人生危険なくらいがちょうどいいのよ♪
先週休んですみません
「それじゃあヒメちゃんも見つかったことだし本題に入ろっか」
「え?あれ?」
「どうかした?」
「い、いや……てっきり「うちの妹に馴れ馴れしいんだこらぁ!」とか言われると思ってたんだけど……」
「?なんで?いいことじゃない。それに、結局のところ遅いか早いかの問題だったわけだし」
「……………はい?」
今、この王女様のそっくりさんはなんと言った?
俺の聞き間違いでなければ『遅いか早いかの問題』って聞こえたんですけど……。
「ふふっ。そして本題に入るけど、私からの依頼はキミにヒメちゃんの遊び相手になってもらいたいってことなんだよ!」
「遊び相手………?」
確かにウチは『相談所』とは言っているものの、ベースはルールさんの存命の頃からやっている何でも屋だ。
だから、庭の草引き、飼い猫捜索、赤ちゃんの面倒などなど犯罪以外ならば何でも引き受ける。
けど……。
「それなら別にウチみたいなところに依頼しなくても良かったんじゃないのか?」
なにせ彼女の家系は王族だ。
別にウチのような売れない何でも屋を雇わなくても、専門の誰かを雇えばいい。
それだけの力がこの家にはあるはずなのだ。
「あはは……やっぱりそう思うよねぇ……。でも、ちゃんと事情はあるんだよ」
「事情?」
「う〜ん、これって言っちゃってもいいのかな?…………ま、いっか!」
え?なに?何か聞いたらまずいことでも聞かされるの?
めちゃくちゃ怖いんですけど。
「実はヒメちゃんってハーフなんだよ」
「ハーフ?」
ハーフって言ったらあれか?オネエな人とか外国の人との間に生まれた子供とかのあれか?
「そう、ヒメちゃんは人間とハイエルフのハーフなんだよ」
「……………マジで?」
「うん、マジ」
「で、そういうわけで王族としてはこの子の存在を公にすることができないの。そのせいでヒメちゃんは外の世界を全く知らないし、友達もいないのよ」
『友達もいない』という言葉に俺は過剰に反応した。
それは思いっきり、日本での俺の姿そのもの。
俺は、みんなが放課後どこかに遊びに行く中、独り家へ直帰する日々を思い出した。
クラスメート達の楽しそうな笑い声を背に教室を出た思い出は未だに消えない。
「でもね、遊び相手に誰かを雇おうにも本当にその人が信用できるかも分からないし、もしも信用できない人に当たった場合王族としては不味いのよ。と、いうわけでクロウに連絡して誰か信用できる人材はいないかって聞いたらキミの名前が上がったってわけ」
「よくそれだけのことで俺のことを信用したな……」
「まあ私も直接会うまでは半信半疑だったんだけどねぇ……」
なんだよその気になる言い方…?
え?どこで信用を勝ち取ったんだ?全然分からないんだけど。
「ぶっちゃけ直勘?ってやつ。話してみてピンと来た」
「なんて危険な綱渡りをしてるんだよこのお姫様は…」
「人生危険なくらいがちょうどいいのよ♪」
「俺は安全に生きたいな…」
「何を言っているの?刺激のない人生なんて死んでいるも同然よ?」
「刺激よりも安定した生活が送りたい……」
どうやらどこまで行っても平行線のままのようだ。
やっぱりアクティブな人とは合わないわ。
「そんなわけでお願いできないかな?」
「いや、王城まで来ておいて断るつもりはないけど、本人の意思も確認するべきなんじゃなかろうか?」
「それもそうね。ヒメちゃん、彼のこと気に入った?」
あれあれ?
なにか聞き方がおかしくないかしら?
「……はい、すごくいい人だと思います。なんといいますか、すごく温かいです」
照れくさげに頬を染めながらコユキちゃんの質問に肯定する。
本人がいる前で言わせるなよ。
と思うのは俺だけなのだろうか?
「ほら、本人からオッケーが出たしお願いね?」
「………了解。でも言っておくけど、上品なことはできないからな?」
「そんなの気にしなくてもいいわよ。私からの依頼はあくまでヒメちゃんの遊び相手。私もできるだけ来るつもりだからよろしく」
あんたも来るのかい!
「そういえば期間ってどのくらいになるんだ?」
「あ、そういえば決めてなかったわね。ん〜、一ヶ月更新でどうかしら?」
「更新制か……」
「えぇ、基本こっちから切ることはしないわ。キミがまだ続けたいって思ったらそのまま契約更新ってことで」
「随分といい待遇だな」
「こっちからお願いして来てもらってるんだから当然んでしょ?それじゃあ私はまだ公務が残ってるから行くわね」
そう言うとコユキちゃんは部屋を出て行った。
公務って聞くと、やっぱりコユキちゃんは王女なんだなと再認識させられる。
むしろこんな風に友達の接するみたいに接しられていることの方がありえないことなのだ。
「さて、また二人取り残されたわけなんだけどこれから何をしようか?」
「リバーシ!」
またっ!?
どんだけハマってるんだよ!?
まあ雇われている身としてはクライアントの言うことは絶対なんだけどさ……。
「う〜ん、他のゲームもやらない?」
「他のゲームですか?」
「うん、こういうやつ」
そう言って俺は両手の指を一本ずつ立てて前に出す。
そうしてルールを説明する。
「なるほど、つまりお互いの指を叩き合って最終的に相手の両手を無くした方が勝ち…と」
「そういうことだ。俺がユキヒメちゃんくらいの歳の頃はよく流行ったんだけどな」
しかし流行なんて一過性のもので、高校に上がると既に別の遊びが流行っていた。
まあ友達のいなかった俺は、結局誰ともやったことがないんだけどね。…………ふふっ。
「そういえばこれってどういうゲームなんですか?」
「………え?」
「ゲームの名前です。きっとリバーシみたいなカッコいい名前があるんですよね?」
「あー、いやー。これは〜」
これってどういう名前なのだろうか?
周りの人たちがやってるのを見ても、「これやろーぜ」としか言っていなかった。
「これ」ってなんだよ!?
あの当時はそう思った気がするけど、いつの間にかどうでもよくなったんだっけ?
だって誰ともやる機会なかったし。
でも、名前がないのも厄介だな。
まさかゲーム名が「これ」と言うわけにもいかないし、特にこんなに期待に満ちた目をした少女に「これといった名前はない」なんて口が裂けても言えない。
だからと言って名前を作るにしても、ネーミングセンス皆無な俺が付けたところでユキヒメちゃんの満足するものが付けられる保証はない。
よし、ここは一か八かだ。
「いつか教えてあげるよ」
必殺、問題の先送り!
頑張れ未来の俺。
恨むのならゲームを考案しておいて名前を考案しなかった創作者を恨んでおくれ。
「じゃあ私から始めますね!」
こうして俺たちは名も無きゲームを始めたのだった。