつもりだ!?」
え?これの心配?
やだなぁ。なんで俺がこんなゴミの心配をしないといけないんだ?
この事務所はルールさんの形見だ。
勇者にここで死なれるよりここを壊される方が辛い。
というか多分この勇者は早めに死んだ方が世のためかもしれないと本気で思う。
「でぇ?相手は誰だってぇ?」
「怖いっ!お前はゾンビかなにかか!頭から血を流しながら近寄ってくるな!」
「相手は誰だぁ」
「落ち着け!寄るな!寄るな触るな血を拭け!」
「誰なんだぁぁぁぁあああああ!!!!」
「ぎゃぁぁぁああああ」
一時間後、俺は髪を乾かしながら椅子に座る。
今の今まで風呂に入っていたからだ。
何処かの誰かが血塗れのまま襲ってくるものだから、身体中に奴の血が付着して気持ち悪いったらない。
「相手はちゃんと女の子だったよ。多少………いやかなり問題はあったけど」
「お、女だと!?許さん!絶対に許さんぞ!」
「一応俺からも言わせてもらうと、エルマくんはやめといた方がいい。脈なしすぎだ」
ロリコンで男。
もう俺には手のつけようもないんだ。
許せ……。
「脈がない道だとしても!その道が例え険しく辛いものだったとしても!俺は諦めない!この命を懸けてでも俺はこの道を進む!」
「だからこんなどうでもいいことで、そんなカッコいいセリフを言うんじゃない!」
後の決戦とかにとっとけよ。
あ、決戦といえば。
「そういえばお前、前に幼女にボコボコにされなかったか?」
「ん?知ってたのか?」
「まぁな」
そのボコボコにした相手がまさかウチで一緒に住んでいるなんて思わないだろうなぁ。
「いやぁ、まさかこんな街にあんな大物がいるなんて思わなかったぜ。聞いて驚け?あの第四魔王だぞ。夜の支配者にして不老不死の象徴。一昔前は魔王といえばあのクシャナ・ライフロスト・ナイトメアだったんだ。なぜか近年ではだいぶ落ち着いて、そのせいで今では第四魔王なんて呼ばれてるんだけどな」
「じゃあなんだ?あいつ元々は第一魔王だったとか?」
「んや、唯一魔王だ。魔族はみんなあの女に傅いてたらしい」
「ほぉ、あんな幼女がねぇ」
「……あのクシャナ・ライフロスト・ナイトメア相手に幼女呼ばわりとは…。俺の時もそうだけど、もしかして店主って実は大物だったりするのか?」
「まさか。俺はただの小市民だよ。知り合いがちょっと変わってるだけのな」
天界人に大魔王、勇者に殺人鬼にロリコンにレズに復讐少女……………。
ついでに俺は不死身の人間。
………ホントに俺の周りってろくな奴がいない気がする。
「よし、今日はもうお開きだ。俺は疲れた」
「そうか?じゃあそうしよう」
もう今日もいろいろあって疲労困憊だ。
なんで毎日こんな濃い一日を送らないといけないんだか。
「あ、最後に。エルマくんを見守るのはもうやめとけ。でないとホントに通報されるから」
「……わかった」
不服そうに頷いたゴミ勇者は、扉をあけて出て行った。
これでようやく俺にも平和な時間が訪れると、心の底から安心したのだった。