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第1話 笑顔の爆弾宣言

 とある二人の始まりは、《彼》の場合は大学時代からの悪友に、《彼女》の場合は後に姉の夫となる人物に、面白半分に引き合わされた事だった。


「やあ、美実ちゃん。良く来てくれたね」

「江原さんが、『絶対気に入る奴を紹介するから』って言うから来てみたけど……」

 指定された喫茶店に出向いた美実は、只今絶賛長姉に言い寄り中の、なかなかハイスペックながらも壮絶に胡散臭い男の向かい側に座りながら、軽く顔を顰めた。その表情を見た彼女を呼びつけた男、江原秀明は、面白そうに笑みを零したが、彼が何か言う前に、並んで座っていた男が皮肉げに会話に割って入る。


「へえ? 俺じゃあ不満だとでも? 高校生って聞いてたが、やっぱガキだな。俺の魅力が分からないとは」

 そう言って秀明の悪友である淳はせせら笑ったが、美実は負けじと言い返した。


「そうね。オジサンの魅力は、オバサンにしか分からないかもね。ホント、『ガキ』で良かったわ~。……あ、カフェオレ一つね」

「畏まりました。少々お待ち下さい」

 ちょうど注文を取りに来た店員にオーダーし、平然とお絞りで手を拭き始めた美実を見て、淳が若干顔を歪めながら低い声で唸る。


「この野郎……、生意気言ってくれるじゃねぇか」

「野郎じゃなくて、れっきとした女よ。日本語をもう一回、勉強してきたら? 最近は大学生の学力低下が顕著で、分数とかもできない学生がいるらしいけど、天下の最高峰東成大出身でも大した事無いみたいね」

「ああ言えばこう言うっ……」

 如何にも(生意気なガキだな)的な視線を投げられてもビクともしない美実を見て、秀明は笑いながら淳に言い聞かせた。


「淳、お前の負けだ。ここは潔く頭を下げて、開口一番ガキ呼ばわりした事を詫びるんだな」

「お前……、一体どっちの味方だ?」

「勿論、可愛い未来の義妹だ」

「本当にろくでもない奴」

 しれっとして言い返した友人に向かって、淳は忌々しげに悪態を吐いて珈琲を飲んだが、ここで黙って二人のやり取りを聞いていた美実が、秀明に対して辛辣な台詞を投げつける。


「あらら。今現在、美子姉さんに見向きもされないどころか、目の前に姿も見せていない人間が、何をほざいているのやら」

「参ったな。俺まで返り討ちにされるとは」

「心にもない事を言ってるからよ」

「美実ちゃんの事は、本当に可愛いと思っているよ?」

「そんな世迷言はともかく、美子姉さんに多少ちょっかいを出すのは大目に見てあげるけど、遊び半分で手を出したら埋めるわよ?」

 苦笑している秀明に向かって、真正面から凄んでみせた美実を見て、親友の底意地の悪さと質の悪さをこれまでのあれこれで知り抜いていた淳は、肝を冷やしながら確認を入れた。


「おい、秀明……。こいつ、お前の本性を知った上で言ってんのか?」

「本当の所までは分かっていないと思うが、相当胡散臭い人間だとは思っている筈だぞ? 人を見る目が結構シビアだからな」

「それはそれは……」

 落ち着き払って説明する秀明に淳は呆れたが、次の台詞で思わず溜め息を吐いてしまった。


「だから俺の悪友のお前も、ろくでもない類の人間だとちゃんと認識しているだろうし、紹介しても全く良心は痛まない」

「お前、そんな人間を紹介して、どうしようって言うんだ?」

「面白そうだし、意外に気が合いそうだと思ったんだが」

「お前が面白がってるだけだろ」

 そこまで聞いて完全に呆れ果てた淳は、半ば自棄になりながら冷めかけた珈琲を飲んだ。


(全く……、なんで俺がこんな発育途上のガキの為に、貴重な休日の時間を浪費しなくちゃならないんだ?)

