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第3話

編集しました。


「さて、ここまででようやく前編が終わったわけなんだけど…………ってお前らちゃんと聞けよ!」


俺はさして興味のなさそうな三人に声を荒げた。

そもそも、この過去話を始めたのには理由がある。

ものはほんの一時間前。


「最近兄さんが冷たいんですが」


シャルが突然何か言いだした。


「なんだよ急に?」


「だってそうじゃない。初めてあった時の兄さんにはもっと優しさがあったのに、今ではちょっと自分のプリン食べられただけで短気を起こす」


「おいコラ、なんで俺が悪いみたいになってるの?おかしくない?」


他の二人に意見を求めるが、誰一人として俺を助けてはくれない。

そうだよね。この家での俺の扱いってこんなもんだよね……。


「初めて会った時のことですか。そういえば私がここにきた時には、もうシャルもクシャナもこの家に居たんですよね………実際のところみなさんどういう順番でここにきたんですか?」


「そうだな。ワタシが来た頃にはシャルもヨウも居た気がするが……」


「一応言っておきますけど、私が住んで居たところに兄さんがやって来たんですからね!しかも初対面であんな……っ」


シャルがいろいろ思い出しているのか、顔を真っ赤にしていた。

そういえばこの三人と暮らすようになって早いことに一年と半年が経った。

お互いをよく知るために、ここらで過去の話をするのも悪くないかもしれない。


「というか、私からしたらどうして人間だったヨウさんがクシャナさんの下僕になってるのかが気になるところなんですが」


「あー、そういえば私も詳しくは聞いてないね。そのうち話すからと言ってクシャナさんを連れて来て、それから有耶無耶にされた感じ」


「………じゃあいい機会だからいろいろ話そうじゃないか。それで満足だろ」


「ど、どうしても話したいと言うのなら聞いてあげる」


「はやくしてください」


「ふぁぁぁ〜。なるだけ短めに頼むぞ」


三人が興味を持ったところで俺は思い出すように語りだした。

俺が如何にして今この場所にいるのかを…。


「あれはそうだな。夏の夜のことだ_______」


と言うわけで三人のために語っていたはずなんだが、いつの間にかシャルはマールとカードゲームを始め、クシャナに至っては爆睡している。


「だって、今のは全部知ってることだし」


「いや、それでも少しは興味持とうよ」


「そしてそのあと、妹がいなくて寂しがってる兄さんのために私は兄さんを兄さんと呼ぶようになり、兄さんはそっちが兄と呼ぶならこっちは愛称で呼んでやる!と言ってシャルと呼ぶようになった。と」


「待て、それは完全にネタバレではないか?」


そこって結構大事なシーンだと思うんだけど。

男女のお互いの呼び方が変わるシーンってもっと盛り上がるもんじゃないの?

なんでそんな淡白にめんどくさそうに語っちゃうのかな?

まぁ大して熱いシーンではないんだけど。


「そんな事より、その話っていつまで続くんですか?私はもう飽きたんですけど」


「お前らなぁ……」


なんか無性に悲しくなってきた。

どうしてウチの人間はこうも適当なんだろうか?


