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聖都事変 時計台が止まるとき  作者: 上総海椰
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1-3 聖都

聖都にはフゲンガルデンを出てから

『聖都』コーレス。500年以上の歴史を誇り、大陸有数の大都市である。

『聖都』というのは宗教上の象徴であると同時に、対魔王戦用の要塞という側面をもつ。

聖都の中心に位置する時計台を中心に、外壁にある六つの支柱を軸に結界を張り巡らせてあると聞く。

結界の効果は警告と排除。そして外敵への攻撃だとヴィヴィには説明を受けていた。

結界内で魔力を行使した瞬間ばれてしまうし、攻撃の対象となる場合もあるということだ。

つまり聖都でフィアたち魔法使いがよりどころとしている魔術、魔法は一切使えないのだ。

また時計台の時計は結界が正常に機能していることを示し、永遠に時を刻み続ける。

今では聖都コーレスの象徴のようなものになっている。

当初は第一の魔王から人類を守るために作られた要塞だったらしいが、時間の経過により、聖地として認定されるに至った。

城門は招待状を見せると、簡単に通過できた。

城壁を越えるとそこは人であふれかえっていた。通りの脇には平日だというのに露店がひしめいている。


「じゃあな、四日後の式典には遅刻するなよ」

「はい」

ヴァロはキールたち騎士団関係者と城門をくぐってからすぐに別れた。

ヴァロの両腕はフィアの荷物に占拠されている。

どうしたらこんな量の荷物が必要になるのか疑問に思ったが、

教会側は事前に騎士団など外来用の宿を確保している。

ヴァロたちゲストの宿はそれとは別にとってあるという。

両手にバックを抱えながらヴァロは招待状の裏に書かれた住所を見返す。

「フィア、宿に行くぞ」

フィアのほうを振り向くと、彼女はその場で立ち尽くしていた。

「フィア?」

「・・・すごいね」

フィアは時計台を食い入るように目を輝かせながら見ている。

「ものすごく大胆で緻密な結界。式自体はかなり複雑に組み立てられているのに、

それを感じさせないぐらい巨大な構図。それがこの城壁内すべてを覆ってる」

聖都の城壁内の面積はフゲンガルデンのおよそ三倍。

それを覆うように結界は張り巡らされているという。

「少し感動してた。ヒトはこんな結界を作ることができるんだなって」

フィアの目はまるでおもちゃを渡された子供のようにきらきら輝いていた。

そんなに感動されても一般人のヴァロには全く共感できない。

結界の存在は知っているががそれがどんなものかまではわからない。

現に聖都には何度か足を運んだが、結界の存在すら気にかけたことがなかった。

そもそも普通の人間では結界を見ることはできない。

おそらく彼女たちにしか分からないものなのだろう。

「感動するのはまたあとでだ。宿に行くぞ」

フィアはこのままだと数時間はこの場にとどまり続けると言い出しかねない。

ヴァロは振り返ると宿に向けて歩き出した。

「あっ、待ってよ」

フィアはヴァロの後を小走りに着いていく。


宿は予想に反して豪華なものだった。

宿の正面は細かな装飾などがところどころにされている。

出入りしている人も着飾っている人間が多い。

貴族や富豪などが使ってもおかしくない造りだ。

今度は何度も宿屋の名前を確認したが、どうやら間違いないようだ。

ヴァロは軽くめまいを覚えた。

「ヴァロここよね?」

フィアは当たり前のように前を歩いている。

ヴァロは覚悟を決めて平静を装うと、戦場に赴く覚悟で足を踏み出した。

荷物持ちの人間に丁寧に断りを入れると、ヴァロたちは指定された部屋に向かった。

後にヴァロは言う生涯ではじめて宿の受付で緊張したと。

考えてみれば教会の正式な来賓として来ているのだから、宿の豪華さも当然のことだ。

何日分の生活費になるのか、想像がつかない。

旅費として若干の金額をもらっているが、この分だと宿で払うチップにかなり使うことになりそうだ。

ヴァロは頭が痛くなってきた。

教会の手配した部屋は二階の角部屋だった。

宿は二部屋あり、ヴァロとフィアそれぞれに部屋をあてがわれている。

フィアの部屋に足を踏み入れると、ヴァロは荷物を床に置いた。

ヴァロはその調度の豪華さに苦笑いするしかなかった。

今までヴァロがお世話になった簡易宿泊所などはベットの布団が若干湿っているのは当たり前。

相部屋などはよくあることだ。

ベットなどは羽毛が使われているし、床には絨毯が敷かれている。

見れば見るほどヴァロにとって気疲れを起こしてしまうような造りである。

こんな場所に数日滞在することを考えると、急に肩にどっと疲れが押し寄せてきた。

