第21話 魔法少女は美味しそうにお昼を食べる
腕に「あったかスライム」を押し付けられていたとも知らずに、調子に乗って山程のおにぎりとパンを買ってしまった高柳。
フェルトといっしょに屋上でお昼を食べることにした。
両手に抱えきれないほどの食べ物を抱えた高柳の後ろには、彼の制服をちょこんとつまんだフェルトが付き従う。
校舎の階段を上がり、屋上へ出る扉を開けた。
扉を開けると、屋上にはメガネちゃんこと小田部先輩が一人でぽつんとお昼を食べていた。
「あ、メガネちゃんだ」
小田部を目にしたフェルトが、二年生の先輩にそんな言葉で大丈夫か、という台詞を放つ。
「メガネちゃん〜、こんにちは!」
「……こ……んにちは……」
明るいフェルトの挨拶にメガネ少女小田部は二人に目を合わせないまま、オドオドと返事をする。
「メガネちゃんもいっしょにお昼食べようよ。高柳君はおいしいものいっぱいもってるよ♪」
「……あ、私はお弁当持ってきたから……一人で食べようと……」
「先輩、僕達といっしょに食べましょうよ」
「……いや、私は一人で……」
小田部はいつも一人でお昼を食べている。
孤独な時間が好きなのだ。
「メガネちゃん、高柳君って凄くおいしいもの知ってるよ。メガネちゃんも食べるとほっぺた落ちるよ。きっと♪」
迷った小田部。だが、フェルトの一言が決め手だった。お嬢様でもある小田部は美味しいものに食べ飽きていた。
同じくお嬢様であるはずのフェルトがそう言うのだ。ちょっとだけ期待してしまった。
屋上で三人で並んでお昼を食べることにした。
「メガネちゃん、これ飲んでみて。『地獄の暗黒ぶくぶくドリンク』甘くてパチパチして美味しいんだよ」
「……コーラね……」
「メガネちゃん、これ食べてみて。パンの中に入っている細いの『ミミズのソテー』より美味しいんだよ」
「……焼きそばパン……」
「あとね、これも美味しいよ。ロマンパン。亀の甲羅みたいだけど、甘くて柔らかいよ」
「……メロンパンね……」
(……と思ったら栗が入ってるし。マロンパンって言いたかったのね)
「あれ? これ真ん中だけなくなってる。わたし食べたっけ?」
「……ドーナツは最初から真ん中は無いから」
「ほら、これ見て、これはねご飯の周りが黒い紙で包んであるの。でもこの黒い紙も食べられるの。すごいでしょ」
「……おにぎり……」
「しかも中に小さな赤い目玉がたくさん入ってるの。わたし目玉はあまり好きじゃなかったんだけど、これはプチプチして美味しいの」
「……これ目玉じゃなくてイクラよ……」
「黄色い粘土だけど、これもおいしいよ」
「……チーズ……」
「甘いスライムもあるよ。私スライムが生で食べられるなんて知らなかった」
「……それゼリーだから……」
フェルトが語るとことごとく不味そうに思えてしまう。
フェルトが小田部の食べているお弁当を見つめる。
「メガネちゃんのそれって何?」
「……ん? これ? お弁当……」
「おべんとうってゆうんだ……」
色とりどりのお弁当だった。ちょっとだけ庶民ぽい。ご飯の真ん中に梅干し。卵焼きと焼き肉。サラダの彩りにミニトマトとパプリカ、ブロッコリー。
「……私が作った……」
「へえ。小田部先輩料理上手なんですね。おいしそうですね」
高柳が感心してお弁当を褒める。
「メガネちゃん、ちょっとこれ食べていい?」
フェルトはそう言うと小田部の返事を待たずに、お弁当の焼き肉をつまみ食いする。
ぱくり。
「メガネちゃん、このお肉……美味しいね。何のお肉だろう?」
「……牛肉」
A5ランクの黒毛和牛100gウン千円のお肉だが、お嬢様はいちいち気にしない。
「牛のお肉なんだ……こんな美味しい牛どこで捕まえたの? てっきりオーガのお肉かと思ったよ」
「……オーガ? オーガって何?」
「そうか、メガネちゃんはまだオーガ倒せないのか。私がサポートするから今度狩りに行こうよ」
「……狩り?」
「メガネちゃん何も知らないんだね。オーガはね、すっごく大きいの。でも動きが遅いから大丈夫よ。襲ってきたらヒラリってかわしちゃえばいいから」
小田部は首をかしげている。
オーガって牛の種類かしら? この子は牛を狩りに行こうと言っているの? 意味分かんない、小田部はそう思った。
「メガネちゃんみたいに、わたしもお弁当作ってみようかな。スコーピオンの唐揚げに、ミノタウルスのステーキ、オークの豚足にラミアの蒲焼き。ダンジョンで飢え死にしそうになった時に食べたら美味しかったんだよ。でもポイズンスパイダーはダメね。苦くて不味かった」
この子はサバイバルが趣味なのね、小田部は無言のままそう解釈した。
フェルトちゃんはグルメなようです。
オーガのお肉はA5ランクの黒毛和牛を超える美味しさかもしれません。