「そもそも私は兄さんが異世界人ってところに驚きなんだけど」


「そうですね。普通に言葉は通じますし、全く違和感なく一般人Cをやっていけそうです」


「ABがどこに行ったのかは知らないけど、よくよく考えたら一番遠慮がなくなってきているのはむしろお前らの方じゃないか?」


「何を言っているんですか?少なくとも私は遠慮深く思慮深い淑女中の淑女ですよ?」


「そうそう、私みたいな可愛い可愛い妹を捕まえて酷いよね」


「へぇ〜、ほぉ〜、ふぅ〜ん?」


「あ!この男今「何言っちゃんてんのこいつ」って顔しました!」


「サイテー!」


何故か俺が二人から非難を浴びる。

何故か俺がだ。

大事な事なので二回言っておいた。


「だいたい、異世界人とか言ってますけど証拠はあるんですかぁ?うゎいたぁ!」


ニヤニヤと嫌味ったらしく言ってくるマールには鉄拳制裁をくわえた。

だってうざかったんだもん。


「殴りましたね?この神聖なる天界人ことマール・エマール様を殴りましたね!?」


「言っとくが、さっきのプリンだって俺の世界のおやつなんだからな?」


「…………調子に乗りました。今は反省、いやさ猛省しております」


ちょろいなぁ。

俺の前に平伏すマールを見下しながら、俺は大きく頷いた。


「俺がいたのは日本って言う国で、この世界みたいに低レベルな文化圏ではなく科学の発展した素晴らしい国だったんだよ」


「兄さん?どこの何が低レベル何でしょうか?」


シャルが敬語になった。

しかも影のある満面の笑みを浮かべて。

これはほぼほぼ間違いなくキレてるわ。


「科学がなんだか知りませんが、魔法に比べれば底が知れてます。魔法は世界の真理を表し、また探求するためのもの。そこに底など存在することもなく、この広大なる空の如く限りはないんです。というわけなので、低レベルな文化という言葉は取り消して」


さ、流石魔法オタク………。

もう宗教といって差し支えないレベルで魔法に心酔している。


だがこっちだって引く気は無い。


「お前科学を舐めるなよ?科学はな………」


それから不毛な争いは続き、気づけば口論を初めて一時間が経過していた。


「なるほど、魔法も素晴らしい文化じゃないか」


「科学もね。聞いていてとても興味が湧くもの」


俺とシャルは固く握手をする。

そこにあるのはお互いへの尊敬の念と、固い友情だった。


「あの……。ちょっといいですか?」


一人置いていかれていたマールがおずおずと手を挙げた。


「ヨウさんはこの世界に来てどれくらいなんですか?」


「え?えっとだなぁ、だいたいで言うと一年半くらいだな」


「気になったんですが、ヨウさんは一年半経った今、最初ほど必死に帰ろうと思ってないですよね?」


「いや、そんなことは…………。あれ?………あぁ〜確かにそうかも」


言われてみればそんな気がする。

別にこの世界に不満があるわけでもない。

むしろ可愛い女の子三人と一つ屋根の下一緒に暮らせている今の環境を率先して手放そうとは思わない。

言ってしまえば、ここ半年近くは帰りたいと思ったことすらなかった。


まあ、あれだろう。

なんだかんだと面倒なことも多いが、俺は案外この世界を気に入っているのだろう。


「では、そろそろ夜も遅いですし私は寝ますね」


「あ、私も」


マールに続いてシャルもで部屋を出ていく。

時計を見れば確かにもういい時間だ。

思いの外思い出話が長くなってしまったようだ。


約一名ここで眠っている幼女を除けばここにはもう誰もいない。

結局彼女らは後編に入る前に話に飽きてしまったらしい。


「ほら、クシャナ。お前も寝るのなら自分の部屋で寝なさい」


「ん〜」


まるで母親みたいだななんて自分ながらに思いながら、クシャナが自分の部屋にふらふらと入って行くのを見届けて俺も自室に帰る。


さてさて、後編を語ることになるのは一体何時になるのやら………。


俺はベットに倒れこみ、意識を手放した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「久しぶりですね。ツユリさん」


…………目の前に懐かしくも忌々しい顔が現れた。

その名をばウォレット・アヴェンジーとなんいいける。

今から約一年半前俺とルールさんを裏切り、命を奪った張本人。

ある意味では俺にとって切っても切れない仲の相手だ。


「何ですか?そんな嫌そうなをして。もしかしてまだあの時のこと根に持ってるんですか?全く、小さい男ですね」


「悪いけど自分とその恩人を殺した相手を簡単に許せるほど器の大きい男じゃないんだよ」


「あぁ、ツユリさんは器も小さかったんですね。やはり器とあそこの大きさは比例するのでしょうか?」


「あそこの大きさは関係ないだろ!?小さくないし!てかなんで俺のあそこの大きさは知ってるんだよ!」


「ツユリさんの言うあそこがどこかは分かりませんが、私が言っているのは心臓のことですよ?」


騙されたよ!

だから俺この人嫌い!

なんかすっごいニヤついてるし!


