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[チケット・トゥ・デンジャラス・3]

 


「ふむ、流石に最後尾までくれば少しは時間が稼げるじゃろ」


 ヒカリ達はそのまま車両を移動し続け、最後尾の貨物車両まで辿り着いた。

 流石に最後尾までは荷物を多く積めなかったのか中はガランとしている。


「それで、何が起きてんだか説明してもらうぜ爺さん」


 ガロンが腕組みしながらドンに問いかける。

 車両の前部ではプリンスが黙々とエヌエムで扉を塞いでいた。


「うむ、お主らも知ってるかもしれんが、そこのお嬢ちゃんが大事に抱えとるリプレイはとんでもない価値があるもんじゃ。目の高いワシも欲しがるくらいだからの」


 ドンが渋い顔でヒカリ達の前をせわしなく歩きまわりながら話す。


「つまりそれを欲しがる賊がいるのはワシも予想しておった。

 ただリプレイが外に出回る情報はそうそう漏れん、ミヤコの軍人は口が硬いからの。ワシじゃって相当な金を積んだんじゃ」


「つまりどういうことですか?」


「我々の財閥の中に情報を流したものがいる可能性が高いと思われますが」


 扉を塞ぎおえたプリンスがヒカリの問いに答える。


「そのようじゃの、ミヤコに着いたら内部捜査でもせにゃならんな。

 まぁそういう可能性も考えてあったワケで、列車に異変が起きた途端にお主らのところにすっ飛んで行ったというワケじゃ、どこの馬の骨ともわからん賊にリプレイを盗られるのは我慢ならんからの」


「でも、この列車にはかなり強いボディーガードが沢山いるんじゃないんですか?侵入してきた盗賊もここまで来るまえにやられちゃうんじゃ?」


 ツカサが当然の疑問を口にするが、ドンは首を横に振る。


「微妙じゃろうな……ここにいるプリンスもそうじゃが、ボディーガードはあくまでもVIPを守るためにおるんじゃ。

 盗賊達が節操無い物盗りで、無差別に部屋を開けていくならまだしも、そうでないならわざわざ危険を犯してまでVIPから離れて盗賊を倒しにいく可能性は低いじゃろう。犯人達も何故かはわからんがリプレイ目掛けて一直線にこっちに来てるみたいじゃしな」


 ドンが話に一区切りつけたその時、またしてもドカンという音が響いた。音の大きさからして、入り込んだ盗賊はかなり近くまで来ているようだ。


「そろそろここに入って来そうじゃな」


「そのようです、ドン様は御下がりに」


 プリンスがドンやヒカリ達を下がらせ1人扉の前に立ちはだかる。

 しかし、その両脇にヒカリとガロンも同じように並んだ。


「俺たちも戦います」


「おうよ、そこらへんのヤツよりは強いつもりだぜ」


 プリンスは二人を拒否することなく無言で頷いた。盗賊が複数人だった場合に1人で戦うリスクを考えたのだろう。

 その後ろではツカサがリュナとドンを庇うように立っている。


「来るぞ!」


 鼻の良いガロンが盗賊の接近を感じて警告を発する。それと同時にまたしてもドカンと音が響き泥に固められた扉が振動した。

 なんとか耐えた様だが、所々ヒビが入ってるのを見る限りもう持ちそうも無い。

 そしてまたドカンという音と共に、今度は扉ごと固まった泥がバラバラに砕けちって四散する。あまりの衝撃に貨物車の天井がめくれあがったほどだ。


「オーホッホッホッホッ!!!追いかけっこもここまでですわ!! !」


 跡形もなく吹き飛んだ扉のあった場所に立っていたのはなんとエバンだった。

 先ほどまでとはうってかわって動きやすそうなピッチリした黒い服を着ている。


「エバンさん!?」


「やっぱり……」


 驚きの声を挙げるヒカリの後ろではツカサがジト目で半ば呆れた声を出していた。


「ツカサの言ってたことは正しかったみてぇだな」


「エバンスなんて家名は知らないからね、怪しいと思ってたのよ!」


「オホホホホ!わたくしの名演技にすーっかり油断していたようですわね!

