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ツユリですけど。なんですか?


「私は彼が好きです。だから縁談には出るつもりはありません」


シャルが父親たるバルリット氏に啖呵を切った。

その隣にはもちろん俺が控えている。

宣言を聞いたバルリット氏の俺を見る目が痛い。

それはもう今すぐにでも帰りたいくらいに、そこにいるのが辛くて仕方ない。


「シャルよ。自分がなにを言っているのか分かっているのか?」


「はい、縁談をドタキャンするなんてスターロット家の名を汚すことになるでしょう」


「それならば私が言いたいことも分かっているな?」


遠回しに『認めない』と言っているのだ。

恐らく俺が報告していたならばストレートに言われていただろう。

それを見越したシャルは、『私から言いたいの』と今回の提案をあげたのだ。


「もちろん分かっていますよ。ですが、私は諦めるつもりはありません。どうしても反対だと言うのであればこのスターロットの名前をを捨てるつもりです」


「なっ」


バルリット氏が絶句する。

それもそうだろう。

可愛い娘が絶縁さえも覚悟していると言うのだから父親としては心穏やかではいられないだろう。

いや、だからってこっちを睨まれても困るんだけどさ。


「ウチを出て行ってそれからどうするつもりだ?若い女が一人で生きていけるほど世界は甘くはないぞ?それに学校の学費だってウチで出しているんだ。スターロット家の名を捨てるということはその学校も辞めなければいけないのだぞ?」


「もとよりそのつもりです。お父様が納得されるとは欠片も思っていませんでしたから」


いや、だからね、そんなに睨まれても俺にはなにも言えないんですから。


「だ、第一君!えっと、ツ……なんとかくん」


「ツユリですけど。なんですか?」


「ええい!名前なんてどうでもいい!第一君はシャルのことを異性として見ていないと言っていたではないか!あれは嘘だったのか!」


「いいえ、嘘ではないです。あの段階ではまだ異性として見ていなかったので。まあ言ってしまえば御宅の娘さんに落とされました」


「おとっ!?」


ゲーム風にいうのなら攻略されてしまった。

こうして結ばれてみると、シャルの一挙一束が可愛く思えて仕方ない。

それはもうまんまと攻略されてしまった。


「さて、そんな事よりも、フレイヤ相談所としての報告をさせてもらいますね。ドレッド」


「そんな事!?おい!そんな事とはなんだ!重要な事だろう!?」


唾を飛ばしながら突っ込んでくるバルリット氏を無視。


「では報告させていただきますね。アーシラ・へルミナスさんの素行を調査した結果、現時点では世間の噂通りの好青年でした。引き続き調査を続けます」


報告はひどくアッサリとしていた。

それにどこか不機嫌な雰囲気を醸し出している。

昨日ウォレットを放っぽり出したのを怒っているのかもしれない。


「いや、いやいや!今はそういう話をしているんじゃなくてだな!というか縁談が無くなるかもしれない今、そんな調査結果を聞かされてどうしろと言うんだ!?」


「私はただ仕事を全うしているだけですので」


やっぱり態度が冷たい。

いつものあの可愛らしさはどこへ行ってしまったのだろうか。


「シャルロット」


その一言で空気が張り詰めた。

声の方向にはシャルの母親、ライアさんが静かに座っている。

そういえば今日ここに来てからずっと黙っていた気がする。

ずっと緊張していた所為で完全に存在を忘れてしまっていたよ。

そして、ライアさんはシャルを睨みつけて、


「あなたは我がスターロット家には相応しくありません。今すぐ荷物をまとめて出て行きなさい」


突き放したのだった。



まあ、当然といえば当然の事なのだが、アーシラの身辺調査は本日をもって終了。

そして、シャルロットは今、自室で荷物をまとめている。

あの後、バルリット氏やワズリットがライアさんを説得しようと色々試みていたが、結局ライアさんが折れることはなく、俺たちを残して一人部屋を出て行ってしまった。

それはまるで、もう話すことは何もないと言わんばかりの態度だった。

それからはバルリット氏とワズリットがライアさんを追いかけて部屋を飛び出して行き、結果として自然に解散となってしまった

そういう経緯で、俺はスターロット家の門の前でシャルが出てくるのを待っている。

マールとドレッドには宿へ荷物を引き取りに行ってもらった。

結局、何が正解だったのだろう。

結果だけをみれば、俺がシャルの居場所を壊してしまったような形だ。

だったらあの時シャルを受け入れなければよかったのだろうか?

