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[混・合・少・女]

 


  ミヤコを出発して二時間ほど、ヒカリ達一行は鬱蒼とした森林地帯を歩いていた。獣道という訳でもないが、あまり人が頻繁に往来しているようでは無さそうだ。


「なぁ、この道で本当にあってんのか?」


 大きめの石でゴロゴロとした道を、文句を言いながらガロンが踏み歩く。


「大丈夫よ、地図の通りに進んでるわ」


「その割には雑草やら石だらけだぜ。ロマリとミヤコは交流があるんだろ?なのにこれは……」


「あら、今向かってるのはロマリじゃ無いわよ?」


「なに、そうなのか?」


 その言葉に反応したのはヒカリだ。


「怪しい所を巡りながら行けってダイコク様から言われたでしょ?だから今向かってるのは、ここ」


 ツカサは歩きながら地図の一点を指差した、それを横からヒカリが覗き込む。


「ワンアイ遺跡?」


「そ。私もどんな所かは知らないけど、一番近くにあったからね。手がかりもないし、しらみ潰しよ」


「それじゃ時間が掛かりすぎるんじゃねぇか?」


「……フュージョンも、探さなきゃだよ……」


 ガロンとリュナの言葉にツカサは首を振って答える。


「そうは言っても、実際問題私たちの目的はロマリに情報を持っていく事よりも調査の方だと思うの」


 フュージョンも探すつもりだけどね、と続けてツカサにヒカリも同意する。


「俺もそう思う。ただ情報を渡すだけなら鉄道で行けば済む話なんだ、それをわざわざ手間を増やすってことは、ダイコク様も俺たちが何かしらの収穫を得るのを期待しているんだろう」


「なるほどな。まぁ俺はどっちでも良いが、フュージョンにだけは行ってみてぇ。そこでなら強くなる為の手掛かりが見つかるかもしんねぇしな」


「……私も…見つけたい…」


「おう、リュナも俺の肩に乗らずにちゃんと自分で歩いてるもんな」


 実際リュナはこの悪路でも弱音を吐かずに、リプレイを背負いながら小さい歩幅で精一杯付いてきていた。


「……体力、つけるの……」


 決意も固そうに胸の前でギュッと両の手を握りしめる。初めて出会った時よりもだいぶ積極性が増したようだ。


「それで、そのワンアイ遺跡にはどれくらいで着くんだ?」


「んー、もうあと一時間も無いんじゃないかしら、それほど遠くないから」


 ヒカリの問いに、顎に指を当ててしばし考えてからツカサは答える。


「そうか。……ん、あれは?」


 ヒカリがふと前方を指差す、離れたその先には蹲っている様な人影が見えた。


「子供……みたいね」


「あの様子、怪我でもしているのかもしれない、行こう!」


 一行はヒカリの言葉に駆け出す。近寄るとその人影はどうやら小さな少女であるらしいと言うことがわかる。膝を抱いて泣いているようだが、真っ青な服に身を包んだ後ろ姿にはなにやら違和感があった。


「大丈夫?あなた……!?」


 ツカサの声に反応して顔をあげながら振り向いた少女の顔に、全員が静かに息を飲んだ。


「こ、こいつは……」


 ガロンの言葉はそこから続かない、ある意味プロトを初めて見たときの衝撃にも匹敵するかもしれない。


「お、俺は初めて見るが……こういう人種もいるのか?」


「い、いいえ……こういう、なんというか”混ざり合った”ようなのは……」


 歳の頃は十歳程だろうか。少女の髪は美しく蒼に染まっていた。透き通るような白い肌の顔は、しかし両頬に小さく緑色の甲殻のようなモノがある。口からは犬歯が覗き、そして何よりも──


「おいおい、尻尾まであるぜ……」


 泣いて沈んだ気分を象徴するかのように垂れていたそれは、ヒカリ達に興味を示してか警戒してか、少しだけ持ち上がる。その行動は、その尻尾が飾りでは無い事を意味していた。


