小さな女の子は最高だと思います!
「ストーカーがいるんです」
目の前に座る少年はお茶を一口含んでからそういった。
「そ、そうですか………。ちなみに相手に心当たりは?」
「実は最近あるお方から告白されて、それを断った次の日あたりからよくウチの周りを彷徨いたり、出かけ先について来たりしてるんです」
……………やばい。心当たりしかない。
もしかしたら俺はそのストーカーを知っているかもしれない。
いや、まず間違いなくあいつだろう。
だって今依頼に来ているのは何を隠そう、今俺を困らせている元凶エルマくんその人なのだから。
「それでもう怖くて怖くて……でも親にも相談し辛いし、冒険者の人たちに依頼するような内容でもないし。そんな時にここのことを友達から聞いて藁にもすがる思いで来たんです」
すいません。
そのストーカーも頻繁にここを出入りしてます。
ついでに言えばどこぞの天界人からのアドバイスをそのまま伝えてしまったのも俺です。
もうなんと言っていいのやら………。
というかあいつもアピールの意味を履き違えてるのがいけないんだ。
なんであいつはいつもいつもストーキング方面にしか動けないんだ。
もう、一回死んでしまえ!
「そんなわけで、お願いします。ストーカーをやめさせてください。できれば一生近づかないようにしてください!」
一生近づかないようにって…………仮にもイケメンは勇者相手に言うセリフではないな。
やっぱりあいつは女にはモテるが男には嫌われるタイプだったか…。
「えっと、確認のためそのストーカーが誰なのか教えてくれますかな?」
「はい……その、実はストーカーは勇者様なんです」
ですよね〜。
「分かりました。見つけ次第とっ捕まえてこちらで話をします。場合によっては牢獄に打ち込む所存ですので安心してください」
これも全て勝手に暴走して突っ走ったあいつが悪い。
いくら勇者相手でも法の力は有効だろう。
もう十年くらいは牢屋で反省してもらいたい。
「あ、ありがとうございます!よかった……店主の人がローロさんの言う通り頼れる人で」
そうかそうか。
俺は頼れる人か。
そうだクソ勇者、俺はお前の想い人からこんな風に思われてるんだぞ。
羨ましいだろ!
って、男に言われてもなんにも嬉しくないセリフなんですけどね。
まあ、男だという事前情報がなければもっと舞い上がっていたかもしれないけれど。
……………ん?
なんか今一瞬聞き覚えのある名前が聞こえた気がするんだけれど?
「えー、エルマくん?誰からここのことを教えてもらったって?」
「え?あぁ、友達のローロさんです。ちょっと変わった名前で、ローロ・ルルール・ルーラーって名前なんですけど………そう言えば店主さんのことを『お兄ちゃん』と呼んでましたけど、ご兄妹なんですか?」
「あー、まぁいろいろと事情があるんだが、一応兄のように慕ってもらってるな」
「そうなんですね。………実は僕、ローロさんのことが気になってまして。そのここって恋愛相談も受け付けているんでしょうか?」
ん!?
なんか話が大き変わって来たんですけど!?
ストーカー相談から今度は恋愛相談ですか。
「そうですね。法に触れない限りはどのような相談も受け付けますよ」
特に恋愛相談なんてついこの間、噂のストーカーにされたばかりだし。
「そう言えばエルマくんって今いくつなんでしたっけ?」
「えっと十四歳です」
「十四歳……。十四歳ね」
ローロちゃんが九歳。
…………なんでだろう。
すっごく嫌な予感がする。
お願いだから当たらないでください。
「ちなみにローロちゃんは今九歳なんですけど、五つ年が離れていることについてはどう考えていますか?」
「小さな女の子は最高だと思います!」
息を荒げながらそう宣言した。
……………。
もうやだぁ!
この世界の人間は変態しかいないの!?
ストーカーの次はロリコンですか!?
なんでこう厄介な依頼ばかり来るんだよ!
「えっと、エルマくんはローロちゃんのどこが好きなんですか?」
「もちろん小さな身体です!無邪気で元気な姿も魅力的です!あんな可愛い子と付き合えたら毎日幸せでしょうね……」
その実片手剣を購入して、人を一人本気で殺そうとしているなんて知らないんだろうな。
「えっとですね。ローロちゃんの兄的な立場から言わせてもらっていいでしょうか?」
「はい、もちろんです!」
許可が出た。
これで遠慮はいらないな。
「二度とローロちゃんに近づくな。このロリコン野郎」
「そ、そんなぁ!」
よくもまあそんな事を俺の前で言えるものだ。
誰が交際なんて認めるか。
これで中身が真っ当なら俺だって考えた。
でもこれはもう考えるまでもなく突き放していいのではなかろうか?
というか見た目とのギャップがやばい。
こんな人畜無害そうな顔して中身は変態とか最悪な部類だろ。
今度ローロちゃんには付き合う相手は考えるように言っておいたほうがいいかもしれない。
「といわけで、ストーカー対策については責任持ってやらせてもらいますが、恋愛相談の方は聞かなかったことにします」
相手はこれでも客だ。
一応の慈悲はくれてやろう。
「では、仕事が完了しましたらこちらから連絡します」
そう言って俺は話を終わらせた。
………一応ローロちゃんには護衛を付けておくとしよう。
俺は縋り付くエルマくんを強引に事務所から追い出して、鍵を閉めた。
ホントに碌でもない奴しかいないなこの世界は。
そして俺は、ステラ姉に頼んで勇者を呼び出すのだった。