「さてさて、お遊びはここまでにして本題に入りましょうか」


そう言うと、ニヤケ顔をやめた。

そして代わりに刺すような殺気が辺りに充満し始めた。

気がつけば周りに人はおらず、まるで世界に二人だけのような錯覚を覚える。

これは前にもあった。

確か人払いの結界だったか。

俺が殺された時にも張られ、本人からご丁寧に説明も受けたためよく覚えている。


「ツユリさんは今、あの何でも屋を継いで店主になったんですよね?」


「それがどうした?あと、今のあの店は『フレイヤ相談所』だ」


「名前なんてどうでもいいんですよ」


どうでもいいだと!?

この名前は俺が三日三晩悩んで、そしてステラ姉と相談して決まった俺たちの努力の結晶。それをどうでもいいだと!?


「ふざけるな!このおっぱい星人!」


「なっ、なななななななにが誰がおっぱい星人ですか!」


顔を真っ赤にして抗議を始めるウォレット。

どうやらこういうところは一年半前とさほど変わっていないようで安心だ。

いやいや、なにが安心なんだろう?

懐かしい光景を目の当たりにして感傷にでも浸ってしまったのだろうか。


「でも実際、あれからまた少し大きなったんじゃないか?」


「た、確かにFカップからHカップに上がりましたけど………ってなにを言わせるんですか!この変態大魔神!」


「誰が変態か?俺は立派な紳士だぞ」


というか大魔神とか言うのはやめてくれ。

どっかの大魔王が対抗意識を燃やしてきたらどうするつもりだ。

………なんかシャルと初対面の時にもこんなことを言ったような気がする。


「うるさい変態紳士!女の敵!お前のちん◯ん不能!」


「ふ、不能じゃないやい!ちゃんと現役バリバリだ!というかお前の方が変態だろ!このムッツリ処女ビッチ!」


「む、ムッツリ………こ、殺す!コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!絶対殺してやる!」


「やれるもんならやってみろ!淫乱処女の殺人鬼!」


売り言葉に買い言葉だった。

分かって欲しいのは、決して意図して言ったわけでもなければ溜まっていた鬱憤が爆発したわけでもない。

ただ殺すと言われたから挑発しただけなんだ。


スパッ。


と、俺の上半身と下半身は分裂した。

ウォレットの手には鉈が握られている。

以前俺を殺した時と同じものだった。


「痛いじゃないか」


「喋ったっ!?」


地面に突っ伏していた顔をウォレットに向ける。

まさか殺した相手が喋るとは思っていなかったのだろう。

ウォレットは可愛らしく驚いた後、


「キモ…」


蔑むような目で横たわる俺を見下した。

やばい。何かに目覚めそうだ。


俺は何かに目覚めてしまう前に、両腕を使って下半身の元に行き、断面にくっつけた。

すると不思議なことに俺の上半身と下半身が合体した。

…………なんでだろう。凄く卑猥なことを言った気がする。


「うわっ!くっついた!?キモ!ツユリさんちょっと見ない間に随分と気持ちの悪い身体になりましたね!?」


「誰のせいだ!誰の!全てはお前にチョンパされたことが原因だろ!」


「な、なるほど。ではこれからはツユリさんのことをチョンパーと呼ばなくてはいけませんね。おはようございますチョンパーさん」


「なんだろう。帽子を被った喋るトナカイが俺の頭の中で手を挙げて挨拶を返しているよ」


「なんですかそれ?」


「さぁ、なんだろうね?」


さて、また話が脱線してしまった。

まあいいか。


「それじゃあ俺は行くからな」


「早くどっか行ってください。変態」


これ以上相手をするのも面倒くさい。

幸いウォレットの方も俺への話を忘れているようだし、今のうちにトンズラしてしまおう。


「あっ」


ウォレットが何かを思い出したようだ。


「そういえばツユリさんの所為で完全に忘れていましたけど、私はヨウさんに用があって来たんでした。ヨウだけに」


「いや、全然上手くないから」


ドヤァとこちらを見るウォレットを一蹴。

ムッとした表情をしていたが、当然無視。


「なんと言いますか、ツユリさん私に冷たくなりましたよね?かつてのパートナーだというのに」


「自分の胸に手を当てて理由をよく考えろ。お前に至っては冷たくされる理由しかないだろ」


「ま、まだ胸の話を続けるつもりかぁぁぁああ!?」


「それはお前だろ!?」


どんだけ気にしてるんだよ。

いいじゃないか、十四歳でHカップ。

十五歳でBの人だっているんだから。

誰とは敢えて言わないけど。


「もう、さっさと要件を言え。本当に帰るぞ?」


「せっかちな男ですね。女性に嫌われますよ?」


ほっとけ!


