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永いメイドの手記  作者: 稲見晶
I 魔の者
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夜の森で

 あの夜、お屋敷を抜け出したあの夜まで、私はロザリー様がいわゆる「吸血鬼」であることに気付いておりませんでした。

 ロザリー様が普通なら貯蔵庫にでもしてしまうような地下に寝室を構えていたこと、日が落ちてからお目覚めになり、夜が明けて朝食を召し上がるとすぐにお休みになることを不思議にこそ思っていましたが、それらの事柄を王城で先輩メイドから聞いていた恐ろしい吸血鬼のお話と結びつけることはありませんでした。我ながらずいぶんとぼんやりしていたものです。

 ロザリー様ご自身から吸血鬼でいらっしゃることを聞いてからも、おとぎ話の恐ろしい吸血鬼の姿と穏やかでお優しいロザリー様とがどうにも上手く重ね合わせられず、困惑したほどです。

 

 ロザリー様のお屋敷へ上がってから数年が経ったころでしょうか。ふと夜中に目が覚めた私は、部屋の外から物音がすることに気付きました。

 ロザリー様が夜の間にお仕事をなさっていることは知っていましたので、私は不審に思うこともなく、ベッドの中でその音を聞くともなしに聞いていました。普段から物静かな方でしたが、この時は特に、努めて物音を立てまいとされているようでした。

 寝室の外のロザリー様の気配を感じながらうとうととしていると、やがて玄関扉がぎい、と開き、再び閉まる音がしました。私はおや、と思いながらもそのまま眠りに落ちてしまいました。


 そんなことが何回かあって、どうやらロザリー様は真夜中にどこかへお出かけになっているようだということがわかってきました。

 本当に子どもじみていてあきれてしまいますが、幼い私は少女の好奇心と悪戯心で、ロザリー様がどこへいらっしゃるのか、こっそりと後を付けてみようと考えたのです。

 あの晩も私はロザリー様に勉強を教えていただき、その後いつものように寝室へ入りました。そうしてベッドへ横になり、どきどきしながら聞き耳を立てていたのです。

 いつの間にか少しばかりうとうととしてはいましたが、玄関扉がきしむ音を耳にして、とたんに目が冴えました。

 ランタンを片手に寝室を出ると、しんと冷えた空気が身を包みました。玄関ホールの外套掛けにロザリー様のマントがないことを確認し、私も外套を羽織って玄関扉を開けました。


 月光が明るく辺りを照らしていて、黒いマントに身を包むロザリー様が遠くに見えました。私はランタンを消し、忍び足でロザリー様の後を追いました。

 ロザリー様は早足で森の中を歩いていきます。その腰には細い剣が提げられていました。ロザリー様が剣を携えているところを見るのは、この時が初めてでした。

 

 私は必死に歩きましたが、暗い森の中、とうとうロザリー様を見失ってしまいました。

 しばらくあてどもなく前へと進んでみましたが、ロザリー様のお姿も見えず、足音なども聞こえません。お屋敷へ戻ろうとも考えたのですが、ロザリー様の背中を追いかけてきただけで、道など覚えていようはずもありません。 

 周りに見えるものは木々ばかりで、どうにも心細くなりました。

 とにかくこうなっては仕方ありません。少しでもお屋敷へ近づければ、と私は踵を返しました。


 しばらく歩き続けましたが、一向にお屋敷は見えてきません。足もくたびれて、私はほとんどべそをかいていました。

 私は歩き、時々立ち止まってロザリー様やお屋敷が見えないかと辺りを見回しました。

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