そうすれば少なくともシャルが家族と縁を切る必要はなかった。

でも、あのままでは第二の俺が誕生していただけだ。

そんな辛い思いをシャルにさせるわけにはいかない。

それに、俺も今更シャルと離れたくなんてない。

だから断言できる。

あの選択は決して間違いではなかったと。

ならばと、 俺はもう一度己に訊く。

一体何が正解だったのだろう。と。


「後悔しているのですか?」


「っ!?ら、ライアさん!?」


俺に声をかけたのは他でもないライアさんだった。


「ツユリさん……でしたよね。あなたはシャルを好きになった事を後悔しているのですか?」


どうしても聞きたい事なのか、再び問われる。

後悔しているかどうか。

もちろん後悔なんてしていない。

ただ、この胸を蝕む罪悪感が、もっと他にやりようはあったのではないかと、そんな風に問いかけてくるだけだ。


「俺は、シャル……ロットさんを好きになった事を後悔することはありません」


「なるほど、いい返事ですね。では、今あなたの表情を暗くしているのはきっと罪悪感なのでしょう。しかし、あなたが気に病む必要はありません。これはあの子が選んだ道なのです。その責任はどこまで行ってもあの子にしかない」


そんな風にまた、ライアさんはシャルを突き放したような事を言う。

確かに言っていることは正しい。

正しいのだけど……。


「それにしても、まさかあのシャルロットがあんな風に自分の意見を主張できるとは思っていませんでした」


「え?」


今まであんなに厳しい顔をしていた癖に、急にその表情が柔らかくなった。

その変化にかなり戸惑ってしまった。


「あの子は昔から、私達の言うことに素直に従ってきました。最初に一人暮らしをしたいと言った時には絶対に『スターロット家の名前を捨ててまで』とは言わなかったでしょう。少し見ない間に随分とバカな子に成長したようですね」


「バカって……そういう言い方はどうかと思います」


「あんなバカの分からず屋にしてしまった張本人には言われたくないですね」


「うっ」


それを言われるとこっちは何も言い返せない。

ライアさんは人の罪悪感をここぞとばかりに攻めてくる。

だけど、その表情はそう、シャルが俺の弱みに付け込む時の表情とそっくりだ。

シャルほどに分かりやすくはないけれど、どことなく楽しそうな顔をしていた。

なんというのだろう。

やっぱり親子なんだと安心した。

だからきっと、シャルを突き放したあの言葉だって…。


「ライアさん、あなたシャル……ロットさんのこと好きすぎでしょう?」


「………………………何を根拠に?」


その長い長い沈黙が何よりの根拠だ。とは流石に言えないかな。

しかし、この人根拠がないと納得できないのかな?


「俺はあなたの事を勘違いしていました。俺の中のあなたのイメージはもっと冷たい人だと思ってました」


「……それがどうして先ほどの言葉に繋がるのでしょう?」


「先に言えば、あなたがシャル………ロットさんの母親だから。というのが根拠です。シャル……ロットさんの母親が、ただ娘を突き放すだけの人なわけがない。きっとそこにはシャル…ロットさんを思いやった故の理由があるはずなんです」


「なぜ、あなたにそんなことが分かるのですか?」


「なぜか。と訊かれれば、そうですね………それは俺がシャルロットさんの恋人故ですね」


よし、決まった!

