いとけなさ
靄がかったような自分自身の気持ちに目を凝らし耳を傾けて、ようやく私は自分の中の本心を探り当てました。そうしてそれに付いてきた余分な思いを削ぎ落とし、磨き上げてロザリー様にお聞かせする言葉にしました。
「私の命はロザリー様に拾われたものでございます。ですからどうか、ロザリー様が望まれるようにお使いくださいませ。私に血を下さった後でも、私を疎む気持ちが生まれたならばすぐにお屋敷を追い出していただいて結構でございます。けれども、私のわがままをお許しいただけるのであれば……、私は、永い年月をロザリー様と共に過ごしたく思います」
私は胸をどきどきさせながらロザリー様の反応を待っていました。
「……今の君の気持ちは、よくわかった」
ロザリー様は噛み締めるようにおっしゃいました。ほっとして思わず表情が緩みました。
「しかし、今すぐに君に永い命を与えるつもりはないんだ。君はまだ少女の風情を残しているからね。君がすっかり貴婦人と呼ぶにふさわしい女性になって、それでも今の気持ちに変わりがないのなら……、その時には新月の夜に私の血を飲むといい」
「それでは……、まだ先のお話なのですね」
貴婦人という言葉は私にとって遥か先に思えて申し上げると、ロザリー様は少し笑い声を立てられました。
「ほとんど永遠の命を持つ身からすれば、あっという間さ」
ロザリー様は窓の外をご覧になり、「ひどい天気だな」と呟かれました。
「もう日の沈む頃でしょうか」とお尋ねすると、「ああ、そのくらいかな」というお返事を頂けました。
「そろそろ夕飯の支度をいたしますね」
私は立ち上がりかけましたが、ロザリー様は私を引き留められました。
「イラ、座ってくれ。あと少しだけ言いたいことがある」
「はい」
ロザリー様は私に言い含めるように、一語一語を丁寧に口に出されました。
「吸血鬼の血についてはまだ君に伝えていないこともあるし、おそらく私自身が知らないことも多い。今後時間をかけて君に教えていくから、よくよく考えるのだよ」
「承知いたしました、ロザリー様」
「私の血を飲まずにこの屋敷に留まることを選んでも良い。……その時には私も覚悟を決めて、最期まで君の側にいよう」
「……かしこまりました」
「ひとまず、話はこれで終わりにしよう。今夜の夕食も楽しみにしているよ」
私はロザリー様にお辞儀をして台所に入りました。
夕食は野菜と肉をこんがりと焼き、肉汁を煮詰めたソースをかけたものにしました。葡萄酒を加えて赤味の強くなったソースをほんの少し指先でとり、これがロザリー様の血液だとしたら私はどんな気持ちになるだろうと考えながら味をみました。
ロザリー様はいつも通りに静やかに、それでいておいしそうに私の料理を召し上がってくださいました。
そのお姿を見て、私はロザリー様のためにできることがあるのなら、何でもして差し上げたいという思いを新たにしました。




