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まあいいさ。次だ。行けワンコ!


「せーんぱい!」


「ん?」


背後から抱きつかれ、振り返るとそこにはシャーリーの姿があった。

なにが嬉しいのかすごい勢いで尻尾を振っている。

今にも千切れてどこかに飛んで行ってしまうのではないかとさえ思える。


「なにしてるんだ?」


「先輩こそなにをしてるんですか?」


「俺か?俺はあれだ。荷物もち?」


分かりやすいように両の手に携えた紙袋を掲げる。


「ほほう、ウチの事務所ではトップの先輩も家ではただの下っ端に過ぎないと」


「なんかその言い方ヤダ」


「そうですか?じゃあ休日のお父さん」


「ん〜、それも微妙にヤダな。第一俺に子供もいなければ嫁もいないんだよ」


自分で言っててすっごい傷ついた。

もう言うのやめよう。


「先輩は寂しい人生を歩んでいるんですね……」


「シャラップ!そこ!同情しない!」


「あれ?じゃあ先輩は一体誰の荷物持ちをしているんですか?」


「えっと……妹のような同居人」


「あー、聞いたことがります。先輩の幻の同居人」


「幻じゃないやい!ちゃんと存在してるよ!」


「それはどうでしょうかねぇ?もしかしたらそう思ってるのは先輩だけかもしれないですよぉ?」


「人を危ない人みたいに言うな。全く………そうだ」


いいこと思いついた。


「実はその相手と今逸れちゃってさ、お前の鼻で捜せないか?」


「むっふっふ〜。もちろんできますよ?なにせわたしはフレイヤ相談所で人捜しのエースなんですから!そのわたしに見つけられない人はいません」


「よし、それでこその期待の新人_________いや、一人の後輩を持つ頼れる先輩!」


「っ!?せ、先輩…………わたしが先輩……!よーし!頑張っちゃいますよぉ!」


ちょろい後輩だった。


「それじゃあとりあえずこの匂いを覚えてくれ」


そう言って差し出したのは、シャルの鞄から取り出したハンカチ。

これなら多分シャルの匂いもしっかりついているだろう………なんでだろう?今の俺の発言かなり変態っぽかったような気がする。

いや、気のせいだろう。うん。


「フンフン、覚えました!もうバッチリです!」


「ならば行け!フレイヤ相談所のワンコ!」


「わんわん!」


犬の真似をしつつ、シャーリーは走り出した。

いいのか?シャーリーよ、その扱いを許容してもいいのか……?


「先輩!近いですよ!」


「よし、行けー」


「わん!」


「……………」


いいのか?とうとう自分から言い出しちゃったけどいいのか?


「見つけました!ここです!」


「ここか!って………ここってウチじゃないか?」


「あれ?でも………あれ?」


なんかシャーリーが焦り出した。

どうしたと言うのだろうか?

いや、もしかしたらウチに帰ってきている可能性だってあると思うんだけど。


「とりあえず中を見てくる」


そして…


「いなかった」


部屋中を探し回ったが、残念ながらシャルの姿はなかった。

俺は荷物だけを中に置いてきて、外に出てきたわけなんだけど、


「シャーリーよ。信じたくはないけど、お前の鼻は役に立たない?」


「そ、そんなことないですよ!?ちゃんと役に立ちますよ!」


「まあ確かに匂いを追って俺の家を特定したわけだから、その鼻はちゃんと機能してるんだろうさ。でも、ちゃんと本人を探さないとダメだろ?」


「はい……」


いつも元気に立っている耳も尻尾も、今は落ち込んで萎れている。

ちょっと可哀想に見えてきた。


「まあいいさ。次だ。行けワンコ!」


「わ、わん!」


そしてウチの忠犬は再び走り出した。


そして。


「やっと追いついた……」


ようやくシャルの姿が見えた。

結構駆け回ってようやくだ。

超疲れた。


「ふっふっふ〜。どうですか先輩?わたしの鼻は役に立つでしょ?褒めて褒めてぇ」


「ああ、よく出来ました。よしよし」


「はふぅ〜。先輩のなでなで好きですぅ」


「はいはい、それはどうも」


気持ちよさそうに目を細めるシャーリー。

本当に犬のようだ。


「こ、こんな所まで追いかけて来るなんて………さてはお前シャルロットさんのストーカーだな!」


「あんな変態勇者と一緒にするな!」


あれと同じ扱いだと?

いやいや、俺は別にストーカーなんかではない。

断じてない。

ただ妹分が連れてかれたから追いかけただけ。

そう、決してストーカーなんかではない!


「先輩ストーカーなんですか?」


「違う!」


「変態さんなんですか?」


「だからね、何度も何度も言うようだけど、先輩は紳士だからね?変態さんじゃないからね?」


「でもみんなに言われてますよね?変態って」


「それはきっとあの勇者のことを指して言ってるんだよ」


「確かにあの人も変態さんでしたね…」


ほとんど面識のないシャーリーにまで変態と罵られるなんて、あいつはいろんな意味で勇者やってるんだろうな。


「なに二人だけの世界を作ってるんですか?」


「ん?」


声のする方向にいたのはシャルロット・スターロット。

ジトーと俺とシャーリーを見つめていた。


「だいたい、誰なんですか?その子」


「あ〜、この子はウチの店のアルバイトで、俺の後輩のシャーリー・ラゲッジ。見ての通りワンコだ」


「わん!」


楽しそうに犬のモノマネをするシャーリー。

何度も言うけど、君はそれでいいのか……?


「というか勝手に走って行かないでくれる?彼氏と遊びに行くのは構わんけど、せめて一言置いて行って欲しいかな。でないと心配するだろ」


「か、彼氏じゃありません!」


と必死に否定するあたり図星なのだろう。


「まあいいや。遊んで来るのはいいけど、夕飯はいるのか?」


「いります!というか別に彼氏なんかじゃ_______」


「またまた、ご謙遜を。まあ二人でゆっくり楽しんできなさい。あ、エッチなのはダメだかんな?」


「しません!というか本当にただのクラスメイトなだけです!」


「はいはい、邪魔者は退散するからそんな意地を張らなくてもいいんだって。ほらシャーリー、お礼になんか奢ってやるから行くぞ」


「え!?ホントに!?わーい、先輩大好き〜」


「ちょ、兄さん!?兄さん!」


俺はシャーリーを連れてシャルに背を向けた。

背後からなんか呼ばれている気がするが、恋人の二人を邪魔する趣味は俺にはない。

うんうん、青春ですなぁ。


この後、シャーリーと行った甘味屋で、俺は自分の発言を後悔する事になるのだが、それはまた別のお話。


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