 わたくしのエヌエムは物体のマーキング!貴方たちの部屋に入ったときにしーっかりリプレイをマーキングさせていただいてここまで追ってきましてよ!」


 ガロンとツカサの言葉にエバンは高らかに笑って返す。

 その後ろでは先ほど一緒にヒカリ達の個室にボディーガードとしてついてきていた男もいる。体格から見てドンパなのだろうが異常に腕が長く太く、凄まじくバランスの悪い体型だ。


「貴方はいったい何者なんです!?」


「フフフ…気になるなら教えてあげますわ……私の名前はエバン・バン・ババンバン!偉大なるババンバン盗賊団のお頭でしてよ!」ドカーン


 改めて自己紹介するエバンの背後から謎の爆煙があがり名乗りを盛り上げた。


「わたくしは副頭領のガニメデでございます、お見知りおきを」


 後ろのバランスの悪いドンパの男も一礼をしながら名乗る。


「ババンバン盗賊団……」


「知っているのかガロン!?」


「こんなアホみたいなのは知らん!」


 ヒカリの質問にガロンはバッサリと否定した。


「アホみたいですって…?言ってくれるじゃないですの……」


 エバンが眉をひくつかせる。

 しかしエバンとガニメデの二人だけではどう考えてもヒカリ達の数には太刀打ちできそうにない。


「オラオラ!どこの誰だか知らねぇが二人だけで俺らに勝てるワケがねーだろう!」


「その通りです、降伏してくれれば手荒いことはしません」


 ガロンとヒカリは警告を発する、が、エバン達は不敵に笑って見せた。


「あーら、それはどうかしらねぇ?わたくし達がなんの準備も無く乗り込むと思って?」


 そう言うとエバンは右手を高らかに掲げる。その掌の中には黒光りする四角い物体が握られていた。


「あぁ?なんだよそれ。そんなもんで俺達と戦おうってか?」


 ガロンが呆れたように言うが、エバンは相変わらず不敵な笑みを絶やさない。


「ええ、その通りよ……貴方たち、わたくし達がどうやって辿り着いたかご存知?」


「知らねぇよそんなもん」


「フフン…ガニメデ!見せておやり!」


「かしこまりました」


 そう言ってガニメデは右手を振り上げ、掌を床に叩きつける。掌が離れたそこには半固形状のネバついた黒い物体がへばりついていた。

 その中心にはなにやら銀色の物体が埋まっている。


「よーく見ておきなさい!」


 その言葉とともにエバンは目を瞑り、握っていた物体にある突起を押し込む。

 その瞬間……


 ドカン!


 かなり小規模ではあるが、ネバついた物体が爆発を起こした。


「な、なんなの!?」


 ツカサが驚いた声を挙げる。


「オーホッホッホッホッ!!!凄いでしょう驚いたでしょう!!!

 このガニメデのエヌエムは良くわからないネバネバした何かを出す能力!最近までなーんの役にも立たないと思ってましたけど、あのお方に頂いたこの信管とかいうモノを使ったらビックリ!このスイッチを押すだけでなんと爆発するようになったんですわ!」


 エバンの言葉にガニメデは嬉しそうにニヤケながら頭を掻いた。


「だ、だから何だって言うんだ!こんなもん当たらなきゃ意味ねぇぞ!」


 多少驚きながらもガロンが反論する。

 たしかにガニメデの掌にさえ気をつけていれば大して驚異にもならないように思えた。


「そーうでしょうそうでしょうとも!でも今わたくしが自分の好きなタイミングで爆発させたのを見ていて?」


「な…!そういうことか!こりゃあマズイぞい……!」


 それまで状況を見守っていたドンが思わず口を開く。


「そっちの大富豪さんは気付いたようですわね……そうですわ!ここに来るまでの間の車両、至るところにこの黒いネバネバをたーっぷり張り付けてきましたのよ!

