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切欠はコンビニで10円  作者: 黒主零
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9話「担当は元クラスメイト」

9:担当は元クラスメイト


・5月は最終週。最終日の前日。土曜日。

 光志朗はこの一ヶ月でプレイしたゲームの試験結果をレポートにまとめていた。48時間以内にこれをまとめて提出する必要がある。先月までならば一週間前には終わっていた物だが今月は中旬に手痛いイベントが起きてしまった。それだけではない。先日あの怪物シスターから受け取った楽譜の解析にも時間がかかっている。それらにより一週間前後の遅れが出来ている。予定ではこのゲームは光志朗により得られた結果を下に一ヶ月で可能な限り改善してそれから本格的な量産に入り半年後には発売される。その半年までの間に毎月30万が振込まれる。しかしその半年もただ遊んで過ごすわけではなく次のゲームの確認作業を行う。

「ちょっと~いないの~?」

部屋を叩く音と声。この声は予定を送らせてくれた張本人のものだろう。

「ちょっと相談あるんだけど~?」

「…………後にしろ。今は手が離せない」

「あ、うん、分かったわよ」

短く返すとそれ以上に短い答えが返ってきた。その答えからいくつかの色が抜け落ちていたことに対して罪悪感がないわけではない。しかし相手に対する苛々が全くないと言えるほどの善人でもない。この2週間で悠凪のバイトに何回か行った。あの牛丼屋だ。バイトをしている5時間をあの店でゲームをして過ごしていたのだが当然だが移動時間という無駄がある。往復で1時間程。当然無駄な時間というのは少ないほうがいい。しかし5時間だ。その他に移動時間はもちろん大学にいる時間もある。ミュートで行なったとしてもゲーム機のバッテリーはそこまで持ってはくれない。店内で充電をするというわけにも行かず大抵3時間程経過した店内でバッテリーが悲鳴を上げる。時間を最大限活用したいと思っている光志朗にとっては甚だ心地よくなかった。時折自分に視線を送ってくるあの男性店員も気に入らない。数時間も居座って何食わぬ顔でゲームばかりされていては邪魔なのは分かるがしかしそう冷静に開き直れるほど大学生は大人ではない。自分に全く非がないわけではないがしかし結果として期限48時間前まで追い詰められてしまったこの状況、決して甘く見ていいものではない。今回は問題なく完了するだろう。しかし、来月からは通用しない。なにせ悠凪と言う厄介が出来たのは後半に入ってからであり、また5月には頭の連休もあった。その2つの要素があってこの様だ。単純計算で行けばまず6月は間に合わない。ともなればそろそろ来るであろうあいつに談判をするしかない。一段落をついて光志朗が伸びをした時だった。

ピンポーン。

あの日以来となるインターホンが家の中でその役目を鳴らす。すぐに穂凪の物であろう足音が響いて玄関の方へと向かっていく。やがて、穂凪の物ではない声が生まれた。それを聞いた光志朗は椅子から立ち上がりドアへと向かう。ドアを開けると同時に玄関から来た二人の少女を見やった。

「お兄ちゃん、暁帆さんが来たよ」

「…………」

「相変わらず無愛想だねあんたは」

穂凪の背後の少女。悠凪程大人びた外見ではないが手前の我が妹と見比べてしまうと比べ物にならない背格好。そしてその両腕は穂凪の右足同様、鋼鉄で補われていた。スーツが似合うその少女の名は蛹路さなじ暁帆あきほ。光志朗の仕事における担当でありまた、高校時代の同級生でもある。当然穂凪とも数年来の付き合いだ。

「私がここに来た意味わかるよね?」

「レポートはもう終わる。心配せずとも明日には提出する。数時間待ってもらえればお前に直接渡せる」

「そこは心配してないよ。あんた今までやると言ってやれなかったことなんてそうそうないし。ただ、社内の人達も気になってるのは珍しくあんたが一週間も仕事を遅らせていることよ。…………また何かあったの?」