「やっと本題に入れますね。実はツユリさんに頼みがあって来たんですよ」


「ほう、俺に?一度は殺したこの俺に?正気か?頭でも打った?病院行こ?」


切られました。

綺麗に四当分された。


「本当に気持ち悪い現象ですね。それどういう原理なんですか?」


当然のように身体を合体させた俺を見て、ウォレットはそんな声を漏らした。


「原理までは知らんが、あの後一人の幼女に命を救われてこうして今も生きていますよ」


「うわぁ〜、変態な上にロリコン………いえ、ガチペドですか………。お願いですから半径一キロ以内に入らないでくださいね?」


「じゃあもう帰っていいかな?」


「一キロ先で話を聞いていてください」


「無茶言うな。そんなこと常人ができると思ってるの?」


「ヨウさんは未だに常人を名乗るんですね?どう見ても化け物なんですけど」


「否定できないところが辛い………」


って、また話が逸れてるし……。


「それで、頼みって?」


「あぁ、そんな話でしたね。全く、ツユリさんと話していると脱線してばかりです」


こっちのセリフだよ!

と言いたいのをグッと堪える。

なぜなら、ここでそんなことを言えばまた話が脱線するからだ。

俺だって学習しているんだよ!



「ツユリさん。私をもう一度雇ってください」



………………は?



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「お兄ちゃん!」


可愛らしい声とともに背中にぽふんと軽い衝撃が伝わってくる。

振り返ると少女が俺の背中にしがみついていた。


「………ローロちゃん。頼むから外でこれはやめてくれないかな?最近近所で俺のロリコン疑惑が上がってるらしいんだ」


「ろりこん?なぁにそれ?」


「ローロちゃんみたいな小さな女の子に興奮を覚える変態の類な人だよ」


「お兄ちゃん変態さんなの?」


「違うよ?お兄ちゃんは紳士だよ」


「そうなんだぁ」


なぜか落ち込んでいるこの少女はローロ・ルルール・ルーラー。

あのルールさんの実の妹で、現在九歳の元気な女の子だ。


ルールさんが生きている時からよく事務所の方に遊びに来ていて、その流れで仲良くなった。

しかし一つだけ言っておきたいのは、お兄ちゃん呼びは決して俺が強要したわけじゃないからな?


「お兄ちゃんはこれから事務所?」


「うん、そうだよ。ちょっと厄介な話を持ってこられて困ってるけど」


「そうなの?私もなにか手伝う?」


「いや、それには及ばないよ。子供は元気に遊んで来なさい」


「むー、私はもう子供じゃないもん」


「そこですぐムキになるのが子供の証拠だ」


そもそも言えるわけがない。

ウォレットはルールさんの直接の仇だ。

そんな人の再雇用の話なんてできるはずがない。

あの日のローロちゃんの言葉は未だに俺の耳に残っている。


「許さない。殺してやる」


まだわずか八歳でしかなかった少女がそんなことを言ったのだ。

当時の俺も同じような気持ちになった。

けれど今日会って認識した。

俺ではウォレットを殺すどころか傷一つつけられない。

それだけの実力差が俺とウォレットの間にはあるのだ。

いくら死なないからと言って強くなったわけではない。

結局のところ無敵と最強は全く違うものなのだ。


「お兄ちゃん?」


「あ、いや。なんでもない」


そう、なんでもないんだ。

そもそも、強制されたことではない。

あくまでお願いだとウォレットも言っていた。

断ったところで何も問題はない。

ところで、お願いの割には鉈を突きつけて来ていたのには何か理由があるのだろうか?


