第18話 魔法少女は休日を謳歌する
土曜の朝。
フェルトは気持ちよく目覚める。
まあ寝坊こそしたが、異世界にいたときはいつものことだ。
誰も起こしてくれる人などいなかったのだから。
最強の魔法少女を起こすなんて危険を冒す者などいるわけがない。
ファイアーボールの雨が降ってくる可能性がある。
もちろんフェルトは前日の高柳との約束を忘れてはいない。
「高柳君は幽怨地の前で待ち合わせって言ってたけど……。幽怨地ってどこ? ユウエンチ……」
そう独り言をつぶやき、ピンクのクローゼットを開ける。
そしてそこにあった魔法使いのローブ、ハット、羽の生えたブーツ、短い杖を取り出す。
魔法使いセット一式。
フェルトはそう呼んでいる。
フェルトは自分自身を魔法で強化してしまえば装備なんて関係ないと思っている。
どんな敵も魔法で黒焦げだ。
防御力も魔法で超絶強化する。
フェルトにとっては装備なんてただの飾りなのだ。
だがそれでは他の魔法使いに示しがつかない。
弱い者は装備で魔力の不足を補う必要があるからだ。
そしていかにも魔法少女という出で立ちで出発しようとしたフェルト。
執事のラルに止められる。
「お、お嬢様! 今日はデートでございますよね?」
「ん? 『でぇと』って何?」
「殿方と遊びに行くことですよ」
「ラル、今日は遊びじゃないのよ。生死がかかっているの」
そう、かかっているのは生死だ。決して精◯がかかっ……ピー……(下品すぎて自粛した)
「そんな格好で行かれるのですか?」
「ええ、そうよラル。見た目は大事なの。舐められるわけには行かないわ」
「でもちょっと目立ちすぎですよ、お嬢様」
「そうかしら……。じゃあ羽の生えたブーツだけにしておくわ」
フェルトはフリルの付いたピンクのワンピースに装備をチェンジする。
フェルトは街へ繰り出した。
◆
「さて、まずはアンデッドの生息地『ユウエンチ』を探しましょう」
「えっと、街の人に聞くといいわね」
手近な人を捕まえて道を聞く。
「ちょっといいかしら? あなた『ユウチエン』ってご存知?」
フェルトはちょっと単語を間違えていた。
「『ゆうちえん』? わからないわ。 もしかして幼稚園かしら?」
「たぶん……」
「そこの角を曲がったところよ」
「ありがとう」そう言って幼稚園に到着するフェルト。
そこはやたら子供達が多い。
そして高柳は見当たらない。
(どうみてもゾンビの子供……じゃないわよね。間違えたのかしら?)
別の人を捕まえて道を聞いてみる。
「ちょっといいでしょうか? ヨウジエンって……」
フェルトはまた少し間違えていた。
「ワタシ、ガイコクジンネ。ニホンゴ、ムズカシイネ。ヨウジエン? コウジエン? 広辞苑は辞書ネ。本屋ネ」
「本屋?」
「本屋は駅前ネ。駅はアッチネ」
フェルトは駅前の本屋へ行く。だが、ここも幽怨地とは違いそうだ。
ドラえ◯んを立ち読みする。
フェルトはドラ◯もんを気に入った。作者が伏線に使いたいくらい気に入った。
こんなことをしている場合ではない。道を聞くために人を捕まえる。
「すいませんトンヤはここですか?」
間違えすぎだ。立ち読みなんかするからだ。
「え? トンヤ? ここは本屋だよ。問屋は電車に乗って問屋街まで行かないと。日本橋横山町に行くと問屋街があるよ」
なんか遊園地から遠ざかっていく。フェルトは電車に乗る。
「すいません、ニホンハシ……はどこですか?」
「ええええ? ニホンの端? うーんどこだろ? 日本の端か〜」
いつしかフェルトは半泣きだ。
「あの、恐れ入りますが……」
「あの、すいません……」
「ちょっとよろしいでしょうか……」
尋ねる口調もとても丁寧になっていた。
◆
――りりりりりりり
フェルトのスマホが鳴る。高柳からの着信だ。
「も、も、も、もひもひ」
(あ、フェルトさん、いまどこ?)
「え? 今どこだろここ……、あ、サッポロだって、ソウヤミサキに向かっているところ……」
(はい?)
残念ながらデートはご破産になってしまいそうだ……
第17話の隠しメッセージの答え
(みなさんわかったかと思いますが、念のため)
迷宮を攻略してくるの 早
過ぎてラルって強いんだ く
らいに思ってた。でも、 変
な箱を持ってきてその中 身
を見た時はCMのと違う し
、なんか違うかもと思っ た
んだ。ただ、振ってみな い
と効果が無いのかはわか ん
ないでしょ?本当にバカ だ
ったと今なら思えるよね 。




