というかシャルの兄貴って実の妹のブルマを被ってたのか?
春眠暁を覚えず
…………眠い。
「兄さんのバカぁぁ!」
「は、はい………すみません」
俺は例によっていつものごとくシャルに怒られていた。
そろそろ「あーはいはい。今度は何したんですか?」と思っていらっしゃる方も多いと思われます。
ええその通り。
また私が悪いのでございます。
え?そんなことは知っているって?
そうですか?
そうですよね……。
ごめんなさい。
「いや、実はね。これには深〜い事情があるんだよ」
「へぇ〜。事情ですか?一体どんな事情があって私にこんなに悲しい思いをさせるんですか?」
「す、すみません……」
シャルはもう怒りを通り越して悲しみが勝ってしまったらしい。
俺を見つめる瞳はとても辛そうだった。
「謝罪は何度か聞きました。ただ私は、なんで私のブルマを被っていたのかを聞きたいだけなんですよ」
「いや………えっと……。なんと言えばいいのやら」
そう、なんと言えばいいのか分からない。
あれは数時間前。
変態を相手にしてヘトヘトになって家へ帰って来た時に話は戻る。
「ただいま」
家に帰ると誰もいなかった。
それもそうだろう。
シャルは今日は学校に行っているし、マールは何をしているのか大抵十九時を回ってからしか帰って来ない。
クシャナはソロちゃんに連れ回されてなかなか帰って来られない。
だからまあ、帰って来て俺一人なんてことは結構ざらにあるのだ。
そう言えばマール曰く子の世界にもブルマが存在しているという。
ブルマ…………そう!あのブルマだ!
我が世界では今や絶滅指定されている聖遺物。
それのために学校では盗難事件が相次いだ。
それがここでは未だに使われている。
俺は写真やアニメでしか見たことがないが是非とも実物をこの目で見てみたい。
俺はそっとシャルの部屋に侵入した。
タンスを開けるとそこにあったのはカラフルなパンツ。
………ここは違うらしい。
ん?勝手に入って大丈夫かって?
大丈夫大丈夫。
シャルはまだ帰って来ない。
バレなければ大丈夫。
タンスを開ける。
ようやく見つけた。
これが本物のブルマ……。
どうやらこっちの世界では百パーセント布でできているらしい。
どうして男はこんなただの布切れに欲情を催すのだろうか?
不思議なものだ。
こうして本物を見ても俺は全く欲情しない。
聞いていたのと違うじゃないか。
「全く分からん」
ちょうどそこに誰かが帰って来た。
時間帯から推察するに恐らくシャルだろう。
シャルは一目散にこの部屋に向かって来ている。
背後に退路はなく、前からは鬼が来る。
さて、どうしようか。
俺はそこで妙案が浮かんだ。
要するに俺だとバレなければいいんだ。
そして俺は正体を隠すために、その手に持っていたものを頭から被った。
それと同時に開かれる扉。
「な、何してるんですか……。兄さん?」
一発でバレました。
というかことがあった。
あぁそうともさ。
確かに俺が悪い。
だが、俺は俺の知的好奇心が止められなかったんだ。
仕方ないだろ。
「なにを開き直ったような顔をしているんですか?全く……これでは兄様と同じじゃないですか」
「兄様?」
「あ、いえ。なんでもありません」
しまったといった表情のシャルはそうやって誤魔化した。
いや、全然誤魔化せてはないんだけど。
「というかシャルの兄貴って実の妹のブルマを被ってたのか?」
「被るだけならまだ良かったんですけど……」
「いやいやよくないでしょ?だって実の妹でしょ?しかも被るに収まらなかったんだ」
「ある日私が学校から帰宅して、用事があったので兄の部屋に行ったんです。そしたらそこには私のブルマが壁に貼り付けてあったんです………それも私がいつ穿いたのかのかまで明確に表記されていました」
「それなら気づかなかったのか?減ってたんだろ?ブルマ」
「そこが兄の恐ろしいところなんです。毎回何処かから新品を調達して来てこっそり入れ換えるんです。部屋に鍵をつけても必ず破られますし…………」
「そ、それはかなり強烈だな……。家出したくなる気持ちもわかるわ」
もしも俺がシャルだったら、たとえ身内であってもお巡りさんに突き出してると思う。
「私はこれでいて結構兄さんの事を信頼してるんです。ですからお願いです。私を失望させるようなことはしないでください」
「すいません。ホントにすいません」
まさかシャルからそこまで信頼されているなんて思っていなかった。
てっきりシャルにとって俺はただの便利屋かなにかだと思われていると思っていたんだけど、意外だ…。
「ただいまぁ〜」
「帰ったぞ」
ちょうどそこに残りの二人が帰って来た。
それでお説教は一応の終結を得た。
なぜだか、俺の知らないシャルのことを知れて、俺は少し嬉しく思った。
「よし、今日の夕飯はオムライスだ。卵はどうする?」
「あ、私はタンポポで」
「では私も」
「普通に包むように」
「了解」
こうして今日も終わっていく。
そしてまた、明日がやって来るのだった。