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切欠はコンビニで10円  作者: 黒主零
13/20

13話「メロディは別離と恐怖」

13:メロディは別離と恐怖


・6月は3週目でそろそろ下旬に入る。その水曜日の夜の事だ。

「………………長かった」

光志朗が椅子の背もたれに体重を預け、伸びをする。液晶ではウェディングドレスに身を包んだ少女が二人幸せそうに笑っていた。そう、ついに個別ルートも終えてシナリオを完走したのだ。共通シナリオ45時間、個別シナリオ20時間。合計65時間。どう考えても純粋な紙芝居ゲーの構えではない。その半分でも長いくらいだ。しかもだ。まだ1ルート終えただけで後55ルートも残っている。一人クリアしただけで大体流れは分かったし、ルート差分の場所も推測がつく。それに全く感動がなかったわけでもない。あまりに長い日常部分と個別ルートに入ってからのシリアスの対比やら達成感はその辺の恋愛ゲームとは比べ物にならない。間違いなく拍手喝采ものだ。だが、これを4000円で売るとなると本気で担当の心身を気遣わざるを得ない。全く無謀をするものだ。

「…………さて、」

数分程休んでからレポートを書き始める。まだ、個別ルートは全て終えていないが共通ルート45時間分は今の内から書いておいて損はないだろう。とりあえず最初の文章で蛹路暁帆の言は信頼できない旨を記す。その間に個別ルートに入る直前のデータをロードして既読スキップに移る。何度か未読部分を見ながらだがレポートの半分を行う頃、大体30分ほどで2ルート目がエンディングを迎えていた。個別ルートでの各ヒロインでの差分は20分程度変わるのみ。19時間40分をたった10分でスキップしたことになる。……便利なことに間違いはないが担当が禿げそうだ。再びデータロードを行い既読スキップをしてからレポートを再開する。レポートの本文を書き終え最後の採点を行おうというところで3回目のエンディング。

「…………今思ったが56ルートを既読スキップするだけでも28時間掛かるのか……?」

戦慄と辟易。なるほど。飽きなければこれ一本、4000円で90時間以上を潰せるのか。難民が色んな意味で死にそうな仕様だ。万感のまま4回目のロード&スキップをしながら採点に映る。

シナリオ部:これは間違いなく20点満だろう。

システム部:スキップの速さ、細かいシーンタイトルからロードのしやすさ。これも20点。

UI部:紙芝居ゲーの基本そのままで非常に便利だ。20点。

音声部:共通ルートでのゆるふわ系なのも個別ルートでのシリアス系なのも問題ない。20点。

バランス部:プレイ時間長すぎ。0点。

合計:80点。

やはりどうしようもないほど長いシナリオが問題だな。それさえ何とか出来れば4000円でこの良質は凄まじいだろう。…………と言うか普通にパソコンでフルプライスで売った方がいいような気もするが。間違いなくライト層向けではないだろうし。

「………………」

液晶を見る。4度9目のエンディングを迎えていた。後52回エンディングを見る必要があるとなれば少し休みが欲しい物だ。とりあえず5回目のロード&スキップを行うとそのまま部屋を後にする。

「あ、やっと出てきた」

リビング。悠凪と穂凪がいた。しかし何故か釣竿同士でチャンバラやっていた。

「…………何してる」

「何だか最近高校生で流行ってるんだって。基本はただのチャンバラなんだけど釣り糸の先に着いた鉄球にも気を付けないといけないから中々面白いわよ、これ」

「隙有り!」

「ないわよそんなもの」

よそ見をしていた悠凪に奇襲を仕掛ける穂凪。しかし、顔の向きを変えないまま悠凪がカウンターを放った結果穂凪は自らの攻撃を開始する前に胴を鉄球で穿たれて倒されてしまった。

