[因縁、力への道]
[因縁、力への道]
「な、なんでテメェがここに!?」
ガロンが屋根の上のロウを激しく問い質す。
しかしその声には怒りや戸惑いだけでなく様々な感情が感じとれた。
「クク…声を聞くまで俺の接近に気付かんとは、お前の鼻は何のために付いているんだ?んん?愚かな弟よ……?」
「弟…?てことはあの人がガロンが前に言ってた……!?」
「そうだ…!アイツが俺の…俺達の親父を殺しやがった俺の兄、バジリコだ!」
ガロンがヒカリの考えを肯定すると共に、バジリコは屋根から降り立ちプリンスとエバン達の間に割って入る。
逆光から解放されたその顔は毛並みこそ黒いものの、顔はガロンに瓜二つであった。
唯1つ、大きな傷痕に塞がれた右目を除いては……
「テメェ…!テメェがなんでここに……!」
「フン、貴様には関係の無いことだ」
「テメェには無くても俺にはある!そんなアホみたいなヤツらとつるんで今度は何をしでかすつもりだ!」
「答える必要があるか?」
バジリコはガロンの射殺すような激しい視線をものともせず正面から受け止める。
数の上で絶対的な不利があるにも関わらず、その表情には余裕がありあり現れていた。
「フ、そう睨むな弟よ、そこまで殺気を向けられては構ってやりたくなるでは無いか。お前も嫌だろう?また半殺しにされるのは……」
「なんだとッ……!」
あからさまな挑発にガロンは今にも沸騰しそうだ。
それに対してバジリコは嘲るような笑みを向ける。
「まぁそうしてやっても良いんだが、今はそれより先にすることがあるんでな」
そう言うとバジリコはドンに向き直る。
ドンもまた大したモノで、物怖じする様子もなく睨みを効かせる。
「エンドルゲン商会のドン殿とお見受けする、先ほどのコイツらへの問いに答えよう。リプレイの情報をこの馬鹿どもに教えたのは私だ」
「ふん、ならお主は誰に聞いた?」
「ピースメイカー…と言えば耳の早いドン殿にはおわかりになるでしょう?」
「ピースメイカーだと!?」
バジリコから出た思わぬ名前にヒカリが思わず反応する。
「そう、ピースメイカー…。私はアイツらと色々と縁がありましてね」
「その名前は聞いておる、闘技大会で派手にやらかしおったとな。お主もその一員…では無さそうじゃな、今の口振りを見るに」
「その通り、話が早くて助かる」
「それで、何故リプレイを盗もうとしたんじゃ?」
「なに、ただの仕事ですよ…奴らから頼まれたね。私が直接盗りに来ても良かったのだがなるべく派手にやれと向こうから言われまして、余興も兼ねてこの馬鹿二人にやらせたんですよ。ま、案の定失敗しましたがね……」
そう言ってバジリコは自分の背後で捕まったままのエバン達を一瞥する。その鋭い視線に二人の顔は恐怖に引き吊った。
「それで、お主は何の用でこんな状況に飛び込んで来たんじゃ?数の不利がわからんようには見えんがの」
「こんな馬鹿でも情報は色々持っているのでね、返してもらいに来たんですよ。それに…ククク…例え貴方たちがあと倍いても私の敵では無い」
バジリコはヒカリ達全員を舐めるように見た。その視線は一瞬ガロンに止まってからドンに戻る。
「ですからこれは要求ではなく命令に近い。この二人は返して貰う、怪我をしたくなければ邪魔をしないことだ」
「見かけによらず馬鹿なんじゃな、プリンスこやつも捕らえるんじゃ」
「イエッサー」
ドンに命令されたプリンスが威嚇するように顎をカチカチと鳴らしてバジリコへと向かっていく。
「まったく、警告してさしあげたのに…ククク……」
瞬間、バジリコの姿が消えた。
少なくともヒカリにはそうとしか見えなかった。
「バカ野郎!後ろだ!」
唯一バジリコの動きに反応したガロンが咄嗟に警告するが、既に遅かった。
プリンスの後方にバジリコが一瞬現れたかと思えば、次の瞬間には首から紫色の鮮血を吹き出してプリンスは床に倒れ付した。
「な、プリンス!?」
ドンが驚愕の声を挙げる。
一方バジリコの方は既に拘束されたエバン達二人の後ろに移動している。
「あ、あの…バジリコ様…わたくし達は……」
「黙っていろ、殺しはしない」
「は、はいぃ……」
プリンスの血が付着した爪を剥き出しにしてバジリコが両手を振り下ろすと、ただのそれだけで頑丈な床の変形した鉄の拘束具は切り裂かれた。
「さて、リプレイをこのまま戴いてもいいが……」
「させると思ってんのか……!」
二人を解放したバジリコの前に、ガロンが立ちはだかる。
その顔は既に怒りに染まっていた。
「ガロン!俺も一緒に!」
「やめろ!」
共闘しようと駆け寄ってきたヒカリを、ガロンは顔をバジリコの方に向けたまま片手で制した。
「コイツは俺がやる!絶対に手を出すな!」
