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王家内にて


「いやぁ〜、金持って感じが堪らないねぇ」


だだっ広い個室の中で、だだっ広いベッドに寝転がり独り言を呟く。

その声はただひたすらに部屋の中を木霊するばかりだった。


「明日はお父様に会うのだから、あまりそういうだらしないこと言わないでよ?」


と思ったが、どうやらコユキちゃんが居たらしい。

苦笑いのコユキちゃんがこちらに歩いてくる。

そして、ぽふっと俺の隣に腰を下ろした。

なに?誘ってるのかしら?


「襲ってもいいけれど、その後の命の保証はしないわよ?」


どうやら俺の考えることなんて筒抜けらしい。

挑発的な笑みを浮かべて俺に向ける。

それがなんとも似合うやらなんやらで不覚にもドキリとさせられた。


「あぁ、俺もこんな家に住んでみたいよ」


「今住んでるじゃない?」


「そういうことじゃなくてだね?」


しかし、途中で説明が面倒になり、言葉を止めた。

対してコユキちゃんはそんな俺の態度が気に入らなかったのか、不満そうに頬を膨らませている。

だからと言って説明してやるつもりはない。


「でもビックリしたわ。まさかあの子があんなにもあなたに懐くなんて」


「俺もビックリだ。なんでこう子供にばかりモテるのだろうか?」


ローロちゃんといいヒメちゃんといい、この世界にやって来てからというもの小さい女の子に大人気の耀くんだった。

個人的には、せめて同い年かそれ以上は欲しい。



「モテモテで良かったじゃない。よっ、色男!」


「オヤジか!全く、なんでそういうネタを知ってるんだよ」


「うん、でもね?冗談抜きにしてもあの子ってあまり人に懐かないのよ。私も今の関係になるのに三年はかかったわ。それをよくもまあ数分で抜いてくれたわね?」


「別に抜いてはないだろ?」


「私は『お姉様』って呼んでもらうのに実質二年近くかけたわ。それで?あなたが『お兄様』って呼んでもらうのにはどれだけかかったかしら?」


「まあ数時間ってところだな」


「そういうことはサラッと言うのね………」


そう言って再び苦笑いを浮かべるコユキちゃん。

はて、なにか変なことでも言っただろうか?

聞かれたから答えただけなのに。


「今のは皮肉っていうの。真面目に答えられても困るのよ」


「そんなの知ってて今の返しだ」


「………あなた意外と性格悪いのね?」


「そんなの野盗たちに襲われた時から知ってるだろ?」


「そうだった……」


頭を抱えるコユキちゃんを眺めていると、どうにもニヤニヤが止まらない。

なんだろう、このイジメがいのある生き物は?


「さっきののあなたの発言じゃないけど、私はあの子のような人生がよかったわ」


頭を抱えるのをやめたコユキちゃんは真面目な表情で切り出した。

しかし、さっきの俺の発言ってなんだ?

全然覚えてないんですけど。


「私は産まれてからずっと、なに不自由なく生きてきたわ。飢えも知らないし、いつでも綺麗な服を着られて、可愛いアクセサリーだってたくさん買ってもらえたわ」


「羨ましい限りじゃないか?俺なんてこっちに来て早々一文無しだったぞ?」


「それもそれですごい人生を送ってるわね……。スリにでも遭ったの?」


「いや、もともとお金なんて持ってなかったし」


「どうして一文無しで家を出て来ちゃったのかしら?この子は……」


「まあそういうこともあるだろ」


いや、ねぇよ!

自分で言ってて言うのもなんだけど、そんなことまずないからな?


「もう!あなたが茶々入れるから話が逸れちゃったじゃない!」


「えぇ〜、悪いの私なんですか?」


「当たり前じゃない……。まあそんなことは置いといて、まあとにかく私は結構いい暮らしをして来たわ。でもね、その代わり私には自由がないの。私の人生はずっとレールの上を走ってる。決められた未来、約束された将来。そんなものに縛られてるの。だから何度も夢見たわ。私を攫ってくれる王子様をね?」


そう言ってチラリと俺に視線を送ってくる。

俺はその視線をただただ、左に受け流した。


「そんなのそこら中に居るんじゃないか?あんたほどの美人なら街でちょっと声かけるだけですぐに見つかるだろ?」


「…………そこは『俺が攫ってやるよ』の一言くらいあってもいいのじゃないかしら?」


「やだよ。そんなことしたら俺罪人になっちゃうじゃん。捕まったら死刑になっちゃうじゃないか。知ってる?首切られるのって滅茶苦茶痛いんだよ?」


「なんであなたはそんなこと知ってるのよ………なんてツッコんだら負けなのかしら?」


「それにさ、『決められた未来』?『約束された将来』?望むところじゃないか。なにも考えなくて将来職に就けるんだ。就職氷河期の人間が聞いたら泣いて喜ぶぞ?世の中には働きたくても働けない人たちは五万といるんだ。それに、活気付いているこの町の裏にだって今を生きるのに必死な人たちがいる。それを考えてみろ?あんたの今の境遇は誰がどう見ても羨むべきものだと思うぞ?まあぶっちゃけ、持っている人の『羨ましいわぁ』発言なんて俺たちからしてみればただの嫌味でしかないわけだ」


「それは………そうだけど…」


「つまり俺が言いたいのは、今まで良い暮らしして来てるんだから、そのくらいの不自由は当たり前だろ?要は等価交換なのさ。まあそれを言い出したらヒメちゃんだって碌に自由はないし、国にとってはいない者として扱われて、それで得られるのが人からの無関心ときた。俺だったら絶対に羨んだりはしないな」


「……………………」


ひとしきり語り終えると、コユキちゃんは押し黙ってしまった。

気づけば自分のことは棚に上げて、少し言いすぎてしまったようだ。


「ちょ、ちょっと意地悪を言いすぎたかな?悪いね、俺は仲良くなった相手にはとことん口が回るんだ。だからホント…………不敬罪とかで殺されないよね……?」


「……そんな泣きそうになるくらいならいい最初から言わなきゃいいのに………」


「ごもっともです…」


取り敢えずコユキちゃんの表情を見るに、死刑なんてことはなさそうでよかった。


「ま、家族でさえ私にここまでのことを言ったことはないんだけどね。普通なら不敬罪とかで殺されるわよ?」


「調子に乗りましたぁ!すみません!」


例によっていつもの如く、俺は地面に伏して謝った。

プライドはないのかって?そんなもの命の前には塵も同じだろ!


「それじゃあ私は戻るわね。もしも私がここにいることでもバレれば、あなた私を部屋に連れ込んだって言って殺されちゃうだろうし」


「!?さっさと出てけ!」


なんて危ない橋を渡りやがる!?

しかも殺されるのは俺一人とか、それなんてイジメ?


「ふふふっ、さっき生意気言った仕返しよ。それじゃあね」


そう言って笑いながらコユキちゃんは部屋を出て行った。

はてさて、俺はここでの生活に何日耐えられるのだろうか?

…………もうやだ、お家帰りたい…。

新作企画進行中です。

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