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切欠はコンビニで10円  作者: 黒主零
14/20

14話「目指すは闇の居城」

14:目指すは闇の居城


・大学。

今日は午後しか授業がない。しかし二人は9時には家を出る事にした。朝食の席で話し合った結果やっぱりあのシスターを訪ねようという判断に至った。

「…………」

その中穂凪は黙っていた。

「? どうしたの穂凪ちゃん。ひょっとしてまだ昨日の痛い?」

「それはもう大丈夫だけど何だか最近出番ないなって」

「…………大学が舞台なんだ。高校生は下がっていなさい」

「むう、そんな事言うお兄ちゃんは嫌いだよ~、もう一緒にお風呂入ってあげないんだから」

「…………す、好きにするがいい」

「……ちょっと、何動揺してるのよ。ホントあんたはシスコンなのね」

「…………」

光志朗がオカリナを手に取るのと悠凪が平身低頭するのは同時だった。

……………………

………………

…………

……

「いらっしゃい、光ちゃん悠凪ちゃん」

るらら……

円華のコンビニ。そこでレポート用紙を購入しつつシスターについて尋ねる。

「シスター?ああ、大学のね。すごい格好してるよね」

「…………姉さん」

「いや、円華さん。確かにすごい格好ですけどそれ以上にもっとぶっ飛んでるでしょアレ」

「え? そうかな?確かに光と音の2つを使える人は珍しいけど世界には3つまで能力がある人だっているんだし。光ちゃんだって10年くらい修行すれば光を使えるようになるんじゃないのかな?」

「待って! ちょっと待って! あの特殊能力って修行して出来るようになるものなの!?」

「光ちゃんの音に関しては生まれつきだよ?だからこそ2つ目を習得するには通常以上に時間が掛かっちゃうんだ」

「…………もしかして円華さんも何か使えるんですか?」

「私? ううん。私に素質はないもん。南風見の家は不思議な力を持っている人は多いけど私には運悪くそう言うのはなかったんだ。だからこんな平凡なコンビニアルバイター助教授なの」

円華が中々立派な胸を張る。その胸がもう他人のものでもあると言う事実が光志朗を人知れず殴っている。それにやせ我慢をしながら光志朗は口を開いた。

「そこで、頼みがあるんだけどいいかな?」

「なに? 光ちゃんの頼みだったら性的なもの以外だったらいいよ?」

あっけらかんと答える円華に対し僅かばかりの間を持たせてから放った。

朱華あかのいる病院を教えてくれ」

「……………………え?」

「あか?」

悠凪が首をかしげるがしかし対面する二人は気にしない。

「…………光ちゃん、」

「俺だけが朱華の病院を知らされていない理由は何となく分かる。でも、今度はコイツを連れて行く。だから大丈夫なはずだ。姉さん、教えてくれないかな?」

「…………分かった。でも、行くのは一度だけにしてね。それと、私も行く」

「! 姉さん、危険だよ! せっかく姉さんだけは何ともなかったのに……!」

「光ちゃん、それが条件だよ。私や穂凪ちゃんだってそう言われてるんだ。

光ちゃんを一人で朱華ちゃんの所に行かせるなって。一人じゃなかったとしても流石に全くの他人である悠凪ちゃんじゃ話にならないよ」

「…………」

「だから私も行く。こればかりは光ちゃんでも反対できないからね」

既に円華の表情から笑顔は消えている。真摯で真面目だ。対して光志朗は不意にボディブローでも食らったように苦い表情。自然と顔は下を向き、そしてレジ前で例の赤い糸が目に入った。

「………………」

「光志朗?」

「…………分かった。姉さん、一緒に朱華の所へ行こう」

「うん、それでこそ光ちゃんだよ。じゃ、今日の予定教えて。私はあと3時間くらいで終わりだから」

「うん」

光志朗が今日の時間割を教える。午後に3コマ4時間半。本当なら2コマだけにしてさっさと行きたいところだが流石に一応大学所属の円華の手前、サボりますということを伝えるのは厳しかった。