 内心で腹を立てながら珈琲を飲んでいた淳を、美実は無言で観察していたが、テーブルに運ばれてきたカフェオレを一口飲んだところで、秀明に声をかけた。


「ところで、江原さん」

「うん? 何だい? 美実ちゃん」

「発育途上のガキなお子様に、その将来禿げそうなオジサンの名前と職業位、そろそろ教えて欲しいな~」

(って、こいつ! 心が読めるのかよ!? と言うか)

 そこで淳は勢い良くカップをソーサーに戻して吠えた。


「誰が『将来禿げそうなオジサン』だ!?」

 しかし秀明は、そんな友人の叫びを完全にスルーして、美実に向かって笑顔を振り撒く。

「ああ、悪い、うっかりしていた。こいつは小早川 淳。年は俺と同じで、弁護士だ」

 その紹介に、彼女は淳に視線を向けて、棒読み口調で感想を述べる。


「へぇえ~、弁護士ねぇ~。それはそれはタイヘンなゴショクギョウで、イラッシャイマスノネ~」

 それを聞いた淳は、ひくっと顔を引き攣らせて反応した。


「今、絶対馬鹿にしただろ!? というか、『こいつ絶対悪の手先になって、善良な市民から小金を巻き上げてる小悪党だわ』とか決めつけてるよな!?」

「うわぁ……、被害妄想、ここに極まれりって感じ~。江原さん、ジャッジ」

「お前の気のせいだ」

「秀明! お前、どっちの味方だ!?」

「だからさっきから、美実ちゃんの味方だと言ってる」

「お前は俺のダチじゃなかったのかよ!?」

 声を荒げた淳だったが、秀明は如何にも残念そうに首を振りながら、真顔で言ってのけた。


「間に男が入ると女同士の友情は脆いと言うが、女が絡むと男同士の友情も脆いと言う実例だな」

「お前と言う奴はっ……」

「うわぁ……、自称友人に切り捨てられるなんて可哀想なオジサン~。ピチピチの女子高生が、ちょっとだけなら慰めてあげても良いわよ?」

「だから十歳違いの男を、オジサン呼ばわりするな!」

 本気で怒りを露わにした淳に、秀明と美実がとうとう堪え切れずに笑い出し、それから暫く二人掛かりで淳を宥める事となった。



 ※※※



「あれから六年か……、本当に、あっという間だったな……」

 出会った時の最初の印象はかなり微妙な物だったが、その後美実は淳と付き合い始めた。更にこの間に、彼の悪友は彼女の義兄となり、まるで元からの家族の様に同居し始めて、結構な時間が経過していた。

 自分の机に肘を付いて、そんな恋人との出会いから現在に至るまでのあれこれをぼんやりと思い返していた美実は、そこで小さな溜め息を吐いた。


「避妊してたって言っても、百%じゃないしね。締切が迫っていて徹夜続きで、先々月は生理不順だったし。だから先月も遅れてるだけだと、思っていたんだけどな……」

 自室で一人きりの為、彼女の呟きはそのまま独り言になっていたが、美実は構わずに喋り続ける。


「先生にも言われたし、ちゃんと話をしないとね。それと、一緒に色々済ませるか。そうなると……、やっぱり電話じゃなくて、直に顔を合わせて話をしないとね。それが礼儀ってものだろうし」

 そう結論付けた美実は、早速卓上カレンダーに目を向けてスケジュールを確認し始める。


「えっと……、次に会えそうなのは、いつになるかな? なるべく早い方が良いとは思うけど……」

 そんな事を口にしながら難しい顔をしていると、机の隅に置いておいた携帯が、着信を知らせてきた。そのディスプレイに浮かび上がった名前を見て、美実はちょっと驚いた表情になる。


「あれ? 噂をすれば影」

 タイミングが良くて幸先良いわと、少し嬉しくなりながら、美実は電話に出た。


「もしもし、淳? どうしたの?」

 その問いかけに、淳はいつも通りの皮肉げな口調で言ってきた。

「特にどうもしないんだが……、大きな仕事が一つ片付いたんでな。今月に入ってから、お互いに色々忙しくて会ってなかったし、近いうちに食事でもどうかと思って電話してみたんだ」

