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[作戦会議、ミヤコにて]

[作戦会議、ミヤコにて]




 エヌエム研究施設での一件の翌日朝、ヒカリたちはドンの別荘で揃って朝食を食べていた。


「そんじゃ、お前の記憶が完全に戻ったワケじゃねぇんだな」


ガロンがドムゥの肉で作ったベーコンをフォークで突き刺しながらヒカリに問いかける。


「ああ、色んな場面がフラッシュバックしただけで、具体的なことは解らなかったからな。プロトの時と同じだよ」


「でも、その時に新しいエヌエムだか武器だかも思い出したんでしょ?あ、胡椒とって」


ヒカリは、ツカサに瓶入りの胡椒を取って渡す。


「はいどうぞ。確かにブレイダーっていう脚に装備する武器を思い出したよ、ジュリ大尉に迷惑掛けちゃったけどね」


ツカサが焼いた卵に胡椒を振り掛けると、今度はリュナがジャムを欲しがるので瓶を目の前に置いてやる。リュナはそれをパンに大量に塗りたくり、パンの表面が鮮やかなオレンジに染まる。


「じゃあやっぱりアンタの記憶とは関わりがあると考えて良さそうね」


口の周りにジャムを大量にくっつけたリュナを見てガロンがナプキンを投げて渡す。それは机の上を滑るように移動して目の前で止まった。


「じゃあよ、逆に言えばヒカリの装備を何とかして使えるようにすればそれに釣られて記憶も蘇るかもな」


「かもしれないな……まぁそれこそ記憶を取り戻す以上に手掛かりが無いような気もするが」


言いながらヒカリは大皿から取った硬い果物を手で真っ二つに割る。後ろでメイド長のミウが果物ナイフを持ってきていたが、それを見て無表情で元の位置に戻った。


「ていうか、アンタって人間にしちゃ身体能力が変に高いわよね」


割った果物を口に運ぶヒカリを見てツカサが呟く。


「ん、そうか?」


「そうよ、アンタが今食べてるそれだって普通は手で割って食べるモンじゃないわ」


「そうかぁ?俺だってナイフなんか使わないぜ?」


言いながらガロンが同じ果物を掴む。それを見て再度ミウがナイフを手に取るが、ガロンが皮ごとバリバリと食べ始めたのでまた待機姿勢に戻った。


「アンタは論外よ、バカ」


「なんだとぉ!?」


「うるさい。とにかく……砂蟲から逃げてきた時もそうだし、それこそプロトと戦った時だって常人離れしてたじゃない」


「うーん……俺としては特に自覚も無いんだがなぁ」


そう言ってヒカリはカップに注がれたジュースを飲み干すと、それを見たミウがピッチャーを持ってくる。


「おかわりの方は?」


「あ、大丈夫です」


ミウは恭しく元の位置に戻った。


「それで、今日のミヤコ城での会議なんだけど、皆にもついてきて欲しいんだ。予定が無ければで良いんだけど」


「俺は大丈夫だぜ」


「私も構わないけど、付いて行って大丈夫なの?」


「ミナヅキ姫には昨日の帰り際に許可を貰っておいたよ。リュナは?」


ヒカリが、ミウに果物を切って貰おうとしていたリュナに声をかける。


「わたしも……大丈夫。これ……お願い……」


リュナから果物を受け取ると、ミウは見事なナイフ捌きで綺麗にそれを剥く。


「そうか、みんなありがとう。それじゃあ昼前くらいに準備をして行こう」


「そういえばよ、お前の新しい……ブレイダーだっけか?それはどんなもんなんだ?」


ガロンが追加のベーコンを貰いながら思い出したように問いかける。


「んー、なんて説明すれば良いんだろ……とりあえず正式名称は”全領域対応移動兵装ブレイダー”だ」


「またややこしい名前ね……ていうか移動って?」


首を傾げながらツカサが尋ねる。


「その名の通りだよ、移動用の装備だ」


「へー、良くわかんないけど、それなら危険なモノじゃないのね」


「それがそうでも無いんだよなぁ……攻撃も移動も同時にできるっていうか……」


「そりゃすげぇな、ちょっと見せてくれよ」