「あ、貴方達だぁれ……?」


「俺たちは……」


 言い澱むヒカリの言葉をツカサが受け取った。


「……行商人よ、貴方はこんなとこで何をしていたの?怪我とかしたのかな?」


 優しい口調で語りかけられ、多少警戒を解いたのか少女はぽつぽつと話し始めた。


「ううん、お兄ちゃんと探検してたの……でもはぐれちゃって」


「探検?」


「うん、お兄ちゃんがワンアイ遺跡に行こうって……でも一人でどんどん進んでっちゃって……」


 言いながら徐々に涙目になって行く少女に慌ててツカサがフォローを入れる。


「わ、私達も今からそこに向かうとこなの!良かったら一緒に行ってあなたのお兄ちゃんを探してあげるわ」


「……いいの?」


「もちろんよ、ね?」


 ツカサがすぐ後ろで様子を見守っていたヒカリ達に同意を求める。


「ああ、こんなとこに女の子を一人で置いていくワケにもいかないしな」


「おうよ、俺の鼻ならお前の兄貴もすぐにわかるぜ」


「…お姉ちゃんがおてて繋いであげるのよ……」


 もちろん全員快諾する。リュナだけは変なスイッチが入ったようだが……


「ありがとう……」


 リュナから差し伸べられた小さな手を、さらに小さい手で掴むと少女は立ち上がる。


「そういえば、あなたのお名前は?」


「わたしは、メイだよ」


「メイちゃんね……私はツカサ、よろしくね」


 その後、メイに一人一人自己紹介をしてからヒカリ達はワンアイの遺跡へ向かって再度歩きだした。




「なぁ、お前どう思う?」


 両サイドからツカサとリュナに手を繋がれて前方を歩くメイを見ながらガロンが口を開く。


「メイのことか?どうと言われてもな……記憶の無い俺にはああいう人もいるんだなぁとしか」


「まぁそうか……俺からすれば、はっきり言って異常な存在にしか見えねぇ」


 ガロンは少し先でメイの歩調に合わせて揺れる尻尾を見ながら複雑な表情だ。


「それほどか?」


「ああ、異種族間で結婚したりするヤツも居るには居るが、子供はできねぇってのが普通だ。ましてや、あんなに色んな種族の特徴が混ざってんのは……」


「ありえない、か」


 ヒカリが言葉を受け取る。


「そういうことだ」


「あんた達、なに後ろで喋ってんの?着いたわよ、ワンアイ遺跡」


 ふと前方のツカサが立ち止まりこちらに顔を向ける。どうやら森林地帯を抜けて拓けた場所に出たようだ。

 ヒカリとガロンは小走りで三人に追いつく。


「ここが……」


 そこには長い年月で崩れたのか、壁に無数の穴の空いた白い建物がいくつか並んでいた。蔦が其処彼処に絡みついているが、建物そのものは古びてはいるものの、壁はツルツルとしていて光沢を保ち、何処と無く清潔感すら感じる。


「なんというか……思っていたのと違うな」


「どんなのを想像してたの?」


「なんかこう、石造りで瓦礫まみれな感じのを……」


 よく見れば壁に空いている穴も、規則性があるかのように一定の感覚で並んでいるようにすら見える。窓だったのだろうか?


「まぁそれが一般的なイメージか、私もこんな感じだとは思ってなかったから、ちょっと予想外」


 ツカサはそこでふと言葉を切り、手を繋いでいたメイに顔を向ける。


「そうだ、メイちゃんのお兄さんを探さなきゃね」


「なんか兄貴の匂いがするモノ持ってたりしねぇか?あれば探せるぜ」


 ガロンの言葉に、肩から斜め掛けしていたポーチをガサゴソと漁り始める。


「えっと……これ、お兄ちゃんのハンカチ。今日の朝間違えて持ってきちゃったの」


 少しして小さな布切れを取り出したメイは、それをガロンへと手渡した。


「おう充分だぜ、どれどれ……」


 ガロンは受け取ったハンカチを己の鼻へ一度近づけ、その後周囲の匂いを嗅ぎ回る。


「ん…?これは……かなり近くから匂いが……」


 その時、突然何かが後ろから、ピンと立ったガロンの両耳の間を上からシュッとすり抜けて行き、その先の地面に突き刺さる。


「うおっ!あっぶねっ!?」


 今更慌てて飛びのくガロン、どうやら飛来したのは一本の矢の様だ。それを見たヒカリ達は一斉に周囲を警戒しだす。


「お姉ちゃんから……離れちゃだめ……」


 リュナはメイを自分へと抱き寄せる。


「一体どこから……」


 ツカサの問いに応えるように、少し離れた木の上から声が響いた。


「誰だお前ら!妹から離れろ!」


 こちらへ弓矢を構えながら叫んだのは、メイとそう年も変わらないように見える少年だ。そして、その彼もまた様々な種族の混じり合った外見をしていた──




[混・合・少・女]終

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