 部屋に籠りっきりの臆病な方々は自分達が人質になっているなんて気づいてないでしょうけど…ウフフ」


「乗客を巻き込まんように最後尾まで来たんじゃが、ここまで裏目に出るとは……完全にワシの読み間違いじゃ…すまん!」


「そういうことですわ。さ、状況が飲み込めたならそちらのお嬢さんが大事に抱えてるリプレイをこちらに渡していただけます?」


 エバンがスイッチを握っていない方の腕をリプレイを抱いたままツカサの影に隠れているリュナに向かって伸ばす。


「……」


 しかしリュナは前に出ようとせず、意地になった子供のようにリプレイをさらにきつく抱きかかえた。


「お嬢ちゃん…同じドンパとして気持ちはわかるが、人命がかかっとるんじゃ……ミスをしたワシがこんな事を言うのは図々しいじゃろうが、今は奴等にリプレイを渡すしかない……」


「リュナちゃん…しょうがないわ……」


 ドンとツカサの言葉に、リュナは未だに嫌そうな顔をしている。


「…!…わかった……」


 しかし、不意に一瞬顔を明るくすると、ゆっくりと前に進みだした。


「私が持っていこうか?」


「ううん……大丈夫……」


 そのままエバン達の方へ歩き続け、途中で心配そうに立ち尽くすだけだったガロン達のいる箇所に差し掛かった時。


「……ガロちゃん……」


「ん?…!」


 リュナからの呼びかけとアイコンタクトだけで何か合点が言ったのか、ガロンは小さくニッと笑った。それを見たリュナも小さく笑って頷く。

 一瞬だったうえにリュナの声のか細さも手伝ってエバン達はそのやり取りに気づいていない。高笑いしていたせいもあるが。


「あぁ…!ついにお宝がわたくし達のモノに!思えば大変な道のりでしたわ……!」


「はい…!今まで大金を手に入れようとしては失敗して悲惨な目にあって参りましたから。ついにはメンバー我々二人だけの、盗賊団とは程遠い姿に……」


「それも今日で終わり!リプレイをあの方に渡せば一生遊んで暮らせるだけの大金が手に入るんですもの!

 これでわたくし達は勝ち組ですわぁ!オーホホホホ!!」


「おいヒカリ……」


 そんな高笑いしているエバン達の隙をついてガロンがヒカリに小声で話しかける。


「なんだ?」


「お前、ガントレットであの女が持ってる黒いのを狙えるか?手から弾くだけでいい」


「この距離なら狙えないことはないが、動かれたら変なとこに当たって殺しかねないな……」


「動かれなきゃ大丈夫なんだな?」


「ああ、何か策があるのか……?」


「これからリュナがアイツらの動きを止めるハズだ…たぶんな」


「リュナが…?どうやって……?」


 しかしその問いに答えが出る時間は無さそうだった。

 高笑いしていたエバンが自分の目の前で何やらリプレイの先端でコツコツと貨物車の鉄の床を叩くリュナに気付いたのだ。


「説明してる時間は無さそうだ、アイツらに隙が生まれたら頼むぜ」


「貴方、なにをしてるんですの?おやめなさい。リプレイに傷がついたらどうす…!?」


 エバンの言葉は最後まで発せられることは無かった。

 なんとリプレイで叩いたところから床がギリギリと音を立てて細長く裂け、そのままエバンとガニメデに鉄の固さを持った縄のように凄まじい速さで巻き付き二人の体をキツく縛り上げたのだ。


