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シャルと結婚するのはこの私だ!


「どうか力を貸してもらいたい」


現在俺はフレイア相談所の所長室で、依頼人と面会していた。

相手の男は珍しいことに和服を着用しており、侍を彷彿とさせた。

そんな男がこんな寂れた店に何の用なのかといえば、なんでも妹に縁談が来ていて、それをぶち壊したいから手を貸してくれということだ。


「あの、ウチに依頼に来てもらえるのは嬉しいのですが、ウチは犯罪には一切手を貸さないことがモットーでして。聞いた感じ今件は法に抵触すると思うんです」


「いや、そんな事はありません。あなた方は我が名にかけて絶対に守ってみせましょう。だからこの通り!」


そう言って恥ずかしげもなく土下座する男を見て、本当にその妹のことが大事なんだなと思った。

そんな兄貴の姿を見せられたら、同じく一人の妹を持つ兄としては断りきれない。


「どうしましょうか?ステラ姉」


「そうですね……その前に一つ質問です」


「なんなりと」


「貴方は我が名にかけてと言いました。しかし、未だ私たちは貴方が何者なのかを知らない。とりあえず貴方の名前はなんですか?」


確かにステラ姉の言う通りだった。

俺は、未だに彼の名前さえも知らない。

それで我が名に懸けてなんて言われても信用できるわけがない。

流石ステラ姉。頭のキレは事務所一だ。


「そういえばそうでした。失敬、私としたことが完全に失念していました。我が名はワズリット・スターロット。スターロット家次期当主にあたる者です」


「スターロット………まさかっ」


ステラ姉には心当たりがあるようだ。

ってあれ?スターロットって確かシャルの家名だった気がするんだけど?

いやいや、流石にピンポイントでシャル家じゃないだろ。

ほら、日本でも同じ名字の大金持ちなんてザラにいるわけだしさ、きっとそれと同じだよ。


しかし、そんな俺の思い込みは、ステラ姉によって打ち砕かれた。


「つまり、貴方はシャルロットさんのお兄さんという認識でいいのですか?」


「はい、シャルロット・スターロットは確かに私の賢妹です」


という事らしい。

そういえばシャルはそんなことを言っていたような気がするな。

変態の兄がいるって………?

変態の……兄?

こんなにも紳士的な人が変態の兄?

いやいやいや、実はもう一人兄がいてそっちが変態とかそういうオチでしょ。


「それで、なぜウチに依頼に来たのですか?他にも貴方の家の近くに同じような店はいくらでもあったでしょうに」


「確かに他にもたくさんありました。しかし、そのどこも正直信用できないんです。しかし、ここは妹が信頼を置いている店です。ならば私も信用できましょう」


妹が信頼しているから自分も信頼する…ね。

そんな盲目的でいいのだろうか?

でも、俺にはそんな事よりどうしても聞きたいことがあった。


「ステラ姉、ステラ姉」


「なんですか?」


小声で呼びかけると、ステラ姉も小声で返して来た。

こういう空気の読める所は本当に助かる。

俺の周りって空気の読める人間が少ないから希少なんだよ。


「スターロット家ってどんな家なの?」


「あぁ、そういえばヨウくんは知らないんでしたっけ?スターロット家というのは、昔からある名家で、今は昔ほどの力はないですがそれでも発言力は健在です。シャルロットさんはその家の長女にあたります」


…………うっそぉ。

どうしよ、そんな大層な人間と普通に一緒に住んで、普通に喧嘩して、普通に着替え覗いちゃってたんですけど!

なにこれ、バレたら下手したら死刑なんてこともあり得ると?

シャルロットさま、どうか誰にも言わないでくださいね。


「えっと、それでシャル………ロットさんの縁談をぶち壊しにしてほしいという依頼でしたね。一体なにが気に入らないんですか?」


完全にそれていた話題を無理やりねじ込んだ。

下手なことを喋って墓穴を掘りたくないし、早い所終わらせて帰ってもらおう。


「なにが気に入らないのか、ですか。………そんなの縁談そのものに決まってるじゃないですか!」


お、おぅ。


「大事な大事な妹に変な虫が付くんですよ!これを放っておいていいのか?いや、放っておけるわけがない!シャルと結婚するのはこの私だ!」


あぁ、やっぱりこの人が変態の兄だ…。

多分シャルの事になるとダメになる類の人だな。


「ちなみに相手の人が酷い人間ということではないんですよね?」


「はい、巷では大層な人格者と話題です。しかし!私は信じない!ああいう人間には必ず裏がある者なのだ!」


ええ、悲しい事に、俺は今あんたでそれを実感してる所だよ。


「というわけで、表向きには縁談の相手の身辺調査という事で依頼をしたいのです」


さっきまでの謎のプレッシャーは消え去り、元の紳士的な態度に戻った。

本当に、表と裏って怖いよね。


「ステラ姉、俺はこの依頼受けようと思うんだけどどうでしょう?」


「そうですね……いいと思います。受けましょう」


ステラ姉から許しが出たので、俺は机から契約書を取り出す。


「こちらにサインをお願いします」


「はい」


契約書にはワズリット・スターロットの名前と印が押された。

これで契約成立だ。

あとは……


「誰を連れて行くか、か」


今回はちょっと遠出になる。

旅費も必要になるのでできるだけ少人数で行きたい。


「では、ドレッドさんを連れて行ってはどうですか?あの子にも勉強は必要でしょうから」


ドレッドかぁ。

別にいいんだけどね?

でも途中でウォレットさん出て来ちゃったらどうするの。


「確かに心配ではありますけど、このままあの子に仕事を与えないというのも問題ですので、お願いします」


ステラ姉の頼みなら仕方ないか。

百回くらいの死は覚悟しておこう。


俺とウォレット、そしてワズリットを乗せた馬車がこの街を出たのは、その日の夕方近くだった。

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