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第20話 魔法少女のおっぱいは柔らかすぎて罪作り

 この日はとても寒い寒い火曜の朝だった。雪でも降るんじゃないかという寒さだった。

 だが不思議な事にフェルトはマフラーもコートも着ずに登校する。

 昨日の夜は「あったかスライム」を召喚していて、いっしょに寝たからだ。

 まるで「湯たんぽ」のように暖かいのだ。


 一方、ゾンビによる愛撫あいぶで心に瀕死の重傷を負った高柳。

 月曜日は学校を休んでしまった。

 翌日、彼はなんとかいつくばるように登校する。


 火曜日になって登校した高柳にフェルトは、


「高柳君、昨日お休みだったね。月曜日は学校あるんだよ。知らなかったの? 教えておけばよかったね」


容赦ようしゃなくダメージを与える。


「いや、なんか悪夢にうなされてたんだよ……」


 天国から地獄に落とされた悲劇だった。

 あれは夢だ、あれは夢だ、あれは夢だ、心の中でそう繰り返していたのだ。



「そういえば、高柳くんにインストラロールしてもらった『ゲーム魔法』を発動させてみたの」


「インストラロールじゃなくて、インストールだよ……。フェルトさん……」


 高柳はし目がちに暗い声で答える。


「あれさ、モンスターを攻撃できるって知らなかったでしょ」


「えっ……」


「わたし何時間もかけて攻撃方法見つけたの」


「えっ、あ、そうなんだ……」


「高柳君知ってる? この玉を3つ並べるとモンスターを攻撃できるの」


「そうか。フェルトさんこのゲーム初めてなんだね。こんなこともできるんだよ」


 連鎖をしてみる高柳。ドロップが壊れては落ちて、壊れては落ちて、が繰り返される。

 次々ドロップが落ちてきてモンスターに大ダメージを与える。


「すごーい高柳君!! 何これすごすぎ、すごーい!」


 キラリンコ★。フェルトの心の中の星が光る。


 フェルトの中で高柳の好感度が+20上がった。


 だが今更いまさら20上がったところで……


 高柳の心の傷はえない。

 癒やされない。

 彼の心は男の子が喜ぶラッキーなハプニングでもなければ癒やされないであろう……。

 そう、ラッキーなハプニングでも起きなければ……。


  ◆


 さて、昼休み。フェルトが高柳の机に来る。


「高柳君、お昼休みだね♪ お腹すいたね♪」


 とてつもなく愛くるしい笑顔だ。


「うん……」


 あいかわらず暗い声の高柳……。


「焼きそばパンおいしかったね♪」


「うん……」


「今日のお昼もおいしいといいね♪ 高柳君の買ってくれるものおいしいからさ♪」


「うん」


 ここでやっとお昼をたかろうとしているフェルトの意図に気づく。


(おごって欲しいのか……フェルトさんの家も相当なお金持ちのはずなんだけどな)


「わかったよ。今日も何かおごってあげるよ。遊園地では悪いことしちゃったしね。気絶しちゃってデート台無しに……」


「デート?」


「あ、えっと、その……」


 高柳はデートと聞き返されて慌ててしまう。


「あ、そうかデートって殿方とのがたと遊びに行くことって執事のラルが言ってた。またデートしようね高柳君♪」


 高柳はそれを好意的に解釈した。フェルトはどうやら「デート」という単語がわかっていなかったようだ。


(もしかしてフェルトさんって純粋にデートとかキスとか知らないだけかな? 箱入りお嬢様ってところなんだろうか。無邪気なんだな)

 そう考えていた。


 そして、二人は購買に向かう。


「早く行こう♪」

 そう言いながら、フェルトが突然腕を組んできた。焼きそばパンによる使役テイム効果はまだ続いているようだ。


「え? ちょ、フェルトさん……。ちょちょちょっと、腕にあたって……」


 同じクラスの女の子による突然のその行為。

 なんかやわらかいものを高柳の左腕ひだりうでに当ててくる……

 ぷるん、ぷるんする感触が腕を通してわかる。ほのかに温かい。

 高柳が初めて体験するその感触。

 フェルトを直視などできない。


(どうしよう、やばいやばい、やばいって、ヤバイッテェェェェェェェェェェェェ)


 すー、はーー。


 高柳は呼吸を整える。


 静まれ、静まれ、静まれ。俺は冷静だ、冷静だ。自分に暗示をかける。


 もし暗示に失敗すれば前かがみになって歩かなくてはならなくなる。

 血液が一箇所に集まれば非常事態だ。


 かと言って「フェルトさん、腕に何か当たってるから」なんて無粋ぶすいな事は言わないでおこうと思った。

 そんなことを言ってしまうのは、幸運の女神様につばを吐く行為。

 こんな幸運にいつまた巡り会えるかわからない。


 高柳はキリッと前を見据みすえる。


 フェルトの腕が絡んだまま、紳士然と歩く。


 賢者のごとく歩く。


 腕に柔らかな感触を残したまま、「賢者モード」で歩くのは苦行のようにも思えた。

 呼吸を整え、頭は冷静に、左腕さわん以外の細胞活動を停止。

 その意識は左腕さわんに集中させている。

 冷静を装って歩きながらも、この感触を脳内へと記録することに専念する。

 一生忘れまいと思った。

 これでいつでも再生が可能なはずだ。


 至福の時間は購買までのほんの数分だった。


「じゃ、じゃあ、ぼ、僕はお昼を買ってくるから、フェルトさんはここで待ってて、ね」


 ちょっとどもっちゃったけど、大人のオトコをよそおう高柳。


「うん、わかった♪」


 笑顔で答えて腕から離れるフェルト。

 

 高柳はちょっと残念に思ったが、


(だが、俺はやり遂げた!)


 達成感を感じていた。

 まだ左のうでに温かい感触がほのかに残っている。


 ゾンビのことなど帳消しにしてしまうその柔らかさ。温かさ。

 この世にこれほど「ぷるぷる」と柔らかい物があったのであろうか。


 高柳は『偉大なる賢者』となった気分だった。カリスマ値と記憶力はともに+10ほど上がっていた。だが、なぜか幸運度は上がっていなかった。



 購買の雑踏ざっとうへと向かう高柳の背中を見送りながらフェルトは、


(あれ? おなかになんか入っている……)


そう思った。


(あ、湯たんぽ代わりにしていた「あったかスライム」ちゃん持って来ちゃってた……)


 フェルトは制服の中から「あったかスライム」を取り出した。



  ◆



 高柳の心はいつしかえていた。


 HPはMAXまで回復していた。


 両手に山程やまほどのパンとおにぎりを抱えて戻ってきた高柳は、


(あれ? フェルトさんの胸(つぶ)れてる? もしかして腕に押し付けると女の子のおっぱいってつぶれちゃうの? しぼんじゃうの??)


 そんなことを考えていたなんてフェルトは知るよしもない。

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