第22話 魔法少女はサンタさん?サタンさん?(クリスマス編)
フェルトは学校から自宅へと帰ってきた。
「おかえりなさい、お嬢様」
フェルトを出迎えたのは執事のラルだ。
「ただいま、ラル」
機嫌よくフェルトが答えた。
「お嬢様、今日はクリスマス・イブですね。きっとお嬢様の元にも真っ赤な衣装でサンタさんがやって来ますよ」
「サンタサン? 何その凶悪そうなヤツは。全身真っ赤って、サタンの仲間ね。やって来たら撃退するから平気よ」
「いえいえ、お嬢様。サンタさんはサタンの仲間じゃありません。サンタクロースですよ。サンタクロースはお嬢様にプレゼントを届けてくださるんです。お嬢様は何か欲しいものはないのですか?」
「さんたくろおす……。聞いたことないわね。何でも貰えるの? レアアイテムでもいいの?」
「さすがに何でもということは……。サンタクロースにも限界がありますから」
「欲しいものといったら、そう『マジカルステッキ』が欲しいわ。でもラルでも手に入らなかったんだから、『さんたくろおす』が入手できるかしらね」
「大丈夫ですよ、サンタクロースなら。きっとお嬢様にマジカルステッキを届けて下さいますよ!」
執事のラルはホッとして答えた。
実はすでに執事のラルはマジカルステッキを買ってある。今回はドライヤーではない。
「そうなんだ、当てにしないで待ってるわ。マジカルステッキを手に入れるためには2年でも3年でも待つわ」
「いえ、お嬢様。明日の朝にはお嬢様の枕元にマジカルステッキが届くと思いますよ」
「え? まさか!? そんなに早く!? そんな夢の様な話ってあるの? どうやって貰えるの?」
「お嬢様が寝ているうちに届けてくださいますよ」
「そうなんだ」
だが……
マジカルステッキが楽しみなフェルトが寝られるはずはなかった。
夜中の0時、サンタクロースに扮した執事のラルがフェルトに発見されてしまう。
真っ赤な衣装ですぐサンタクロースだとフェルトはわかった。
「サンタさんだーーーー」
フェルトは執事のラルを見て叫ぶ。
もちろんサンタの中身がラルだなんて知る由もない。
「ふぉふぉふぉ、フェルトちゃん。サンタですよ。良い子にしていましたか?」
「はい、良い子です」
「いいお返事ですね。じゃあ、わしがプレゼントをあげよう。ふぉふぉふぉ」
サンタ(執事のラル)が肩に担いだ大きな白い袋から箱を取り出す。ピンクのリボンでラッピングされた綺麗な箱だ。フェルトにその箱を渡した。
それを受け取り満面の笑みを浮かべるフェルト。
「ありがとう! サンタさん! ラルとガイラの次に大好きだよ!」
ぎゅーっとサンタ(執事のラル)を抱きしめる。
サンタ(執事のラル)もフェルトを抱きしめる。
「よし、ラルにこの綺麗な箱を見せよう」
フェルトはプレゼントの中身がなんだか知らない。というか、「綺麗な箱」それ自体がプレゼントだと思っている。
マジカルステッキを中に入れたラルとしてはここで開けて欲しかったのだが。
「ラルーー。ラルーー。どこにいるの? ラルー?」
真夜中にフェルトは屋敷を走り回り、部屋から部屋へちょこまかとラルを探す。ラルはどこにもいなかった。
屋敷中を走り回り、運転手のガイラと出くわした。
「ねえ、ガイラ。ラルがどこ行ったか知ってる?」
「さあ、私にはわかりかねます。朝になったら戻られるのではないでしょうか」
もちろんガイラもサンタの正体を知っているのでニコニコして答える。
「そうか、じゃあ朝になったらラルに見せようね」
そう言うと、フェルトはその綺麗な箱を抱えて眠りについた。
◆
翌朝、綺麗な箱をラルに見せたフェルトは、箱を開けないままそれを持って公園へ出かけた。
公園では1人の女の子と5人の男の子が遊んでいた。
男の子達はどうやらサンタクロースに貰ったプレゼントの見せ合いっこしていたようだ。
「あ、お姉ちゃんもサンタさんにプレゼント貰ったの?」
小学1年生位かと思われる女の子がフェルトに声をかけてきた。
「うん、もらったよ」
自慢気に答えるフェルト。
「え、何もらったの? 俺に見せて」
「俺にもみして」
「俺も、見たい見たい」
「うおーでけぇ箱」
「何が入ってんだろ? お姉ちゃん、はやく開けて開けて」
公園にいた男の子達が近寄ってくる。最初に声をかけてきた女の子はそれに圧倒されて、押し出されてしまった。
フェルトは暗い顔のその女の子がちょっとだけ気になった。
フェルトは男の子たちに箱を開けるように促される。
「あ、これって箱になってるんだね。開けられるんだ。ダンジョンの宝箱みたい。宝物が入っているのかな? じゃあ開けるね。なんだろうね。私も中身はわからないんだ。マジカルステッキだといいな」
マジカルステッキという言葉で、その女の子の顔がさらに暗く沈んだが、フェルトはそれには気が付かなかった。
フェルトはプレゼントのリボンをほどき、包装をびりびり破いて中身を取り出す。
そこには夢にまで見たマジカルステッキが!