「じゃあ、校門前に集合ね」

「分かった」

購入したレポート用紙を片手に光志朗と悠凪はコンビニを後にした。

「…………1つ聞く」

「何?」

コンビニを出て大学へ向かうまでの間。光志朗が静かに声を放った。

「あのハサミ、今あるか?」

「ハサミ? シスターの? ないわよ。今までは何に使うのか分からなかったから肌身離さず持っていたけど使い方が分かってそして必要ないものって分かったら持ち歩く必要なんて無いでしょ?」

「…………今の生活が窮屈じゃないのか?」

「そりゃ常に一緒に行動しないといけないのは厳しいけど、幸いどういうわけか家の中ではある程度自由なわけだし。大体、口実にしたいっていう気持ちが分からないのかな?」

「………………どういう意味かは分からないが口実なんて小細工は必要ない。やりたいようにやればいい。だがな、今日だけはシスターから新しいのをもらって引き下がっていろ」

「え? それどういうことよ!? 私と一緒に行くんじゃなかったの!?」

「あれは口実だ。本当は姉さんも置いて一人で行くつもりだった。何が起きるか分からない。今度は間に合わないかもしれない」

「…………間に合わないって何が?」

「…………昨日はお前の首が落とされるより先に避けさせられたから今お前は無事に生きている。だが、今度は間に合わないかもしれない。お前の首は今度こそ落とされるかもしれない」

「…………ねえ、朱華って誰? もしかして昨日のだったりするの?」

「…………南風見朱華」

「え?」

「お前が昨日見た影の正体だ。…………今から5年前、南風見の家に一人の少女が拾われた。

名前は分からないがどこかの研究所でひどい生物実験を受けていたらしい。それ故に精神は崩壊し自分の名前すら分からない状態となっていた。両親は彼女に朱華と名前をつけた。…………自分の名前を理解しているかは分からないがな」

「…………それが、昨日の…………?」

「そうだ。朱華は俺や穂凪と一緒にあの家で暮らしていた。特に俺には懐こかった。いつしか俺は朱華に惹かれていった。確かにあいつは狂っている。言葉も覚えたての赤ん坊のような感じだ。過去のことなんて何1つ覚えていない。でも、そんなあいつが俺は…………」

「……………………そう」

「だが、2年前。俺を恋人と認識してくれるようになった朱華はついにその能力を使うようになってしまった。自分に触れたものを、あるいはそれに触れたものを切り裂いてしまう能力だ。2年前のあの日に穂凪が冗談で俺にキスをした。それが原因だったんだ。朱華は能力の制御を忘れて穂凪の右足、暁帆の両腕、そして俺の両親の首を切り落とした」

「…………え」

「その時に俺が持てる全ての力を使って朱華を再起不能にした。それ以来朱華は目を覚ますことなく病院で眠り続けている。だが、昨日。シスターから渡された楽譜のメロディを実際に力を込めて奏でた。それは俺ですら知らなかった半霊召喚のメロディだったんだ。それによりこの世界のどこかを未だ彷徨い続けている朱華の魂が呼び出されてしまった。最初はただ俺との再会を喜んでいただけだった。……だが、」

「…………私が来たことでまた力を出し始めてしまった」

「そうだ。だからお前を次に朱華の前に出してしまえば殺されてしまう可能性が否めない。朱華は最初に穂凪の右足を切り落とした。次に暁帆の両腕、そして最後に両親の首だ。どんどん被害が増えている。昨日もお前の首を狙っていた。あいつが手加減出来るはずもない。だからお前を連れて行くことは出来ない」

「…………光志朗はあの子を、朱華さんをどうするつもりなの?」

「出来るはずはないだろうが説得する。そしてそれが出来ないようだったら……」

「…………殺すの? 光志朗の音で」

「…………さもありなん」

「さもありなんって、あんた自分で好きな女の子を殺そうって言うの!? このご時世で!? 世間体しゅういを少し考えたらどうなのよ!」

「…………必要ない」

「え?」

答えを入用とせずに光志朗はオカリナを奏でた。

直後、

私 を 呼 び ま し た か ?

