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[ミヤコ・デイズ・2]

[ミヤコ・デイズ・2]




 「あ、ドンさん、おはようございます」


「おぉヒカリちゃんおはよう、どうじゃね調子は?良く眠れたかね?」


「はい、お陰様で」


時刻は昼頃。

朝方までツカサと話し込んでいたヒカリが2階から広間に繋がる大階段を降りると、身支度を整えたドンに出くわす。


「ドンさんはお出掛けですか?」


「というより帰宅じゃな、ロマリに一旦帰るんじゃよ。昨日の件でウチの社内に、それもワシに近いポジションの人間に不届き者がおる可能性が出たからの」


「そうなんですか……」


「まぁパパッっとやって終わりじゃ、ヒカリちゃん達は好きなだけここを使ってええからの。そいじゃ、またの」


そう言ってドンはグレーのハットを被り屋敷を後にする。

それを見送ったヒカリはフロア横の広間に朝飯…時間的には昼飯だが…を食べに行く。

部屋に入るとそこではメイド長さんしかおらず、1人で黙々と掃除をしていた。後ろで結んだ艷めく真っ黒な髪がホウキを動かす旅に左右に小さく揺れる。


「これはヒカリ様、おはようございます」


「あ、おはようございます」


入室したヒカリに気付くとメイド長は手を止めて深々と頭を下げる。

それにつられてヒカリも変に行儀正しく礼をした。


「お食事になさいますか?すぐにお出しできるのは野菜のスープとバミューの茹で卵になりますが」


「はい、お願いします。あの……他の皆はどうしてるかわかりますか?」


ヒカリが適当な席に腰掛けながら訪ねる。


「ツカサ様は先ほど起床なさいましてただいま大浴場のほうに。ガロン様は先ほど散歩へ、リュナ様は朝早くにどちらかへお出掛けなさいました」


メイド長はワゴンに乗せてある食事を手際よく準備しながら答える。

ヒカリの目の前にはスープと、大きな茹でた卵が置かれた。


「リュナがお出かけ……確か生まれはここなんだっけ」


料理を食べながらヒカリは考えるが思い当たることは無かった。

そういえば、とヒカリは口を開いた。


「メイド長さんて、なんてお名前なんですか?」


「私でございますか?ミウと申します。ここの皆からはメイド長と呼ばれることが多いですが」


ミウは配膳を終えたワゴンを押して入り口ドアのそばに移動する。


「へぇ……それでミウさんに聞きたいんですけど、ミヤコのエヌエム研究所ってどこにあるかわかりますか?」


「エヌエム研究所でございますか?確かミヤコ城のすぐそばだったと記憶していますが、もし必要でしたら後で地図をお渡しいたします」


「それは助かります、どうも」


「いえ、他にも必要なことが御座いましたらお気軽にお申し付け下さい」


「はい、頼りにさせていただきます」


しばらくしてヒカリは食事を終え部屋に戻った。

寝間着のままだったのでいつもの服に着替え、スカーフを首に巻く。カナリアの服はやはり凄いのか、まるで新品を卸したようだ。


「そういえば1人で行動するのは初めてかもしれないな……」


思えば記憶を無くしてツカサと出会って以来、ヒカリは常に誰かと行動していた。

今日は一般人は通常入れないエヌエム研究所に行かねばならない為に誰かを誘うこともできない。


「ちょっと緊張するな……」


準備を整え終わり、ミウから研究所までの地図を受けとると、ヒカリはまるで子供がするおつかいのような気分で屋敷を後にした。



 それから一時間後。


「へぇ……ゼンコウの街とはまた違った感じだな」


ヒカリは地図を片手にミヤコの中心街を歩いていた。

家の壁は一様に白く塗られ、それと調和するように道には黒い石畳がキレイに敷き詰められ幅も広い。

所々に植えられた木々も景観を引き立てるようにキレイに配置されている。