「そう言うローロちゃんは何してるの?」


「ふふふ〜。それはひ・み・つ♪だよ」


「そうかー。じゃあ仕方がないな」


「あ、あれ?そこで引いちゃうの!?」


「え?秘密なんでしょ?」


「いやいや、そこは「なんだよ〜。そんなこと言わずに教えてくれよ〜。ぐへへへ」じゃないの!?」


「うん、そんなこと言ったら逮捕されちゃうかもね」


「そっか………でも大丈夫!お兄ちゃんが檻の中にぶち込まれても私は毎日面会に行ってあげるから!」


「その前に俺の冤罪を晴らしてあげてほしいかな……」


こう言うところはどことなくルールさんに似ている。

独自の価値観と俺をからかう時の表情が瓜二つだ。

幸いローロちゃんには人の心を読む能力はないみたいだし、そう言う面はルールさんを相手にするよりは楽なんだけど。


「今日の私は友達とお買い物なのです!」


「へぇ、何を買うの?」


「えっと〜。うぅぅ恥ずかしいよぉ」


顔を真っ赤にしてもじもじし始めるローロちゃん。

当然通りすがりの方々から冷ややかな視線を向けられる。


「…………無理して言わなくてもいいんだよ?」


「えっと日用品を少々とこれを………」


そう言って取り出したのは立派な片手剣。

そう、あの片手剣。

およそ一般人、九歳の子供が購入するようなものではない。

せいぜい冒険者あたりが購入する物だろう。


「えっと………なんでこんな物を?」


「だって………お姉ちゃんの仇を殺すためには武器は必要でしょう?」


怖っ!?

無邪気な瞳が殺人鬼のそれに一瞬で変貌した。

と思ったのも一瞬。すぐにいつものローロちゃんに戻ってあどけない笑みを浮かべた。

冗談………なんだよね?


「でね、あの女を殺した後はお兄ちゃんと結婚してあげるの!だってお兄ちゃんモテそうにないもんね?」


「ワーイウレシイナー」


嬉しすぎて涙が出てくるよー。


「お兄ちゃん?なんで泣いてるの?」


「うん、ローロちゃんの優しさと残酷さに感動したんだよ」


「えへへ〜照れちゃうな〜」


っと、ついうっかり話し込んでしまった。


「ごめんローロちゃん。お兄ちゃんそろそろ行かないと」


「えー、でもお仕事なら仕方ないよね………」


「じゃあ今度一緒に遊びに行こうか」


「うん!絶対だよ!」


暗い表情から一転して太陽のような眩い笑顔が俺を照らした。

やっぱローロちゃんには笑顔が一番だ。


「あ、そういえばステラお姉ちゃんがお兄ちゃんを見つけたらすぐに事務所に来るようにって言ってたんだった。お仕事だって」


「ローロちゃん!?今しっかりたっぷり話し込んじゃってたんですが!?」


思いっきり三十分ほどでは話し込んでたけど大丈夫か?

時計を見ればウォレットの件もあって既に一時間以上遅刻している。


「ダッシュだよ!お兄ちゃん!」


「それじゃあローロちゃん。またね!」


俺は事務所に向けて全力で走り出したのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ストーカーじゃない!俺はただ彼女の全てを知りたいだけなんだ!」


「「それをストーカーというんだよ」」


依頼者の名前はクロウ・メニア。十七歳。

職業は勇者。

見た目は確かに勇者という感じの見た目で、腰にはなんか強そうな剣を携えている。


そんな男がなぜうちの事務所にいるのかといえば、なんてことないただの恋愛相談だ。


いや、ただのではないか。

所謂ストーカーの依頼だ。


「ただ俺はこの子が普段どんな事をしていて、どんな人達と関わり、朝起きる時間や夜寝る時間、身体はどこから洗うのか……とかを知りたいだけで」


「「だからね、それがストーカーなんだよ」」


「えっと、うちの概要をよく見てくれましたか?犯罪行為には加担しませんとちゃんと書いてあると思うんですが」


なんか面倒くさい奴に絡まれた。

ここはさっさと断って帰ってもらうのが一番だろう。

一応ステラ姉に無言で確認を取ると、「追い返して良し」との許可が下りた。

ステラ姉もこの客が面倒に思ったのだろう。


「というわけですので、今件は見送らせてもらいますね」


「ちょ、ちょっと待って!」


「………なんですか?」


心底鬱陶しい。

だいたいお前は勇者だろ?

無駄にイケメンなんだから一言声をかければ一発で女なんて落ちるだろ?

死ねリア充!


