第3話 価値観の相違
室内が居心地悪い空気に包まれる中、美子は手にしていた包丁を横の布巾の上に置いてから、落ち着き払って妹二人に声をかけた。
「美野、もう全部研ぎ終わったから、砥石の交換は良いわ。美幸と一緒に二階に行って、美恵にここに来るように言って貰えないかしら?」
それを聞いた二人は、嬉々として頷く。
「分かりました!」
「失礼します!」
そして座敷を出るまではしずしずと下がった二人は、襖を閉めるなりバタバタと音を立てて廊下を駆け去って行った。そして再び静まり返った室内に、美子の声が響く。
「それでは、お互いに気分が少し落ち着いたところで、事実関係を確認したいのですが。小早川さんは構いませんか?」
それを聞いた淳が、僅かに眉根を寄せる。
「事実確認? 何をどう確認しろと?」
「今日、食事の席で、美実があなたに『妊娠したから別れて欲しい』と言ったら、あなたが激怒して美実を罵倒した挙げ句に平手打ち。その直後に美実があなたをワインボトルで強打した。大まかな流れは、これで間違いありませんか?」
淡々と事実を述べた美子に向かって、ここで淳が座卓を叩きながら吠えた。
「ああ、その通りだ! だからとっとと、あの尻軽女を出しやがれ!!」
「おい、淳!」
「五月蝿い! お前は部外者だろう! 引っ込んでろ!」
思わず横から秀明が腕を掴んで窘めたが、淳の怒声は収まらなかった。それを座卓を挟んだ向かい側から眺めていた美子は、疲れた様に溜め息を吐く。
「……その調子で、随分と言いたい放題言ったと見えますね」
「はぁ? 本当の事を言って何が悪い!?」
「だからちょっと落ち着け!」
男二人が、再び一触即発の気配を醸し出してきたところで、廊下の方から新たな声が割り込んだ。
「姉さん、入るわよ?」
「ええ、入って頂戴」
すると美子同様微妙な顔付きになっている、美実のすぐ上の姉の美恵が、細長いICレコーダー片手に座敷に入って来た。その彼女に美子が尋ねる。
「どう?」
短い問いかけだったが、美恵は聞かれた内容について淡々と述べた。
「取り敢えず言いたいだけ言ったら、幾らか落ち着いたみたいだから、安曇を任せてきたわ」
「安曇ちゃんを?」
怪訝な顔になった美子だったが、美恵が肩を竦めて付け加える。
「一人でぼーっとしてるより、何かやる事があった方が気が紛れるし、精神的に落ち着くわよ。美野も付けたし、美樹ちゃんには美幸を付けておいたから、暫くは心配要らないわ。それで、これ。持って来たから」
美恵が差し出してきた物を確認した見た美子が、頷いて指示を出した。
「ありがとう。じゃあ早速、小早川さんにも聞いて貰いましょうか。適当な所から出して」
「了解」
そして美子の隣に座った美恵が、カウンターを見ながら操作を始めた為、淳は訝しげに尋ねた。
「何を聞かせる気だ?」
「美実の言い分よ」
「は? あの厚顔無恥女の言い分だと?」
「…………」
途端に声を尖らせた淳に、美子は僅かに顔をしかめたが、口に出しては何も言わなかった。当然秀明も余計な発言はせず、室内に静寂が漂う中、唐突に怒声が響き渡る。
「……れで、思わず淳をワインボトルで殴っちゃって」
「そもそもそれが間違ってるでしょう!! 大体ボトルが空になってたって事は、あなたも相当飲んだのよね? 妊婦がそんなに飲酒して良いと思ってるわけ!? 反省しなさい!!」
「ごめんなさいぃぃ~!!」
「…………」
激怒している美子の声と、泣き叫ぶ美実の声が入り混じり、室内全員の視線が美子に集まった。それを認識した美子の片眉がぴくっと上がったが、美恵が慌ててレコーダーの再生を停止させて、早送りの操作をする。
「ごめん、ちょっと早すぎたわ。これから三分位、飲酒についての美子姉さんのお説教が続いたから、飛ばして、……っと。ここら辺かな? 本当に姉さんの怒鳴り声って、耳に響くわよね」
「余計なお世話よ」
美恵の言葉に美子が嫌そうに顔を顰めたところで、美子達が想定していた箇所の再生が始まる。
「……それで? どうして妊娠したら小早川さんと別れる事になるのか、私達にも分かる様に説明して頂戴」
「普通だったら、小早川さん以外の男の子供を妊娠したから、別れるってパターンよね?」
(そうだろう! 誰でも普通、そう考えるよな!?)
