ベッドの傍ら
ロザリー様の舌や唇の動きを感じているうちに全身に悪寒が走り、くらりと目の前が暗くなりました。
「あ……」
私の腕からロザリー様の口が離れました。倒れ込みそうになる私の腰と肩を抱き留めるように、ロザリー様は両の腕で私を支えてくださいました。
「……イラ!」
慌てたご様子でロザリー様が叫ばれます。そのご様子は我にかえったというのが適切に思えました。
「私なら、平気でございます、ロザリー様……」
なるべく言葉がはっきりとするよう気をつけて私は申し上げました。自分の足で立とうとしましたが、上手く力が入りません。
「その様子で、平気なはずがあるものか……!」
ロザリー様はご自身のお召し物の袖口を歯で引き裂き、私の傷に当てました。
「しっかり押さえておいで」
私が右手で傷口を押さえたのを確認し、ロザリー様は私を抱き上げて私の寝室へと連れて行ってくださいました。
私をベッドに横たわらせ、ロザリー様は「少し待っていておくれ」と部屋を出て行かれました。
頭がぼんやりとして今にもうとうとと眠りに落ちそうでしたが、私はロザリー様が戻っていらっしゃるなら、と眠気と必死に闘いました。
ロザリー様はすぐに何かを持って戻っていらっしゃいました。
「手当てをするよ。……いや、させてくれ」
ロザリー様はすうっとする香りの塗り薬を塗り、固く包帯を巻いてくださいました。私は自分で腕を持ち上げていることができず、ロザリー様にその重みを預けていました。
「イラ、何と言ったらいいか……。謝って許されるようなことではないけれども、本当に申し訳ない……」
「いいえ……。私の、望んだことでございます」
そう申し上げても、ロザリー様は悲しそうに首を横に振られるだけでした。
「これ以上体に負担をかけないよう、ゆっくり休んでおいで。……もう眠れそうかい?」
「ええ、ロザリー様。ただ、少しばかり寒いような気がいたします」
ロザリー様は私の布団をしっかりとかけ直してくださり、「火を強めてくるよ」と暖炉へ向かわれました。
心臓まで震えるような寒気が次第に治まり、暖炉の薪の音を聞いているうちに意識は遠のいていきました。
次に目を覚ました時、まだ外はすっかり暗い様子でした。暖炉の火はあかあかと輝き、ベッドの傍らに座っていらっしゃるロザリー様のお姿を照らしていました。ロザリー様は私が目を開けたのにお気付きになって、「具合はどうだい、イラ」と静かにおっしゃいました。
「ええ、だいぶ良いようでございます。ロザリー様、お仕事はよろしいのですか?」
「このような状態では仕事も手に付かないよ。ほら、もう少し眠っておいで」
ロザリー様はベッドに手を伸べられました。その指先が私の髪をかすめるのを感じました。
「ロザリー様に寝顔をお見せするのは恥ずかしゅうございます」
私はちょっと笑ってそう申し上げました。ロザリー様も小さく笑い声をたてられました。
「そのようなことが言えるなら大丈夫そうだね。……このように薄暗い中ではろくに見えないさ。お休み、イラ」
「おやすみなさいませ、ロザリー様」
再び目を閉じ、私はゆっくりと呼吸しました。
ロザリー様が手を伸べられていた辺りに何の気なしに手をやると、シーツとは違う柔らかな感触がありました。指先で軽く探ると、ベッドの上から引かれずにいたロザリー様の手のひらであるとわかりました。
私はロザリー様がすぐ側にいらっしゃることに安心し、自分の指先をロザリー様の手に重ねて再び眠りにつきました。




