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聖都事変 時計台が止まるとき  作者: 上総海椰
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5-3 その舞台へ

「男の特徴は話した通りだ。各班は指示された場所をあたってみてくれ。

男は武器を所持しているという情報もある。見つけたらくれぐれも慎重に対応してほしい」

広場に集められた数十人にカティは指示を飛ばす。

中にはキールたち騎士団領からやってきた者たちも含まれていた。

カティの行動力は見事といっても過言ではなく、あれから半刻で数十名を集めてしまった。

「その男が明日の式典に大規模な破壊行為を計画していると?それはどこからもたらされた情報なんですか?」

深夜に呼び出され、教会守護兵は皆不満顔だ。

「信頼できる筋からの情報だ。情報源は言えないがな。他に質問がなければ捜査を開始してほしい。状況は一刻を争う」

その言葉に教会守護兵はその場からしぶしぶ動き出す。

「ヴァロ君はここに残ってもらえるか?」

甲冑姿の人間の中、式典用の一張羅のヴァロは一人目立っていた。

服装は子爵の誘いを受けた時のままだ。

今日はいろいろなことがあり過ぎて着替えている暇がなかったためだ。

「…はい」

ヴァロはしぶしぶ頷いた。

カティの判断は、もしもの時の連絡があった場合を考えてのことだ。

ニルヴァと連絡を取り、なおかつ動けるのはヴァロとカティだけ。

さらにカティはこの場の責任者でもある。動くわけにはいかない。

フィアもニルヴァを説得している。もしかしたら何か動きがあるかもしれない。

ヴァロは動き回らずにこの場にとどまっていたほうがいいと判断する。

もちろん探しに出ていきたい気持ちはある。ヴァロはどちらかといえば現場寄りの人間だ。

ヴァロは剣の柄を握りしめ、その時を待つことにした。

「私がこの地に赴任してから数年間、何度か仕事で会うこともあったが、

あんな様子のニルヴァは初めて見る。よほどの事態なのだろうな」

カティのつぶやきにヴァロは無言で頷いた。

「カティさん、ウルヒの家とか場所はわかります?」

もしかしたらウルヒを見つけ出す糸口がなにかあるかもしれない。

「それがさっぱりなんだ。彼は徹底した秘密主義でね。自宅の位置ですら私も知らない」

「他の狩人とは連絡が取れないのですか?」

「聖都コーレスにいる『狩人』の担当官はウルヒと私を含めて五名。そのうち一人は休暇中、もう二人は

西部へ魔物の探索に行っている。バルデル殿ならばアイツの住居がわかるかもしれないが、今は連絡はとれない」

「五名ですか…」

聖都コーレスはゆうにフゲンガルデンの三倍の規模はある。

フゲンガルデンは少ないといってもその数は少ないとも言えた。

「聖堂回境師がいるというのが主な理由だ。ここの土地は北ほど魔物等の出現頻度が高くはない。

加えてニルヴァは『狩人』を手元に置くことをそれほどよく思っていないふしがある。

フゲンガルデンと一緒だよ。まあ、君らの土地は少し事情が特殊だと聞いているが

そう焦るな。あいつの行きそうな場所には既に人を回してある。

行きつけの酒場、彼の使っている鍛冶屋、彼を見たことのある公園等の場所に

兵を派遣してある。見つければ連絡が来るさ。見つけられればの話だが」

本気になった『狩人』を見つけ出すのは困難だ。

聖都コーレスは広い。やみくもに探しても見つけることなどできないだろう。

まして式典の要人警備で人員も足りないのだ。

さらにウルヒならばここの警備の配置すらほぼ把握していてもおかしくはない。

頼みの綱のニルヴァからはあれ以降連絡が取れない。

ヴィヴィは今日中にウルヒを見つけなければ、この聖都が消えると言っていた。


ならば今自分ができる手段は何がある?

