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[ダイコク・オーダー]



「いやぁーっ、すまんすまん!まさかアソコまで見事に引っかかるとは思っとらんかったわ!」


 試合は終わり再び謁見の間、胡座をかいたダイコクは豪快に笑いながら膝を叩く。その右手には酒の入った小さな陶器の器が握られていた。

その目に前には先ほどまでと同じようにヒカリ達が座らされているが、当のヒカリは馬鹿げた演技に引っ掛かった羞恥からか顔を自身の髪の色と同じぐらい真っ赤にしている。


「笑い事じゃないですよお父様、一歩間違えば危険な事態になっていましたわ」


「だからすまんて。だが、まぁお主の実力はよく分かった、国宝キサラギを使ったジュリと互角以上とは凄まじいの一言だ。ジュリも大義であったぞ、また強くなったな」


「はっ、光栄でございます」


恭しく頭を下げるがその顔は浮かない様だ、ヒカリとの戦いがまたも完全決着せず終わった事に多少なりとも不満があるのだろう。


「そう不満げな顔しないでジュリちゃん、凄い戦いっぷりだったわ」


「い、いえ不満など……」


「まぁまぁ良いではないか!さて、情報を纏めるとするかの」



 数十分後ーー


「ふむ……ではピースメイカーには闘技大会で確認されたプロトと謎の女以外にも、ガロンの兄も協力していると言う事か、しかも何故かリプレイを狙っている……」


ダイコクは顎に手を置いてリュナが背負うリプレイを見る。酒を飲みながらにも関わらずその眼は平時の鋭さをカケラも失わない。


「ああ、オヤジを殺してからどうしていたのかは知らねぇがな……」


「ムゥ、あのヴァロンを倒したのであれば相当の実力者だな、そのバジリコという者は」


「ダイコク陛下はヴァロンの強さをご存知何ですか?」


ツカサの質問にダイコクは顔を向け、懐かしさを感じるように酒を一口飲んだ。


「知っているとも……彼奴はワシが若い頃から盗賊をやっておってな、何がしか盗まれた金持ち共に頼まれてよく征伐しに行ったモノだ……ま、逃げられた事もあったがな」


「てことは、親父を捕まえた事もあるのか?」


「半々というところだな……もっとも、彼奴は牢に入れても何故か次の日には居なくなっておったが」


「へへ、流石オヤジだぜ」


ガロンは尻尾をパタつかせながら微笑む。その姿にヒカリも何故だかつられて頬が揺るんだ。


「だが、彼奴も死んでしまったか……ワシと百の兵を前にしても不敵に笑って見せた彼奴の強さを知っていればこそ信じられん……」


「それほどの男がピースメイカーに協力しているのです、そのピースメイカーにしても現れた二人以外にも人員はいるのでしょうし……」


「そうだな……お主ら、国王として正式に頼みたい事があるのだが良いか?」


ダイコクはヒカリ達四人にしっかりと向き直った。


「な、何でしょう?」


「お主らをミヤコの調査員として雇いたいのだ、そして各地を巡りピースメイカーの事を調べて欲しい。ヒカリはもちろん、ガロンやツカサ嬢も闘技大会で実力を把握している、リプレイを使いこなせるリュナ嬢が持ち運ぶのなら下手に隠すよりも危険は少ないであろうしな。無論我が国からの協力は惜しまない」


四人はお互いの顔を見合わせるが、少なくともヒカリの気持ちは決まっていた。


「俺は構わない、むしろ有難いくらいだ」


「奴らとバジリコが一緒に行動してんだ、俺もやるぜ」


ヒカリとガロンは互いに笑い合う、両者はすでに頼もしい相棒同士の様だ。


「だが、ツカサとリュナはどうする?十中八九、危険だと思うが……」


「なーに言ってんのよ、アンタ達二人じゃ道にでも迷って行方不明になるのがオチよ」


「じゃあ……」


「あたしも行くわよ、乗り掛かった船って前も言ったでしょ。それに……まぁ楽しいしね」


そう言われてヒカリはパァっと顔を輝かす。ツカサの方は最後、ほんの少しだけ頬を赤くしていたが。


「わたしも……いくよ……」


「いいのか?」


「……うん……」


リュナの表情に強い決意を……父母の件を察したガロンは無言で頷いた。


「よし、全員了承ということで良いな?」


ヒカリは強く頷いた、不謹慎とは思いながらも皆との旅が既に楽しみになっていたのもある。


「そうか、感謝する。ではまず始めに同盟国のロマリまで行って貰えぬか?」


「ロマリ……確か技術大国とかいう?」


「ええ、同盟国へ情報を届けて欲しい……という事もありますが、我が国とロマリとの間には幾つかの街や集落、それに遺跡があります。それらを調査しながら向かって欲しいのです」


何処にピースメイカーの情報が有るかわかりませんからね、とミナヅキは続けた。


「てぇことは今回は機関車は無しかぁ……」


残念そうに肩を落としたのはガロンだ、落胆ぶりは萎れた尻尾が物語っている。


「そうなるな、お主らには徒歩で向かってもらう。道中の路銀やらは国からサポートするから心配いらん」


「あ、あの一つ宜しいですか?」


「ん?なんだツカサ嬢?」


「出発はいつ頃になりますか?私の父が今ミヤコに向かっているハズなので、できれば話をしておきたいかなと……」


「む、カムイ殿がこちらに来るのか。なるべくなら早めに出発してもらいたいのだが、そういう事なら二、三日後で良かろう」


「ありがとうございます」


「なに、ワシもカムイ殿には一度会ってみたくてな。可能ならジュリと手合わせしてもらおうと思っていたのだ」


突然の指名にジュリは驚いたような喜んでいる様な顔をする。


「では、出立日は三日後の正午とする。お主らが調査をしている間、我々も最善の準備をしておこう」


「もしあの、地を埋め尽くすほどのフォルンシリーズとやらが実際に存在しているので有れば、我がミヤコ国もヤマト軍もかなり本腰を入れて掛からねばなりませんから」


語るミナヅキとダイコクの顔はまさしく統治者たる者のそれだ、何も言わずともピースメイカーの事を重く見ているのが解る。ヒカリの装備と、その威力を間近で見たせいもあるかも知れないが……


「わかりました、俺達も出来るだけの事をやってみます」


「頼むぞ、それと最後にもう一つ……お主らの役割には、ヒカリやリプレイに対して何らかの狙いが有るであろう彼奴らの目を引かせておくという事もあるのだ。つまり……」


「囮……というわけですね?」


ほんの少し言い澱むダイコクの言葉をヒカリが代弁する。


「そうだ……頼んでおいてこんな事を言うのも可笑しいかも知れぬが、無茶はするで無いぞ」


真摯な言葉にヒカリ達は顔を見合わせる。


「大丈夫です、自分の記憶を取り戻すまで俺は前に進むって決めたんです」


「ああ、それに俺は……俺たちはまだまだ強くなるつもりだしな」


「私もまだまだ色んなモノを見たいですし、頑張ります」


「……わたしも……がんばるね……」


「そうか、頼りにしている。では今日はこのまま我が城で、何か精のつく夕飯を馳走したいのだが……どうだ?」


夕飯の言葉が出た途端、ヒカリとガロンの真面目な顔はどこかへやら、輝く目とブンブン振られる尻尾が返事をしていた。

ミナヅキはそんな彼らを見て静かに微笑んだ。



[ダイコク・オーダー]終

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