街の活気はゼンコウも負けてはいなかったが、ミヤコの街にはなんとなく気品の様なモノが感じられた。


「兄ちゃん旅行者だろ!これ食ってきな!」


きょろきょろと辺りを見回しながら歩くヒカリに、食い物屋の店主が声をかける。ヒカリは店から漂う匂いにつられ誘いに乗った。


「これ何ですか?」


「これはアブメって魚を塩焼きにしたもんだ、ミヤコの定番だぜ」


「へぇ旨そうだな…1つください!」


「あいよ!」


ヒカリはお代を払いアブメの塩焼きを持ってまた歩き出す。


「熱っ!うまっ!」


バクバクとかぶりつきながら歩いていると、街中に幾つか古風さを感じさせる似通った造形の建物を見つける。


「これは…凄いな、ジュリが使ってた武器がたくさん売ってる」


それは刀剣等を取り扱う武器店であった。

ゼンコウにも有るには有ったものの、言ってしまえばもう少し乱雑な感じの店で、品揃えもそれほど良くない。

しかしミヤコの武器店には鋭く輝く刀が整然と壁に掛けられ、それ以外の武器もショーケースの中に綺麗にしまわれていた。

ヒカリには必要の無いものだが、それでも中が気になってしまうのは彼も男だからだろう。


「ん…あれは……」


そうこうしながら街を歩いていると、一際古めかしい建物の中から見知った人影が現れる。


「ジュリじゃないか」


「む、貴様ヒカリか。報告は聞いている、列車では色々あったようだな」


蒼い髪をたなびかせて颯爽と店から出てきたのはジュリだ。

その後ろには刀を山ほど持たされた副官のナツメもいる。


「ああ、なんとか着けたよ」


「そうでなくては困る、貴様とは決着をつけねばならんからな」


「ははっ、相変わらずだな」


「ふん……これから研究所に行くのだろう?私も同行する」


「ん、なんでだ?」


ヒカリは首を傾げる。


「何でもいいだろう、行くぞ」


「相変わらずなヤツ……」


「ちょっ、ちょっとジュリ大尉!この刀はどうするんですか!?」


ジュリの後ろからナツメが情けない声をあげる。


「隊舎に運んでおけ」


「私1人でですかぁ!?」


「当たり前だろう、泣き言を言うな」


ヒカリはナツメを置いてスタスタと先を歩くジュリに続いて研究所へと向かった。




 「ここが……」


「あぁ、ミヤコ城だ」


ヒカリとジュリは立派な作りの城の前に立っていた。

大きな塀に囲まれた敷地内にはピンク色の花をつけた木々が生い茂り、華やかながら高貴な印象を持たせる。


「綺麗だな……なんて名前の花なんだ?」


「サクラという、とても希少でミヤコにしか無い」


ジュリが城に続く門の前で振り返る。


「私は城に戻るが、お前が行くのは隣のあそこだ」


そう言って塀から繋がった施設を指差した。


「あそこか、道案内ありがとな」


「ふん、礼などいらん。代わりにしっかりとピースメイカーの手がかりを掴むんだな」


「俺だってそのつもりさ」


ヒカリはジュリと別れて研究所へ向かう。

門番に持っていた書状を見せると中へと通され、中に入るとジュリと同じ蒼い髪の職員に待合室まで案内される。 施設の中は清潔感のある白を基調とした造りで、時たま職員とスレ違うが皆一様に蒼い髪をしている。


「こちらでお待ち下さい」


「あ、はい」


待合室に通されると緑色の茶が出され、しばし暇な時間ができる。


「茶がうんまい」


ヒカリがチマチマと茶を飲んでいると不意に扉の開く音がした。


「ん…?あれ、貴方は……」


扉を見ると、そこに立っていたのは先ほど別れたばかりのジュリと


「たしか…ミナヅキ姫……?」


大会のときに見たモノよりも簡素な服に身を包んだミナヅキ姫であった。



[ミヤコ・デイズ、続く]

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