「ひっ!」

あのシスターが視界に現れた。大学敷地内ならまだしもこうして通常の道に現れるにはその姿は中々に肝を冷やす。

「…………要件は分かっているな?」

よ ろ し い の で す か ?

「ああ」

「ちょっと、何をして……」

しかし悠凪が動くより先にシスターが動いた。かつて悠凪に渡したのと同じハサミで悠凪の眼前の虚空を切り裂いた。

「…………え?」

こ れ で も う あ な た は デ ィ ス ラ バ ー ズ の 呪 い か ら 放 た れ ま し た

「ディスラバーズ……?ってまさか」

「…………」

悠凪が振り向くより先に光志朗はまた音色を放った。それが意味するものは爆走。

「ちょっ! 光志朗ぉぉぉっ!!!」

メロディを聞いた悠凪はひたすら真っ直ぐに全力疾走した。今までの悠凪では絶対に出来なかった行為だ。

「………………」

やがて、悠凪の姿は見えなくなった。直線距離で数キロ以上走らせた。

こ れ で 良 か っ た の で す か ?

シスターが疑問だけを光志朗に送る。

「………………」

光志朗は答えず手帳を出す。そして先程コンビニで円華に対して掛けた音を書き記す。光志朗の声に円華から朱華に対する情報を吐くように力を持たせ、そしてそれを受けてから発せられた円華の声に朱華の情報を詰め込ませた。その円華の声を頭の中で何度もリピートして正確に音階をメモにまとめる。そして書き終えるとその音階を解読する。

音 探 し の メ ロ デ ィ で す か 。 立 派 な 腕 前 で す ね

「…………あんたには通用しないんだろう? ならばあんたが驚いて見せる必要はない」

冷たくあしらいながら音階から朱華の居場所を探る。そうして無事突き止めることに成功した。

「…………あそこだな」

光志朗が踵を返し駅に向かって足を運び始めた。いつしかシスターの姿はなくなっていた。



・大学。キャンパスを覆う塀に悠凪は激突した。

「ぐべっ!!」

顔からコンクリートに突っ込み、妙な声と鼻血が漏れてしまう。

「…………あの野郎…………!」

やっと足が止まったや否やすぐに後ろを睨む。

「ひっ!!」

壁に激突した悠凪を心配そうに見つめていた通行人が驚きの声をあげてすっ転んだ。それに対して僅かばかりの冷静を見直しながらも頭を振り、キャンパス内に逃げた。とりあえず保健室に行き、止血剤を鼻に塗ってもらった。

「………………出ないか」

電話。光志朗に掛けるが当然出る気配はない。本当なら円華に掛けた方がいいのだろうが生憎と番号を知らない。穂凪に掛けるが授業中なのかこちらも出る気配はなかった。

「…………どうしたら」

光志朗の目的地は間違いなく朱華が眠る病院だろう。そしてそこで自らの手で決着をつけるつもりに違いない。しかし残念ながら悠凪にはその病院がどこなのか分からない。いや、光志朗だってさっきの会話からして知らないはずだ。ならば一体どうやって向かうつもりなのだろうか? あるいはあのシスターは知っているのだろうか?とりあえず一度あのコンビニに戻ってみよう。円華は確実に朱華の病院を知っている。もしかしたら他に居場所を知っている人を知っているかもしれない。

「…………行ってみよう」

授業をサボることになるのは非常に気が進まないがしかし人命が関わっているのだ。この際単位の1つや2つ捨て置くに越したことはない。涙をぬぐい悠凪は大学を後にした。あのコンビニまで走る。昨日の怪我はほとんど治ってはいるがしかしまだ両足に違和感はある。それにさっき全速力で走らされたこともあって太ももがパンパンだ。それでも立ち止まっていい理由にはならない。それに今頭の中をめぐるのはどうして自分を捨てたのか。

…………光志朗のバカ野郎、私を庇ってヒーロー気取り? そんなの全然美しくない! 見下げ果てたクズ野郎の所業だわ! あんた一人が自棄になって全てを抱え込んだつもりでいてもそんな独走で迷惑がかかるのはいつだって周りの人間だってことをあの手のヒーローは知らないんだ! その独走じゃ私はもちろん円華さんも朱華さんも絶対納得しない!

