閑話 修の独り言
沃土に言われたんだが、俺は魔法回路を作成する時に意識が集中するとブツブツ独り言を言い始めて時々何かをノートに書いて最後に「よし」って言うらしい。
以前から考え込むとブツブツ独り言を言っていたらしいのだが段々酷くなっていて所構わずブツブツ言っているらしい。
俺は全然気づいていなかった。
自分で気にし始めると確かにブツブツ独り言を言っている事が有って何か危ない奴みたいだ。
独り言を言いながら書きためた俺のノートは他人には判読出来ないかもしれないが、データボックスと併用するとノートを見ればその時に何を考えていたか思い出すことが出来る優れもので凄く役に立つ。
それに少し位人に気味悪がられても人に避けられても魔法回路を造る事の方が重要だ、重要なはずだ!
でも……外で独り言は止めた方が良いな、うん、今までの事は……無かった事にしよう。
もしかして電車の中で簡単に座れるのはこの独り言のせいか?
うん、外で独り言は止めた方が良いな。
それで今迄は学校の行き帰りの電車の中で魔法について色々考えていたのだが違う事を遣る事にした。
本を読もう……駄目だ気が付くと本を読みながらブツブツ言っている。
ゲームをしよう……好きじゃないから続かない。
魔法の練習をしよう……魔法でボールを浮かしたり、アイテムボックスからボールを出し入れするだけなんだけどブツブツ言うよりはましだな。
だから学校の行き帰りの電車の中では魔法の練習をすることにした。
そうすると子供が周りに寄って来るようになった。
魔法自体は認知されているのだが練習したりする人は珍しいのだ。
子供達にとっては手品と区別がつかないのだろう。
だけど子供とはいえあまり近くに来ると魔法が使いにくくなる。
でもこれも練習だと思って続けていた。
子供は好奇心は旺盛だが飽きるのも速いその内に居なくなるだろう。
それでも飽きずに見ている子供も3人ぐらいは残って、俺と話をするようになった。
小学校の話を聞くと先生で魔法を実演してくれる人はあまりいないみたいだ。
学校教育として魔法を教える事はまだ始めていないから教師も何もしていないのだろう。
幼体に魔法を教えても使える様になる訳では無いが見せるぐらいはした方が良いだろうに。
女子は早ければ小学6年生で成体になるからどうにかした方が良いと思うが今の所は個人任せの様だ。
だから「魔法が使える様になったら教えてあげるよ」と言っておいた。
電車の中で魔法を練習するようになって独り言をブツブツ言わなくなったので良々と思っていたのだが何故か女の人が睨んでいる。
初めは気のせいかと思っていたのだが毎朝となると気のせいとも思えない。
俺が魔法の練習をしながら子供達と話す間中こちらを睨んでいる。
同じ電車に乗っている他の子供達も遠巻きにして怖がっている感じだ。
子供達に聞いてみると小学校の先生らしい。
学校でも子供達を睨みつけて怖がられている様だ。
先生に睨まれるような事何かしたか?………覚えが無い。
ある日我慢が出来なくなって直接聞いてみる事にした。
「あの~先生ですよね。子供達が怖がっていますよ。何故こちらを睨んでいるんでしょうか?」
「子供達を守るために監視しているんです。最近、電車内で魔法を使って子供達を集めている変態がいるんで!」と言ってこちらを睨みつけている。
「へっ?変態って俺の事ですか?何か変な事してますか?」
「電車内で魔法を使って子供達を集めている変態」
「いや、電車内で魔法の練習をしていたら子供達が集まって来ただけですけど?」
なんか認識に大きな隔たりがある。
もしかして周りからはそんな風に見えていたのか?
誤解を解こうと暫く話してみたが彼女にとって俺が変態なのは既定の事実に成っていて認識が改まりそうにない。
彼女にとって俺は子供達を集めている変態なのだ。
なんか胸がむかむかしてきた。
俺は電車の時間をずらして子供達と会わない様にした。
どの道3ヶ月程で大学に通うようになるから近々この時間帯に電車には乗らなくなる。
後日、中学生になった子供の一人と偶然会った時に知ったんだが先生の頭の中でその日の事は変態を諭して子供達を守ったことになっている様だ。
「電車内で魔法を使って子供達を集めている変態がいましたが私が諭して改心させました。その日から現れていません。皆さん世の中には変な人がたくさんいます。注意して下さい」と全校生徒の前で言ったそうだ。
改心って何、俺は別に悪い事をしていたとは思っていない、ただ気分を害したからお前を避けただけだ。
なんか胸がむかむかする。
因みに今でも電車内で魔法の練習をしているが子供のいない時間帯なので子供達が集まる事は無い。
でもチラチラこちらを窺う様子が有るので何か思われているのだろう。
あまり考えても仕方がないので実害が無い限り何もしない事にした。
以前 『電車内でブツブツ独り言を言っている危ない奴』…無かった事にする。
↓
少し前『電車内で魔法を使って子供達を集めている変態』…胸がむかむかする。
↓
現在 『?????????????????』…ここから先の事は分からない。
沃土が言うには魔法回路を作成する時の意識の集中の仕方は人によって違っていて、沃土に言われてから俺も観察してみたんだが確かに違う。
目を瞑って固まっている奴や、イメージを絵に描いている奴、考えたことを歌にしている奴、詩を書いて朗読している奴もいるな。
まぁ、魔法回路が作成出来れば何をして意識を集中しても良いんだけど、沃土はそれを観察しながら何かを一生懸命に書いているな。
傍から見たら不気味だけど屋内で遣る分には問題ない筈だ。
魔法回路の作成は重要な事でこのぐらいの事で魔法が上手く発動するなら目を瞑って貰おう。
みんなには俺の体験談を聞かせて注意するように言っておいた。
そして「電車内でそんな事をするのはお前ぐらいだ」と言われた。
「俺みたいに気が付いていないだけかもしれないから注意する様に」と俺は言っておいた。
俺が思うに『俺達は同じ穴の狢だ』気が付いていないだけで絶対に何かしている。
俺はみんなに質問した。
「最近、電車で以前より車内が空いているなと思った事はないかな?」
「最近、電車で毎日座れる様になっていないかな?」
俺はみんなの反応を見ながら続けた。
「思い当たる人は以前の俺と同じ様に電車で周りから避けられている」
「別の車両に移る人がいたり、時間帯をずらす人がいたり、電車からバスに変えたり色々な方法であなたと会う事を避ける努力をしている。その結果、電車が空いていたり、毎日座れたりするんだ」
「何人か思い当たる人が居そうだな。思い当たる人は俺の仲間だ」
「自分で気が付いていないだけで絶対に何かしている」
「気になる人は大学に上がったら電車の乗る時間が変わると思うからこれを機に直したら如何よ」
「気にならない人は……それはそれで良いんじゃないかな」
これで直す人は直すだろう。
俺は電車内で魔法の練習をするようになってからは例の先生に睨まれたぐらいで俺の乗る車両だけ人が少ない事も無いし、特別座り易い様な事も無くなった。
そして、大学に入ってからは多くの人が自動車で通うようになっている。
流石に運転しながら魔法回路を作成はしないだろうからそう言う事だろう。
独りで自動車に乗りながら独り言を言おうが唱を詠おうが如何でも良い事だしな。
俺の様に電車で魔法の練習をする人が増える様な事は無かった。