「だが!」
「頼む…!!俺を友だと思うなら……!」
「……わかった、だが無茶はするなよ……!」
ガロンの決意と背負うモノを感じたヒカリは素直に引き下がった。
しかし、いつでも自分が出られるようにガントレットと震電を呼び出し臨戦体勢は維持しておく。
ヒカリの後ろではギリギリで意識を保っていたプリンスが己のエヌエムで傷口を覆い止血を試みていた。
「クックックッ……友、か。お前はまだ誰かと馴れ合うのをやめられんようだな」
「うるせぇ…!テメェみたいな冷血野郎に言われることなんざねぇよ!」
「言うようになったじゃないか。おい、お前達はどこかに消えていろ、後で拾ってやる」
「は、はいぃ!」
「俺は少しこのバカな弟を躾ていく」
急にバジリコに声を掛けられたエバン達は一瞬ビクッとしながらも、吹き飛んだ貨物車の扉から外へと一目散に逃げていった。ヒカリ達は黙ってそれを見送る。
追いかけようともバジリコがそれをさせないだろうことがわかったからだ。そして、その戦闘力が並大抵で無いことも。
「あの日…何故お前は親父を殺したんだ…!?そのせいで盗賊団がどんな目にあったか……!」
「クククク…何てことはない、アイツより俺の方が強いのかが気になったからだ。まぁ、結果は見ての通りだが……」
愉快そうに語るバジリコを、ガロンは怒りに染まった、しかし哀しさも滲ませた目で見る。
「何故だ…なにがお前をそんな風に変えちまったんだ!?何故親父を殺してまで自分の力を確かめたがる!?」
「クハハハハハ!むしろ何故お前は確かめようとしない?この世に生まれたからにはどこまで強くなれるのか確かめたくなるのが男だろう?お前にもわかるハズだ!」
「命を奪ってまで…まして育ててくれた人を殺してまで確かめたいことなんかねぇ!!」
「見解の相違だな、ならば取る道は1つだ。まぁ、あの時と同じ結果になるだろうが……」
バジリコが再度爪を剥き出しにする。
それを見たガロンも同じように爪を剥き出し、前傾姿勢を取った。
「ならねぇよ…!あの時の俺とは違う!」
「ならば証明してみせろ、この兄にな!」
バジリコの言葉を合図にしたように、互いにエヌエムを発動させ姿が消える。
その動きに唯一ヒカリだけが反応する。
「外に出たぞ!」
ヒカリ達は動けないプリンスをドンとツカサに任せて外に出る。
草木のまばらに生える平原ではガロンとバジリコが激しく爪を打ち付けあっていた。
互いの爪がぶつかる度に辺りには甲高い音が響く。
「ククッ!なかなかの速さまで耐えられるようになったじゃないかガロン」
「言っただろうが!あの時とは違うってよ!」
短い言葉を交わしながらも二人は休まず戦い続ける。
その攻撃は、多くが急所を狙っていた。
「あれじゃ攻撃が当たったらタダじゃ済まないぞ……!」
「ガロちゃん……」
リュナは心配そうにリプレイをぎゅっと握りしめた。
状況は次第にガロンが押され始めていた。
ガロンはほぼ全力でエヌエムを使っているのにも関わらず、バジリコはそこから更にスピードを徐々に上げ始めたのだ。
「その程度か…?私のほうはまだまだ速くできるぞ?」
「ぐっ…クソっ!」
バジリコは防戦一方となり始めたガロンを挑発するかのように、わざと急所以外を狙い始めた。
反応しきれず鋭い爪で切り裂かれた部分には細く赤い筋とともに血が流れる。
「所詮はこの程度ということだ、貴様は。もう飽きてきたし、貴様を殺したら今度は向こうにいるアイツらに楽しませて貰うとするか」
「そんなことッ…させるかよ…!」
「フン、そんな情けない闘い方でどの口がほざくのだ。結局、貴様はいつまでも俺には勝てないんだよ」
「うるせぇ…!俺は…!お前を倒して…!親父の仇を討つんだぁぁぁ!!!」
その瞬間、ガロンは己のエヌエムを全開で発動する。
己の限界を超えた余りの速度に身体中の筋繊維、その一本一本が千切れていくようだったが、そんなことはもう気にならなかった。
「食らえぇッ!」
全力全速でバジリコの背後をとり、そのまま己の爪を兄の頭へと振り下ろす。
威力、速度ともに今のガロンが出せる最高の攻撃であった。
しかし……
「残念だったな」
次の瞬間にはガロンは地面にうつ伏せに倒れ伏していた。
相当な速度で胸から地面にぶつかったせいか呼吸が一瞬止まる。そんなガロンの背中にバジリコは片足を乗せ体重を掛ける。
「な、なんで……」
「単純な話だ、お前の全速力よりも俺の方が数段早かった……それだけのな」
「ち、ちくしょう……!」
「しかしお前にはガッカリだ、ここまで俺との力に開きがあるとはな。もう少し期待していたんだが、これではこの先強くなれるのかも怪しいものだ……お前も二度も完敗しては生きるのも辛いだろう?