キリッとキメ顔を向けながら、俺はサムズアップする俺をライアさんはただただ黙って眺め続ける。

無表情、無反応。

眉ひとつ動かすことなく、ただひたすらに俺をジーっと眺め続ける。

やばい……泣きそう。

せめてなにか反応が欲しい。

寒いと罵るにしろ、気持ち悪いものを見る目を向けるにしろ、反応があれば多少は救われる。

だけど返ってくるのはただの無反応と沈黙。

その表情からは全く感情が読めない。

どれくらいそうしていただろうか?

永遠にも思えるその沈黙をライアさんはようやく破った。


「なるほど、納得しました。理解はできませんが納得しました」


「というと?」


「あなたの、その根拠のない自信は理解できませんが、シャルロットがあなたを好きになった理由は分かったという意味です」


「???」


そういえば、シャルはいつなにがきっかけで俺のことなんか好きになったのだろうか?


「そろそろあの子が戻ってきそうですね。安心してください、この場でした話は他言しません。あの気持ち悪いキメ顔と共に私の胸の中にしまっておきます」


「辞めて!?気持ち悪いキメ顔は今すぐ忘れて!?」


「あ、それとシャルロットの学費についてはなにも心配する必要はありません。私の方でなんとかしておきます」


「元からそのつもりでしたよね?」


「さぁ、それはどうでしょうね。あなたのご想像にお任せします」


そう言うと、ツンデレさんは家の中に引っ込んで行った。

それとすれ違うようにシャルがこちらに歩いてくる。

すれ違いざまに二人は一瞬見つめ合いそのまま会話をせずにすれ違って行った。

が、シャルがライアさんの横をすり抜けると、ライアさんはシャルを振り返り、ぼそりとなにかを呟いた。

その声は俺の元までは聞こえなかった。

いや、あのツンデレさんのことだからもとより誰かに聞かせる気もなかったのかもしれない。

けれど、なんとなく俺にはなにを言ったのか分かるような気がする。


「全く、本当にツンデレさんだな」


「???なにか言った?」


「いや、別に」


「むぅ、お母様となにを話してたの?」


「内緒だ」


「なんで?」


「二人だけの話秘密だから」


「!?ちょ!兄さん!?彼女の母親になにをしてるの!?」


とてもひどい勘違いをされているような気がする………。

俺は隣に並んで問い詰めてくるシャル眺める。


「な、なに?」


「頑張れ」


「は?え?なに?急に……」


「いや、伝わるべき言葉を伝わるべき人間に伝えたくなっただけさ」


「………兄さんたまにそういう意味の分からないこと言うよね?」


「意味が分からないなら辞書を引け」


「や、そう意味じゃないから」


ジトーと睨んでくるシャルの視線を躱しながら、俺はふと聞いてみたい事を思い出した。


「そういえばシャルは俺のどこに惚れたんだ?」


「それは……」


シャルは落ち着きなく視線を彷徨わせた後、ニコリと可愛らしい笑みを浮かべた。


「内緒です!」



第1章 It's the story of a little love.

end


ついについに、第1章が完結しました!

ここまで体感的には結構長かった気がします。

しかしなんとか第1章を完結まで持ってこれました。

途中で章の名前が変更されたりしましたけど……。

でも、なにが恐ろしいかといえばこの物語、90%くらいはただの会話だけで成り立っているんですよね。

アクションとか魔法詠唱とか実は一回もなかったことにお気づきでしょうか?

いや、私自身まさか会話だけで章一つを終わらせるなんて夢にも思っていませんでしたよ。本当に。


さて、これにて第1章が終わるのですが、章のタイトル『It's the story of a little love』というのは、まあそのままの意味で『それは小さな恋の物語』です。

第1章後半を読んでもらえればこの意味は理解できると思われます。


最後になりますが、ここまでお付き合い頂いたことに先ず感謝を、そしてこれからもよろしくお願いします。

あと、シナリオ評価、ブクマ、感想をつけてもらえれば幸いです。


では、また第2章『This is a precious you minor wish』(仮)で会いましょう!

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