「あ、そうなの? 私も原稿が一段落した所だから、ゆっくり食べにいきたいな。折り入って話したい事もあるし」

 美実がそう告げると、淳がどこか安心した様に言葉を継いでくる。


「そうか? それならちょうど良かった。早速だが、明後日の木曜日はどうだ?」

「うん、大丈夫。でも平日だから、仕事が終わってからよね?」

「そうだが、その日は出先から直帰予定だから、上手くいけば開店直後に入れるんだ。勿論、予約は入れておくが」

「早く入れば、その分ゆっくり食べられるわね。じゃあ、その日で良いわ。お店も任せるから」

 平日の夜、仕事帰りに会うのは珍しいなと思いながら承諾すると、淳が上機嫌に話を続けてくる。


「よし。じゃあ、フランス料理でいいか?」

「勿論。淳はその手の事で外した事はないから、期待してるわよ?」

「何気にプレッシャーをかけるなよ。じゃあ、予約を入れたらまた連絡する。それじゃあな」

「うん、お休みなさい」

 笑顔で通話を終わらせた美実は、満足して再び携帯電話を机に置いた。


「丁度良かったわ。段取り良く話す内容を、考えておかないとね」

 そして一仕事する前にお茶を飲もうと、部屋を出て階下の台所に向かうと、廊下の向こうから元気の良い赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。


「あれ? 安曇ちゃん?」

 今現在すぐ上の姉が里帰り出産で滞在している為、美実はちょっと心配になって声のする方に足を向けた。しかしすぐに泣き声が止んだ為、安心しながら客間の襖を開ける。

「美恵姉さん、大丈夫?」

 そう声をかけながら顔を覗かせると、予想通り姉の美恵が、娘の安曇を腕に抱いて授乳している所だった。


「ああ、美実。ごめん、五月蠅かった?」

「ううん、大丈夫。私は偶々、廊下を歩いてたら聞こえただけだし。二階までは響いていないんじゃない?」

「それなら良いんだけど。昨日の夜は、姉さんに安曇を見て貰ったし……」

 安堵した様に次姉が口にした内容を聞いた美実は、納得して頷いた。


「そう言えば、今日は割と早く寝てたっけ。まだ生まれて一ヶ月経って無いから、安曇ちゃんが纏まった時間眠る様になるのは、もう少し先ね。今の時期キツいけど、頑張ってね。“お母さん”」

 ニヤリと笑いながら美実が告げると、美恵が僅かに嫌そうに顔を歪める。


「何で独身のあんたが、知ってるような口ぶりなのよ?」

「だって美樹ちゃんが生まれた時に、一度手伝ってるし」

「……そうか。その時私は、もう家を出ていたものね」

 姉の出産時に仕事にかまけて、全く実家の手伝いなどしなかった事を思い出した美恵は、安曇を抱えながら申し訳無さそうな顔になったが、美実は慰めるどころか豪快に笑い飛ばした。


「え? 何? まさか『姉さんが出産した時に全然手伝わなかったのに、里帰り出産させて貰って、何から何まで面倒見て貰って悪い』なんて、傍若無人な美恵姉さんが本気で思ってるとか言わないわよね? にっあわな~い!」

「あんたね……」

 さすがに美恵のこめかみに青筋が浮かんだが、美実はまだ若干笑って手を振りながら彼女を宥めた。


「冗談だし、美子姉さんだって、そんな事全然気にして無いわよ。どうせこれから山ほど世話になるに決まってるんだから、開き直ったら?」

「余計なお世話よ」

 ムスッとしながら美恵が顔を背けると、(ちょっとからかい過ぎたかな)と反省しながら、美実が声をかけた。


「取り敢えず今夜は私が安曇ちゃんに添い寝して、ミルクをあげるのとオムツの交換をするから。何か顔色悪いし、無理しないで今日も朝まで続けて睡眠取った方が良いって」

「え? でも……」

 唐突に申し出た内容に美恵が戸惑う表情になったが、美実は素っ気なく話を続けた。


「一昨日一本書き上げて昨日爆睡したから、今日は体調は万全なのよ。でも来週からは新しいのに取り掛かって、また暫く徹夜になるかもしれないし。下手をすると面倒を見てあげられるのは、今週中だけかもしれないのよね」