「…………きゅう」

「………………一応妹だ。手加減してやれ」

「してるわよ。慣れるまでの1時間はずっと穂凪ちゃんが勝ってたんだから」

「…………」

1時間もそんなことをしていたのかこいつらは。嘆息し、冷蔵庫から水を出してコップに注ぐ。

「あ、私にも頂戴」

「…………」

ペットボトルを悠凪に投げ渡す。

「っと、」

悠凪はそれを釣り糸で縛り止めてキャッチする。いつの間にこいつは糸使いになったのだろうか?ついでに悠凪のコップも投げ渡すがこれも糸で受け止められた。

「どうして手と手で受け渡しが出来ないのかしら」

「…………お前が大道芸を披露するからだ」

「何よ、このくらい誰にだって出来るでしょ?」

そう言って悠凪が2リットルのペットボトルを投げた。

「…………」

光志朗は冷蔵庫を開けた音でペットボトルを空中に括りつけて止める。

「いやどう見てもあんたの方が大道芸でしょそれ」

「…………音を学べばこの程度誰だって出来る」

手で受け取り冷蔵庫の中にしまう。

「そう言えばお兄ちゃん」

脇腹を抑えながら青い表情の穂凪が歩いてきた。

「…………いや、質問も気になるがお前は休め」

「ありがとう。やっぱりお兄ちゃん大好き。でも殺されたくないから抱きつかないよ?」

「…………いいから」

「あ、うん。最近楽譜見つめてるけどどうかしたの? 最近見ないから読み方忘れちゃったとか?」

「いや、楽譜自体は読めるし音も出せる。だが、それで出した音は曲になっていない。ただの音階の羅列だ。」

「へえ、誰かのいたずら?」

「強いて言えば妖怪だな」

「……天狗?」

「そんな生易しいものじゃない。あれは八岐大蛇ですら尻尾を巻いて逃げるような奴だ」

「…………お兄ちゃん、八岐大蛇に尻尾はないよ?」

「…………言葉の綾だ」

短く言葉を切ったのはそろそろ穂凪の表情が本格的に危険なものになっているからだ。コップを炊事場に置き、その音に鎮痛効果を持たせた。

「……あ、ありがとうお兄ちゃん」

「…………早く休め」

「うん!」

少しだけ表情をよくした穂凪は自分の部屋に走っていった。

「…………えっとごめん」

「謝るべき相手も分からないのかお前は?」

「…………そうね」

「だが、今はよせ。静養が先だ」

「…………分かったわ」

「…………ところでゲームの方はどうなった?」

「あ、うん。タージマハルが完成したわよ」

「…………一応言っておくがソフトは返すんだからな?」

「へ?」

「お前が何十時間もかけて作り上げたタージマハルも0にして返すんだ。

飽くまでも与えられたのは最終チェックだけだ。機密のテストプレイだからデータの所持も禁止されているしネットにアップなどもしたら処罰の対象になる。……よもやしていないだろうな?」

「あ、あ、うん。大丈夫。ギリギリセーフだったわ。…………今からやろうとしていたところだったのに」

「…………間一髪か」

嘆息。それから悠凪にレポートを書かせるようにした。

「レポートか。大学のと同じ感じでいいの?」

「ああ。だが、お前が書くのは下書きまでだ。それを基に俺が清書をする」

「分かったわ。何文字くらいがいいの?」

「2万文字だ」

「…………ちょっと長いわね」

「何を言う。2万程度一日で書けるようにならなければ苦労するだけだ」

「…………一応言っておくけど卒論が2万文字なのよ?

そのために与えられた期限は半年。普通は2万文字なんて書けるものじゃないわ」

「…………今週までには終わらせてくれ。それで譲歩しよう」

「……分かったわ。頑張ってみる」

そうして悠凪も自分の部屋に戻っていった。これでリビングには光志朗一人となった。

「…………」

首に下げたオカリナを見やる。それに手を添えようとしたところで思い止まる。数秒の躊躇の後、指で壁を小さく叩く。なるだけ音を遠くまで飛ばさないように小さく走らせる。奏でるはあの楽譜通りのメロディ。休符が入ったことで若干流れは変わったが大きな変化はない。時間にしてみれば2分もない短いものだ。

「……………………」

そして心中の万感に決着を付ける前にメロディは終わってしまった。

直後だ。リビングの照明が切れて空間は暗闇になった。いや、なるはずだった。空間に訪れたのは真紅の光の雨だった。それが絶え間なく降り注ぎ続け世界は赤と黒の2色となった。