「円華さん!!」

コンビニ。

るらら……と電子音をかき消す声。

「は、悠凪ちゃん!? ど、どうしたの!?」

レジで客対応をしていた円華が驚きの声を上げる。円華だけでなくレジ待ちしていた客も一斉に悠凪の方を見やった。羞恥が待ったをかけたが無視して円華に駆け寄る。

「大変なんです! 光志朗が一人で朱華さんの所に向かいました!!」

「え!?」

「光志朗は……光志朗は自分ひとりですべての決着をつけるつもりなんです!」

「お、落ち着いて悠凪ちゃん!」

「落ち着いてなんていられません! このままだと光志朗か朱華さんのどちらかあるいは両方が……!!」

「……!」

円華は惑った。しかし今は手が離せない。もどかしい。

「分かってるけど私は今手が離せないよ!」

「で、でも……!」

「とにかくちょっと待ってて!」

それから円華は客達に頭を下げ謝辞を述べてからなるべく急いで会計を終わらせていく。

10分程度。悠凪の足の疲労や息切れが収まるのと同じに円華はやって来た。

「それでどういうことなの? 光ちゃんは朱華ちゃんの病院を知らないはずだよ?」

「分かってます。でも、あの様子だと間違いなくそこに向かっているはずなんです。じゃなかったらわざわざこんな早くに独断行動を取るはずがない!最初から狙っていたとしても円華さんに病院の場所を聞いてから私達の動きを封じて行くはずなんです」

「…………確かにそうだね。でも、どうやって病院の場所を……」

「…………音で知ったとかないんですか?私もこの一ヶ月であいつの何でもありっぷりは痛いほど分かってます」

「…………音探し…………」

「え?」

「光ちゃんが言葉に暗示をかけたんだ……!それで私が知っている病院の居場所を私の声に込めさせてそれを解読して……」

「…………あいつそんな意味不明まで出来るの…………?」

流石にそこまで出来るとは思わなかった悠凪は肩を落とす。

「悠凪ちゃん、光ちゃんはどれくらい前に行ったの!?」

「えっと、1時間くらい前です!」

「…………だったらもう付いているかもしれない。これじゃあ、間に合わない…………」

「えぇぇっ!?」

「…………と言うか悠凪ちゃん。どうして光ちゃんと離れていられるの? 赤い糸のせいで10メートル以上離れられないんじゃ……?」

「えっと、あのシスターの持ってたハサミで解除され…………あ」

「どうしたの?」

言葉の途中で呆けた悠凪はやがてポケットから財布を取り出しそこから10円を出した。

「悠凪ちゃん?」

「赤い糸!私に売ってください!」

悠凪の言葉を聞いてから数秒。円華にも彼女の考えが読めた。

「悠凪ちゃん、」

赤い糸を売りながら声をかける。

「はい?」

「光ちゃんをよろしくね」

「…………はい!」

封を開け、赤い糸を指で強く握る。目を閉じ、念じるはあの上下対応シスコン野郎。

赤糸(ディスラバーズ)

小さく唱える。あの時シスターが放った言葉を。すると悠凪の体が浮き上がり、

「やっぱり怖いでしょこれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

超スピードで引き寄せられ、壁をぶち破って電車より速くスカートがちぎれる程のスピードで光志朗めがけて飛んでいった。

「…………絆創膏おまけした方がよかったかな?」

穿たれた壁の先の空に消えていった悠凪を見て円華は小さく呟いた。

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