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聖都事変 時計台が止まるとき  作者: 上総海椰
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5-2 狩人追跡

聖都コーレスは地脈を利用した計画都市である。

中央にはシンボルとなる時計台が人々の生活を見守るようにそびえ立ち、

中央から放射状に延びる大通りは各拠点へのアクセスしやすくしている。

魔王戦争時にあった幾重にも重なる城壁は今は残っていない。

かろうじて地名にその名残を残すだけである。四百年という平和が城壁という遺物を溶かしたのだ。

聖都の中央付近にに教会守護兵の官舎はあった。

教会守護兵の詰所の二階のある部屋は深夜だというのに光が漏れていた。

その部屋では二人の男が言い争いをしていた。

いや言い争いというにはあまりに一方的なものだろう。

「なぜヴァロを容疑者として捕まえたんですか。あの男は教会の来賓でしょう?」

「会っていたというのは執事の証言からも明らかだ。容疑者扱いをしたことは

やり過ぎだと思うが、話を聞くことは間違えていない」

「無理やりにでもしょっ引いてもですか?」

「あくまで一時的な処置だ。私も会議から帰ってきて聞かされたよ。だからこそ解放しただろう。

現在聖都は明日の式典に向けて厳戒態勢だ」

「かといってそれらしい人間を捕まえて、尋問とは。教会守護兵のすることとは思えませんが?」

その部屋からはカティとキールの口論が聞こえてくる。

気まずくなりながらも、ヴァロはノックをしてヴァロはその部屋に顔を出した。

「失礼します」

事の当事者が突如現れ、二人の注意がヴァロに向けられる。

「ヴァロ君」

「ヴァロ」

キールが驚きカティの顔を見る。

「ヴァロ、知り合いだったのか?」

「カティさんも『狩人』だ。一昨日顔合わせをした」

「聖都警備隊主任が異端審問官?」

キールは目を見開く。

ある一定以上の幹部クラスならば、『狩人』ということは明かしてもよいことになっている。

それにこの場合下手に隠し立てするより、よいとヴァロは判断した。

「ヴァロ君、なぜ君がここに?」

キールの視線を受けながらカティはヴァロに向き合う。

「カティさん、少し俺の話をきいていただけますか?」

ヴァロはその場で事情を説明した。

ウルヒがフィアのいる部屋から本を奪い取っていったこと。

そして、子爵殺しの犯人が自分であると告白していったこと。

「にわかには信じがたいな、あのウルヒが…」

カティの態度には動揺が見られた。

無理もない。出会って二日の人間に同僚であり、友でもある者のことを殺人の犯人といわれたのだ。

受け入れてもらうには無理がある。

「カティさんが最後にウルヒと会ったのはいつです?」

「昨日、君とあの屋敷の門前であったのが最後だ」

カティがニルヴァ邸とは言わず、あの屋敷といったのはこの場にいるキールへの配慮だろうか。

「少し時間をくれないか。ウルヒは私たちの仲間でもある。

それに相手はあのウルヒだ。準備なしに捕まえられるとは思えない」

「ですが、すぐにでもウルヒを捕まえなければ…」

「捕まえなければ…?」

今宵、聖都が消滅するかもしれない、と言葉にするのをヴァロはかろうじて抑えた。

今ここでそんな荒唐無稽なを言っても信じてはもらえないだろうし、

何せ根拠となるヴィヴィとの会話も、この聖都の中でできるはずのないことなのだ。

まずキーストーンのことから話さなくてはならない。

もし妄言と切り捨てられ、狂人扱いされると会話すら聞いてもらえなくなる。

それはカティという聖都での唯一の理解者を失うことを意味していた。

それが一番怖かった。ヴァロは現在クーディス子爵殺しの容疑者でもあるのだ。

「お立場はわかります、ですが…」

ヴァロは粘り強く説得をすることにした。

ウルヒを捕縛するには彼の助力なしでは不可能だからだ。

そんな中、突如三人だけの部屋に白い人影が現れ、キールが剣の柄に手をかける。

「何者だ」

抜剣しかかったキールを、ヴァロはどうにか体で押しとどめる。

「抜くな、彼女は敵じゃない」

ニルヴァに刃を向けたとなれば、面倒なことになりかねない。

「彼女…?あれは何者だ?」

キールがヴァロを睨み付ける。

無理もない。何も知らない人間から見れば、いきなり出てくる白い影など怪物の類だろう。

「ニルヴァ=アルゼルナ。ここ聖都コーレスの聖堂回境師だ」

聖堂回境師という言葉にキールの表情が驚愕に染まる。

そんなキールがいないかのようにニルヴァは語り始める。

「こんばんは。カティロック聖都守護警備隊副主任」

「これはニルヴァ殿」

カティは椅子から立ち上がり、その場に膝をつき跪く。

その姿を見てキールとヴァロも後に続き頭を下げる。

「時間がありません、用件だけを手短に伝えますわ。

聖堂回境師ニルヴァ=アルゼルナとして命じます。これよりウルヒ捕縛を最優先で行いなさい」

その言葉にヴァロは安堵した。どうやらフィアはニルヴァを説得できたようだ。

「恐れながら、明日式典も控えている上、他国からの来賓も多数おいでです。

その警備に割いている人員も相当いる中、こちらの出せる数は相当限られたものになります」

「かまいません。足りないというのなら、わたくしたちからも人員を出しますわ。

あなたはあなたのできる事をしなさい」

「わかりました」

そう言い残し白い影は消え去る。部屋は再び三人だけになった。

カティは立ち上がり息をつくとヴァロに向きあう。

「すまないが、ヴァロ君力をかしていただけるか?」

「もちろんです」

キールがカティの前に進み出る。

「正直、何もかも突然すぎて頭が混乱してます。ただ、目的は一人の罪人を捕まえることってのはわかりました。

それならばうちらの部隊も協力させていただけませんか?」

「ありがたい。是非とも力を貸してくれ」

「はい」

人手が足りない今、キールの申し出は本当にありがたかった。

背中を向け手を振ると、キールは部下を集めるためにその部屋から出て行った。

「ヴァロ君、容疑者扱いをしてしまってすまなかった。」

部屋で二人のなるのを見計らって、カティが深々と頭を下げてきた。

「顔をあげてください。あの状況ならば仕方がありません」

立場が逆ならばヴァロも同じことをしていたかもしれない。

「それよりもウルヒを一刻も早く見つけ出しましょう」

「ああ、そうだな」

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