「――――」

声ではない。かと言ってあのシスターのように意味だけが走っているわけでもない。ただ、声にも音にも満たされていない空気の振動以下の何かが耳に入った。

「――――」

「……………………やはりか」

姿はない。目に映るのは赤と黒だけ。だからその姿が光に晒されることはない。しかし、何か人の影のようなものが闇の中に象られていた。輪郭の赤い黒い影は一般的な見解で表せば幽霊と言えるだろう。それが音にも声にも満たない何かを動かぬまま発している。それを聞き取れるのは音を使える光志朗だけだ。

「…………」

今目に映りこの体が体験している赤と黒の空間は間違いなく尋常ではないものだろう。しかしあのシスター程の恐怖は感じない。いや、それどころか全く恐怖はなかった。人間が恐怖を覚えるのは未知なるものか自分を傷つけようとするものだけ。この現象はそのどちらにも当てはまらないことを知っている。

「――――」

不完全にすら足りないその言葉が下し終えるのを待てばそれでいい。そのはずだった。

「ねえ光志朗、レポート用紙貸してほしいんだけど」

「!」

悠凪がドアを開けてここへ足を踏み入れて……あの光にその存在を認めさせてしまった。

「え?」

同時に赤い光が悠凪に向けて走る。

「やめろ!」

それにやや遅れて光志朗は音を放った。赤い光が悠凪の首に当たると同時に音を理解した悠凪が足の限界を無視した速度で後ろに跳ねた。

「きゃああああああ!!」

背後の壁に勢いよく叩きつけられる悠凪。彼女の体が床に落ちると同時にその首と両足から出血が認められた。

「な、何なの!?」

「――――――――――」

そして、暗闇の中の赤い輪郭は初めて移動を果たした。それはゆっくりと悠凪の方へと向かっていく。だがしかし、それは一瞬で終わった。同時に世界は通常のものに戻った。

「…………2分が経過した。あの曲を奏でたのと同じ時間……か」

光志朗は汗を拭う。そして悠凪の方に足を運んだ。

「…………無事か?」

「どこをどう見たらそう見えるのよ!……っ!!」

腰を落とした悠凪は涙目だ。首からの出血はそこまで深くない。むしろ出血したのが不思議なほど軽い。問題なのは両足……と背中だろうか。両足の筋肉が破裂していてドクドクと血を流している。

「ねえさっきのは何!? 何なの!?」

「………………それは、」

言葉を探す。…………ない。彼女に対して言葉が見つからない。

「…………あんたが助けてくれたことは分かる。でも、あんたはあの怪物を知ってるの!?だったら教えて!なんで私が……」

「…………怪物じゃない」

「え……?」

「…………怪物じゃないんだ、怪物じゃ…………」

光志朗は背を向けた。だから悠凪にその表情が如何様な色を見せているかは分からない。ただ、首から下げたオカリナを手に取っていたのが見えた。それを理解すると旋律が生じた。

「…………それで明日の朝には治っているはずだ。今ももう歩けるはずだ。だから……もう休んでくれ」

「…………何よそれ…………」

「…………………………」

「黙ってたら分からないわよ! どうして私もあの怪物も庇おうとするのよ!」

「怪物じゃない!!」

「っ!」

光志朗は、背を向けたまま怒鳴った。それは悠凪が聞いた初めての怒声だった。

「…………シスターがお前に与えたハサミ」

「え、」

「あれは恐らく赤い糸を切るための物だ。それを切れば……恐らく今の状態は解除される。…………これ以上巻き込まれたくなければそれを使って傷が治り次第帰るんだ」

「……………………分かったわよ」

悠凪は立ち上がり壁伝いに歩いて行った。光志朗は最後まで振り返ることなくオカリナを手から離す。

「…………………………………………朱華」

幽かに声を漏らした。



・部屋。

悠凪に与えられたこの部屋は一ヶ月程度しか使われないことになりそうだ。

「…………痛い」

布団に横たわり両足と首の出血をティッシュで拭う。傷自体は既に塞がっているため後から血が湧いてくることはなかった。しかしまだ痛みは残っている。傷の数を見れば3つ。内2つは光志朗の音を由来とするもの。しかしもしそれがなかったらこの首は…………。光志朗が何かを隠していることは間違いない。

