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[ワット・シー・ノウズ?]





 言葉を発した青い人影はどうやら女性の様だ、ぴっちりと薄い布が体に張り付いている様な服を着ている。どういう原理かは不明だが、その体から後ろの景色が透けているところを見るに、実際にここに存在している訳では無さそうだ。


「お、おい……なんだアレ……」


「私に聞かれたってわかんないわよ……!こんなの図鑑には一言も……」


「とにかく少し話をしてみよう……」


 突然の事に皆理解が追い付いていない中、ヒカリが率先して前に進み出た。


「や、やぁ……」


『こんにちは、ナンバーセブン』


 ソレはヒカリの挨拶に綺麗な声で答えるが、感情の様なモノは篭っていない。


「ナンバーセブン……?俺の事か?」


『肯定です。貴方のバイタルは、私のデータベースにあるナンバーセブンの情報と95%一致しています。なので、あなたをナンバーセブンであると仮定して話しかけましたが間違いでしたでしょうか?』


「え、えと……ちょっと待っててくれないか?」


『了解いたしました』


 知らない単語を立て続けに捲し立てられたヒカリは、どうして良いかわからなくなり一旦ツカサ達の元に戻る。


「ど、どうする?訳のわからない単語ばっかりだ……みんな意味わかったか?」


「とにかくアイツはお前を、そのナンバーセブンてヤツだと思ってるみてぇだし適当に口裏合わせて色々聞いてみようぜ」


「そうね、ここはどう考えてもピースメイカーに関係ありそうだし……」


「……わたしも、そう思う……」


「よし、やってみるか……」


 意を決したヒカリは踵を返し、青く発光する女の元へと戻った。


「ごめん、待たせた」


『構いません。ナンバーセブン、なぜ貴方はこちらに?来訪する予定はありませんでしたが』


「あー……えっと、色々あって。ところで、質問したいことが幾つかあるんだけど良いかな?」


『構いません』


「そうか、ありがとう。それじゃ、君のことを教えてくれないか?えと……ちょっとド忘れしてしまって……」


 適当な理由が思いつかず、ダメ元でうやむやに誤魔化してみる。


『了解いたしました。私は当施設の管理、維持を任されている総合統括エーアイです、もっと詳しく知りたいですか?』


 案外すんなりとヒカリの言葉を信じたのか、女は自身について語り出した。


「エーアイ?それが君の名前なのか?」


『否定。エーアイとは人工知能を意味する単語であり、例えば貴方方の種族を人間と呼称する事に近いと言えるでしょう』


「なるほど……良くわからないけど、わかった。じゃあ君の名前も含めて、もう少し詳しく教えてくれ」


『了解いたしました。私の個体名はアイビス。シーエム歴4年にタジマ博士によって開発された13体の管理エーアイの一つです。主な任務は、在中する施設が担当するプロジェクトの維持、及び管理です』


「そうか……よし、少し待っててくれ」


 またしても知らない単語の連続に心折られそうになったヒカリは、再度みんなの所に戻る。


「ダメだ、何を言っているのかぜんっぜんわからん」


「戻ってきても俺たちだって聞いたこと無い単語ばっかだぜ」


「いいえ、一つ解ったわ。アレもプロトと同じで誰かに作られたってことよ」


「……でも、タジマって人、知らない……」


「物作りに携わってるリュナが知らねぇんなら、誰も知らねぇだろうな」


「とにかく、もう少し情報が欲しいわ。頑張ってヒカリ」


「なぁ、俺じゃなくても……」


「ダメよ。向こうはあなたを知っているか、もしくは誰かと勘違いしてるんだから、一番怪しまれなさそうなあなたが聞くしかないわ」


 ヒカリの弱々しい提案はピシャリとツカサに跳ね除けられてしまった。


「くそう……頭が痛くなってきた……」


 ヒカリは記憶が戻る時とは違う種類の頭痛を感じながら、三度アイビスの元へと戻る。


『他に何か質問はございますか?』


「えと……ここはいったい何をするところなんだ?」


『エラー。その情報は開示できません。貴方のアクセス権は剥奪され、ライセンスレベルは1になっています』


「つまり……?」


 ヒカリは、アイビスの言葉の意味がわからずに聞き返す。


『重大な機密情報にはアクセスできません』


「えぇ……どうすれば……」


「……任せて……」


 すると、そこにリプレイを握りしめたリュナが進み出てくる。


「どうするんだ?」


「……生き物じゃないなら……わたしの力で、言うこと聞かせられる……はず……」


「なるほど……よし、やってみてくれ」


 現状、リュナの考えを試してみる以外に解決法も思い付かず、ヒカリは任せてみる事にした。

 リュナは台座を軽く二回ほどリプレイで叩き、その後、片手でも直に触れた。次第にリプレイの先端の水晶が発光しだす。


『重大なハッキングを検知しました、対処に入ります』


 何かしらの異常が発生しているのに気付いたのか、アイビスが無感情な声を発する。リュナはいつになく真剣な表情で、額には汗が伝った。


『ハッキング源をニューロンクリスタルと特定、私の処理能力を大きく超えています。警告、当施設のネットワークは制圧される可能性が大。職員は非常時プロトコルを参照し、緊急……た……いしょ……を……』