聞こえてくる姉二人の主張に、淳は真顔で頷きつつ、黙っている彼女達に視線を向けたが、何故か彼女達は何とも言い難い表情で淳を見返した。そんな中、淡々と姉妹のやり取りの再生が続く。
「そうじゃないし……、淳の子供だもの」
「それならどうして?」
「だって、淳とは結婚できないし。それなのに子供を生んで纏わりついてたら、周りの人から何だと思われるでしょう? だから子供にはちゃんと淳の事をお父さんって教えるけど、生まれる前にすっぱり別れて、淳はちゃんと結婚できる相手を探せば良いと思ったから」
それを聞いた姉達は、益々困惑した声を出した。
「益々意味不明よ」
「どうして結婚できないと思うの? あなた達、二人とも独身でしょう?」
「だって恋愛と結婚は、全くの別物じゃない」
「…………」
そこで唐突に無音になり、淳と秀明は(故障か?)と思って声をかけようとしたが、少しして美実の声が聞こえた。
「美子姉さんも美恵姉さんも、急に黙ってどうしたの?」
その不思議そうな問いかけに、二人が脱力した様に応じる。
「……なんか急に、真っ当な台詞が出てきて驚いたわ」
「とにかく、もう少し分かりやすくお願い」
「だって淳は恋人としてはなかなかだし、遺伝子的も子供の父親としては有望よ? だけど住居が高層マンション好きでバリバリ猫派で、洋食系で朝ご飯はパンで、キャベツに付く虫も嫌いで、車はスポーツカーが好きなんだもの!!」
「…………」
口にしているうちに興奮してきたのか、最後は叫ぶように告げてきた美実に、姉二人は咄嗟に何も言わなかったらしく、再び無音になった。そこで美子が美恵に目配せで再生を停止させ、淳に視線を向けて静かに問いかける。
「これを聞いての感想を、小早川さんにお聞きしたいのですが」
「はぁ? 感想と言っても……、俺の好みを良く分かってるって事だけだが?」
本気で当惑した表情になった淳だが、その横で秀明が深々と溜め息を吐いて呟いた。
「馬鹿か、お前……」
「何だと?」
「僕の、私の、将来の夢」
「はい?」
思わず気色ばんで秀明に詰め寄ろうとした淳だったが、いきなり美子が脈絡の無さそうな事を言い出した為、戸惑った表情になった。しかし彼の困惑など物ともせず、美子が話を続ける。
「幼稚園や小学校低学年の頃、そんなテーマで絵を描いたり作文を書いたりした記憶はありませんか?」
「それは……、確かにあるが。それが?」
「美実は幼稚園の時、『お姫様』って書いたんです」
「……ぶっ、ははっ! おっ、お姫様って!」
思わず噴き出した淳だったが、美子は真顔で話を続けた。
「白馬に乗ってやってきた王子様が、自分にかけられた呪いを解くと、髪と瞳の色が元の金色に戻って、二人でおとぎの国に戻って末永く幸せに暮らすと言う話を、自宅に持って帰った絵を前にして、小一時間熱く語って聞かせてくれました」
「小一時間って……」
唖然とした淳だったが、美子と美恵が沈鬱な面持ちで続ける。
「その時は単に想像力が人よりちょっと旺盛、位に思っていたけど……」
「小学校の卒業文集で『十年後の私』のテーマで文章を書く事になった時、あの子堂々と、深紅の薔薇を敷き詰めた四頭立ての馬車に乗った王子様が自分を迎えに来て、艱難辛苦を乗り越えて幸せになるっていう、壮大な原稿用紙百枚分の話を、担任に提出したの」