元々人知を超えた音使いである。同じような異能の存在が彼の近くにいてもおかしくはない。それを庇おうとしたところからしてあのとても普通とは思えない存在は彼の仲間、それもかなりワケアリの親しい仲……の可能性がある。それでいて自分の事も庇おうとしてくれた。正直嬉しかった。だが、この二つの事象はひょっとしたら危険な構図かも知れない。どうしてあの存在が攻撃をやめて消えたのかは分からない。だがそれまで光志朗でも攻撃を止めさせる事は出来なかった。両足を犠牲にさせながらも自分を逃がすのが手一杯だった。つまり、光志朗にはあの存在を制御出来ないと言う事になる。きっとあの調子では2度目はないだろう。それを光志朗も知っているから自分を放そうとした。

…………一体あの存在は何なのだろうか。当然疑問は尽きないがしかしそれは考えてはいけないことだと知っているつもりだ。どう見ても怪物。いや、それ以上の何かであるというのに光志朗は庇う。あの容貌を想起すると今更になって恐怖が溢れてきた。鳥肌がすごい。

「…………」

机の上。あの時シスターから渡されたハサミが置いてある。光志朗はあのハサミで赤い糸を切れば今の状態を解除出来ると言っていた。あの様子からしてもっと前の段階にはそれを知っていたのかもしれない。けど今まで、この非常事態になるまで黙っていた。つまり理由までは分からないが自分に傍にいて欲しかった可能性がある。好意……とまで自惚れるわけには行かないが何らかの事情は見えた。そして今回のそれはその事情を捨てなくてはならない程の物だった。

……さて、言い訳を考えるのはここまでだ。何であれ光志朗は自分をここから出したいと言う。それに対して自分はどうすればいいのか結論を出す必要がある。光志朗に従って糸を切り、ここを出て元の生活に戻るか。それともそれまでの光志朗の思惑通りに敢えてここに居座ってみるか。

「…………もう遅いし今日はもう寝よう。絶対変な夢見るだろうけど」

寝間着に着替えて布団に篭った。



・その闇は赤と黒で練り込まれていた。

手足の感覚がないのだからきっとここはどこでもないのだろう。赤と黒で仕切られた闇の中には一人の少女がいた。

「――――」

口を開き何かを喋っている。だが、聴覚がまともに働いていないのか声を聞き取ることは出来ない。

「――――」

少女は踊る。右手に花束を持ち、真紅のドレスの裾を翻し踊る。その少女が誰なのかは分からない。確かに顔を確認出来るのだが認識能力が落ちているのかマネキンの顔のように一切の特徴を認める事が出来ない。だから彼女が何者なのか分からない。だが、その少女は笑顔を見せているような気がする。

この世界には自分は存在しない。だから背丈を比べることは出来ない。年齢を敢えて推測してみるならば凹凸のない胸からして10代前半かそこらだろうか。

「――――」

少女は踊る。儚く踊る。いつしかその舞故か右手の花束は細切れとなっていた。風に吹かれて舞うは赤い花弁達。まるで血のような色。血の色はしかし、花弁だけにしては質も量も桁が違う。人体の四肢あるいは首を5つは切断している際の量に見受けられる。その吹雪のように宙を舞う赤色の中で少女は踊る。屈託のない笑顔。その頬にはいくつもの赤が滲む。やがてその少女の頭に花が咲いていた事実に気付く。その花は……ペチュニアの花だろうか?たった今咲いたのかそれともここが虚ろな世界だから考えるに値しないのか。やがてその花は少女の頭全体を覆い、風船のように膨れ上がっていく。重いのだろう、少女の舞は段々と鈍く歪なものへと変わっている。しかし少女の笑みは止まらない。こうなることに気付いていないのかそれとも望んでいることなのか。足元には骨が転がる。幾人ものいくつもの骨。それが宙を舞う花弁達の到達点。骨を隠すほど氾濫する赤達。