「…………それは、」

言い淀む。そこへ、

「お客さん?誰なの?」

悠凪が自室から顔を出した。

「あk……」

「違う」

顔を見るより先に何かを口から出そうとした暁帆を制する。直後に暁帆が悠凪の顔を見て数秒してから胸をなでおろした。

「…………行くぞ」

嘆息をしてから光志朗は指をリビングの方へ伸ばしてから歩く。それに他3人も続くことにした。



・15分ほど。

 穂凪が用意したお茶を飲みながら暁帆は光志朗と悠凪から事情を聞いた。

「…………相変わらずあんたは厄介に巻き込まれるわね。…………っとごめん。無神経だった?」

「気にするな」

「暁帆さんは19歳なのに会社で?」

「ええ、そうよ。まあ、こいつのバイト先になったのは偶然なんだけどね」

一緒に煎餅をかじりながら19歳女子は語る。

「じゃ、じゃあさ、こいつがやってるゲームも知ってるの……?」

「まあ、担当だからね。ってひょっとして悠凪さん興味あったり?」

「い、いや!そういうわけじゃないのよ!? で、でも女の子でああいうゲームって拒否らない?」

「…………まあ、そう言うのも多いわね。と言うか普通なのかも。でも私は別に嫌いじゃないかな?

そもそも18禁ゲームも出来る携帯ゲーム機を採用したらどうかって会社に頼んだの私だし。就職して三日で提案して通ったわ」

「そ、それはまた…………」

「今こいつがやっているのは栄誉あるその1号。あらかじめ脚本は出来てたわけだから私が言わなくてもきっとその内出来てたわね。ご丁寧に声まで入れてあったわけだし」

「…………さっきからこいつこいつうるさいぞ」

レポートを書きながら光志朗はぼやく。その膝には穂凪が猫のように転がっていた。

「…………妹を膝に乗せながら仕事する奴に言われたくないわね」

「全くよ、上下対応シスコン野郎はこれだから」

同時に二人が返せば光志朗はオカリナを手に取った。それを見た穂凪の顔が青くなるのと同時に音色が空間を支配した結果。

「ま、またなのぉ~?」

「ううう、新たな道が開かれてしまいそう…………」

「ひゃああああん!!だ、ダメだよ~!!」

音色を聴いた3人は仲良く百合百合する事になった。暁帆の短いスカートの中に悠凪の顔が突っ込み、その悠凪のスカートの下に穂凪の顔が、そして穂凪のスカートの中に暁帆の顔が突っ込んだ。その桃色空間の中、光志朗は見やることなく冷淡にレポートを書き連ねていた。



・レポートを書き終えた光志朗をフルボッコにした悠凪。

 「去りし日々が尊いことって……あるよね?」

その隣で何やら難しいことを絶頂した表情で放つは暁帆。その正面で傷だらけで倒れる光志朗を今度は逆に膝に乗せる穂凪。

「…………」

悠凪がその二人を交互に見やった。

「…………どうしたの?」

「あ、いや、その…………」

二人から同時に視線を返され淀む。

「その……失礼かも知れないんだけど……その、私以外義肢だなぁって……」

その言葉に穂凪と暁帆は顔を見合わせ遠い目をした。

「………………まあ、そうよね」

「…………原因も一緒だしね…………」

「……!」

原因が一緒。穂凪は今そう言った。暁帆は高校時代からの仲だと言う。つまり3年前には一緒の可能性がある。ならば2年前の事故とやらに関わっているのではないだろうか?穂凪は右足を、暁帆は両腕を、そして南風見の両親は命を失った。…………しかし、そうなれば光志朗に傷がないのはおかしいのでは?

家族だけが事故だと言うのでも光志朗が無傷なのは疑問だ。そして家族でない暁帆まで関わっているとなるとただの事故にしては範囲が広い。…………事件の可能性が見えてきた。そしてもし本当に事件であるならば事故とは違い、過去形で終わらない可能性が出る。つまり、未来に同じ事が起きる可能性がありそれに自分が巻き込まれる可能性がある、と言う事。

「…………」

もしも本当にそんな未来が待ち構えているのなら自分は無事に済むのだろうか?悠凪は言いようのない恐怖に肩を震わせた。

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