ヴァロは頭をフル回転させるが、ウルヒを見つけだす手だてなど見つからない。

ウルヒの手並みはソーンウルヒの一件で目の当たりにしている。

仮に見つけられたとしても、あのウルヒならば数名の追手ぐらい殺すことは容易だろう。

数という点では圧倒しているものの肝心の居場所がわからないのでは意味がない。

聖都コーレスの結界の主であるニルヴァならば見つけ出すことは可能だ。

ここはニルヴァと彼女を説得しているフィアを頼るしかないだろう。

「ウルヒのやつは五年前にこの聖都コーレスに奴が赴任してきたころからの付き合いだ。

そのあと魔物討伐に出かけた際に一緒になった」

おもむろにカティが語り始める。ヴァロはその声に耳を傾けた。

「何度か魔物討伐で一緒になったことがある。

奴はとらえどころのない男だが、実力はあったし、魔を憎む心は誰よりも強かった。

ニルヴァ様に彼をとらえるように言われたが、私は今でも奴が裏切ったとは考えられない」

それはカティの偽りない本音だろう。

「裏切ったとは私も思いたくないです。私もウルヒさんにはお世話になりました。

彼の目的はわかりませんが、彼が本当に子爵を殺したのか、どうしてフィアから本を奪ったのか、

これから彼は何を企んでいるのか。、

まずは彼を見つけ話してみないことには何もわかりません」

「…そうか、そうだな。まずは見つけ出して話してみないことにはな」

カティの表情は心なしか少し和らいだように見えた。

「そこをどきなさい。私はここの責任者に話があります」

不意にフィアの声がヴァロの耳に入ってくる。ヴァロとカティは顔を見合わせ、声のした方向に向かった。

その場所に行くとフィアがどうやら教会守護兵に足止めをくらっているらしい。

当の教会守護兵も少女の気迫に戸惑い気味だ。

幾ら治安が保たれているとはいえ、深夜に少女が独り歩きなど物騒にもほどがある。

「彼女は我々の協力者だ」

カティの一言で彼女の前にいた教会守護兵が脇に逸れる

フィアはヴァロを見つけると真っ直ぐに駆け寄ってくる。

フィアの表情に余裕がない。

「ヴァロ、ニルヴァがウルヒの場所を見つけた。場所はエニーサ記念館。

ここから真っ直ぐ西に行ったところにある」

「エニーサ記念館?なぜそんな場所に?」

今回の式典で第四魔王ドゥーラルイの残したもの出展されることになってるはずだ。

「ニルヴァ様はなんと?」

「カティさんは兵をエニーサ記念館に向かわせ、罪人を確保してほしいと。

ニルヴァはニルヴァで動いていて傀儡を飛ばせる余裕がありません。

私とヴァロは一足先にエニーサ記念館に向かいます。

カティさん、馬をお貸しできますか?」

「了解した」

そう言ってカティはその場を離れる。

よっぽどのことがない限り、深夜のコーレスでは馬での移動は禁止されている。

それを知りながら馬を手配してくれるということは、カティも彼なりに腹をくくったということだろう。

「私も何となくウルヒの狙いが読めてきた。実はウルヒとの会話でその展示場の話は出てきた。

あいつは間違いなくそこにいる」

フィアはもっともこの状況を理解している人間の一人だ。

彼女に余裕がないということは、ヴィヴィの言った言葉が嘘ではないということを示している。

遠くではカティは部下たちに指示を飛ばしているのが見える。

周囲から鐘の音が上がる。ウルヒを探すために散った教会守護兵に招集をかけているのだろう。

「なんでそんな場所に?」

一人の教会守護兵が、手綱を引いて馬を移動してきたのをヴァロは礼を言い、受け取る。

「おそらくその場所にウルヒの探している最後の一冊があるんだと思う。

ヴィヴィの考えが少しずつ読めてきた。私ではどうしても肝心な部分がわからないけれど」

ヴァロはフィアとカティの用意した馬に乗る。

フィアの肝心な部分がわからないという言葉が妙に引っかかった。

私ではということは、ヴィヴィはわかっているとでもいうのだろうか。

「俺にもわかるように話してくれ」

「話はあと、今は時間が惜しい。とにかくあの男を捕まえないと」

フィアはヴァロの腰に手を回した。

「ああ、フィア馬から振り落とされるなよ」

フィアは腰に回した腕に力を込める。

「ヴァロ君、我々もすぐに後を追いかける」

背後からカティの声。ヴァロは頷くと馬を走らせた。

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