 それを聞いて、どうやら妹なりに気を遣ってくれたらしいと分かった美恵は、その好意をありがたく受ける事にした。


「じゃあ、本当にお願いしても良い?」

「うん、寝るのは私の部屋を使って。細々とした物を、これから動かすのは面倒だし」

 そして当初の予定を変更して二人は動き出し、十分後には準備を済ませた。


「それじゃあ、宜しく」

「了解。お昼はちゃんと安曇ちゃんの面倒を見てね? 仕事が気になって、仕方が無いのは分かるけど」

「当たり前でしょう? 分かってるわよ」

 チラッと布団の周りに散乱している書類を見ながら、五年前に起業して社長業に邁進している美恵に困った様に笑いかけると、美恵は気まり悪げにその纏めた書類を室内に放置し、しっかり睡眠を取る為に手ぶらで美実の部屋に向かった。それを見送ってから美実は布団に潜り込み、片肘を付きながら横を向いて、お腹が一杯になってベビー用の布団でスヤスヤと眠っている、小さな姪を愛おしげに見下ろす。


「ふふっ……、美樹ちゃんの時も思ったけど、小さくてぷくぷくで可愛いなぁ……」

 同居している一歳の姪が生まれた時を思い出し、美実の顔が更に緩んだ。そしてちょっと掛け布団を持ち上げ、自分の腹部に向かって呼びかける様に呟く。


「ほら、あんたの従姉が居るわよ? って言っても、分かるわけ無いけど」

 自分の発言に苦笑し、それでも満足そうに、彼女は姪と自分の胎内にいる子供に優しく声をかけた。


「おやすみ」

 そして今夜は熟睡できないだろうなと諦めながらも、美実は少ない睡眠時間を確保するべく、目を閉じたのだった。

 同じ頃、淳は自宅に持ち帰った資料に目を通し、翌日の準備を完璧に済ませて、満足げに頷いていた。


「……よし、スケジュール調整は完璧だし、美実の方もOKと。これで無理やり仕事を突っ込んでくる馬鹿がいたら、ビルの屋上から突き落としてやるぞ」

 かなり物騒な事を呟きながら、淳は何気なくカレンダーに目を向ける。

「しかし、あっという間に、六年が過ぎちまったな……」

 そこに書かれた数字を目にして淳は自嘲気味にひとりごちてから、自分自身に言い聞かせた。


「少々時間がかかった感は否めないが、あいつも二十代半ばになったし、時期的には丁度良いよな」

 そんな事を口にしながら淳は机の引き出しを開け、そこにしまってあった小さな合皮製のケースを取り上げ、暫くそれを眺めてから再び引き出しにしまい込んで、寝支度を始めた。



 それから二日後。美実が指定されたレストランが入っているビルに向かうと、既に一階のエントランスホールのベンチに淳が座って居た為、笑顔で声をかけた。


「淳、お待たせ!」

「ああ、時間ぴったりだな。入るか」

「うん」

 本当に仕事帰りだったらしく、真剣な顔で手元の書類に目を通していた淳は、瞬時に笑顔になって鞄にそれをしまい込んだ。そして立ち上がった彼と並んで歩きながら、美実が若干不思議そうに感想を述べる。


「でも本当に、良くこの時間に来れたわね。これまでのパターンだと、仕事の後に待ち合わせの時は、押す事が多かったのに」

「まあ、こんな時もあるさ」

 今日に限っては万が一にも遅れないように、朝から分刻みで仕事をこなし、同僚にも依頼人にも無言の圧力をかけて話をどんどん進めさせた事など、淳は一言も口にせずに笑って誤魔化した。そしてエレベーターで上階に移動し、美実を連れてレストランに出向く。