「そうだな、その方が早い」


ヒカリが立ち上がり開けた場所に移動する。周囲に物が無いかを確認し


「よし、出すぞ。来い、ブレイダー」


静かにブレイダーを呼び出す。見る見るうちに下半身が黒い金属に覆われていき、遂には脚全体が包まれた。


「爪先から伸びてるこの刃の付いたチェーンを回転させて移動するんだ。細かい刃が地面に食い込むから例えどんな悪路でも走れるし、これを相手に当てればそのまま攻撃にもなる。」


ヒカリは片脚を持ち上げて、足の裏を通る鎖がみんなに見えるようにしながら説明する。


「カッコイイじゃねぇか!」


「今度のは随分と痛そうなのが使えるようになったわね……」


興奮するガロンに対してツカサは若干引き気味だ。


「確かにこれは人に使うのは危険すぎると俺も思う、だからもっぱら移動用にしか考えてないよ。」


少し翳りのある苦笑いでヒカリは答える。危うくジュリを傷つけかけた事が思い出されたのだろう。


「ちょっとそれで移動するの見せてくれよ」


ガロンがそんなヒカリの気分を察してか明るく提案する。ヒカリも気を取り直して笑顔で答えた。


「よし、じゃあ部屋の端から端まで半分くらいの速度で走ってみよう!」


そう言って扉の前まで歩くと、体勢を低く構える。


「行くぞぉ!」


「あ!ちょっと待ってヒカ……!」


ツカサが何かに気づいたのか声をかけるが、ヒカリは既にブレイダーの機能をオンにしてしまっていた。そしてーー


バギバギバギバギバギ!!!


ヒカリの移動した痕に沿って、床に綺麗に貼られた木材が無残な音を立てて砕け散った。


「ああ!!?」


己のやらかしに気付いたヒカリが部屋の端まで半分というところで止まる。それを見ている他の面々は完全にやっちまったなという風だ。


「ひ、ヒカリ……後ろ後ろ……」


ツカサが何かに怯えるようにしてヒカリの後方を指差す。

恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはいつもの無表情ながら体中から凄まじい怒りのオーラとでもいうようなモノを発散させるミウが立っている。その右手に果物ナイフを握りしめてーー


 その日、ヒカリは土下座というものの存在を本能で思い出した。ちなみに床はリュナがエヌエムで修復した。





 数時間後、ミヤコ城の前にてーー


「すっごーい!あれが噂に聞くサクラかぁ、城も綺麗な白一色で素敵ねぇ……」


ツカサがウットリとしながら呟く。その横でヒカリはガックリと沈んだ顔だ。


「ほら元気出せって、あんくらいのやらかしなんか良くあるもんだからよ」


ガロンが励ますがヒカリの顔は浮かないままだ。


「そ、そうかもしれないが……何というか人に本気で怒られるのは初めてで……あんな事をした自分が物凄く情けない……」


「……わたしがいつでも直すから……元気出して……?」


リュナが元気づけるように小さな手で肩をぽんぽんと叩く。


「うぅ……ありがとうリュナ……」


「さ、気を取り直して先導してよヒカリ」


「う、うむ……俺もこっちに入るのは初めてだが……」


門番にアポイントメントの確認をし、一行はヒカリを先頭に入城する。

城の門を潜ると、何がしかの手段で連絡を受けたのかジュリが出迎えた。


「時間通りか。上階でミナヅキ様と、今日は国王陛下もお待ちでいられる、くれぐれも粗相の無いようにな」


最後の一言は思い切りガロンに向けて放たれる。ガロンは舌打ちで答えた。


「ちょ、ちょっと待って!国王様も!?なんで!?」


ツカサが思わず驚愕する。


「昨日見た光景をミナヅキ様から聞いた国王陛下が事態を重く見ているという事だ。詳しくは上で説明する。では行くぞ、付いて来い」


一行はジュリに案内されて上階へと移動した。



[作戦会議、ミヤコにて]続く

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