 徐々に言葉は消えていき、ついには台座からアイビスの姿は消滅した。


「できたのか?」


「……たぶん……」


 その時、後ろで様子を伺っていたガロンとツカサが進み出てくる。


「すげぇじゃねぇか!こんな訳のわかんないもんまで作り変えられるなんてよ!」


 褒められながらポンポンと頭を撫でられ、リュナは少し目を細めた。


「……これの、おかげだと思う……」


 そう言って、未だ薄く光を放つリプレイを胸に寄せる。


「そうなの?」


「……わかんないけど……」


『……き動中、再起動中。クライアントをクリスタル所持者に変更しました』


 不意に、声と共にアイビスの姿が再び現れた。その様子には別段先ほどと代わりはない。


「おっ、目が覚めたみたいだぜ」


「……ちゃんと全部、答えてね……」


『了解。只今より、全ての情報に対するセキュリティを解除します』


 アイビスはリュナの言葉に素直に従った。


「大丈夫なのかな?……よし、改めてここは何をするところなんだ?」


『当施設は、生体機能に寄らないでコードネーム”ゼロ”にアクセスする為のマシーンインターフェースが研究されていました。結果として、数々の発明がこの場所で生まれました』


 アイビスはスラスラと話してみせる。どうやらリュナの考えはちゃんと上手くいった様だ。


「相変わらずよく分からないな……」


「どんな物が作られたの?」


 頭痛が増しそうなヒカリに代わって、今度はツカサが問いかける。


『代表的な物として、全環境対応型機動兵器”ティタン”が挙げられます』


「そらぁなんだ?」


『陸上はもちろん水中、空中にも対応した機動兵器です。武装としては頭部の荷電粒子砲の他に、腕部のロケットナックルなどが装備されています。もっと詳細なデータが必要ですか?』


「どうするよ?」


 ガロンが他の三人を見るが、その表情は、わけのわからない話ばかりで全員ウンザリ気だった。


「よく分からない事をこれ以上聞いても仕方ないわ。本題に入りましょ」


「……そうだね……」


「よし。じゃあアイビス、ピースメイカーという組織を知っているか?」


 ヒカリは単刀直入に尋ねてみる。正直、この遺跡の様子を見るに期待は大きかった。


『検索しています。……その組織に該当するデータは当施設にはございません』


 しかし、答えは無情だった。


「んだよ、結局ハズレかよ」


「何とかならないか?手がかりになりそうなモノなら何でも良いんだ」


 どんな小さなものでも良いと、妙な焦燥感も感じたヒカリは続けた。


『申し訳ございません。しかし、他の施設へ協力依頼が可能です、いかが致しますか?』


「てことは、他にもどこかにこんな施設があるのね……」


「まぁ今は幸いだと思おう。頼むよアイビス」


『了解。……エラー、ネットワークがオフラインです。通信装置の修理が必要な可能性があります』


「またかよ、ポンコツじゃねぇか」


 何があろうと無表情なアイビスを、ガロンは完全に呆れた顔で腕を組み睨む。


「いや、その通信装置とかいうのを直せればまだ可能性はあるって事だ」


 何としてもピースメイカーの情報を掴みたいヒカリは、僅かに思える可能性にも賭けてみたかった。


「でも、どうやって?」


「……わたしが、やってみる……」


 またもリュナが名乗りを上げる。しかし、その顔には疲労の色も見えた。長々と歩いてきた上にエヌエムを慣れない使い方をしたのだから当然だが。


「さっきもエヌエム使ってただろ?大丈夫か?」


「……大丈夫、役に…立ちたいから……」


 意思の固そうなその瞳を見て、ガロンはニッと笑った。


「そか、なら頼むぜ!」


「アイビス、その装置はどこに?」


 小さく頷いたリュナを見て、ヒカリが問いかける。


『下層部の研究フロアになります』


「よし、行ってみよう」


「待てよ、下の階はどこの扉も開かなかったじゃねぇか」


「あ、そうか……」


『クライアントが変更された事により、現在全ての扉は自由に出入り出来る状態です』


 気を効かせたのかはわからないが、アイビスがやっと有益な情報をよこした。


「だってさ。リュナちゃんお手柄ね」


「……えへん……」


 ツカサの言葉に、リュナは腰に手を当て誇らしげに小さな胸を張って見せた。


「じゃあ気を取り直して出発だ」


 そうして、四人は階段を下って行く。その姿が見えなくなると、アイビスの姿はフッと消えてなくなった。



[ワット・シー・ノウズ?]

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