マジカルステッキがあったのだ!
「あ、マジカルステッキだ! やったー」
フェルトが満面の笑みを浮かべる。ダンジョンでレアアイテムをゲットした時の何倍も嬉しかった。
ついに、ついにフェルトはマジカルステッキを手に入れたのだ!
マジカルステッキの装備により、フェルトの魔力が+0上がる。
フェルトの魔法攻撃力が+0上がる。
そしてフェルトの魅力は+10も上昇した。
マジカルステッキを遠巻きに見ていた女の子が近くによってきた。
「いいなー」
女の子はそうつぶやいた。
それを聞いてフェルトが女の子に声をかける。
「あなたもマジカルステッキが欲しかったの?」
「うん、でも私の家にはサンタさんが来なかったんだ……」
「そうなんだ。なんでだろうね? 悪い子だったの?」
「私、悪い子だったのかな?」
その女の子はどう見ても純粋そうで、フェルトには悪い子には見えなかった。
別の男の子が叫んだ。
「こいつだけサンタさんにプレゼントもらえなかったんだぜ。こいつん家、貧乏のせいでサンタクロースが来なかったんだよ」
それを聞いた女の子は涙目になってしまった。
「きっとサンタさんが忘れちゃったんだよ」
フェルトは女の子を慰めてあげた。
「そうかー。そうだよね。忘れちゃっただけだよね」
女の子は涙をこらえていた。
フェルトは考えた。
知力3の頭で考えた。
(ビンボー、そうかビンボーとかいう悪いやつにこの子の家のサンタクロースが倒されちゃったのね)
「そうだ、ちょっと待ってて」
フェルトはたったったっとマジカルステッキを持って公園を出る。
曲がり角を曲がってすぐ戻ってくる。
「ふぉふぉふぉ、サンタさんだよ」
曲がり角から出てきたのは異形の存在達。
先頭はフェルトが召喚した獣のケンタウロスが2頭、上半身が人間で下半身が馬のモンスター。
そのケンタウロスに引かせているのは、マジカルカーペット。いわゆる魔法の絨毯だ。ふわふわ宙を浮いている。
そしてマジカルカーペットに座っているのはフェルト。
だが、フェルトは普段の可愛らしい姿ではない。魔法でモンスターに変身していた。その姿はレッドオークだ。赤く太った鬼のような豚だ。
怖すぎだ。
とにかく怖すぎだ。
間違えてもサンタクロースには見えない。赤いサタンの名称が相応しい。
それを見て恐怖で引きつる子供達。
「サンタさんがプレゼントをあげよう」
そう言って、フェルトはファイアーボールとサンダーボルトの魔法を中空へと放つ。
それはまるで花火のようだった。
どーん、ばちばちばち。
「おおー」
子供達の警戒心が緩んだ。
レッドオークの姿で、フェルトは女の子の前に歩み出る。
「ほら、手を出してごらん、ふぉふぉふぉ」
女の子が恐る恐る両手を前に差し出す。
フェルトはその小さな手の上に自分のアイテムバッグを逆さに掲げる。
ぽん。
アイテムが飛び出す。
まるで魔法のようだった。フェルトのアイテムバッグは魔法のアイテムだけどね。何でも入る。まんま魔法だ。
「あ、マジカルステッキ!」
小さなアイテムバッグからそのサイズより大きなマジカルステッキが飛び出した。
女の子にとっては、まるで手品か魔法のようだった。
「これ、もらっていいの?」
「うん、サンタさんからのプレゼントだよ。ふぉふぉふぉ」
「ありがとう、赤い子豚のようなサンタさん」
「いいよー。また来年来るからね。他のみんなもいい子にしているんだよ。じゃあまたねー。ふぉふぉふぉ」
そう言うと、レッドオークの姿をしたフェルトはフライング(飛行術)の魔法を唱える。
2頭のケンタウロスに引かれたマジックカーペットに乗り、フェルトは上空へと飛び立っていった。
「サンタさん、ありがとう……」
女の子はマジカルステッキを抱きしめ、フェルトが空の彼方に消えるまでずっと見つめていた。
男の子たちはぽかんと口を開けていた。
マジカルステッキの装備を外したフェルトだったが、なぜか魅力値が下がることはなかった。




