父様。その話少し待ってもらえませんか?
今週中にもう一本とか言っておいて、結局出さなかったじゃねぇかこの野郎!
そう思った方々、申し訳ありません。
怠けました。
すみません。
伏してお詫びします。
さて、先週に発表した通り週一更新にします。
つきましては毎週月曜日とさせてもらいます。
いや、本当にすみませんでした。
「待って、縁談ってなんのことですか?」
シャルのその一言に、その場の全員が固まった。
スターロット家の面々は「しまった」と言うように。
俺は「あれ、まだ聞いてなかったの?」と。
いやね?シャルが帰省してから既に二日目だと言うのに、この両親が何も話していなかったと言う事実の方が不思議だと思わない?
「そ、それはだな。実は追々話そうと思って機を伺っていたんだ」
お父さんは冷や汗をかきながら必死に取り繕っている。
お母さんはと言うと、ただひたすらにニコニコしていた。
「もしかして大切な話ってその事だったのですか?」
「そ、そうだ。お前もそろそろいい歳だ。結婚を考えてもいい頃だろう」
「いい歳って……」
まだ十五でしょ?
あ、でもこの世界での成人は十四からだし別にいいのか?
「お、お父様!そんな事勝手に決められても」
「あぁ、もちろん私はシャルの自主性を重んじたいと思っている。いつもだって縁談は断っていたさ。が、今回はあのへルミナス家たっての希望。断れなかった」
「だ、だからって!」
「しかし、シャルがへルミナスのご子息とお付き合いしているのなら安心だ」
お父さんはシャルの反論を遮る。
「評判ではとてもできた男だと聞いている。私も彼になら安心して娘を任せられるとおもう」
「あ、あのお父様!」
「父様。その話少し待ってもらえませんか?」
口を挟んだのはワズリット。
まあ確かにワズリットにとってはこの話が進むのは面白くないだろうけど、なんかいい感じにまとまってきたのをぶち壊すなよ。
「待て、とはどういうことだ?」
「父様は評判だけを聞いてその男を判断しているようですが、本当にそれでいいのでしょうか?」
「何が言いたい?」
「もしかしたら外では皮を被っているかもしれないということです」
「それは誰しもそうだろう」
「しかし結婚すれば当然一緒に暮らすことになります。そうなれば知らなかった本当の顔を知ることにもなりましょう」
「外面ばかりよくても本当の顔はどうだか。そう言いたいのだな」
「はい。そこで私は信頼できる筋に身辺調査を依頼しました。それが彼、ツユリ・ヨウさんです」
あぁ、そうやって持っていくわけね。
「初めまして、フレイヤ相談所所長ツユリ・ヨウです」
今回はシャルの友人としてではなく、ビジネスマンとして挨拶する。
当然名刺も出したし。
「……なるほど、つまり彼はシャルの友人としてではなく、ワズリット、お前の客人として来たわけだな」
「はい、その通りです」
ようやく、俺が何をしにここに来たのかが説明された。
そういえば仕事としか言ってなかったもんなぁ。
「ツユリくんといったかな?例えシャルの友人であったとしても、報酬を支払う限りはしっかり働いてもらう。当然特別視もしない。いいな?」
「もちろんです。当然自分たちの事は自分たちでどうにかします」
「それが分かっているのならばいい。くれぐれも、よろしく頼むぞ」
「はい、フレイヤ相談所の威信にかけてでも」
そう言って俺はニヤリと笑った。
「で、なんで着いてくるんだよ」
俺は背後を振り返り、スターロット家からずっと着いて来ている面々を睨みつけた。
「別に……ただ行き先が同じなだけ」
「そうですよー。じいしきかじょうですよ」
ツンとそっぽを向くシャルと音の鳴らない口笛を吹くマール。
そして、
「………………」
ブツブツと何かを呟きながら着いてくるワズリット。
正直この人が一番怖い。
だって目が死んでるんだもの。
虚ろな目でブツブツブツブツと何かを呟きながら淡々と背後を着いて来られるんだよ!
「ところでにい……ヨウさん。まさかと思いますが、そちらの女性と同じ部屋で泊まるつもりじゃないですよね?」
訂正、シャルも怖い。
ニッコリといい笑顔のはずなのに、凄く怖い。
例の黒い笑顔だ。
「そ、それは……」
当然そのつもりだった。
二人ぶんの部屋を取るよりも、一部屋で二人寝たほうが費用も抑えられる。
でもなぜか、ここでそれを言うのは憚られる。
シャルから溢れ出るプレッシャーがそう言うことを許さない。
しかし、
「もちろんそのつもりですけれど」
ドレッドはそんなものなんのその、事前に打ち合わせていた内容を思いっきり喋りよった。
「そうですよね?ヨウさん」
え、笑顔が眩しい!
ウォレットの時には絶対に見ることのできない可愛らしい笑顔だ。
「そうなんですか?ヨウさん」
だ、誰か………助けて…。
マールに視線を送るが、
「……………」
無視!?
じゃあワズリット
「…………」
まだなんか呟いてる!?
もう、どうでもいいです……。
俺は全てを諦め、シャルを無視しつつ今日から泊まる宿屋を探し始めたのだった。




