お仕事でございますです
ある日の朝
ヨ「エイプリルフールだってさ」
シ「なに?それ」
ヨ「俺の世界の文化で、なんでも嘘を吐いていい日なんだよ」
シ「そうなんだ?ちなみに私、今日が誕生日なんだよ」
ヨ「え、マジで?」
シ「うん、マジです。というわけで兄さん。私になにかプレゼントをちょうだい」
ヨ「え…いきなり言われてもなぁ。よし、じゃあお小遣いをあげよう」
シ「いいの?」
ヨ「ああ、誕生日なら仕方ない。ほら、金貨五枚でいいか?」
シ「十分だよ。ありがとうございます♪」
その日の夕方。
ヨ「なあ、今日四月一日はシャルの誕生日らしいぞ」
マ「え?シャルロットさんの誕生日は七月七日ですよ?」
ヨ「え?」
マ「え?」
ヨ「……………………」
マ「ど、どうしたんですか?」
ヨ「だ、騙されたぁぁぁあああ!」
シ「こんな事にならないように、嘘も程々にしましょうね♪」
「なんでにい……ヨウさんが兄様と一緒にいるんですか!」
「す、すみません」
シャル、怒る。
俺、土下座する。
もはやお約束とも言えるこのやり取りを、ワズリット、ドレッド、そしてシャルの両親はぽかーんとして見ていた。
マールに至ってはいつものことと言わんばかりに欠伸をしている。
昨日は眠れなかったのだろうか?
「しかもこんなにも可愛い女の子を連れてなにをしてるんですか!」
「お仕事でございますです」
「そうですか、にい…ヨウさんのお仕事は可愛い可愛い女の子と一緒に旅行する事なんですね。よ〜く分かりました」
「なんでそんなにトゲのある言い方なの?あと、あんまり可愛いって言うとドレッドが照れちゃうからやめたげて」
と言っても時すでに遅し。
ドレッドは俺の背後で膝を抱えてしまった。
「……百歩譲って、にい…ヨウさんがお仕事で来たことは認めましょう。けれど、兄様と行動しているその意味が分かりません!」
「それはもちろん依頼人だからで……」
「そんなの断っちゃってください!」
余程ワズリットの事が嫌いなのか、シャルは俺がこの人と関わるのが嫌らしい。
まあ自業自得なんだろうけどさ。
それよりも今の俺には、ご両親のこの「誰だよこいつ」って目線の方が気になるんですけど。
「シャルロット、この方たちは貴方のお知り合い?」
話がひと段落した辺りで、シャルの母親が会話に割って入った。
そうだろうね。
これから見合いさせるという娘に男の知り合いがいたら困るもんね。
紹介を求められたシャルも、どう紹介したら良いかと狼狽えている。
一緒の家で住んでます♪なんて絶対言えないからな。
それを見かねた俺は土下座したままに、自己紹介をした。
「はい、わたくしはツユリ・ヨウと申します。シャルロットさんには部屋を貸している身にあります」
嘘は言ってない!
俺はルールさんの遺言によって、あの家と事務所の権利を受け取っている。
つまり俺が大家で彼女が住人。
俺ってやっぱり天才ではなかろうか。
「あぁ!そう言えばそうでしたね!一緒に住んでるものだから完全に忘れちゃってました!」
空気が凍りつくのを、俺は感じた。
その元凶は、さっきのさっきまでこっちに微塵も興味を持っていなかった人物、マール・エマール。
その空気の読めなさは、場の空気を一瞬で凍りつかせる事ができる。
なんて現実逃避してる場合じゃなかった!
なんてこと言ってくれるんだよ!この駄天使!
そんなだからお前はどこに行ってもボッチなんだよ!
「詳しく話を聞いてもよろしいでしょうか?」
両親の目が怖い。
ワズリットの目も怖い。
あぁ、もしかして、今日が俺の命日になるのかしら。
そして、緊急五者面談が開幕した。
「一緒に住んでるとはどういう事ですかな?」
お父さん?声がもうヤ◯ザなんですけど。
超怖いんですけど!
「嫁入り前の娘と同棲なんてなにを考えているのですか?」
お母さん!?
こういう時ってなんだかんだでお母さんが助けに入る流れじゃないの!?
「えっとですね………」
俺はこれまでの流れをご両親に報告した。
俺が路頭に迷った辺りから全てだ。
「というわけで、娘さんには大変助けられました」
「なるほど、キミの言い分は理解した。しかし、間違いというのは付き物だ。私どもはキミのことをよく知らない。故に信用することもできない。なにか娘に手を出してはいないという明確な根拠が欲しいのだが」
「確かにその通りですね。では言いますと、実は私は娘さんを異性として見ていません」
「え……」
シャルのなにかショックを受けたような声が聞こえたが今は無視だ。
「確かにシャル………ロットさんはとても魅力的な女の子だとは思います。しかし、私にとってシャル……ロットさんは妹のようなもので、決して恋愛対象ではありません」
「それを証明する根拠は?」
シャルのお父さんは鋭い視線を俺に向けてくる。
そんな視線を一身に受けながら、俺は意を決して言うことにした。
「私には既に心に決めた女性がいるので」
「えっ!?」
シャルが声をあげて驚いている。
そう言えばシャルたちにはこの話はしてなかったっけ?
「もっとも、彼女は今行方不明で何処にいるのか分かりませんけれど」
「差し支えなければそれがどなたなのかお聞きしても?」
「私の故郷の幼馴染ですよ」
「故郷ですか?」
「えぇ、日本という島国の、岐阜という小さな町です」
「ニホン?ギフ?」
まあ分からないだろうけどね。
「そんなわけで、娘さんをどうこうしたわけでも、娘さんをどうこうするつもりもありませんのでご心配なく」
言い切って初めて、シャルの表情が暗いことに気がついた。
やはりいきなりこんな展開になって緊張しちゃったのかな?
「それに、シャルロットさんには既に彼氏がいるようなので」
「なっ!?兄さん!なにを!?」
「…………ツユリくんと言ったかな?詳しく聞かせてもらえますかな?」
狼狽えるシャルを尻目に、俺は報告を続けた。
そして、ある衝撃の事実に行き当たった。
「アーシラ・へルミナスくんは今回の縁談相手だ」
「「「えっ?」」」
俺とシャル、そしてワズリットは声を揃えて思わず聞き返してしまったのだった。
三月をなんとか完走しました!
気がつけばいつの間にか六万文字を超えていました。
ここまで読んでくださった皆様方、どうもありがとうございます。
さて、今作品ですが予定通り毎日更新するのは三月までとさせてもらいます。
ぶっちゃけると、もうストックはとっくの昔に底をつき、ほとんどが書いては載せ書いては載せの状態でした。
そのため、所々「ん?」と思われる場面も多々あったと思います。
それでなんですが、四月からは週に一度の更新に切り替えようと思っています。
具体的にはまだ決めてはいませんが、今週中にもう一本出すので詳細はその時の後書きに書かせてもらいます。
というわけで、今後も頑張っていくので皆さんよろしくお願いします!




