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[朝焼けと共に来た男・2]

 


 互いに叫びながら逃げ惑うこと一時間、いつの間にか砂漠地帯を抜け砂蟲の姿も周りから消えていた。

 涼やかな森林地帯に入ったところでツカサがそれに気付き荷車を急停止させるが、反応できずに赤毛の男は派手に激突する。


「はぶっ!?」


 変な声を出しながら後ろで倒れた男には目もくれずドムゥに駆け寄る。


「大丈夫だった……?ごめんね、無理させちゃって……」


 ドムゥを近くの木に繋げ頭を撫でてやる、息を切らしていたがしばらくすると落ち着いたのか地面の草を食みだした。

 それを見ていると、ふと思い出して荷車の後ろの様子を恐る恐る覗きに行く。


 例の男は地面に倒れていた。気を失っているようだ。

 男は腰まで届きそうな真っ赤な髪に、男か女か判断しかねるような顔をしていた。

 服装はというと、ツカサが見たことも無いような黒い服を着ている。しっかりした生地らしくかなり丈夫そうだ。


 それにしても、何故コイツは砂蟲に追われていたんだろう?

 逃げてきた方向を考えるに砂漠の中心から来たのだろうが、よっぽどの理由が無い限り未開の砂漠中心に近づく物好きは居ない。


 だとするとコイツは大きな街かどこかの砂漠調査員なのだろうか?調査隊が砂蟲に襲われたが速く走るエヌエムを使えたとかの理由で逃げ延びてきた?


「お、おいアンタ……」


 思案を巡らせていると、急に声をかけられた。ビクッとして下を向くと、男が目を覚ましたらしい。


「えぇと……大丈夫……?」


「あ、ああ……頼む、水かなんかくれないか……?」


「も、もちろん」


 水筒からコップに水を注ぎ差し出すと男は一気に飲み干し、深く息をついた。


「ふぅ……ありがとう、助かった……」


「い、いえ……どういたしまして」


 荷車に乗せずに逃げ去ろうとしたことが思い出され、どことなくぎこちなくなる。


「あなた、名前は?」


「俺か?俺の名前は……」


 しかし男は突然のだんまりだ。


「どうしたの?」


「い、いや……なんでもない……俺の名前はヒカリ……だと思う……」


 男、ヒカリは自信無さげに答える。


「思う?自分の名前でしょ?」


「そのはずなんだけどな……なんだろうボンヤリしてて……」


「大丈夫?さっき変なとこぶつけた?もうちょい水飲む?」


「イヤ、大丈夫だ……ありがとう」


 しばし沈黙が流れる。ヒカリは真剣に何かを考えているようだった。

 それを眺めるうち、少しして思い出したようにツカサは尋ねた。


「そういえばあなたはなんで砂漠にいたの?砂蟲に追われてたってことは中心近くにいたんだろうけど……大災害の調査とか?」


 ヒカリは少し不安げな目をしてから、答えた。


「大災害……?いや、わからない……」


「わからない?どういうこと?」


「そのままの意味だ……思い出せないんだ、なぜ自分が砂漠にいたのか……」


 そして一息ついて


「それだけじゃない……名前以外、何もかも思い出せないんだ」




[朝焼けとともに来た男・終]

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