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[コンビネーション!]


 先ほど掌底を食らった顎が痛む、脳が揺れる。だが両の足はまだ体を支えてくれている、まだいける。


「よぉヒカリ……まさかカムイさんがここまで強いとはな……」


 横から満身創痍のガロンが話しかけてくる。誰よりも血気盛んにカムイへ飛び掛かった為に、その体は一番ボロボロだ。


「ああ……だが一撃も当てられずに負けるわけにはいかない、そんなことではこの先ピースメイカーと戦って行くなど出来はしないと思うから」


ヒカリは決意を込めて口にする。実際問題、ピースメイカーにカムイよりも強い者がいる可能性など幾らでもあるのだ。


「おうよ、俺だってそう思うぜ……だからよ、ちょっくら俺らのコンビネーションて奴を試してみようぜ」


「コンビネーション?」


ガロンの言葉に首を傾げる。思えば、今まで誰かと協力して戦ったことなど無かった。


「そうだ、一人でダメなら二人、それでもダメなら三人だ。さっきまでみたいにバラバラに戦ってたんじゃ勝ち目はねぇ」


「確かにその通りだ……だがどうやって?」


「私が先鋒を務めてやる」


ガロンの逆側から聞こえてきたのは意外な声だった。


「ジュリ?まさかお前からそんなことを言うなんて……」


「勘違いするな、ヤマト軍人としてこのまま完敗したのでは立つ瀬がないのでな。それにこの中で僅かでもカムイ殿に食い下がれる可能性があるのは経験的に私だけだろう」


「チッ、慢心は良くねぇって言われたばっかじゃねぇか」


ガロンはジュリの言葉に条件反射的に突っかかっていく。だが、ジュリが幾ら頑張ったところで今の実力で勝てる相手では無いのも事実だ。


「貴様こそ感情に流されずに頭を使ったらどうだ。ハナから自分だけで勝てると思ってたらこうして話に乗ったりなどせん」


「では……どうするつもりだ?」


不機嫌な顔をするガロンの代わりにヒカリが問う。


「最初からフルパワーで突っ込む。流石のカムイ殿が相手と言えど、それで数秒は時間を稼げるはずだ……貴様らはその間に何としても隙を見つけて一撃を入れろ」


「ケッ、お前がそんなこと言うなんて気色悪ぃぜ……だが、そこまで言われたら俺だってやらねぇわけにはいかねぇな」


目先のプライドを捨て、実りある敗北を選んだジュリに流石のガロンも手を取り合うことを決めたようだ。


「なら、サポートは私たちに任せてもらおうかしらね」


「……がんばるよ……」


「ツカサ!リュナまで……大丈夫か?」


オフホワイトの服を泥で真っ黒にしたツカサと、ずぶ濡れのままのリュナが名乗り出る。


「ナメないでよね。あんな父親にずーっと特訓されてたのよ、私は」


「…わたしも…足手まといは…ヤだから……」


そう言ってリプレイを握りしめたリュナの目にはもう涙は無い。ただ一人、両親を探すと決めたその胸の内を知るガロンは優しく微笑んだ。


「みんな……よし、俺に考えがある……」


皆はヒカリを中心に円陣をとった……




「さて、作戦会議は終わりかね」


 話し合いが終わるのを楽しげな顔で待っていたカムイの前に、ジュリがたった一人で進み出る。


「ええ……フルパワーでいかせてもらいます、カムイ殿」


鞘から刀を抜き放ち、腰だめに構える。その目には一分の油断も慢心も見られなかった。


「仕掛けてくるのはジュリ大尉一人かね?それではさっきまでと……」


「変わりますよ、あまり私を……我々をナメないほうが良いかと」


「ふふふっ……では楽しませていただくとしようかな」


「参るッ!!」


途端、エヌエムを全開にしながら鋭い踏み込みでジュリが迫る。その刀が青白い粒子を纏いながら、そのままカムイへと振り下ろされる。


「なるほど、なかなかの剣速だ。それに……」


カムイは己の眼前まで降ってきた刀を右手の甲で素早く弾く。


「重い……!」


しかし弾いたその手にはビリビリと衝撃が残されていた。それを知ってか知らずか、休む間も無くジュリは次々と斬りかかる。刀にも自身にも最大出力で粒子を纏わせた、スグに限界になってしまう為に普段のジュリなら絶対にやらないような戦法であった。


「ハァァッ!!」


「だが私のエヌエムを忘れたわけではあるまい……!」


瞬きすら許さない程の激しい連撃の最中、針の穴を通すような僅かな隙を突いてカムイの拳がジュリの纏うエヌエムの鎧を打ち消しながら脇腹にめりこむ。


「ぐっ……!まだまだぁ!!」


一瞬息が詰まるが、構ってられぬとばかりに再度エヌエムを全開にし斬りかかる。


「流石に大したものだが……一人ではね!」


感心したようにカムイが呟く。が、その瞬間ジュリの纏う粒子がブワッと、カムイの視界一杯に広がって辺りの情報を遮断した。


「ツカサ!リュナ!今だッ!!」


ジュリはエヌエムの過剰使用で朦朧とする意識の中、有らん限りの声で叫ぶ。

それに答えるように、ジュリとカムイの間の地面から突然大量の水が湧き上がり、カムイの脚に絡みつく。


「むぐぅ!?これは……!?」


さらに、纏わり付いた水はそのまま音を立てて凍りつき、見る見るうちにカムイの両足を拘束した。


「リュナちゃんのエヌエムで池の水をお父さんの足元まで運んだのよ!気づかれないように地面に染み込ませてね!」


「……それをツカサちゃんが凍らせたの……」


ついにジュリは気を失い、目隠しのために放たれていた青い粒子が花びらのように散る。

その後ろでは、リュナと、それに額から汗を流しながら地面に伸びる氷の上に手を着いたツカサがいた。カムイのエヌエムで水へと戻される氷を、それを上回るスピードで再度凍らせているのだ。