兄の情けだ、このまま殺してやろう」
そう言ってバジリコは腕を振りかぶる、その指先で爪が鋭く光った。
「ちくしょう…!ちくしょう…!」
「さらばだ、弱き弟よ……」
バジリコが腕を振り下ろそうとした瞬間、二人の上を巨大な影が覆った。
「なんだ?」
バジリコが腕を止め影の方へ振り向く。
するとそこには5mはあろうかというような鉄の巨人が拳を構えていた。
さらにその奥にはガントレットをバジリコへと構えるヒカリと、先端の水晶から激しい輝きを放つリプレイを握りしめたリュナが見えた。
「なるほど、あの娘のエヌエムで貨物車を変形させたか、これだけの巨大さならば本人への負担も凄まじいだろうに……ククッ、健気なことだ」
バジリコはガロンの背中から足をどけた。気管が自由になったせいかガロンは咳き込む。
「いいだろう、あの娘に免じて今回も殺さないでおいてやる。せいぜい感謝するのだな、弟よ」
「ぐっ…げほっ…!」
「だが……」
フ、とバジリコの姿が消えた。
「リプレイは戴く!」
次の瞬間バジリコは未だリプレイを構え続けるリュナの目の前に現れ、そのまま驚きと恐怖に目を見開くリュナに向かって腕を伸ばす。
だが……
「お前…いい加減にしろよ…!」
その腕はガントレットを纏ったヒカリの右手に掴まれ、リュナの目の前で止まる。
ヒカリは闘技大会で見せたような鋭い眼光とプレッシャーを放っていた。
「貴様は……そうか、貴様が話に聞いたヒカリとかいうヤツだな?」
「だったらどうした」
「ククッ、我が愚弟にも勝ったそうじゃないか」
「だったらどうした!!!」
「いや、どうもしないさ…クククク」
バジリコはヒカリのプレッシャーなど意に介さずに掴んだままの腕を払いのけた。
「お前とも闘いたいが今では無いな……少なくとも弟に辛勝する程度ではまだ、な」
そう言ってバジリコは再びガロンの元に一瞬で戻り、その顔の近くに屈みこんだ。
そのまま、未だに立ち上がれないガロンの頭を掴み持ち上げる。
「気が変わった、今日は帰ることにしよう。つくづく貴様のお友達に感謝するが良い」
バッと手を放し、立ち上がると、バジリコの視線はまた自分にガントレットを構えるヒカリへと向けられた。
「弟よ、このまま生きていればお前もいつか知るだろう、この世には想像もつかない様な力があるのだと。
それを知ればお前も必ず、俺と同じ道を選ぶ。力を、強さを求める道をな」
「か…勝手に…決めんじゃ…ねぇ…!俺は…お前とは…違う……!」
呼吸がしづらいのか、息も絶え絶えに抗うガロンを見てバジリコは薄く笑った。
「フ、その負けず嫌いがいつまで続くか見物だな。では、また会うとしよう、それまでに精々強くなるのだな」
その言葉を残してバジリコはエヌエムを発動し消える。
そしてガロンの意識は、駆け寄ってくるヒカリ達を感じながら遠退いていった。
[因縁、力への道]終




