謝ること
一晩が経って、私は恥ずかしさと後悔の念でいっぱいでした。一介のメイドである私が、主に対してなんておこがましいことを申し上げてしまったのでしょう。嘘偽りは一片たりともないとはいえ、なんて直截な言葉を申し上げてしまったのでしょう。
正直なところ、自室から出たくありませんでしたが、朝食の用意をするためにこっそりと台所へ向かいました。
ロザリー様にお会いしたらどうすれば良いのだろうと考えていましたが、幸か不幸か、台所へ行くまでにお会いすることはありませんでした。
でき上がった食事を食卓へ並べていると、ロザリー様がいらっしゃいました。ロザリー様は昨日までと変わらないご様子で、「おはよう、イラ」と声をかけてくださいました。
「おはようございます、ロザリー様、……」
私はそれきり何も言えず、準備を続けました。
朝食の席で、私は思い切ってロザリー様に話しかけました。
「ロザリー様、昨日は、その……、申し訳ありません」
「……イラが謝ることなど、何もないだろう?」
ロザリー様は本当に不思議そうな顔をなさっていました。私は少し戸惑ってしまいました。
「いいえ、……私はただのメイドですのに、出過ぎたことを申しました」
少し考えられてから、ロザリー様は静かにおっしゃいました。
「せめてこの屋敷にいる間は、そんなことを言わないでくれ。イラはよくできたメイドであると同時に、私の貴重な話し相手だ。遠慮なんてされてはつまらないじゃないか」
「はい……」
「さらに言えばだね、イラ。君にあのように言われて、嬉しくないわけがあるものか」
私は嬉しいやら面映いやら、ロザリー様の方へ顔をお向けすることができませんでした。
「昨夜のことならば、私の方こそイラに謝らないといけないな」
ふとロザリー様の声色が低くなりました。私は顔を上げました。
「いいえ、ロザリー様、そのようなことは何も……」
「イラはこんなにも私に心を尽くしてくれているというのに、昨晩はあのように卑屈な言動を取ってしまった。自分を卑下するということは、自分を大切に思ってくれている存在をも傷つけることになるのだね」
ロザリー様は半ば自分自身に対する言葉のようにおっしゃいました。
「昨夜の私は、私もろとも君までをも傷つけていた上に、そのことに気付けていなかった。イラ、本当に申し訳ない」
真摯なお心遣いをいただき、私は胸が痛むほどの切なさを覚えました。
「どうか、お気になさらないでください。私はロザリー様がお元気になられたご様子で、今、本当に嬉しいのです」
「そうか……、ありがとう」
笑顔ではいらっしゃいましたが、その時のロザリー様のお顔には一抹の寂しさのようなものがあるように思えました。