「いまだ!!」


 ガロンの言葉を聞くが早いか、ヒカリは既にガントレットを出現させエバンの手に握られたスイッチに狙いをつける。


「こ、小賢しい真似をっ!人質がどうなってもーーあいたっ!?」


 ヒカリの放った銃弾は見事にスイッチだけに命中し、エバンの手から弾き飛ばした。

 その勢いのまま宙に浮いたそれをガロンがエヌエムを発動して凄まじい速さでキャッチする。


「あぁっ!?しまったですわぁっ!?」


「へへ、形勢逆転……というより勝負ありだなこりゃ」


 ガロンの言うとおりであった。

 切り札であるガニメデのエヌエムを利用した爆発も、信管を作動させるスイッチが無ければ意味がない。

 その上、未だに体の自由を奪われているとあっては完全に詰みだ。


「よくやったぞお嬢ちゃん!」


「凄いじゃないリュナ!あんなことができたなんて……ガロンは知ってたの?」


 ツカサとドンがリュナに駆け寄る。

 リュナは腰に手を当てて自慢気な表情をしていた。


「ああ、物質の形や性質を変えるエヌエムを持ってるってのは出会ってすぐの時に聞いてたんだ。ホントは使う前に色々準備が必要だって聞いてたんだが……リプレイのお陰なのか?」


 ガロンの声にリュナは小さく頷く。


「…ほんとうは形を変えたいモノに一時間くらい触ってないといけないの…でも…リプレイを使ったらすぐにできたんだよ」


「そうかカムイさんの言ってた通りだな」


「どういうこと?」


 ヒカリの言葉にツカサが反応する。


「リプレイは強制的に使用者のエヌエムを発動するってこと。つまり、発動に条件が必要なエヌエムも過程を飛ばして結果だけがすぐに発動するってことなんだろう」


「確かに……私が触った時も本当はあんなに氷を生み出すのは時間がかかるのに直ぐ様発動してたわ。てことはやっぱりこの杖はリュナちゃんにピッタリってことね!」


 ツカサが微笑みまじりにリュナに顔を向けると、リュナもまた笑顔で頷いた。


「それにしても息ピッタリじゃないの!あんな一瞬でリュナちゃんがどうしたいのかわかっちゃうなんて!」


「ま、ヒカリ風に言うと直感……てヤツだな!」


「おいガロン、それがバカにしてるってのは俺にもわかるぞ!」


 緊張の糸が切れて談笑する四人を余所に、ドンはプリンスを連れて未だに拘束されたままのエバン達の前に立つ。


「さて、お主ら二人とも無事にミヤコまで着きたければワシの質問に答えて貰おうかの。先に言っておくが、嫌だと言うなら手荒な手段も厭わん、乗客全員を危険に晒した上にワシの面子も潰れかけたんじゃ、わかったな?」


 ドンの言葉と、後ろに佇むプリンスの威圧感にエバンとガニメデはただ頷くしかない。


「よろしい、ではまずリプレイがこの列車にあると誰に聞いたんじゃ?」


「そ、それは……」


 二人は拘束されたまま顔を見合せる。


「い、言えませんわ……」


「なんじゃと?お主ら自分の立場がまだわかっていないようじゃの?」


 ドンが脅すような声を出すと同時に、プリンスが拳をバキバキと鳴らす。


「は、話せることは話しますわ!

 わたくし達はお金も無くさ迷っていた時にあるお方に拾われて、この列車にあるリプレイという杖を盗めと言われただけですの!準備は全て整えてやるから何としても盗んでこいと……」


「なら、あのお方というのは誰じゃ?」


「い、言えませんわ…それだけは…喋ったらわたくし達の命が……」


「なるほどの、ならミヤコ軍の硬い壁に囲まれた牢屋の中なら安心して話せるようになるじゃろ」


「う、うぅ……」


 エバンもガニメデも涙目になるが、ドンは情け無用といった様子だ。


「当たり前じゃろ、こんな事件は前代未聞じゃ。プリンス、コイツらを固めておけ、絶対に逃げられんようにな」


「イエッサー」


 プリンスが二人をエヌエムの泥で固めようと近づいたその時、不意に彼らの頭上から声が聞こえた。



「おっと、そこまでにしていただこうか」


 ガニメデのエヌエムで吹き飛ばされた屋根の切れ目に、ロウの男が1人腰かけていた。

 逆光になっていて顔は良く見えないが、黒い毛並みをしているがわかる。


「な!?」


 その男の声を聞いた途端、今まで談笑していたガロンが焦りを隠せない顔で振り向き、男を見上げる。


「お、お前は!!」



 [チケット・トゥ・デンジャラス、終]

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