「なるほど、面白い。だがこれだけでは時間稼ぎにしか……」


「これだけなワケねーだろォォォ!!」


バキバキと己の筋力で氷漬けから脱出しようとしていたカムイの元に響いたのはガロンの声だ。その上に黒い影が覆いかぶさる。


「なにィ!?」


上空から眼前に迫っていたのは巨大な岩だ。先ほどリュナが巨人を作るのに使った、池の周りに設置された岩の残りを、ガロンがカムイに向かって投げ飛ばしたのだ。

さらにそれは、ガロンの鋭い爪により空中で賽の目の如くバラバラに砕け散る。


「やれぇ!リュナァ!!」


合図が響くと同時に、今度はリュナがエヌエムを発動する。砕け散った岩はまるで雪崩のように降り積もると、そのまま最初からその形であったかのようにカムイを封じたまま岩塊となった。


「おお!これは凄い、私のエヌエムの対策にもなっている!」


不自然に作り上げたツカサの氷とは違い、いまカムイの自由を奪っているのは、リュナのエヌエムでこの形状になったとはいえ、それそのものはあくまでもただの岩だ。


「だが、一人で投げ飛ばせる程度の岩では四肢の全てを封じる事はできんよ!」


カムイは封じ込め切れずに自由なままだった右上半身を使い、疲労からか息も絶え絶えに己の眼前に着地したガロンの頬を裏拳で思い切り殴り抜く。


「ぐおお!?」


ゴロゴロと地面を転がるガロン、だがそれでもなんとか口を開いた。


「クッ……いけ!ヒカリィ!!!」


その合図に呼応して、カムイの目の前の地面からヒカリが飛び出す。


「うおおおおおおおおおお!!!」


「なるほど!!良い連携だぞ君たち!!」


カムイは全てを察した。ジュリのエヌエム過剰放出に始まり、ガロンが投げ飛ばした岩に到るまで、全てがブレイダーのチェーンソードを利用して地中を掘り進んでいたヒカリの為のカモフラージュだったのだ。


「爆ッ!砕ッ!鉄ッ!拳ッ!だぁァァァァ!!!」


悦びか恐怖か、全身粟立つカムイの目の前にヒカリのガントレットが迫る。


「ヌウウウウウウウウウ!!!」


拘束していた岩をも砕く程の力で鉄拳が顔面へ炸裂すると、カムイはその勢いのまま、茶の間の軒先で試合を観戦していたダイコクの横を突っ切って部屋の奥へと吹き飛んでいった。


「や……やったか!?」


ヒカリはフラつきながら何とか立つ。機を狙って土中でずっと息を潜めていたのだから仕方ないが。


「これだけ完璧に決まってなんのダメージもなければ……マジのバケモノだぜ……」


「ちょっと、人の父親を化け物扱いしないでもらえる?」


地に伏したままのガロンから発せられた言葉に、両膝をついてツカサが反応する。と、その時茶の間の奥から声が響いた。


「いやぁー!久々にちょっとだけ焦ってしまったよ、やるじゃないか君たち!」


肩をグルグルと回しながら嬉々とした表情でカムイが現れる。見た限りではなんのダメージも無い。


「ごめん、やっぱり化け物かも……」


「う、嘘だろ……」


そう言ったきりガロンは気を失った。一番ダメージを受けていたのだから無理もない。


「さ、続きといこう!私も年甲斐も無く楽しくなってきてしまったよ!ジュリ大尉とガロン君は気絶してしまった様だが、三人でもまだまだ戦い様はあるぞ!」


「わ、悪いけど私もうギブ……」


「……私も……」


「ちょ、ちょっと俺も限界かな……」


そのまま残りの三人もばたりと倒れて動かなくなってしまう。


「あ、あれ……?」


「やりすぎだぞカムイ殿、大人気ない」


「む、むう……そうですか……?」


「さ、頑張った若者を手当てしてやらんとな。謁見の間まで運ぶゆえ、その後はカムイ殿のエヌエムで治療してやってくれ」


戦いでボロボロになった中庭にダイコクが降り立つ。そのまま右足の踵で二度ほど地面を叩くと、地面から生えるようにして岩で出来た小人が十人ほど現れた。


「ほう、初めて見ましたよダイコク殿のエヌエム」


「ん、まぁあまり人には見せぬからな。では頼んだぞ岩ども、庭も直しておくのだ」


気を失ったヒカリたちは岩の小人に抱えられ、その場を後にした。


「いやぁ、しかし最後の連続攻撃は効いたなぁ……慌ててエヌエムで治したが、危うく死ぬところだった……」


ダイコクも居なくなり岩だけが忙しなく動き回る中庭でカムイは独り言ちた。


「彼ら、まだまだ伸びるな。いやぁ楽しみだ!」


ニッコリと微笑んだカムイは謁見の間へと向かった。



[コンビネーション!]終

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