「すぐに担任から電話がかかってきて、『二百字以内で端的に、実現可能な目標を書かせて下さい』と懇願されて。その時『この夢想家ぶりを今のうちに何とかしないと、この子は将来ろくでもない男に騙されて、ボロボロにされて捨てられる』って戦慄したわ」
「…………」
もう言葉が無い男二人を半ば無視して、美子と美恵は顔を見合わせ、しみじみと言い出した。
「それからは、大変だったわね」
「本当ね……」
「何が大変だったんだ?」
思わず秀明が口を挟むと、美子達は再度顔を見合わせてから、口々に言い出した。
「あの子は想像力逞しい上に、すぐに惚れっぽいと言うか陶酔し易い子だったの。『あの選手、ストイックで素敵』とか『あの俳優さん、愛妻家で有名なんだよね』とか『あの政治家の人、理想に突き進む立派な人だわ』とか崇拝する人間が沢山いて」
「私と姉さんで、美実が口走った名前を控えておいて、それから情報番組や週刊誌、果てはスポーツ新聞まで定期購読して徹底的にチェックしまくって、そいつらの粗探しをしたのよ」
「脱税や収賄で捕まったとか、ドーピングや八百長に絡んでたとか、浮気したり愛人や隠し子がいたとかの情報を掴む毎に、逐一あの子に教えてあげて」
「その甲斐あって、あの子は中三の時には『男って……、金と女を漁るしか能がない、地球上で最も醜い生物よね』って、暗い顔で言ってたし。それを聞いて、勝ったと思ったわ」
「同感。きっと後にも先にも、あれだけ姉さんと共感できる事柄なんて無いわよ」
そんな事を言って真顔で頷き合う姉妹を見て、男二人は戦慄した。
(『勝った』って、一体何にだ?)
(二人とも、容赦ないな。ちょっと酷くないか?)
そのまま無言になった彼等には構わず、美子達が話し続ける。
「それで当時、軽い男性不信に陥った後遺症で、変な方向に走ったのは想定外だったけど」
「姉さん。それは後遺症って言うより、副作用の類じゃない? 現に今では別に男性を毛嫌いなんかしないで、普通に接してる訳だし、全然問題ないわよ」
「おい、ちょっと待て。その『変な方向』とか『副作用』って、まさか……」
思い当たる節がある淳が慌てて会話に割り込むと、美子は事も無げに暴露話を続けた。
「ある日、何かが急に吹っ切れたらしくて『男と女だと欲得ずくのドロドロした関係だけど、同性同士なら純愛よね!』って言い出してBLに走った時には、流石にちょっと動揺したわね」
「でも女同士だと色々問題あるけど、男同士だったら実害はないから、温かく見守る事にしたのよ。その類の話を書き始めたら格段に性格が明るくなったし、趣味の合う友達もできたし」
うんうんと満足げに頷く美恵を見て、淳は我慢できずに悪友を指さしながら盛大に文句を言った。
「実害大有りだろ!? 美実の商業デビュー作の主人公二人は、俺とこいつがモデルなんだぞ!?」
「……不愉快な事を思い出させるな」
淳の横で秀明が片手で顔を覆ったが、美子達は平然と言い返した。
「あら、恋人の仕事に協力して、一肌脱ぐ位当然でしょうが」
「それにあの本の挿し絵、二人のイメージピッタリな上、二割り増し男前に描かれていて素敵よ?」
「美子……、真顔でフォローになってない事を言うのは止めてくれ。頼むから」
秀明が俯いたまま疲労感満載の声を漏らすと、美恵が我に返った様に指摘した。
「姉さん、話が大幅に逸れたわ」
「そうね」
それに美子は素直に頷き、淳に向き直って話を続けた。