キールたちと来ていたほうがどれほど気が楽だったことか。

そんなヴァロとは対照的にフィアは目を輝かせ

フィアは荷物を置くとパタパタと窓際に走っていった。

目を輝かせて、窓の外の通りをみている。

聖堂回境師という肩書を持つがこういうところはそのへんの子供と変わらないなと思う。

「食事がてら少し街を見て回るか」

「いいの?」

ヴァロにはこの宿があまり居心地のよいものに感じなかったし、

金額的にこの宿で食事を取る気にはなれなかった。

「じゃあ宿で留守番がいいか?」

「いじわる」

フィアは顔を膨らませてヴァロを小突いた。

「じゃ、いこうか」

笑いながらヴァロはフィアの手をとった。


聖都は夜になっても通りに人があふれている。

さすがは大陸一二を争う大都市だ。

食事を取った後、ヴァロたちは坂を上っていく。

フィアに見晴らしのいい場所から結界を見たいとせがまれては仕方がない。

保護者が酔いつぶれるわけにもいかないので、ヴァロは酒をしぶしぶ我慢した。

一方、先を歩くお姫様はご機嫌のようだ。

子豚のシチュー、チキンの野草合え、リンゴのはちみつ漬けなど、

すぐに思い出せるだけでも五、六品は食べている。

財布の中身が不安だが、フィアの笑顔を見たら何もいえなくなってしまった。

こんなときぐらい財布の紐を緩めてもばちは当たるまい。

「ヴァロはいつもこんなのを食べてるの?」

先を歩くフィアがヴァロに聞いてくる。

「まさか、今回は特別だ」

ヴァロにとって旅の食事とは、石のように固まったパン一個が普通である。

ひどいときには丸一日何も口にしなかったこともある。

ヴァロだけならば今回もそれで済ませていただろう。


時計台が鐘を鳴らす。


ヴァロたちは時計台の見える高台にたどり着く。

以前ヴァロが聖都にきたときに見つけた場所だ。

今度来るときは恋人と一緒にと思っていたのだが、人生とは何が起こるかわからないものだ。

「すごい」

フィアが眼下に広がる街の光景を見ながら感嘆の声を上げた。

ヴァロたちのいる高台から、時計台は光に照らされやけにはっきり見える。

これも結界の力なのだろうか。

「ところで入ったばかりのころ時計台を見てたよな」

「時計台がこの結界の中心だからね」

「そんなことまでわかるのか?」

「一応魔法使いだからね」

フィアはヴァロの顔を見て微笑んだ。

「この聖都の結界は時計台を中心に半時計回りに張ってあるの。

ほら聖都の城壁に尖塔が六つ立ってるでしょ、あれが共鳴して聖都の結界を構成してるのよ」

フィアの言葉にヴァロは周囲を見渡す。確かに周囲には六つ尖塔が立っていた。

「六つの尖塔と時計台がこの結界を作ってるってことか」

「だいたいあってるけど正確には違う。この結界は地脈を利用し、この土地そのものに式はしかれている。

時計台と尖塔は結界の効力を増幅するいわば増幅器。

七つ壊されても機能はする、けれど力は半減するでしょうね」

すでに何を言ってるのかヴァロにはちんぷんかんぷんだ。

「地脈を利用している?」

「そう地脈を利用した永久動力機関。もともとこの土地は地脈が強いからね」

ヴァロの問いにフィアがどこか誇らしげに答える。

「教会の教典の話では第一魔王が進攻してきた際に最後の砦として女神が舞い降りて、

この地を最後の砦にしろとかなんとかいったとか」

「女神ね。ほんとにいたのかすらわからないけど、この地を最後の砦にするという発想は見事だわ。

地理的にも地脈的にも申し分ない。

ねぇ、ヴァロ。ヴィヴィの話ではこの結界は魔法を使うモノを排除する類と聞くけど、試しに一度使って見ていい?」

「冗談でもやめてくれ」

一応身分を証明するものを持ってはいるが、独房行きは免れないだろう。

ここはフゲンガルデンとは違う。自分たちのルールは通用しない。

聖都守護兵といざこざを引き起こすのは、できるだけ避けたかった。

「けち」

フィアは顔を膨らませるが、フィアの頼みだとしてもこればかりは許容できない。

「なあ、フィアはこの結界の中にいることが怖くないのか?」

よりどころとしている魔術、魔法がかなり制限されているのだ。

その胸中たるや穏やかではあるまい。

「でも何かあったらヴァロが何とかしてくれるんでしょ?」

そう彼女はいたづらっぽく微笑んだ。

あまりに予想外の答えにヴァロはたじろいだ。

「まあな」

全くこのお姫様はどうして自分にプレッシャーをかけることをいうのか。

そう思いヴァロは頭をかいた。

高台を吹き抜ける夜風が心地よい。

二人はしばらくその場所で煌々と光る時計台を眺めていた。

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