王子、とうとう、天使に出逢う
やっと、やっとです。
西園寺春間は
外部生を迎え入れる
講堂に急いでいた。
といっても、別に入学式とかでなく、
単に新学期の全体朝礼という位置づけだった。
幼稚舎より一貫教育が当たり前の
我が学園においては節目節目の入学式はない
だから父兄の列席もない。
それがこの王宮立学園の伝統的なしきたりであった。
要はVIPが集めるこの学園にて
注目を集める行事は不要である、と。
「楽人、外部生の割合は今年は何人なんだい?」
蒼い瞳をふうっと陰らせながら
傍らに立つ黒髪の幼馴染に問いかける。
「金組銀組に2名ずつ、華組は3名、武組と文組はそれぞれ5名と聞いています」
うーん、いや少なすぎるからっっっ
と、普通の学校事情を知っている方なら思うでしょう
「今年は少し多いのだな」
えーっっっっ
「お子様相手に何の話したらいいのだろう?」
哲学か?と真面目に考えこむ王子様に
(いやあんたと数歳しか違わないだろう…)
祐天寺楽人はしばしの沈黙のあと、珍しくはっきりと告げる。
「春間さん、もう少しあたりさわりのない話題の方が…」
「そうなのか…」
憂いにみちた表情で階段をのぼる西園寺春間の前に
突如前方より鈴のような音がする。
きゃぁぁぁぁっぁっ
声は、次第におおきくなり、それから突然
どすんと
ある物体が落ちてきた
思わず、武道で鍛えた受け身の仕草を活動させ
両手を投げ出した筋肉質な細腕に
落ちてきた存在に
さすがの春間も目を瞠る。
それは小鳥のように軽い存在だった。
西園寺春間の腕の中には今
小鳥のように愛らしい
天使のような存在がいる
羽のように軽い存在。
黒髪をさらっと乱し
どこかミルクのような甘い香りがする
黒い大きな瞳を驚きのあまり睫毛をびっちりさせたまま
勝手に落ちてきたくせに
白取蜜柑は驚きのあまり息をとめている
眦には涙
その数分前まで
蜜柑はしつこく家に引き返そうとする
お兄様を振り払い逃げ惑ってきたのだ。
それが、階段で、つまずいた。
思えば蜜柑は段差を自分で降りたことがなかった。
家ではお兄様やお父様やおじい様が
いつだって抱っこしてくれていたから。
段差どころか
あんまり歩くという移動をしたことがないのが
蜜柑の日常だった
それなのに・・・・・・・・
数秒後
白取蜜柑は悲しくて悲しくて大声で泣き出した。
「あぁぁぁあぁぁーん」
それはまるで赤ん坊のような
小動物の甘えたような
可愛い可愛い鳴き声だった。
「なっ」
「春間さん!!!!」
慌てて駆け寄る祐天寺楽人。
しかし、春間の瞳は林檎のようなほっぺを真っ赤にさせ
天使のように無邪気に涙をながす
腕の中の存在に釘付けだった。
な、な、な、なんだこの存在はっ?!!!!!
次の瞬間。
学園の王子様にて
憧れの君である西園寺春間は
その白皙の美貌を惜しげもなく曇らせて
叫んだのだ。
「ぁぁ、どうしたのだ?!可愛い小鳥!!
泣いてはいけないよ?私が抱きしめてあげるからね」
蜜柑、次々、たらしこみます。