「それでは話を元に戻しますが、あの子は想像力豊かで、当然将来についても色々考えていたみたいなんです。因みに一番最近聞いたのは『結婚したら郊外の、小さいけど庭がついてる一軒家で、小型犬を飼って、車は細い道で小回りが利くように、でも買い物の時に荷物が沢山積めるワンボックスカーかな?』とかだったと思いますが」
「え?」
思わず瞬きした淳に、美恵が若干目つきを険しくしながら確認を入れる。
「小早川さん……。あなたひょっとして、あの子が高所恐怖症なのを知らないの? 高層マンションで暮らすなんて無理よ?」
「はぁ!? いや、だって! そんな事一言も! 観覧車だって、普通に乗ってたし」
慌てて弁解した淳だったが、それを聞いた美子の視線が冷え切った物に変化する。
「……乗せたの?」
「真っ青になった筈だけど?」
「いや、それは……、そう言えば『淳の顔を見てる方が楽しいもの』とか言って、せっかくの景色を見てないなとは思っ……」
「…………」
女二人から無言の非難を受けて、淳は最後まで言えずに口を噤んだ。それを見て、美子が頭痛を堪える様な表情になりながら、話を続ける。
「それからあの子、小さい頃、塀から飛び降りてきた猫に顔を引っかかれて以来、大の猫嫌いなんです」
「あの時、傷が化膿しちゃって、なかなか治らなかったしね~」
「でも、俺が実家が客商売で何も飼えなかったから、飼うなら猫だなって言った時も何も言ってなかったが」
その淳の訴えを半ば無視して、美子達は会話を続けた。
「うちは父が大の犬嫌いで。小さい頃に噛まれて以来、トラウマになっているらしくて。今でも並んで歩いている時にすれ違うと、私達が犬側になる様に並び直す位なんです」
「だから昔から、とても犬を飼いたいなんて言える空気じゃ無くてね」
「確かに……、一緒にペットショップに行った時、やけに熱心に子犬を見てるなとは思ったが……」
ぼそぼそと独り言の様に口にした淳に、秀明が不思議そうに尋ねた。
「お前、その時に美実ちゃんに犬が好きかどうか、聞かなかったのか?」
「その……、子猫を見るのに夢中になってて……」
「…………」
正直な淳の報告に、他の三人の呆れ気味の視線が彼に突き刺さった。
「それからあの子、小さい頃から土いじりが好きなのよね。うちの花壇は殆どあの子が手入れしてるし」
「だから虫とかも比較的平気なのよね。『もぐらさ~ん、ミミズさ~ん。美味しいふかふかの土にしてくれてありがとう~。チューリップさんが喜んでるよ~』って、にこにこしながら地面に呼びかけてる位だし」
淡々と告げられた内容を聞いて、秀明は溜め息を吐きながら、意外に虫が苦手な友人に声をかけた。
「お前、蛾が飛んできても大騒ぎするよな?」
「当然だろ!! あんなバサバサと鱗粉撒き散らしながら飛ぶ奴!」
「毒を持ってるわけでは無いですが」
「カイコガの繭から絹糸だって採れるのにね。大の大人がみっともない」
「…………っ!」
冷静に突っ込まれた淳は、咄嗟に言い返せずに黙り込んだが、そこに女二人が容赦なく畳みかける。
「要するにあなたは、かなり年上の立場から、これまで事ある毎に、あの子を子供扱いしてきたみたいですが」
「そんな風にされたら、ひねくれてて素直じゃないあの子が馬鹿にされたくなくて、無理してあんたに合わせたり頑張ったり我慢したりするわよね」
「いや、しかしそれは!」
流石に反論しようとした淳だったが、また美子が一見関係無い事を言い出した。
「先月のあの子の誕生日。プレゼントを渡しました?」
「ああ、勿論渡したが……」