「分かった。じゃあ聞こう。どこまでならオッケーなんだ?一日中彼女に張り込んでもらうのが無理なら、どうすれば俺の依頼を聞いてもらえるんだ?」


「………………とりあえず他力本願を止める事ですね」


悩んだ末に、俺はこの男の相談に乗ってやることにした。


「他力本願を止めるとはどういうことだ?つまりは自分で彼女に一日中貼り付けばいいのか?」


「だからね、それだとストーカーになっちゃうでしょ?」


「じゃあどうすればいいんだ!?」


「はぁ、まずは背景を説明してください。いつ、どこで、なにが、どうなってそんなストーカーをしようとしたのか」


実は俺たちは未だにその背景を聞いていなかった。

この場所に来たこの変態勇者はいきなり写真を突きつけて「この子について調べて欲しい!できれば一日中張り込み調査してくれ!」そう言った。

この時若干嫌な予感はしていたが、話を聞き進めていくと案の定ヤバイ案件だった。


「そ、そうだな………あれは四日前のことだった……」


そして勇者は語り始めた。

そして三十分ほどで聞き終わった。


「なるほど、つまりあんたとこの子は既に顔見知りなんですね?」


無駄に長ったらしい説明だったので簡潔に説明すると、ギルドの討伐依頼を遂行した帰りにゴブリンの群れに襲われていた彼女を助けたらしい。

それでなんだかんだあって変態勇者は彼女にほの字ということだ。


「だったら普通に会いに行けばいいと思います。で、食事なり買い物なり誘っとけばだいたい上手くいくと思いますよ?少なくともあんたはイケメンだし、相手が女の子ならまず振られることはないと思いますし」


「そ、そうか?」


「えぇ、……ってか近い!寄るな!」


「ぐへっ!」


テーブルを乗り越えて来た変態勇者を右足で蹴り飛ばす。

やっぱり女ウケはいいだろう。

まぁ男ウケは悪いけど。


「とにかくっ!明日早速誘ってみてください。話はその後に聞きますから!」


「あ、ああ!行ってくる!ありがとう!」


そう言い残し、変態勇者は事務所を走り去った。

きっともう来ることはないだろう。

さようなら変態勇者。

ありがとう変態勇者。


「ところでヨウくん。今日はどうして遅刻したのか詳しく説明してもらえますか?」


そういえば一番厄介な案件を抱えてたんだった。

無駄に面倒くさい依頼人の所為で完全に飛んでた。


「いや、実は___________」


俺はここに来る途中の話をステラ姉にした。

当然ローロちゃんとイチャついた話は省略させてもらったがね。


「………なるほど。ウォレットさんの再雇用ですか」


ステラ姉の顔は晴れない。

当然だ。ステラ姉だってルールさんのことを姉のように慕っていた。

そんな姉のような存在を殺されたんだ。その怒りは相当だっただろう。


「正直なことを言いますと、今すぐぶっ殺してやりたい気分です」


「そ、そうですか………」


おい、ウォレット。

あんた相当嫌われてるぞ?

悪いことは言わないから今すぐどっかに消えた方がいい。

というか消えてくれ。


「ですが、断ればなにをしでかすか分かったものじゃないですからね。置いておけるのなら目の届く範囲に置いておきたいのも本音です」


確かに、あの女が短期を起こして暴れたら多分この事務所の誰にも止められないだろう。

それならあのおっぱい殺人鬼を見えるところに置いておいて監視をした方が平和的だ。

いざとなれば俺が何百回でもあいつが飽きるまで殺され続ければいいだけだ。

で、その場合の問題は……


「ローロちゃんになんて説明するかですね」


「そうですね……最悪変装させるなりボコボコにして元が誰だか分からなくするなりすればいいと思います」


「ステラ姉結構エグいこと考えますよね……」


「そうですか?私にとっては普通なのですが」


「余計怖いよ……」


と、一番の古株からのお許しが出たということでウォレットをこの事務所に再度迎えることになった。

なお、説得の結果変装で誤魔化すという結論に落ち着いた。


「ところで、ローロちゃんとお喋りは楽しかったですか?」


「な、なぜそれを………?」


「さっきローロちゃんから連絡がありましたので」


「ローロちゃん!?」


まさかの身内からの裏切りに、俺の心は深く傷ついたのだった。


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