「予約している小早川だが」

「お待ちしておりました、小早川様。只今、ご案内致します」

 淳が入口で一言声をかけるなり、黒服の男性が恭しく頭を下げ、先に立って歩き出す。そしてカウンターの右側から窓際に広がっている空間に背を向けて、左の通路を歩き出した為、美実は当惑しながら淳に囁いた。


「え? まさか個室を予約したの?」

「ああ」

「どうして? 別に誕生日とかじゃないわよ?」

「偶には良いだろ?」

「『良いだろ』って……。変に無駄使いするタイプでも無いのに、今日はどうしたのよ?」

 ここで訝しげに美実が横を歩く淳を見上げたが、彼はただ笑うのみだった。

 それから夜景が一望できる部屋に案内された淳は、美実が夜景を見られる様に自身は窓に背を向ける位置に落ち着き、まずワインをリストから選んだ。そして前菜が運ばれてくる間に、指定したワインがソムリエによって運ばれてきて、グラスに注いで貰う。そして再び室内に二人きりになってから、淳は若干緊張しながら美実に声をかけた。


「それじゃあ、取り敢えず乾杯するか?」

「そうね。何に乾杯する?」

「そうだな……、俺達の未来に、とか?」

 淳はさり気なく自分の意志を表してみたが、それを聞いた途端、美実はワイングラスを持ったまま、盛大に噴き出した。


「うっわ! 何、そのくさい台詞! らしくない! 凄く面白いけど!」

「貶すのか誉めるのか、どちらかにしろ」

 如何にも楽しそうに笑い出した美実を見て、淳は思わず溜め息を吐いたが、彼女がすぐに笑いを収めた為、気を取り直してグラスを差し出した。


「それじゃあ、俺達の未来に、乾杯」

「乾杯」

 美実も素直にグラスを合わせ、笑顔で唱和する。それからワインを飲みつつ気分良く会話し、食事を進めた二人だったが、サラダとスープ、魚料理を食べ終えて皿を下げて貰ったところで、ちょっと会話が途切れた。そこで間が開いた事で丁度良いと判断して、両者がほぼ同時に口を開く。


「あのね、ちょっと話が」

「その、この機会に話が」

 そして互いの顔を見合わせて、双方で譲り合った。


「えっと……。じゃあ、先に話して良いわよ?」

「いや、俺は後からで良いから」

「そう?」

 しかしあっさり話は纏まり、美実が話を始めた。


「じゃあ先に、話をさせて貰うけど」

「ああ。何だ?」

「その……、ね。子供ができたの」

「……え?」

 僅かに恥ずかしそうにしながら美実が告白してきた内容に、淳は瞬時に固まった。それを見た美実は、再度報告を繰り返す。


「だから、妊娠したの。一応言っておくけど、冗談だとか、気のせいとかじゃ無いわよ? ちゃんと産婦人科で診て貰って、区役所に行って母子手帳も貰って来たんだから。ほら!」

「あ、ああ……。本当みたいだな」

 多少気分を害した様子で、交付して貰ったばかりの母子手帳をバッグから取り出した美実は、それをテーブルに乗せた。それを見た淳は呆然として頷いたが、徐々に嬉しさがこみ上げてくる。そして緩みそうになる顔を何とか引き締めながら、改まった口調で彼女に申し出た。


「そうか。それなら、ちょうどタイミングが良いと言うか……。いや、寧ろ遅過ぎだし、男で年上の立場としては、申し訳無いと言うか……。俺もこの際きちんと話を進め」

「だからね? 淳。この機会に、私と別れて欲しいの」

「……は?」

 そこで恋人が自分の話を遮りつつ、笑顔で繰り出した爆弾発言によって、淳の思考回路は完全に停止した。 


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