「因みに超絶に犬好きのあの子には、美幸は犬の刺繍が入ったハンカチ、美野は子犬のペーパーウエイト、私は犬型の栞と付箋のセット、姉さんは犬のキーホルダー、義兄さんは子犬の写真集を贈ったの」
その美恵の説明を聞いて、淳は思わず恨みがましい目を秀明に向けた。
「……何で教えてくれなかったんだ?」
「付き合い始めて六年だぞ? 当然知ってるものと、思ってただろうが。八つ当たりは止めろ」
そんな事をぼそぼそと囁いていると、美子から何気ない口調で問いが発せられた。
「小早川さんのプレゼントは、どんな物だったのかしら? 良かったら聞かせて貰えませんか?」
「その……、薔薇を年の数だけと、ブレスレットを……」
低い声でそう告げると、美子達がしみじみとした口調で応じる。
「まあ、素敵。羨ましいわねぇ……」
「本当に。洗練された大人のチョイスよねぇ……」
(絶対、そう思って無いよな? こいつら)
全く笑っていない彼女達に、淳の顔が僅かに引き攣ったが、美子は冷静に美恵を促した。
「取り敢えず、もう少し続きを聞きましょうか」
「そうね」
そして美恵がレコーダーを再生させると、再び姉妹の会話が聞こえてくる。
「……あのね、美実。これまで異なる生活環境で暮らしてきた人間同士が一緒に暮らすとなったら、考え方とか趣味嗜好が異なるのは当然でしょう? 確かに結婚するとなったら、今まで通り行かない事が多いと思うわ。でもそこを擦り合せていくのが、結婚生活って物じゃない?」
優しく言い聞かせようとした美子だったが、美実が冷静に問い返す。
「じゃあ、美子姉さんは、結婚して何か変わった事とか変えた事ってあるの?」
「それは勿論あるわよ?」
「だってお義兄さんの親戚関係は皆無で、親戚付き合いが増えたって事も無いし、お義兄さんがこの家に婿養子に入ったから、名字も家も変わらないし、生活レベルだって下がって無いじゃない?」
「…………」
美実がそう尋ねた途端、静寂が続く。
「美子姉さん?」
再度美実が尋ねたが、どうやら美子は回答を拒否したのが、次の台詞で分かった。
「……それじゃあ私はそろそろ、下に行ってるわね。小早川さんが来ると思うから、お出迎えの準備をしないと」
男二人は(逃げたな……)と思ったが、そこで戸惑った様な美実の声が聞こえてきた。
「……え?」
「どうする? 会ってじっくり話をしてみる?」
先程の質問も忘れて、動揺した声を上げた美実に確認を入れた美子は、妹の顔色で判断したのか、苦笑混じりの声で告げた。
「そう……。それなら今日のところは無理強いしないわ。話を聞いたら追い返すから、大人しくしていなさい。美恵。もう少し付いていて、後から降りてきて」
「分かったわ。二人でもう少し、話をしているから」
そこで何を思ったか、美恵がいきなり血相を変えて再生を停止させた。その如何にも「すっかり忘れていた事を、たった今思い出しました」的な不審極まりない行動に、美子が顔を顰めながら問いかける。
「あら……。どうして止めるの?」
その問いに、美恵は何となく顔色を悪くしながら、レコーダーを手の中に握り込む。
「別に……、他意は無いんだけど。あの後、改まって姉さんに聞かせなくちゃいけない話とかは、しなかったし……」
その弁解がましい台詞を聞いて、美子の声のトーンが若干下がった。
「美恵?」
「本当に、大した事は無いって」
「再生しなさい」
「……了解」
姉の静かな命令口調には逆らえず、淳と秀明が(何事?)と訝しむ中、美恵は再度録音データの再生を始めた。