「――――」

そこでこの景色そのものが褪せてきた。全体的に世界に光が戻り始めたのか。ただ、気付いた時には少女の姿は赤達に阻まれて見えなくなっていた。



・朝が来た。

悠凪が上体を起こす。

「…………なんだろう、フラグ通りに変な夢を見ていた気がする。

何か、ひどく虚ろで、でも絶対に大事なものだった気がする……」汗を拭う。それから気付いた。冷や汗をかいていた。全身ビッショリだ。

「…………」

時計を見やる。時刻はいつもよりさらに1時間早い。この時間ならばシャワーを浴びるくらいは許されるはずだ。タオルに替えの下着を抱えて部屋を出る。

「あ」

と、同じタイミングで隣の部屋から穂凪が出てきた。

「おはよう、悠凪さん」

「ええ、おはよう。穂凪ちゃん」

「えっとお風呂?」

「ええ、ちょっと暑くて汗かいちゃったから」

「じゃ、一緒に入ろうか」

………………

…………

……

浴室。最近はひとりで入ることも少なくなってきた気がする。

「~~♪」

浴槽。自分の隣で肩を並べてご機嫌に鼻歌を混じらせる穂凪。最初は照れくさかったがもう慣れた。と言うか穂凪は自分が一緒に入らない日は兄の光志朗と一緒に入ってるそうだがそうなると彼女一人で入る事は滅多にないのでは?やはり義足だと大変なのだろうか?しかし今のところ自分は彼女の介抱をしたことはない。普段は必要ないがもしもの時のための予備として他人と一緒に入ろうとしているのだろうか?

それとも…………

「ん? なに?」

「……ううん、何でもないわ。ねえ、穂凪ちゃん」

「ん?」

「私って邪魔かな? 光志朗から昨日今の状態を解除出来る方法を教わったの。そうして今日の朝には出て行くようにって……」

「…………お兄ちゃんがそう言ったの?」

「ええ、そうだけど……」

「…………お兄ちゃんが自分の口で本当に誰かの行動を強いる時は、本当にそうして欲しい時か、それだけはやめてくれって時かのどちらかだよ」

「…………やっぱりね」

「あれ? 知ってた?」

「あいつが普段何も言わないのは私達を尊重してくれてるからでしょ?そんなあいつが声を荒らげてまで命令してくるのはおかしいって思ってたもの」

「…………昨日何かあったの?」

「…………よく分からないのよ。夜にレポート用紙借りるためにリビングに行ったら

なんか幽霊みたいなのがいてそいつに首切られそうになって……」

「………………そうなんだ」

「何か知ってるの? 穂凪ちゃんは」

「…………実際に見てないから分からないけど

何か分かったとしてもお兄ちゃんに止められると思う。

だってお兄ちゃんは悠凪さんに何も言ってないんでしょ?」

「…………ええ」

「なら、いつも私達を尊重してくれてるお兄ちゃんを尊重しないと」

「…………そうね。あれが何なのかは私が自分で見つけるわ」

風呂のコンパネ。そこに記された時刻を見やる。そろそろいつも起きる時間になってしまう。

「じゃあ、そろそろ上がりましょうか」

「うん!」

二人して浴槽から出て浴室を後にした。



・朝。いつもの時間。

光志朗が目を覚まし家の中の音を確認する。自分以外の音は2つ。どうやら悠凪はまだこの家にいるらしい。穂凪と一緒に行動しているということはどうやらこの家を離れる気はないようだ。

「…………あの馬鹿め」

ほざく。しかし同時に嘆息。視線の先。机の上には楽譜が置いてあった跡がある。昨日眠る前に自然消滅の音を放っておいた。だから既に楽譜は誰の目に触れるまでなく跡形もない。まさかあの楽譜に記されたメロディが半霊召喚エクソダスのメロディだとは。これ以上自分にメロディが増えることはないと思っていたがまさかこんな形で新たな境地を得ることが出来るとは思わなんだ。最初の時は分からなかったがあのシスターと2回目の出会いを果たした際に破滅のメロディを予見していたからもしかしたらとは思ったが本当にそうなるとは。ともあれ今日はあのシスターと会ってきっちり話をしなければならない。これはもう沈黙がどうとか言っている場合ではない。

「…………よし、」

完全に目が覚めると着替えてから部屋を出る。

「あ……」

ちょうど悠凪が視界に入った。

「あ、あの……」

「…………レポート用紙」

「え?」

「俺の方も予備はない。後で姉さんの所で補充をする。何か?」

「……………………ううん、分かったわ。問題なし!」

「………………ふん、」

何故か笑顔になった悠凪を背にトイレへと向かった。

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